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報告書&レポート

2008年4月24日 リマ事務所  西川信康報告
2008年34号

2007年ペルーの鉱産物生産・輸出動向 -ベースメタル生産が拡大し、我が国向け輸出が大幅増-

 2008年2月、ペルー・エネルギー鉱山省より、2007年の鉱産物生産量の速報値が発表された。これによると、最近の政治・経済情勢の安定化、非鉄市況の高騰・高止まりを背景に、鉱業投資が活発化している中、ここ数年伸び悩んでいたベースメタル生産が大きく拡大した。対照的に、金生産は主力のYanacocha金山の大幅な減産により、2年続けての減少となり、明暗を分けた。一方、2007年の鉱産物輸出は、堅調な伸びが続く中、特に銅精鉱及び亜鉛精鉱の日本向け輸出が大きく増加した。本稿では、2007年の鉱産物生産・輸出動向及び今後の生産見通しについて報告する。


1. 2007年の鉱産物生産量

(1)鉱山生産量

 MEM(Ministerio de Energia y Minera:エネルギー鉱山省)によると、ペルーの2007年の鉱山生産量(表1)は、銅が前年比13.5%増の119万t、亜鉛が同20.2%増の144万t、鉛が同5.1%増の33万tと大きく拡大し、いずれも過去最高を記録した。ここ数年、ベースメタル生産が伸び悩んでいただけに、2007年は飛躍の年となった(図1)。対照的に、金は、主力のYanacochaの大幅な減産が響き、全体では16%減となり、2006年に続き2年連続の減少となった。その他の金属では、銀が前年比0.7%増の3,494t、錫は同1.3%増の3.9万t、モリブデンが同2.3%減の1.7万tであった。この結果、銅及び亜鉛共に、2006年の世界3位から、銅についてはチリに次いで、亜鉛については中国に次いで、世界第2位の生産国に躍進した。その他の金属の順位は2006年と変わりなく上位にある。


表1 ペルーの鉱山生産(2007年)

鉱種 2007年
鉱山生産量
2006年
鉱山生産量
増減(%) 世界
順位
銅(t) 1,190,281 1,048,897 13.5 2(3)
亜鉛(t) 1,444,354 1,201,794 20.2 2(3)
鉛(t) 329,154 313,325 5.1 4(4)
金(kg) 170,128 203,269 -16.3 5(5)
銀(kg) 3,493,909 3,470,725 0.7 1(1)
錫(t) 39,019 38,470 1.3 3(3)
モリブデン(t) 16,787 17,209 -2.3 3(3)

注)世界順位の( )は2006年順位

出典:MEM






図1 ペルー銅、亜鉛、金鉱山生産量の推移


 主要3鉱種(銅、亜鉛、金)を鉱山別で見ると、銅については(表2)、ペルー最大のAntamina鉱山で前年比12.7%減の34.1万tに留まった他、産銅大手のSouthern Copper社の鉱山も伸び悩んだものの、2006年11月より精鉱生産を開始したCerro Verde鉱山が前年の約3倍となる27.4万tを記録し、銅生産拡大の大きな原動力となった。また、多くの中小の鉱山も大きく生産を伸ばした。

 亜鉛については(表3)、ペルー最大のAntamina鉱山で、採掘対象が亜鉛品位の高い鉱石に移行したことを受け前年比89.9%増の32.2万tと過去最高を記録した他、第2位のIscaycruz鉱山も同4.3%増の17.6万t、Volcan社の鉱山も軒並み増産に転じるなど主力鉱山のほとんどが生産を伸ばした。なお、我が国企業(三井金属鉱業(株)70%、三井物産(株)30%)によって1968年6月から40年間操業を続けているHuanzala鉱山の亜鉛生産量は28,744t、また、同鉱山近傍にあり、2006年3月に誕生したPallca鉱山は15,269tであった。

 金については(表4)、主力のYanacocha金山が鉱石品位の低下により、前年比40%減の48.6tと大きく落ち込むとともに、2005年に誕生したペルー第2位のAlto Chicama金山も6%減と振るわなかったことから、全体として16.3%という大きな減少となった。


表2 ペルー・上位10銅鉱山生産量(2007年)

順位 鉱山名 操業企業 2007年
生産量(t)
2006年
生産量(t)
増減
1 ANTAMINA BHP Billiton33.75%,Xstrata33.75%,
Teck Cominco22.5%,三菱商事10%
341,324 390,774 -12.7%
2 CERRO VERDE Phelps Dodge53.6%,Buenaventura18.2%
住友金属鉱山16.6%, 住友商事4.2% 他
273,960 96,506 183.9%
3 CUAJONE Southern Copper 187,090 179,631 4.2%
4 TOQUEPALA Southern Copper 172,570 182,346 -5.4%
5 TINTAYA Xstrata 119,540 115,626 3.4%
6 COBRIZA Doe Run Peru 18,772 17,224 9.0%
7 CONDESTABLE CIA. MRA. CONDESTABLE. 15,592 12,594 23.8%
8 CHAPI MRA.PAMPA DE COBRE S.A 7,062 4,936 43.1%
9 YAURICOCHA CIA.MRA.CORONA S.A 5,330 3,872 37.7%
10 ATACOCHA CIA.MRA.ATACOCHA S.A 3,917 2,872 36.4%
    1,145,157 980,800 16.8%
  その他   45,124 29,098 55.1%
  総計   1,190,281 1,048,897 13.5%

出典:MEM



表3 ペルー・上位10亜鉛鉱山生産量(2007年)

順位 鉱山名 操業企業 2007年
生産量(t)
2006年
生産量(t)
増減
1 ANTAMINA BHP Billiton33.75%,Xstrata33.75%,
Teck Cominco22.5%,三菱商事10%
322,367 178,180 80.9%
2 ISCAYCRUZ Emp. Mra. Los Quenuales(Glencore) 175,620 168,384 4.3%
3 CERRO DE PASCO Volcan Cia Minera 149,821 119,816 25.0%
4 COLQUIJIRCA Soc. Mra. El Brocal. 91,264 69,828 30.7%
5 SAN CRISTOBAL Volcan Cia Minera 70,083 61,105 14.7%
6 ANIMON Emp. Administradora Chungar. 69,070 62,227 11.0%
7 EL PORVENIR CIA. MRA. MILPO 66,233 79,595 -16.8%
8 ATACOCHA CIA.MRA.ATACOCHA 59,375 59,795 -0.7%
9 SAN VICENTE CIA. MRA. SAN IGNACIO DE MOROCOCHA 37,954 30,926 22.7%
10 MARIA TERESA CIA.MRA.COLQUISIRI 35,479 36,893 -3.8%
    1,077,266 866,749 24.3%
  その他   367,088 335,045 9.6%
  総計   1,444,354 1,201,794 20.2%

出典:MEM



表4 ペルー・上位10金鉱山生産量(2007年)

順位 鉱山名 操業企業 2007年
生産量(t)
2006年
生産量(t)
増減
1 YANACOCHA Newmont 51.35%,Buenaventura 43.65%, IFC 5% 48,634 81,247 -40.1%
2 ALTO CHICAMA Mra.Barrick Misquichilca 33,774 36,056 -6.3%
3 M.D.D Madre de Dios 16,373 15,800 3.6%
4 PIERINA Mra.Barrick Misquichilca 16,176 15,836 2.1%
5 ORCOPAMPA CIA. DE MINAS BUENAVENTURA 8,292 7,878 5.3%
6 SANTA ROSA-COMARSA CIA.MRA.AURIF.SANTA ROSA 5,511 4,909 12.3%
7 ACUMULATION PARCOY CONSORCIO MRA.HORIZONTE S.A 4,838 5,041 -4.0%
8 ARES CIA.MRA.Ares 4,568 4,837 -5.6%
9 RETAMAS Mra.Aurif.Retamas 4,053 4,950 -18.1%
10 FLORENCIA Aruntani SAC 3,717 5,752 -35.4%
    145,936 182,306 -19.9%
  その他   24,192 20,963 15.4%
  総計   170,128 203,269 -16.3%

出典:MEM


(2)地金生産量

 一方、2007年のペルーの地金生産量については(表5)、いずれも低調であった。銅が、ペルー最大のIlo製錬所での断続的なストライキ等の影響で33.7%減の18.1万となった他、亜鉛は、主力のCajamarquilla製錬所で10.7%減、鉛もOroya製錬所で2.9%減、錫は、Funsur製錬所で11%減となり、すべての鉱種で、前年を下回った。


表5 ペルー地金生産量(2007年)

製錬所 操業企業 2007年
ペルー生産量(t)
2006年
ペルー生産量(t)
増減
Ilo SOUTHERN COPPER 180,906  273,054  -33.7%
Oroya Doe Run Peru 59,339  59,075  0.4%
Cajamarquilla Votorantim 1,543  1,710  -9.8%
合計   241,788  333,839  -27.6%
亜鉛 Cajamarquilla Votorantim 119,885  134,240  -10.7%
Oroya Doe Run Peru 42,490  41,010  3.6%
合計   162,375  175,250  -7.3%
Oroya Doe Run Peru 116,774  120,311  -2.9%
合計   116,774  120,311  -2.9%
Funsur Minsur 36,004  40,495  -11.1%
合計   36,004  40,495  -11.1%

注)銅については、SX-EW生産分を除く。

出典:MEM




2. 鉱産物輸出

 Prompex(ペルー輸出促進庁)によれば、ペルーの2007年の鉱産物輸出額は前年比17.8%増の173.3億US$に達し、鉱産物が占める割合は全輸出量の62%と前年とほぼ同様の比率を維持した(図2)。内訳は、最大の鉱産物輸出品目である銅が、前年比19.6%増の72.4億US$、次いで、金が同3.8%増の41.6億US$、亜鉛が同27.3%増の25.4億US$で、この3鉱種で鉱産物全体の約8割を占めた。その他、鉛が、亜鉛価格を上回る高騰で44.9%増となり、モリブデンを抜いて鉱産物第4位の輸出品目となった。なお、主要品目である銅精鉱及び亜鉛精鉱の輸出先については、銅は、中国、日本等のアジア諸国に集中しているのに対し(図3)、亜鉛は、アジア、欧州、南北米等世界に分散しているのが特徴的である(図4)。

 一方、2007年は、我が国におけるペルーからの銅・亜鉛精鉱輸入量が大幅に増加した年となった(銅:約2.4倍、亜鉛;約50%増、図5)。特に、銅精鉱については、Cerro Verde鉱山で生産された銅精鉱の多くが日本向けに供給されたことが大きく貢献している。これにより、精鉱輸入相手国として、ペルーは、銅は前年の5位から3位(2006年5位)へ、亜鉛は前年の2位からトップに躍進し、ペルーのベースメタル供給国としてのポジションが大きく向上した(図6)。

表6 鉱産物輸出額 (百万US$)

鉱種 2007年
輸出額
2006年
輸出額
増減
7,241 6,054 19.6%
4,157 4,004 3.8%
亜鉛 2,535 1,991 27.3%
モリブデン 982 840 16.9%
1,033 713 44.9%
537 480 11.9%
286 256 11.7%
507 346 46.5%
その他 50 23 117.4%
鉱産物合計 17,328 14,707 17.8%
その他輸出品 10,628 8,721 21.9%
輸出総額 27,956 23,428 19.3%

出典:輸出促進庁




図2 ペルーの輸出額推移





図3 ペルーの銅精鉱輸出先(2007年)

〔2007年総量:2988千t〕




図4 ペルー亜鉛精鉱輸出先(2007年)

〔2007年総量:3474千t〕
(※グラフ中の記載:輸出先国名,輸出量(千t),割合(%)、共に輸出量ベース、出典:WMS(Apr.2008))



図5.日本:銅、亜鉛精鉱のペルーからの輸入量(2005~07年)





図6.日本:銅精鉱輸入状況(2007年)            図7.日本:亜鉛精鉱輸入状況(2007年)

(※グラフ中の記載:輸入元国名,輸入量(千t),割合(%)、共に輸入量ベース、出典:WMS(Apr.2008))




3. 今後の生産見通し

 MEMは、2008年の鉱山生産量について、新規の鉱山プロジェクトやフル生産になるプロジェクトが複数存在していることから、2007年を上回る見通しを示している。

 銅についてはCerro Verdeの一次硫化鉱対象の生産がフル生産となること等によって、130万tに、一方、亜鉛はVolcan社の鉱山の拡張やCerro Lindoのフル操業開始によって150万tに達するとしている。また、2005年のピークに2年続けて減少している金生産量も、Yanacocha鉱山の生産拡大、Cerro Corona鉱山の生産開始などにより、2%増と減少傾向に歯止がかかるとの見方を示している。ペルー鉱業協会のクルス会長も、同様の見方を示しており、銅はCerro Verde、亜鉛はCerro Lindoの生産拡大によって着実に増産、一方、銀及び鉛は2007年と同レベルの生産量を維持するとしたほか、金生産は2008年第4四半期に生産開始予定のCerro Corona鉱山が、順調に操業を開始すれば若干増加する見通しであるとしている。

 中長期的な見通しについて、バルディビア・MEM大臣は、Xstrata Copper、Southern Copper、Cerro Verde等の企業によって、現在進行中のプロジェクトが生産を開始することで、5年後のペルーの産銅量は現在の2倍の200万tに達するとの見通しを示している。同大臣は、特に、Xstrata CopperのLas Bambas、Antapaccay、Coroccohuayo等における埋蔵量増加によりこれら鉱山で年産30万t分が見込まれるとしたほか、Souhtern CopperによるToquepara鉱山の拡張やTia Maria、Los Chancas鉱山開発プロジェクト、さらに、Cerro Verdeの第3次拡張事業なども銅の増産につながるとの期待を表明している

 一方、地金生産については、Southern Copper社が所有するペルー最大のIlo銅製錬所の生産能力を現在の28万t規模から36万t体制に増強する計画がある他、ブラジルVotorantim社が所有するCajamarquilla亜鉛製錬所でも、2007年に16万t、さらに、最終的には32万t体制まで増強する計画があるなど、ペルーの地金生産は拡大傾向にある。それに伴い、両社とも、新たな精鉱確保に向けてペルーでの鉱山投資を活発化させており、2007年に新たに本格参入した中国勢とともに、今後、ペルーにおける原料鉱石と巡る獲得競争は、一層激化していくことが予想される。

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