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報告書&レポート

2008年5月15日 シドニー事務所  永井正博
2008年37号

オーストラリアのウラン採掘現場報告-Beverleyウラン鉱山現地見学会/ 「Paydirt’s 2008 Uranium Conference」参加報告-

 2008年3月17日、18日の両日、南オーストラリア州(以下、SA州)アデレードにおいてPaydirt Media社主催のウラン鉱業会議「Paydirt’s 2008 Uranium Conference」が開催された。また、3月16日には会議に先立ち、日帰りのBeverleyウラン鉱山(SA州東部)見学会が開催された。
 本稿では、このBeverleyウラン鉱山現地見学会及び「Paydirt’s 2008 Uranium Conference」の概要について紹介する。

1. はじめに
 オーストラリアには、資源量で世界第1位、生産量で世界第2位を誇る世界最大規模のウラン資源があり、活発な探鉱活動が行われている。特に2007年は、オーストラリアのウラン探鉱・開発産業にとって、労働党が20余年にわたるウラン3鉱山政策を廃止した転機の年であった。鉱山開発の権限は州政府に委ねられているため、依然として新規ウラン鉱山開発を認めていない州もあるが、そのことが逆にSA州と北部準州のウラン探鉱・開発の活発化を際立たせることになっている。 2008年には、4番目のウラン鉱山となるSA州のHoneymoon鉱山の生産開始が期待されているほか、現在、65以上のウラン探鉱ジュニア・カンパニーがしのぎを削っている。

2. Beverleyウラン鉱山現地見学会
 3月16日、Beverleyウラン鉱山見学会が開催され、探鉱ジュニア・カンパニー、投資会社等から13名が参加した。アデレード空港から小型機で1時間半の行程である。

(1)Beverleyウラン鉱山概要
[1]位置:SA州東部、アデレードから約520km北北東に位置する。

[2]権益:操業はHeathgate Resources社(ASX非上場企業)が行っている。同社は、米国General Atomics社の子会社。

[3]開発経緯:鉱床発見は、1969年、OTPグループ(Oilmin NL, Transoil NL, Petromin NL社)による。1982年に原位置抽出法(In Situ Leaching:ISL)による開発計画に係る環境影響調査(EIS)草案が作成されるが、1983年に州政府のウラン政策「3ウラン鉱山政策」により、開発計画は中断した。1990年に権益はHeathgate Resources社に移り、2000年より生産開始。

[4]採掘法:オーストラリアで最初のISL法を採用

[5]資源量:11.7百万t、品位0.18%、U3O8量21,000tである。

[6]生産量:年間1,000t弱(U3O8)で、国内第3位の規模

図-1 Beverleyウラン鉱山の生産量の推移
図-1 Beverleyウラン鉱山の生産量の推移

出典:Australian Uranium Association: Australia’s Uranium Mines 2008


[7]地質鉱床:ウラン鉱床は、砂岩タイプで古河川(Palaeochannel)に沿って分布する堆積性鉱床。ウランは北部Flinders山脈の花崗岩体から酸化環境のもとで抽出され、還元環境の場で堆積したとのモデルが有力説。鉱床は、北部、中央部、南部の3鉱化帯から構成され、Frome Basinの第三紀のBeverley砂岩層中に胚胎しており、上盤をBeverley粘土層、下盤をAlpha泥岩層に挟まれておりIn Situ Leachingに理想的な形状とされている。*1

(2)Beverleyウラン鉱山の生産プロセス
 生産プロセスは、
[1]ウラン鉱床の上部にWellfieldを設定。Wellfieldでは、グリッド状に注入井、抽出井を配置する(デザインは、抽出井1の回りに注入井4を配置する5spot方式、6を配置する7spot方式、注入井と抽出井を平行に並べるWall方式がとられる)。

[2]砂岩層に含まれるウランを注入井から酸性溶液(硫酸)と過酸化水素水によって溶出、抽出井のポンプで汲み上げる。

[3]一時、貯水地に貯め、濃度調整を行う。

 

 

 

 

 

 

 

 

   
図-2.注入井  図-3.抽出井  
   
図-4 .In Situ LeachingのWellfield  図-5. Wellhouse内部の計器類  


[4]精製プラント(Ion Exchange Module)でイオン交換樹脂を用いて、ウラン溶液を濃縮・精製し、過酸化水素水と共にシックナーで沈殿、プレスで脱水、乾燥させてイエローケーキを製造する。

[5]製品はドラム缶(200kg)に詰められ、一般のコンテナに収められて、トラック・鉄道により、アデレードへ輸送される。

 

 


図-6.精製プラント:Ion Exchange Module 

図-7.ウラン沈殿シックナー  


これらの生産プロセスは、精製プラント運転管理はもとより、注入井・抽出井の流量、圧力、漏洩検知、ウォーターバランスを含め、すべて中央制御室で管理される。また、酸性溶液は循環して使用され、クローズドシステムとなっているほか、Wellfieldのリハビリテーションを行う等の環境に対する配慮がなされている。

3. ウラン探鉱・開発状況-「Paydirt’s 2008 Uranium Conference」の講演から-
  セミナー参加者は、約200名、その多くは、探鉱ジュニア・カンパニーであるが、投資関係会社も目立つ。探鉱ジュニア・カンパニーは、これまでベースメタルや金などを探査してきて、ウラン探鉱に切り替えた会社が多い。Conferenceでは、SA州政府の鉱物資源開発大臣が講演を行ったほか、ウランの探鉱を中心に26件の講演が行われた。

(1)Alliance Resources(本社メルボルン)
Arkaroola ウラン銅・金プロジェクト(SA州):
アデレードの北550km、Beverleyウラン鉱山の近傍(8km北西)に位置する。Quasar Resources社(Heathgate Resources社の子会社)75%とAlliance Beverley社25%のJV。Beverley Four Mile探鉱地を含み、Four Mile West鉱床とFour Mile East鉱床がある。

Four Mile West鉱床:
2005年発見、第三紀の砂層中に胚胎。資源量3.9百万t、U3O8量は15,000t(32百万lb)。

Four Mile East鉱床:
探鉱目標は、U3O8量で13,500t~21,500t(30百万lb~47百万lb)。2007年12月のボーリング結果、37本中11本でウラン鉱徴捕捉。
 採掘は、ISL法を検討しており、2008年第2四半期よりフィールドテストを実施予定。生産は2010年を予定しており、当初1.5百万lb/年、その後4.5百万lb/年まで増産する計画。Beverley鉱山のインフラを使用予定。*2


図-9.Four Mile ウラン鉱床位置図
(出典:Paydirt’s Uranium Conferenceプレゼンテーション資料)


(2)Toro Energy Ltd.(本社アデレード)
 2006年Oxiana社の子会社として設立。2007年12月Nova Energy社と合併。

Napperbyウランプロジェクト(NT準州):
資源量は1.9百万t、U3O8量で670t(1.47百万lb)、2007年332本の約10%のボーリングにより、200~700ppmのU3O8を捕捉。2008年に鉱量確定のためグリッド状にボーリング予定。

Wilunaウランプロジェクト(WA州):
LakeWay鉱床とCentipede鉱床がある。資源量は15.51百万t、U3O8量で9,000t(19.8百万lb)、プレFS実施中、2008年4月完成予定。*3

表-1.Toro Energy社ウランプロジェクト資源量

プロジェクト 資源量(t) 品位U3O8(%) U3O8量(t) U3O8量(百万lb)
Lake Way 8.51 0.054 4,600 10.12
Centipede 7.00 0.063 4,400 9.68
Wiluna Total 15.51 0.058 9,000 19.80
Napperby 1.9 0.036 670 1.47
合計 17.41 0.056 9,670 21.27


(3)Paladin Resources(本社パース)
  オーストラリアでは、ERAとならぶウラン企業。時価総額でASX Top100に入る。ナミビアでウラン生産。マラウィでウランプロジェクト実施中。

ナミビアLanger Heinrichウラン鉱山:
1970年代発見。Paladin社2002年獲得、2005年バンカブルFS終了、2005年9月鉱山建設開始、2006年12月完成。2007年3月生産開始。
 資源量22.72百万t、品位0.064%、U3O8量14,634t。現在の探鉱で資源量25.37百万t、品位0.067%、U3O8量17,041tに拡大。生産は露天掘採掘、Alkaline leach。計画生産量はHeinrichステージ1でU3O8量2.60百万lb/年、Heinrichステージ2でU3O8量1.10百万lb/年。

マラウィKayekeraウランプロジェクト:
2007年2月バンカブルFS終了。資源量18.71百万t、品位837ppm、U3O8量15,655t。
計画生産量はU3O8量で3.30百万lb/年。*4

(4)Uranium One(本社アデレード)
 カナダ資本。1997年Southern Cross Resourcesとしてスタート。

Honeymoonウラン鉱山(SA州):
Broken Hillの北西75kmに位置する。資源量1.2百万t、品位0.24%、U3O8量6.5百万lb。
 鉱床発見は、1972年で当初からISL法が検討され、1981年には450t/年規模の生産が州及び連邦政府から許可され、110t/年規模のパイロット・プラントが建設されたが、1983年に「3ウラン鉱山政策」により計画は中止。1998年からフィールド試験を再開、2001年にEISが承認され、2004年にはFS調査の見直しが行われ、2007年に10年間の操業許可を取得している。
 ウラン鉱化作用は900m×450mのエリアに110mの深さに存在。In Situ Leachingで2008年第1四半期に生産開始予定。生産能力880,000lb/年。

Goulds Damプロジェクト(SA州):
概測資源量1.7百万t、U3O8品位0.12%、U3O8量2,000t。
Stuart Shelfプロジェクト(SA州)、Karkarookプロジェクト(SA州)で探鉱中。*5


図-10. Honeymoon鉱山、探鉱中プロジェクト位置図
出典:Paydirt’s Uranium Conferenceプレゼンテーション資料

4. まとめ
 今回のBeverleyウラン鉱山見学により、In Situ Leachingによるウラン採掘は、鉱石粉砕プラント、製錬施設、廃さいダム等を要しないこと、ウラン鉱床胚胎の透水層が不透水層で覆われている限り、クローズドシステムが成り立ち環境への負荷が少なくて済むという利点があることがよく理解できた。2008年生産開始予定のHoneymoonウラン鉱山はISLによる採掘であり、2010年開始予定のFour Mileウランプロジェクトも、ISLのフィールドテストを実施している。今後も、環境への負荷の少ないウラン開発としての期待が大きい。
 最近のウランブームの火付け役は、数多くの新規原子力発電所建設計画を有し、大幅な需要の伸びが予想される中国である。2006年4月に、中国の温家宝首相が来豪し、オーストラリアから中国へウラン資源の輸出を認めることで合意し、2007年2月3日、オーストラリア・中国のNuclear Transfer Agreement(原子力移転協定)と Nuclear Cooperation Agreement(原子力協力協定)が締結されたことは記憶に新しい。しかし、現在のところ、BHP BillitonやRio Tintoは、中国企業とウラン供給の交渉中ではあるが、供給力不足のため、契約締結には至っていないという。SA州または北部準州で新規ウラン鉱山開発が期待されているゆえんでもある。
 いずれにせよ、従来のウラン需要国に加えて、中国、ロシア、さらにはインドがオーストラリアのウラン輸出に大きな期待をよせており、我が国も積極的なウラン資源確保のための投資の必要に迫られている。

参考文献
*1 Australian Uranium Association:Australia’s Uranium Mines 2008年2月
*2 Paydirt’s 2008 Uranium Conference プレゼンテーション資料
 Alliance Resources Ltd.:Australian’s premier Uranium Discovery
*3 Paydirt’s 2008 Uranium Conference プレゼンテーション資料
Toro Energy Ltd.:An Emerging Uranium Producer-Napperby Project Update
*4 Paydirt’s 2008 Uranium Conference プレゼンテーション資料
Paladin Energy Ltd.:Paladin’s Orebodies
*5 Paydirt’s 2008 Uranium Conference プレゼンテーション資料
Uranium One Australia: Our pipeline of Uranium Projects

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