報告書&レポート
ペルー、探査許認可に伴う環境規則改正の内容
1. はじめに
ペルーは、昨今の金属価格の歴史的な高値圏にあるという追い風と、政府による鉱業投資促進政策を受け、現在、南米一の探鉱投資対象国となっている。一方で、探鉱申請件数の増大に伴う行政当局の手続きの遅れ、環境規制の強化、地域住民との合意形成など、探鉱投資熱に水を差す要因も表面化している。このような中、エネルギー鉱山省は、2008年4月、探査許認可に伴う環境規則を改正した。本稿では、その概要と、イサシ鉱山次官に改正の主旨とそのポイントについて、聴取する機会を得たので、その内容を報告する。
2. 活発化する探鉱投資
エネルギー鉱山省地質鉱業冶金研究所(INGEMMET)によれば、ペルーにおける2007年の新規鉱区申請件数は8,159件で、前年6,748件と比較して約21%の増加となった。これは、1万417件を記録した1995年以来、ここ12年間で最も高い申請件数である。また2007年の新規鉱区申請の総面積数も362万haで、2006年の319万haを13.5%上回っている。
同研究所は、2001年から鉱区申請件数が連続的に増加している理由として、金属価格の高騰、政府による鉱業投資促進政策、外国人投資家の増加、さらにジュニア企業がリマ証券取引所(BVL)に相次いで上場していることなどを挙げたほか、2007年に行われたINGEMMETと鉱業権・鉱区台帳管理局(INACC)の合併により地質情報へのアクセスが容易になったことも寄与しているとの見方を示している。
一方、カナダのMetals Economics Groupによると、世界の探鉱投資額(初期探鉱~FS:予算ベース)は、2002年以降、金属市況の高騰・高止まりに伴い、著しい増加傾向が継続しており、2007年はついに100億US$を超えた。ペルーへの探鉱投資額もこの5年間で、約5倍拡大して、2007年は4.75億US$(世界6位、南米1位)と世界有数の探鉱投資対象国となっている(図1.)。
図1. 南米諸国に対する探鉱投資額の推移
反面、投資家の間では、探鉱申請件数の増大に伴う行政当局の手続きの遅れ、環境規制の強化、地域住民との合意形成等、探鉱活動の開始までに、多くの時間と労力を要するとし、こうした運用面に対し不満の声が高まっている。このような中、エネルギー鉱山省は、2008年4月、探査許認可に伴う環境規則を改正した。
3. 改正の概要
(1)背景と目的
探鉱活動に関する環境規則は、1993年(016-93-EM)に公布され、1998年(038-98-EM)に補完、2007年に一部改正された。この間、新たな関連法律・規則が公布され、また鉱業を取り巻く環境も大きく変化した。
このことから、法的安定性及び持続可能な開発の枠組みのもと、環境保護や鉱業活動影響下地域住民の権利、民間投資の促進を実現するため、現状に沿った新たな法律の整備が求められる状況となった。
新規則は、探鉱活動が人間や自然の健康と安全に対して及ぼすリスクや影響の防止・抑制、また探鉱後の環境回復を目的として、探鉱活動に先立って提出が義務付けられる環境調査書に関する規定、エネルギー鉱山省による環境調査書の審査プロセス、エネルギー鉱業監督庁による監査・監督・罰則規定を現行法に基づき定めるものとしている。
(2)改正の概要(表1.の新旧対照表参照)
・従来の「カテゴリーA」(地質調査、地化学探査、物理探査、なお、トレンチ調査は含まず)を「地質調査」に、従来の「カテゴリーB」(ボーリング調査20本まで)を「カテゴリーⅠ」に、さらに、カテゴリーC(ボーリング調査21本以上)を「カテゴリーⅡ」に名称変更する。
・「地質調査」に関しては、エネルギー鉱山省による認可は必要ないが、土地所有者の許可を取得し、地域住民の権利を尊重した活動を行わなければならない。
・「カテゴリーⅠ」の探鉱活動に関しては、環境影響申告書(Declaracion de Impacto Anbiental:DIA)のエネルギー鉱山省への提出をもって自動承認(Aprobacion Automatica))とする。
・「カテゴリーⅡ」に関しては、エネルギー鉱山省へ環境影響調査概要報告書(EIAsd、Evaluacion de Impacto Ambiental Semi Detallado)を提出し、一般市民からの意見受付やエネルギー鉱山省による審査を経て、最初の申請提出から55日(ワーキングデイ)以内に申請者に回答が通知される。55日以内に回答が無い場合には不承認(Silencio Administrativo Negativo)と見なされる(なお、改正前では規定期間経過後、回答の無い場合は承認:Silencio Administrativo Positivoと見なされた)。
・カテゴリーIに分類される探鉱活動でも、以下の条件に当てはまる場合、自動承認は適用されず、当局は、45日以内に審議し、結論を出すことになっている。45日以内に回答のない場合は、カテゴリーⅡと同様、不承認となる。
・ウラン探鉱
・自然保護地域或いは自然保護地域に隣接する地区
・湿地帯、水路、井戸等の50m以内
・氷河内或いは氷河から100m以内
・原生林或いは保護森林地区
・休廃止鉱山鉱害の存在する地区
4. エネルギー鉱山省の説明
4月24日、JOGMECリマ事務所が、ペルーに進出している本邦鉱山会社と共に、イサシ鉱山次官と面談し、改正された探鉱活動に関する環境規則について、その主旨と目的、改正のポイント、期限が来た際の不承認問題などについて聴取並びに意見交換を行った。
同次官は、今回の改正は、投資の促進に向けて行政手続の簡素化・迅速化を図るのが最大の狙いで、調査項目を細かく定め、フォーマット化し、いままで、書類の様式が不統一で、解釈があいまいのため審査が滞っていた点を改善したもので、一方、最近問題になっている地域住民とのトラブルを回避するため、市民参加や環境対策など企業の社会的責任に関する規則を強化している点を強調した。
また、今回の改正で最大の問題点となっているカテゴリーⅡ(ボーリング21本以上の調査)あるいは、ウラン探鉱などにおいて申請後一定の期間内にエネルギー鉱山省から回答がなければ、不承認になる点について、過去の経緯から、鉱山省の審査が必ずしもスムースに行われていないこと、また、今回の改正で調査項目が増え、手続きのプロセスが、一層煩雑になる恐れもあることから、期限内に確実に回答があるのか、大きな懸念である旨伝えたところ、同次官は、改正法に明記されているSilencio Administrativo Negativoは、期限内に回答が無い場合、承認とはならないという意味(不承認という意味ではない)で、この場合は、申請者に次の行動をとる権利を与え、当局に審査の迅速化を促すものであると説明した。次の行動とは申請者に以下の2つのリアクションが選択できるというもの。
| (1) | 申請者は申請が否認されたとみなし、鉱業審議会(官民の有識者5名からなる独立機関)に再申請することができる。鉱業審議会は30日以内に審議し、結論を出さなければならない。なお、30日を過ぎると自動承認となる。 |
| (2) | 引続き当局からの回答を待つ(当局は、申請者が鉱業審議会に再申請しない場合、審査を継続し、結論を出す義務がある)。 (上記の根拠となる法律: ・Ley No.29060 (Ley del Prcidimiento Administrativo General(一般行政手続法)) ・Ley No.27444のArticulo35、Articulo188 (Ley del Silencio Admininstrativo(行政沈黙承認法)) ※“5. おわりに”の冒頭参照) |
また、同次官は、審査の迅速化に向けて、申請書類は完全フォーマット化により、審査が簡素化されるとともに、審査専門の人員の増員(5人の専門作業チーム)の審査体制を強化していく計画であること、さらに、近く、ワークショップを開催し、本改正法案の真意を説明する考えを明らかにした。最後に、申請書作成にあたっては、担当官と前広に相談しながら、進めてもらいたい、それが、審査プロセス迅速化の一番の近道である旨アドバイスがあった。
5. おわりに
一般行政手続の簡易化を目的として2008年1月より施行された法律29060は、税務署及び税関を除く全ての公的機関に行われる申請に対して、期限内に当該機関より返答の無い場合には承認とみなす(Silencio Administrativo Positivo)旨を認めるが、例外的に、公共の利益や健康、環境、天然資源、国民の安全、金融システム、保険、証券市場、国防、歴史文化遺産等が関わる申請手続きに関しては、上述の期限終了に伴う承認を認めない(Silencio Administrativo Negativo)旨を定めている。
本改正は、この主旨に沿ったものであると言えるが、この中のSilencio Administrativo Negativo(直訳では、当局から何ら回答がない場合は不承認)を巡っては、その真意や詳細な説明が本改正法の本体には明記されていないため、大きな誤解を招く恐れがある。
今回のエネルギー鉱山省の説明では、Negativoとすることで、審査がずるずると先延ばしされることなく、むしろ55日(カテゴリーⅡの場合)という審査に区切をつけ、投資家側に次の手立てを講じることを保証するものであり、むしろ、投資家の権利の明確化、保護をうたったものであるとの見解であった。
いずれにしても、今後のエネルギー鉱山省の審査プロセスの成行きを注意深く見守っていき、運用面で問題が生じた場合は、再度、エネルギー鉱山省に直接、確認していきたい。
表1. カテゴリー別の新旧対照表
1. カテゴリーA → 地質調査
| 改正前 | 改正後 |
|
第4条(カテゴリーA) |
第19条 |
2. カテゴリーB → カテゴリーⅠ
| 改正前 | 改正後 |
|
第4条(カテゴリーB) |
第20条-1 |
|
第5条 |
第30条(カテゴリーI) |
|
第4条 |
第29条DIA(※3)内容(鉱山省決議167-2008MEM-DM) |
(※1).DGAAM : エネルギー鉱山省鉱業環境総局
(※2).DJ : 宣誓供述書(Declaracion Jurada)
(※3).DIA : 環境影響申告書
(※4).TUPA : エネルギー鉱山省手続規則
3. カテゴリーC → カテゴリーⅡ
| 改正前 | 改正後 |
|
第4条(カテゴリーC) |
第20条-2 |
|
第6条(カテゴリーC) |
第35条(カテゴリーⅡ) |
|
第4条 |
第34条 |
(※5).EA : 環境評価(Evaluacion Ambiental)
(※6).EIAsd : 環境影響概要調査(Evaluacion de Impacto Ambiental Semi Detallado)


