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報告書&レポート

2008年5月29日 メキシコ事務所  小島和浩報告
2008年42号

パナマ共和国の未開発銅プロジェクト


 パナマの鉱業は低調であり、1999 年にSanta Rosa 鉱山(98 年の金生産量1.5t)が操業を停止して以来、非鉄金属鉱物資源の生産は報告されていない。しかしながら、同国は、世界でも有数の大規模未開発斑岩銅鉱床であるPetaquilla(ペタキージャ)及びCerro Colorado(セロ・コロラド)を有する。Petaquilla は開発計画を続行中であり、Cerro Colorado は近い将来の国際入札を予定している。その他、同国には、2007 年から本格的な探査を開始したCerro Chorcha(セロ・チョルチャ)銅プロジェクトがある。
 本稿では、その開発動向が今後の世界の銅需給に少なからぬ影響を与えるものと思われる、これらパナマの銅プロジェクトについて紹介する。

図1. パナマの行政区分と銅プロジェクト位置図
図1. パナマの行政区分と銅プロジェクト位置図

1. Petaquilla(ペタキージャ)
(1)プロジェクトの概要
 首都パナマシティの西方約150km、Provincia de Colon(コロン県)Distrito de Donoso(ドノソ区)に位置する。鉱区内には10以上の鉱化帯が知られているが、探鉱が進んでいるのはPetaquilla、Botija、Valle Grande鉱床等である。1998年に実施されたFSの結果によると、埋蔵鉱量(Petaquilla、Botija、Valle Grande鉱床の合計)は11.15億t、品位はCu 0.50%、Au 0.09g/t、MoSO2 0.015%と見積もられている。

(2)最近の開発状況
 2005年9月にパナマ政府が段階的開発計画を承認したことを受け、同鉱区内に位置するMolejon金鉱床開発が銅鉱床開発とは切離される形で開始された。同プロジェクトの最初の金生産は2008年7月あるいは8月に、フル操業への到達は9月あるいは10月に予定されている。
 また、2006年4月には近年の銅価格高騰を背景に、1998年に完了したFSの見直しが開始され、2007年1月にその結果が発表された。それによると、同プロジェクトの総資本コスト(運転資本(working capital)を含む)は17.08億US$と見積もられ、借入金比率60%、銅価格130¢/lbと想定した場合の正味現在価値(NPV)は割引率8%で287百万US$、内部利益率(IRR)は13.3%、操業開始から10年間の平均キャッシュコストは76¢/lb、同じく平均総コストは106¢/lbと見積られた。なお、本FS見直しの主な前提条件は、資源量986百万t、品位:Cu 0.5%、Au 0.09g/t、Mo 0.01%、鉱石処理量12万t/日等であり、マインライフ23年間に、銅4.45百万t、金1.628百万oz(50.6t)、モリブデン59,500tを生産することとなる。
 2008年2月に発表された同プロジェクトの設計調査の中間報告によると、機材及び建設費の全般的なコスト増に加え、環境保護対策の改善を含むプロジェクトの見直しによって、開発経費は大幅に増加し35億US$。また、操業開始後10年間における副産物クレジットを含めた平均キャッシュコストは、86¢/lbと修正された。
 なお、本プロジェクトの経緯については、カレントトピックス2007年8号「パナマ・ペタキージャプロジェクトの現況」を参照されたい。

(3)銅鉱床開発に関する新たな合意の締結
 Teck ComincoとInmet両社は、本プロジェクトの開発続行について合意した旨、2008年3月26日付けで発表した。発表された合意内容によると、Teck Comincoは本プロジェクトの権益獲得に関するオプションを行使し、Petaquilla Copper社からMinera Petaquilla(MP)社の権益26%を取得する。その後Teck Comincoは、獲得した26%の権益を新たに設立する同社の100%子会社に移転し、Inmetが当該子会社の運営管理を行う。当該子会社は、MP社との運営管理契約に基づき、オペレーターとなる。Inmetは、MP社との契約義務不履行に関して、Teck Comincoと当該子会社に免責の保証を与える。
 また、Inmetは2009年9月末まで、もしくは総額が50百万US$に達するまで、開発資金の全額を提供する。Teck Comincoは、上記期限のいずれかに達した時点で、自己権益分の開発コストを負担するか否かを決定しなければならない。Teck Comincoが費用を負担する場合、同社はInmetが立替えた開発コストを支払い、両社が共同でオペレーター子会社の運営に携わり、Inmetによる免責の保証は解除される。Teck Comincoが開発費用を負担しないと決定した場合には、同社の権益はInmetに売却される。

プロジェクト実施体制
図2. プロジェクト実施体制

 なお、Petaquilla Copper社は、権益獲得のための条件として合意された開発資金の調達及びバンカブルFSの提出期限である2008年3月31日までに、Teck Comincoがそれを履行していないとし、本プロジェクトに関するTeck Comincoのオプション権が消滅し、同プロジェクトの権益はPetaquilla Copper社が52%、Inmetが48%を保有するとの立場を取っており、権益に関する調停の申立てを行っている。また、韓国コンソーシアムが本プロジェクトの権益獲得に興味を示しているとの報道もあり、今後の調停の成り行きが注目される。

2. Cerro Colorado(セロ・コロラド)
(1)プロジェクトの概要
同鉱床は、パナマ市西方250kmに位置し、銅以外に、金、銀、モリブデンを含有する斑岩銅鉱床である。Petaquillaを凌ぐ大規模鉱床であり、1998年12月の発表によると、硫化鉱の概測鉱物資源量(indicated resource)は17.5億t(品位Cu 0.64%)と見積もられている。また、1997年に実施されたFSによると、鉱床上部の酸化帯をSxEw法で開発した場合、年産カソード生産量25,000t、マインライフ12年、平均コスト0.49US$/lb、初期投資額は200百万US$と試算されている。

セロ・コロラド鉱床周辺の様子
写真1. セロ・コロラド鉱床周辺の様子

(2)プロジェクトの経緯
  本地区では1930年代から銅の鉱徴が知られていたが、Petaquilla鉱床発見を契機とし、1970年にカナダ・Javerin社が探鉱権を取得し本格的な探査を開始した。翌年に斑岩銅鉱床が確認され、その後、Noranda社等の資本参加を得たが、1975年にパナマ政府との開発契約交渉が決裂したため、Javelin社は本プロジェクトから撤退した。パナマ政府は同年8月、国営企業のCODEMIN(Cerro Colorado鉱山開発公社)を設立し、同公社が本プロジェクトの権益を所有することとなった。
 1976年にCODEMINは、Texasgulf社との合弁で本プロジェクトの開発企業Empresa de Cobre Cerro Colorado社(権益比率:CODEMIN 80%、Texasgulf 20%)を設立した。1976~79年に、Texasgulf社はFSを実施したが、高開発コスト及び銅価低迷等を理由とし、本プロジェクトから撤退した。1980年にRio Tintoが本プロジェクトに参画(権益比率:CODEMIN 51%、Rio Tinto 49%)し、翌年同社はパナマ政府にFS結果を提出したが、インフラの不備や環境問題等のため、開発には至らなかった。Rio Tintoは1993年に本プロジェクトの権益を放棄した。
 1996年に、パナマ政府はTiomin Resources社に本鉱床の開発許可を与えたが、先住民による実力行使を含む大規模な抗議運動が展開された上、金属市況の低迷も重なったため、同社による鉱山開発は中止に追い込まれた。その後、2001年にTiomin Resources社はAur Resources社に権益を売却したが、同社は既にプロジェクトから撤退しており、現在は、CODEMINが100%の権益を保有する。

(3)現況及び今後の計画
 2008年3月に実施したDGMR(パナマ鉱物資源総局)とのインタビューによると、DGMRは、同プロジェクトの国際競争入札を実施するための準備として、過去の探査結果のコンパイルを実施中である。

3. Cerro Chorcha(セロ・チョルチャ)

(1)プロジェクトの概要
 鉱床は、パナマ市西方290km、標高600~2,200mの山岳地帯に位置する。2006年に実施された最新の鉱量評価による予測鉱物資源量(inferred resource)は、カットオフ品位をCu 0.2%とした場合は134.9百万t(平均品位:Cu 0.48%、Au 0.059g/t)、また、カットオフ品位を0.4%とした場合の予測鉱物資源量は70.5百万t(平均品位:Cu 0.68%、Au 0.095g/t)と見積もられている。

(2)プロジェクトの経緯
 本地区の鉱化作用は、1969年にASARCO Exploration Company of Canada社によって発見され、1976年に実施された探査により600m×300mの範囲に亘り、銅品位0.2%以上の斑岩型銅鉱化作用が確認された。しかしながら、ASARCO社とパナマ政府の鉱業権交渉が不調に終わり、同社は本地域から撤退した。
1990~92年に、Consultores Geologics社が本地域探鉱権を獲得し、サンプリング調査を実施した後、1993年に本鉱区はGeo-Minas社に譲渡された。1994~95年には、GeoRescursos International社及びArlo Resources社が、1997~98年にはCyprus Minera de Panama社が鉱区取得のオプション契約に基づき、ボーリング等の探査を実施した。Cyprus社の撤退後、探鉱活動は休眠状態となり、2004年4月に本地区に設定された鉱区は解除された。
 その後、2006年4月にCuprum Resources社による鉱区登録がパナマ政府の認可を得た。2006年9月に、Bellhaven Copper & Gold社(本社パナマシティ)がCuprum社を買収し、本鉱区の権益100%を獲得した。2006年12月に、同社は鉱区調査のためのベースキャンプを設置し、2007年から本格的探査を開始した。現在、Bellhaven社とDominion Minerals社との共同事業として探査が行われており、Dominion社は総額21.5百万US$の資金提供と引換えに、本権益65%を取得できるオプションを有している。

(3)探鉱計画
 Bellhaven社とDominion社との共同探鉱は2007~09年の3年間を予定している。同鉱区周辺は森林保護区(reserva forestal)に指定されており、探鉱活動のための道路建設は認められないため(道路が不法伐採を容易にするため)、アクセスはヘリで行っている。2007年の探鉱支出は約2百万US$で、11孔(総延長3,615.80m)のボーリング探査を実施している(表1参照)。2008年の探鉱予算は7.3百万US$で、既知鉱床周辺の4つの探鉱ターゲットで総延長15,000mのボーリング探査を行うこととなっている。2009年の探鉱予算は約5百万US$で、既知鉱床の北東に延びる地化学異常帯を中心に探査を行う予定である。

表1. 2007年に実施されたボーリング探査の結果概要
孔名 鉱化帯捕捉部 平均品位
Cu(%) Au(g/t) Ag(g/t)
CH-07-01 0~239.4m 1.20 0.23 6.1
CH-07-02 5.1~278m 0.73 0.06 2.6
CH-07-03 4~319.9m 0.46 1.1
CH-07-04 0~445.78m 0.39 0.07 1.4
CH-07-05 2~386.6m 0.43 0.06 1.6
CH-07-06 0~346m 0.42 0.05 1.4
CH-07-07 0~305.9m 0.57 0.04
CH-07-08 0~270m 0.42 0.06
CH-07-09 4~295m 0.28 0.04 1.5
CH-07-10 0~422m 0.19 0.03
CH-07-11 4~297.43m 0.33 0.06 1.3

(出典:Bellhaven 社HP)

(4)先住民社会との関係
 本プロジェクトはNgobe-bugleコマルカ(CamarcaComarca:先住民の自治区)内に位置するため、Bellhaven社は同コマルカと探鉱活動に関する合意書を締結している。Bellhaven社は、同合意書に基づいて、コマルカの環境保全、教育支援等のための資金援助を行っている。Bellaven社Burgos副社長によると、同社は本支援活動のために2007年に35万US$を支出、2008年は40万US$を支出する予定とのことである。

4. おわりに -開発への課題-
 以上のようにパナマは大きな銅資源のポテンシャルを有しているが、上述のプロジェクトが生産段階に移行するためには、解決しなければならない課題も少なくない。現在、エネルギーコスト、原材料の高騰等による開発コストの増大が鉱山開発における共通の問題となっており、Petaquillaの開発コストの見積額も最近1年間で約2倍に膨れ上がっている。パナマ国内の電力網、港湾設備の不足等、インフラの未整備が開発コストをさらに押し上げる要因となっている。
 また、パナマはこれまで鉱業国ではなかったため、鉱山技術者・労働者の確保も課題の一つである。さらにパナマ等中米諸国特有の問題として先住民問題がある。パナマには、ngobe(ノベ)、kuna(クナ)、embera(エンベラ)、bugle(ブグレ)、wounaan(ウォウナーン)、naso-teribe(ナソ-テリベ)、bri-bri(ブリ-ブリ)の7つの先住民が居住しており、先住民人口は2005年現在、約20万人と推定されている。これら先住民の特別法で定められた自治区・コマルカComarca)が設定されており、先住民の自治権が認められている。現在設定されているコマルカは、Kuna Yala(1938年にコマルカ「San Blas」として設定、1998年にKuna Yalaに改称)、Embera-Wounaan(1983年設定)、Kuna de Madungandi(1996年設定)、Ngobe-Bugle(1997年設定)、Kuna de Wargandi(2000年設定)の5地区である(図1参照)。
現在は先住民や支援NGOによる大きな反鉱業活動は見られない。しかしながら、1996年にパナマ政府がTiomin Resources社にCerro Colorado鉱床の開発許可を与えた際には、実力行使を含む大規模な抗議運動が展開された。Cerro Colorado鉱床は現在のNgobe-Bugleコマルカ内に位置するが、1996年当時は同コマルカが未設定であったため、政府側が先住民の同意を必要としないとの強硬な態度で臨んだことが大規模な反対運動に発展した一因とされている(注)。国際入札の実施により、同プロジェクトの開発が具体化した場合、先住民による反対運動が活発化する可能性は否定できないため、パナマ政府を含めた開発側の慎重な対応が必要とされる。

(注)1997年に制定されたNgobe-Bulgeコマルカ設置法(LEY POR LA CUAL SE CREA LA COMARCA NGOBE-BUGLE)は、天然資源の開発に際して先住民が移転を余儀なくされる場合の国家賠償、資源開発プロジェクトへの先住民の参加促進、資源開発が先住民文化へ及ぼす社会的影響調査の義務化等を規定している。

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