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報告書&レポート

2008年6月5日 ロンドン事務所  竹谷正彦
2008年44号

ICSG第16回 (2008年春季)概要報告


 2007年4月22日~4月25日の間、リスボンにおいて国際非鉄金属研究会(銅、ニッケル、鉛・亜鉛)の定期会合、銅研究会については総会が開催された。4月24日~25日にリスボンの国際非鉄金属研究会本部で開催されたICSG(国際銅研究会)第16回総会の概要について報告する。
今回の会合は、加盟国14か国・地域、オブザーバーとして、豪州、ブラジル、ナミビアが参加、この他に、銅関係の政府・民間関係者(日本からは、JOGMECロンドン事務所及び三菱マテリアル(株))が参加して開催された。2日間に産業アドバイザリーパネル、統計委員会、環境経済委員会等が開催された。以下に、それらにおける主要な報告、討議内容について報告する。なお、次回会合は、2008年10月6日(月)~10日(金)にリスボンで開催される予定※1となった。

1. 統計委員会
(1)2007・2008年の世界の銅需給見通し
[1]概説
2007年の鉱石生産は、粗鉱品位の低下、生産上の技術的問題、労働争議による生産設備の稼働率の低下等があったものの、世界の鉱山生産は前年比3.1%の増加となった。2008年の鉱山生産は、ザンビア、DRCコンゴの鉱山生産がそれぞれ前年比28.2%、105.8%の伸びが期待され、銅価高騰に伴う稼働率や実収率の向上等により、前年比6.3%(955千t)の増加が見込まれる。2009年の鉱山生産は、新規プロジェクト及び既存鉱山の拡張が見込まれることから、前年比9.2%の増加が予測されている。
銅地金生産では、2008年に増産が見込まれる主な国は、米国(前年比4.9%増)、チリ(前年比9.2%増)、中国(前年比11%増)、日本(前年比1.1%増)、ロシア(前年比0.6%増)である。また、チリ、アフリカ及び米国においては、SxEw生産による増産が見込まれ、2008年の銅地金生産は1.49百万t(前年比8.3%増)の増加が見込まれる。2009年も、主にアフリカ、アジア、北米からの生産が要因となり前年比7.1%の増加が予測されている。

 2008年の銅地金消費は、主に中国(前年比3%増)、インド(前年比6.3%増)で消費の伸びが見込まれる一方で、米国では前年比2.3%の減少、EU 15か国(前年比0.8%増)及び日本(前年比0.4%増)では微増となり、総じて2008年には、サブプライム問題の影響による景気後退等により全体では前年比2%の増加となる見通しで、2009年には、世界全体で前年比5.2%の増加が見込まれている。中国を中心としたアジアとEUの消費が伸びるとの見通しである。

[2]2008~09年の銅需給について議論され、以下の研究会の見解が示された。
・2008年の銅鉱石生産量は、960千t増の16.41百万t(前年比+6.3%)、2009年は、1.5百万t増の17.92百万t(前年比+9.2%)と予測。
・2008年銅地金(一次+二次)生産は、1.49百万t増の19.58百万t(前年比+8.3%)。2009年は、1.39百万t増の20.97百万t(前年比+7.1%)と予測。
・銅地金消費量は、2006年が前年比2.2%増となったが、2007年には前年比6.4%、2008年には前年比2.0%の増加を見込んでおり、367千t増の18.49百万t(前年比+2.0%)と予測。これは主にアジア地域(前年比2.7%増)が貢献、アフリカは前年比27.3%増、北米は前年比-1.5%であると予測された。2009年は、956千t増の19.45百万t(前年比+5.2%)と予測。
以上のことから、2008年の銅地金需給バランスは、85千tの供給超過を見込み、2009年は、2006年の295千tを上回る429千tの供給過剰と予測されている。

表1.銅鉱石生産量、地金生産・消費量の見通し(2006~2009年)
地域 2006~2009年間の銅需給見通し  (単位:千t)
銅鉱石生産 銅地金生産量 銅地金消費量
2006 2007 2008 2009 2006 2007 2008 2009 2006 2007 2008 2009
アフリカ 739 844 1,161 1,571 553 637 868 1,175 237 267 340 427
北米 2,159 2,126 2,408 2,654 2,117 2,151 2,282 2,437 2,758 2,663 2,622 2,692
中南米 6,735 7,129 7,311 7,615 3,565 3,595 3,940 4,211 548 535 557 579
アセアン(10カ国) 919 898 850 998 504 522 520 550 764 769 780 794
アジア(アセアン・CIS以外) 1,300 1,398 1,461 1,545 5,979 6,664 7,161 7,557 7,194 8,467 8,693 9,269
アジア(CIS) 544 516 532 562 520 496 525 545 116 121 125 129
EU(27カ国) 806 748 776 827 2,499 2,445 2,602 2,758 4,218 4,070 4,128 4,266
欧州(その他) 733 755 788 820 1,158 1,139 1,150 1,176 1,050 1,087 1,099 1,141
オセアニア 1,053 1,039 1,123 1,328 429 441 534 562 143 146 148 152
世界計(調整前) 14,988 15,454 16,409 17,919 17,323 18,089 19,582 20,971 17,028 18,126 18,493 19,449
製錬原料不足の調整             -397 -304        
生産障害の差引             -607 -788        
世界計(調整後) 14,988 15,454 16,409 17,919 17,323 18,089 18,578 19,878 17,028 18,126 18,493 19,449
対前年比(%)   3.1% 6.2% 9.2%   4.4% 2.7% 7.0%   6.4% 2.0% 5.2%
地金生産・消費バランス                 295 -37 85 429

(出典:ICSG 2008年4月28日付プレスリリース)

世界の銅生産・消費量の推移

図1. 世界の銅生産・消費量の推移
(※2007年:見込値 2008~09年:予測値)

世界の銅地金需給バランス

図2. 世界の銅地金需給バランス
(※2007年:見込値 2008~09年:予測値)

表2. 世界の銅地金需給バランス(2005~2009年)

(単位:千t)
区分 2005 2006 2007 2008 2009 増減
’07/’06
増減
’08/’07
増減
’09/’08
供給量

16,543

17,323

18,089

18,578

19,878

4.40%

2.70%

7.00%

消費量

16,664

17,028

18,126

18,493

19,449

6.40%

2.00%

5.20%

需給バランス

-121

295

-37

85

429

 

 

 

注)供給量の数値は、調整後の数値である。(表1参照)
(※2007年:見込値 2008~09年:予測値)

 また、本委員会において、以下のプレゼンテーションが行われた。
[1]『China’s Refined Copper Usage』:BGRIMM(北京鉱冶研究総院) Wang Ye氏
 講演内容は、中国に関する2007年における銅消費の分析、銅地金の輸入、ダイレクトスクラップの消費について分析を行い、2010年までの銅地金の消費予測を発表した。それによれば、2000年から急激に伸びた中国の全銅消費(銅地金、ダイレクトスクラップの消費及び銅製品の準輸入(Net semis imports)の合計)は2007年には6,137千tとなる見込み。銅地金の消費は前年比19%増の4,546千tに達した。
 また、銅地金の輸入は前年比134%増の1,368千tとなった。2007年には、社会基盤整備による使用が中国の銅地金の消費を牽引しており、インフラ整備の固定資産投資が主な要因となっている。また、ダイレクトスクラップの消費に関しては、中国中央政府が地方政府と連携してスクラップの密輸の取締りを国全体で行っており、また、高品質のスクラップが逼迫してきたこともあり、消費は減少してきている。2010年までの銅地金の消費予測について、今後、銅消費が増加する要因としては、第11次5か年計画による送電網の整備による電線需要等を挙げ、また、今後、銅消費が減少する要因としては、人民元の切上げ等による輸出成長の減速や金融の引締め、さらに、銅加工業者が人民元高、電力不足、労働コストの増加等により国外に生産を移していること等を挙げた。それら要因を考慮して、2010年には銅地金生産が4,464千t、銅地金輸入(NET)が1,066千t、銅地金消費が5,530千tとなる見込みと報告した。

[2]『Refined Copper Usage in the Gulf Countries』:ICSG事務局
 エジプト、オマーン、サウジアラビア、UAEの銅地金消費について報告された。それによれば、これらの国の経済成長率は若干減速しながらも2012年には5.5~6.7%に達する見込みである。銅地金の生産について、エジプトでは2011年までに銅地金の生産が304千t/年になる見込みである。同地域のワイヤーロッドの生産能力は2007年338千t/年から各国の生産開始や増産により2010年には1,015千t/年に達する見込みである。また、同域内ではワイヤーロッドの生産能力の増加に伴い銅地金消費が2007年の347千t/年から2009年には755千t/年に達する見込みである。この分析結果は2009年以降、世界の銅需給予測に非常に重要であることが報告された。

2. 産業アドバイザリーパネル(IAP)
(1)銅スクラップ調査
 今回の調査結果を基に明らかとなった銅の輸出入量の不一致や貿易のデータを補完するためのレポート作成([1]香港、ASEAN地域のレポートの作成、[2]ドイツ・ベルギー・オランダの銅スクラップリサイクルと域内貿易のレポート作成、[3]日本の銅スクラップリサイクルに関するレポート作成の調査研究)や、銅スクラップの文献調査に係る資金手当等、スクラップ調査の情報追加、補完に必要な資金手当について事務局より提案があり、経済環境委員会においても、同調査について引続き報告された。
(2)銅産業における環境規制の経済的影響について
 調査結果の発表が事務局からあり、環境規制は結果的には雇用を増加させる影響を与えたが、国際貿易に対しては重要な影響を与えていない。新規投資により公害は低減され、環境基準については、環境基準がより進歩した国の環境基準が採用されており、環境規制の国際化により、環境技術が国際貿易の対象となってきている。
 「Pollution heaven(公害天国)」と呼ばれる国や地域は、保護された産業部門や甘い法執行と関係付けられるものの、これに関する調査は本研究会では今回行っていない。また、環境規制は、短期的には銅製品の供給を減少させることになるが、中期的には、新規投資により生産性を向上することが報告された。
 このほか、本委員会の新議長としてConchita Carvajal氏(スペイン、Atlantic Coppers社)が承認された。

3. 環境経済委員会
(1)銅スクラップ計画/銅リサイクル調査
 2007年11月~2008年4月間の中国、ロシア、インドのスクラップの発生と貿易について発表された。また、ICSGが分析する銅スクラップの貿易データに問題があることが報告された。今後の調査として、今回明らかとなった税関による品目整理の取扱いが、スクラップか製品かで統計に差が生じることや調査結果と国連統計の差を今後確認していくことと報告された。今回の調査結果を受けて、ICSGの貿易データの質の改善のために、中国や米国のような銅スクラップの主な輸出入国だけ注目するのではなく、ドイツ、ベルギー及び日本の国内銅スクラップ市場に関する情報を充実する必要がある。また、特に中国への供給源となっている香港、台湾、アセアン各国及び豪州のような東アジア・オセアニア地域そして他の産業経済も現状では調査されていない。
 今回の調査結果を受けて、統計の質の向上と情報量の増加のための調査と東南アジア、ドイツ、日本の銅スクラップ市場調査、銅スクラップの文献調査のための資料購入予算、スクラップ溶融の情報更新のための調査予算措置について提案がなされた。

(2)中国における銅:規制と市場の動向
 中国の銅における規制と市場動向について以下のプレゼンテーションが行われた。
[1]「中国の銅の需要と供給及び市場の変化の可能性の検討」:中国五砿集団公司 願 良民氏
 中国政府は深刻なインフレを抑えるために経済の急成長を改め、穏やかな伸びを目標としている。2008年と2009年の銅需要は中国のインフレ抑制策の影響を受け、2009年の成長率は過去5年よりも低くなると思われる。高騰する銅価格と輸入の大幅な減少により、銅の需要が落込み、中国の銅市場が冷え込むことになる。国内生産は安定した成長を続けるものの、生産者と加工業業者の両方の利益は減少し続けることになる。
[2]「中国における銅:規制と傾向2007~2008」:ICSG事務局Carlos Risopatron氏
 2007年の銅地金消費は約4,900千t、一次製錬能力は2.8百万tであり、2011年は銅精鉱生産量1.03百万t、銅製錬能力が3,400千tとなり、国内の銅精鉱生産量が引続き製錬能力を大きく下回ることが予想される。2010年までのエネルギー需要と環境の目標を設定し、GDPに占めるエネルギー消費割合を20%減、主な汚染物質の排出量10%減、成長戦略の調整と産業構造の最適化の必要性等を挙げている。しかし、2008年においては溶鉱炉、電炉、反射炉による500千t/年の生産能力があり、環境とエネルギーの非効率性は、まだ改良されていない。これらの製錬所は低リサイクル率、高エネルギー消費、高汚染であり、地方政府は地域の発展政策、雇用、税収の観点から製錬業を支援した。また、地方企業は旧式設備の閉鎖を奨励されている。
 中国の金属産業における政府管理の理由については、市況の高値が続き、銅や他の非鉄金属製錬業が大きく拡大し、鉱業の発展とともに公害が発生しており、また、メタルスクラップのリサイクル処理に伴う環境汚染も問題になってきたため、管理強化の必要が生じたためとされている。2006~07年にはエネルギー多消費型産業(非鉄、鉄鉱、石油・化学、電気)の管理を強め、2007年の後半からは旧式設備の更新を始めた。2006年に制定された銅製錬業への規制が2007年に施行され、銅製錬事業の資本金比率が35%以上であること、溶鉱炉・電炉・反射炉の新規製錬所建設は認めない等の規制※2が加えられた。銅の国際貿易の管理、主に銅スクラップ等の輸出入規制の変更を行った。また、銅地金と銅合金への貿易税(International trade duty)を5%から10%に上げ、銅の輸出還付金を廃止、主な銅製品輸出に暫定的に15%を課税した。また、国内の金属需要に適合させるため2008年1月より、銅地金に関する輸入関税2%を撤廃した。なお、チリ産の銅地金の輸入については中国とチリとの自由貿易協定により既に免税となっている。
 銅製錬の政府管理により、銅製錬能力のほぼ80%が自溶炉製錬であり酸素富化や環境対策技術が取入れられている。旧式製錬所の生産能力は1百万t/年(2005~06)であり大部分は電炉、反射炉、溶鉱炉である。政府管理により銅製錬への過剰投資は、抑制されてきた。
 2007年の銅地金輸出は126千tに落込んだ。95%の製錬所で硫酸プラントを設置し硫黄回収率は上昇した。2006年には精鉱処理能力100千t/年以上の製錬所を有する企業は67%であり、銅製錬業のエネルギー消費は45%減少した。


※1 参考:ICSG(国際銅研究会)ウエブサイト参照 http://www.icsg.org/

※2 北京事務所発信 カレント・トピックス
「中国・国家発展改革委員会、銅製錬産業への参入条件を公告」 H18(2006).11.9付参照。

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