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報告書&レポート

2008年7月10日 サンティアゴ事務所  菱田 元報告
2008年50号

チリ鉱業博覧会Expomin 2008報告

 Expominは1990年から隔年でチリ・サンティアゴにおいて開催されている鉱業博覧会である。第10回目となる今回の大会Expomin 2008は、2008年4月15~18日の4日間にわたりサンティアゴ市郊外のEspacio Riesco Conventionセンターにおいて開催され、30か国からおよそ60,000人が参加した。4月のチリは朝晩やや冷え込むが、日中は4日間とも気持が良いほど晴れ渡った。前回2006年第9回大会より13%広がったという会場全体の面積は54,500m2で、常設のメインビルディング、4つの屋内展示会場(パビリオン1~4)、及び野天展示場に鉱業に携わる企業・団体が多数出展した。また、展示会と併行して講演会・討論会も4日間にわたり行われた。

1. 展示会
Expominの会長Carlos Parada氏は大会前のインタビューで「現在、鉱業は目覚しく急成長しており、新しい会社が鉱業と一体化することへ関心を持つという現象を引起こしている。このような状況下、Expominのブース出展への申込みは毎回増え続けている。」と述べたが、そのとおりブース出展は大盛況であった。事務局の発表によると1,042法人がブース出展したが、これは前回大会より228増とのことである。4日間に各ブースでまとまった商談の合計額は13億US$に上ると言われている。
メインビルディングにはCODELCO、Antofagasta、Barrick Goldといった鉱山会社、SONAMI(チリ鉱業協会)、Consejo Minero(チリ鉱業協議会)がブースを構えたが、圧倒的多数は4つのパビリオンで、こちらには鉱山操業に関係する多数の企業が所狭しと並んだ。これらを大きくカテゴリー分けすると次のようになる。

・鉱山機器分野
 探鉱、採鉱、選鉱、リーチングから廃滓処理に至る鉱山操業各工程で用いる機械類の製造・調達会社で、P & H MinePro Services、BATEMAN、SANDVIC、LIEBHERR、Caterpiler Global Mining、Metso Minerals、Atlas Copco、Outotec、TEREX Miningといった大手の会社は野天展示場及びパビリオン1の広いスペースに自社の機器を並べた。


写真1. 野外展示場 Atlas Copco社の重機

・資機材分野
上記鉱山主要機器の各パーツや付属品、通信などその他機器を製造・調達する会社で、タービン、モーター、エンジン、ポンプ、バルブ、温度・圧力計測機器類、坑内無線などの通信機器類を並べた。また、火薬、種々の薬品類、タイヤやその他ゴム製品、テント、シート、ライナーから作業道具、作業着、作業靴、消防服に至るまで多くの材料・用具・道具類が主にパビリオン4に展示された。


写真2. 屋内展示場mstso社のaglomerator

・サービス提供分野
上記資機材をトラック運搬する陸送会社、鉱山従業員の遠隔地からの送迎を担当するバス会社やLANやSKY Airlineといった航空会社等の鉱山従事者の生活を支えるサービス提供企業。

・出版・マスコミ分野
鉱業関係の新聞、雑誌、地図類、インターネット・ニュース配信会社で、チリのNor Press社、SantiagoのMineria Chilena社、BNAmericas社、米国のmining record社などがパビリオン2やパビリオン3にブースを構えた。

 大会開始前に登録されたブース出展数は988で大会後発表の数字1,042とは異なるが、この国別内訳をみると、南米734(チリ663、アルゼンチン25、ペルー23、ブラジル14、メキシコ5、コロンビア3、ウルグアイ1)、米国86、カナダ26、豪州28、ドイツ36、その他欧州43、南アフリカ12、中国20、台湾2、インド1、日本1(JOGMECが出展)といった割合となる。チリの企業が67%と3分の2を占めたが、残り3分の1の海外の企業はパビリオン2とパビリオン3に集められた。
南米では隣国アルゼンチンとペルーからの出展が多く、両国ともに前回より企業数が大きく増えた。南米はチリからの距離が離れるほど出展企業数が少なくなる傾向が見られた。米国企業の出展数は86と海外企業の中で群を抜いており、チリにおける存在感を示した。カナダと豪州は共にこれから更にチリでの投資を増やそうとする様子が伺えた。欧州ではドイツの36企業の出展が他の欧州諸国(ベルギー8、デンマーク6、フィンランド5、チェコ5)を大きく引き離した。チリとドイツの関係の深さを表しているのであろうか。中国企業は20で前回大会の約2倍とのことである。


写真3. 豪州企業展示コーナー入口

写真4. 中国 県盛天工社の重機

 JOGMECはパビリオン3にブースを出展し、(1)JOGMECの組織・活動、(2)JV探鉱のスキーム、(3)リモセン;PALSARセンサーを用いた植生地域の岩相識別、(4)SQUITEM;超伝導磁気センサーを用いた電磁探査法、(5)リーチングと浮遊選鉱による銅鉱石からの砒素の除去(JOGMECと秋田大学・柴山准教授との共同研究)の5件のポスター展示を行った。ブースを訪れた見学者は大学関係者(スタッフ及び学生)や中小鉱山経営者が多く、特に(3)と(5)のポスターに関心が集まった。


写真5. JOGMECブース(スタッフ一同)


2. 講演会
 展示会と併行し、講演・討論会がメインビルディング地階で4日間に亘り開催された。テーマは「アメリカ大陸諸国の鉱業政策」、「ラテンアメリカ諸国の鉱業投資についての公開討論」、「21世紀鉱業に向けた労働機会と挑戦」の3つで内容は以下のとおりである。

「アメリカ大陸諸国の鉱業政策」(4/15 午後)

 チリ、アルゼンチン、ペルー、カナダ、エクアドル、メキシコ、コロンビア、ベネズエラ各国の鉱業省(鉱業庁)の大臣(長官)、及び鉱業協会会長が、この順で自国の鉱業政策と鉱業の現状を紹介した。チリはGonzales鉱業大臣とチリ鉱業協会(SONAMI)会長が最初に挨拶を行い、2007年は海外から220億US$の鉱業投資があり、ますます民間企業の役割が大きくなっていることを強調した。南米以外での講演国として登壇したカナダは、天然資源大臣代理と鉱業協会会長が21世紀に入ってからのカナダ鉱業の大きな伸びを紹介した。


写真6. 講演・討論会会場

「ラテンアメリカ諸国の鉱業投資についての公開討論」(4/16 午前~4/17 午後)
チリ鉱業協議会(Consejo Minero)F.Costabal会長がチリのこれまでの銅の探鉱・開発をレビューし、新たな投資を生み出すための方策を呼び掛け、その後4つのセッションが開かれ講演と討論が行われた。

セッション1:探鉱概観
(座長:地質コンサルタントFrancisco Camus)
・メキシコ鉱業協会
メキシコ鉱物資源の多様性、2007年の生産・探鉱投資の伸び、新規プロジェクトの紹介。

・Rio Tintoチリ社
Rio Tintoの南米探鉱の位置付け、探鉱対象鉱種、チリの投資環境の良さが示され、鉱業は成熟し、探鉱予算も世界の中で上位※で推移しており、新規鉱床発見のポテンシャルはまだ十分にあるとコメントした。
※ MEGデータでは2007年357.4百万US$、第7位、3.6%(世界計9,990百万US$)

・SERNAGEOMIN
チリ探鉱と鉱床発見の変遷、1969~86年の鉱床発見の割合は露岩地域が93%であったが、1987~2007年は露岩地域58%、被覆層地域42%で、露岩地域での鉱床発見割合が低下して被覆層地域の割合が高まっている。これが意味するところ従来よりも探鉱が徐々に困難に(より高度な知見と技術を要するように)なってきている。

・Barrick南米社
南米における金の探鉱と生産の現状、2007年探鉱支出と2008年探鉱予算、Barrick Goldとチリ環境委員会との間に法令についての解釈に大きな隔たりがあるとの指摘がなされた。

セッション2:鉱業投資 -戦略の提供-
(座長:CESCO理事Juan Carlos Guajardo)
・Lumina Copper社(Nelson Pizarro副社長)
チリ銅鉱業の探鉱・開発レビュー、コスト上昇と銅品位の低下。チリ鉱業の有利な点として、低い政治リスクと依然として高い地質ポテンシャルを、懸念材料として用水の供給を挙げた。

・Anglo American
1980年にチリで鉱業活動開始、現在操業中の鉱山・製錬所の紹介、2007年のチリでの投資額は58億US$、Los Bronces鉱山拡張の計画についての紹介。

・COCHILCO
2007~11年の鉱業投資予測、今後立上がる予定の鉱山プロジェクト、水供給問題、銅生産量当たりのエネルギー消費量は減少傾向にありと説明された。

・CODELCO
これまで鉱山操業に関するサービス提供会社をチリ国内企業に限っていたが、海外に門戸を開いた結果、競争が起こり、コストも下がったことが示された。

・Veolia Waters Solutions社
チリ国内の水の消費割合は潅漑84.6%、工業6.5%、鉱業4.5%、飲料水4.4%。世界の海水淡水化利用の1960~2007年の推移:水容量は増加、価格は減少。海水の淡水化は海岸線の長いチリにとって有利。

・EDELNOR(電力会社)
電力事業(SING)への投資状況、2012年までの電力供給予測(原料別割合)が示された。

セッション3:鉱業投資と技術的挑戦
(座長:Ecometales社社長Ivan Valenzuela Rabi)
・Souther Copper社
銅価格の変遷(1900~33、1934~73、1974~2002)、2007年の銅生産量・売上・EBITAについて、メキシコ、ペルーでの操業中鉱山の状況、鉱山会社ごとのコスト比較、現行プロジェクトと第2・第3世代拡張プロジェクトの説明がなされた。

・Antofagasta
最近の海外展開(パキスタン、モンゴル、環太平洋地域、アフリカ)の紹介、これまで段階を経ながら徐々に事業拡大(案件の増加、及び個々の鉱山拡張)を進めている状況が説明された。

・Xstrata Copper Technology社
豪州Brisbane、カナダSudbury、チリAntofagastaを拠点に鉱石粉砕、浮遊選鉱、製錬における技術開発を実施。チリではバイオリーチングと砒素の除去についてのプロジェクトが進行中。

・豪州CSIRO
安全性確保と生産性向上の観点から坑内採掘の自動化を提唱。要素技術としてパイパー・スペクトルを用いた採掘対象鉱識別技術と遠隔坑内採掘技術を紹介。

・チリ経済開発公社(CORFO)
鉱山開発における技術の挑戦。優先させるべきテーマとして水資源、多消費過程におけるエネルギー効率化の改良、持続的発展、サービス提供会社の開拓を挙げた。

セッション4:鉱山のクラスター -投資の管理、マネージメント、開発-
(座長:チリ大学経済ビジネス学部教授Joseph Ramos)
・チリ大学
海外企業の投資を惹きつける方策、チリ国内の状況(市場サイズ、技術レベル、知的財産)、投資プログラムの紹介。

・ABASTEMIN・Consejo Minero
鉱業部門の生産において新規開発(刷新)が本質的に重要。

・Canadian Association of Mining and Equipment and Services for Export(CAMESE)
チリの鉱山機器類の76%は海外から調達しており、半分は米国からの輸入、残りの半分をドイツ、カナダ、ブラジル、スウェーデン、豪州が分け合っている。カナダは米国、ドイツに次いで第3位の資機材提供国である。

・Australian Mining Industry Export Association(AUSTMINE)
豪州企業の投資額は30億AUS$で、2010年には投資額60億AUS$まで伸びる見込み。豪州では特にバイオ技術が進歩している。

「21世紀鉱業に向けた労働機会と挑戦」(4/18 午前)
チリ鉱業界の人材資源、労働について大学より2件のプレゼンがあった。

・カトリック大学「鉱業界の人材資源の現状-チリと世界の経験-」
鉱山会社は人材資源に対して何をしなければならないか。最も魅力ある人材を引き付けるやり方を知っている会社はどの程度あるのか。Antofagastaは高い給料を支払うが、果たしてそれで良い人材を取れるのか。学生の動機付けをどのようにするかが問題。

・チリ大学「チリの労働法-教訓と挑戦-」
労使関係(雇用者と雇用人)、労働組合、請負労働者についての現状。

3. まとめ
2006年5月の前回大会と比べると規模が2割も大きくなったExpomin 2008は、高い銅価格に支えられたチリが世界の鉱業の一角を担っていることを示すに十分の規模と内容の鉱業博覧会であった。初参加の筆者は、チリ鉱業の裾野の広さを十分に味わった。一方で、「Expomin はまたしても単なるTrade Showを越えることができなかった。」との声も聞かれた。将来のチリ鉱業について考えるべくテーマ設定された講演・討論会は200名以上入る広い会場で行われたにもかかわらず、実際の参加者はいずれのセッションも50名~100名程度であった。一部の関係者だけしか集まらなかった理由は幾つかあろうが、大勢の見学者で溢れかえる展示会場とは好対照であった。

 チリの鉱山資機材提供協会(Asociacin de Grandes Proveedores Insdustriales de la Mineria:Aprimin)会長のPedro Lasota氏は、Gestion Minera誌(2008年4月号)のExpomin 2008特集ページに寄稿したコラムの中で次のようにまとめた。「チリが国内の資機材供給産業により多く携わろうとするならば、中国、韓国、ブラジル、アルゼンチン、ペルーの製品と競争できるように価格を設定し、また、資機材供給産業の中で取組むべきテーマをより具体的に切り出すべきである。イノベーション、鉱業界財政の擁護、商業化できる新たな技術開発のために、企業とともに国の研究所や大学が参加することも重要なテーマである。豪州の2007年の資機材、技術、ソフトウエア部門の輸出額は30億$であった。一方、チリのそれはわずか5億5千$である。道のりは長い。しかし、鉱業収入に課せられる特別税からの資金と、チリ経済開発公社(CORFO)、Innova Chile(CORFOの一部門)、チリ国内企業等の努力で、この輸出額が短期間で2倍になることを期待する。」
一般の見学者に混じり課外授業で教師に引率された中学生の一団が、展示会場を興味深く見て回っているのが印象的であった。次世代を担う彼らは、果たしてこれからチリの鉱業をどのように変えていくことができるのであろうか。

 次回の第11回Expominは2010年4月13~16日に開催される予定である。チリでExpominが開催されない年は隣国アルゼンチンで規模はチリのExpominに及ばないが同様の鉱業博覧会が開催されることになっている。2009年4月28~30日、ブエノスアイレスでARMINERA 2009が開催される予定である。


写真7. 見学するチリの中学生達

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