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2008年CESCO WEEKと第7回CRU世界銅カンファレンス報告

2008年4月9日、10日の2日間、チリ・サンティアゴにおいて第7回CRU世界銅カンファレンス(WCC:World Copper Conference)が開催された。WCCは、CRU International Ltd.(本部:ロンドン)が毎年サンティアゴで開催しているもので、南米を中心に世界各国から政府機関、鉱山会社、研究所、大学などの鉱業関係者が参加し、直近の銅鉱業に関する様々な話題について講演が行われた。また、同時にCESCO(Cenrto de Estudios del Cobre)主催のディナーが開催され、これに合わせて世界の産銅企業及びトレーダーがサンティアゴに集い、個別のビジネスミーティングが行われた。事務局の発表によると、最近の銅ビジネス業界の活況により、本カンファレンスには昨年を大幅に上回る約500人が参加した。本稿では、CESCOの活動及び本カンファレンスの概要と主な講演内容を紹介する。 |
1. 2008年CESCO WEEK
CESCOは1984年、チリにおいて設立された非営利独立組織で、その主な活動は、鉱業に関連する調査・技術レポートの作成及びセミナー、カンファレンス等を通じて鉱業セクターに影響を与えるテーマの公共討論を行ない、鉱物資源生産国における鉱業の発展を支援することである。CESCOは1997年から毎年、チリ・サンティアゴにおいてCESCO Dinner(Latin American Mining Dinner)を開催し、鉱業セクター発展のための議論の場を提供している。
CESCO Dinnerはラテンアメリカ及び世界の鉱業会社、金属生産会社、投資銀行、金属トレーディング会社、技術・コンサルタント会社、海上輸送会社等の社長・重役、取引担当者等が一同に集う重要な会議である。
2008年のCESCO Dinnerは、4月10日、チリ・サンティアゴにおいて開催され、チリSantiago Gonzales鉱業大臣、鉱業次官、大手鉱山会社社長等の鉱業界におけるキープレーヤーが多数参加した。また、ゲストスピーカーとしてPedro Pablo Kuczynski元ペルーエネルギー・鉱業大臣が招待され、ペルーの鉱業政策史と現在のペルー鉱業に関する話題について講演を行なった。今回のCESCO Dinnerは2007年の規模を大幅に上回る1,800席以上が準備され、銅価高騰による産銅業界への関心の強さやチリの鉱業界のリーダーとしての役割が認識された。なお、CESCO Dinnerが開催される4月7日の週間は、様々な国際カンファレンス、フォーラムがサンティアゴにおいて開催され、CESCO Weekとして広く認識されている。
写真1. 2008年CESCO Dinner
2. 第7回CRU-WCC
今回は、[1]Copper Supply Developments、[2]Sulphuric Acid及び[3]Copper Outlookの3セッション、26件の講演が行われた。講演内容は、中国の消費動向を絡めた世界の銅需給見通し、チリの銅生産見通し、ジュニア・カンパニーの役割と活動、チリ国内及び世界各国(サウジアラビア、ザンビア、ペルー、豪州)の探鉱開発・生産状況、硫酸問題等の多岐に亘るものであった。各セッションにおける主な講演の概要を以下に示す。
(1)Copper Supply Developmentsセッション
Oxiana社(本社:メルボルン):Owen Hegarty社長
今後の銅需給について講演し、銅需要は今後も安定的に増加するが、供給サイドは問題点が数多く存在するとして以下の内容を説明した。
最近の銅業界は中国・インドの銅需要増加に伴う価格の高騰により多大な利益を計上している。中国やインドの1人当たりの銅消費量は先進国に比べ非常に低く、中国やインドが先進国並みに発展した場合、多量の銅が必要となることから、銅需要の増加傾向は当分の間続くと予測する。一方、供給サイドでは、高い教育を受けた人材の不足、タイヤ・トラック・鉱山機器の不足、硫酸不足、銅品位の低下による操業コストの増加、キャピタルコストの急激な上昇等、多くの問題が存在する。さらに、資材・機械類の調達に係る時間が増加しており、現在計画されている新規プロジェクト開発は、今後大幅に遅れる可能性があるとコメントした。また、同氏はアジアの銅消費量は世界の50%を占めているが銅生産量は世界の15%、鉱業投資額は5%である事実を指摘し、アジア各国への投資を促進すべきであると主張した。
(出典:Oxiana Limited “Opportunities and challenges for supply in our industry”
第7回CRU-WCCプレゼンテーション資料)
図1.銅鉱山開発プロジェクトにおける銅品位の低下予測
(出典:Oxiana Limited “Opportunities and challenges for supply in our industry”
第7回CRU-WCCプレゼンテーション資料)
図2. 原材料、鉱山機器等の調達時間
(出典:Oxiana Limited “Opportunities and challenges for supply in our industry”
第7回CRU-WCCプレゼンテーション資料)
図3.主な新規鉱山開発プロジェクトの延期状況
Tamaya Resources(本社:ウィンブルドン):Hugh Callaghan社長
世界の新規開発プロジェクトの平均銅品位は2007年の1.6%から2015年には0.8%に大幅に低下する見込みであり、操業コストの増加の一因となることを指摘した。また、鉱山開発コストと銅品位の関係について説明、一例として中央アフリカのプロジェクトは位置的及びインフラのハンディーによりキャピタルコストが高く、平均総コストが1.4US$/lb以上とチリの1.18US$/lbに比べ割高であること、これを克服するためには高品位鉱床の開発が必要不可欠であることを示した。同氏はチリの証券取引所は個人投資家がジュニア・カンパニーへ投資するための環境を早急に整備する必要があること、チリはジュニア・カンパニーが少ないためポテンシャルに見合った活発な探鉱が行なわれておらず、特に多くの企業・個人が探鉱を実施しないで鉱区を保有していることが問題であると説明した。
Nedbank Capital(本社:ヨハネスブルグ):Senjey Bhoowanpursadh氏
ジュニアの将来の役割について講演を行なった。中国・インドの発展により、今後しばらくの間は銅需要が伸びると予測されている一方、世界の銅生産は2010年から減少する可能性がある。これは現在計画されている新規開発プロジェクトの全てが計画どおりに操業を開始することは難しく(歴史的に新規開発案件の30%は途中で中止・中断されている)、最近、資材調達の遅れによりプロジェクトの延期が相次いでいるためである。今後、この需給ギャップを埋めるためには、大手企業に比べそのサイズから決断が早く、柔軟性に富んでいるジュニア・カンパニーの役割が重要であると説明した。
Rio Tinto(本社:ロンドン・メルボルン):Clayton銅部門最高責任者
大手企業の銅生産動向について、同社銅部門の概要、今後の生産動向について報告された。
CODELCO Norteディビジョン:Sergio Jarpa所長
Chuquicamata銅山の拡張計画について講演した。Chuquicamataでは坑内掘操業を2018年から開始する予定である。現在、Chuquicamataで露天掘採掘している鉱体は2018年までに枯渇する見込みで、生産を維持するためには下部に存在する鉱体の坑内掘採掘が必要である。また、CODELCO Norteディビジョンが進めているAlejandro Halesプロジェクト(別称“MMH”、旧Mansa Mina)について、2011年より予備的採掘を開始し、2013年より生産を開始する見込みである。Chuquicamata坑内掘移行計画及びAlejandro Hales開発はいずれも概念設計段階であるが、CODELCO Norteの品位低下による生産量減少に対処する有効対策とされている。Jarpa所長はCODELCO Norteの今後の生産見通しについて、2008年の年産銅量は2007年の896千tから減少し830千tとなるが、上記プロジェクトが始動することで再び年産900千t体制となる見込みとコメントした。
ジュニア・カンパニー各社
この他、サウジアラビア、ザンビア、ペルー、豪州の探鉱プロジェクトの現状、銅の供給予測について、現地で探鉱を行なっているジュニア・カンパニーからそれぞれ説明があった。特にザンビアではアドバンスド・ステージの優良鉱床が複数確認されており、2007年の銅生産量700千tが2012年には1200千tに増加する見込みで、隣国DRCコンゴと合わせると、アフリカ中央部のカッパーベルトは銅の重要な供給源に復活する可能性がある。
(2)Sulphuric Acidセッション
British Sulphur社(本社:コペンハーゲン):Joanne Peacock氏
世界の硫酸の需給動向について次のとおり講演した。
世界的な硫酸供給不足により、価格が高騰している現状を説明した。現在の硫酸不足は世界の食料需要の増加によるもので、世界の硫酸の50%を消費している肥料用硫酸の需要が増加していることが原因である。このため2002年には20€/tであった硫酸の価格が2007年は80 €/tに上昇した。チリの硫酸の輸入量は2006年の0.6百万tから2007年は1.4百万tに大幅に増加、今後も2012年まで同等量の硫酸輸入が続くと予測した。
(出典:British Sulphur Consultants “The Outlook for Sulphuric Acid, 2008-2012”
第7回CRU-WCCプレゼンテーション資料)
図4. チリの硫酸輸入量の推移
一方、Haldor Topsoe社のHelge Rosenberg販売部長は硫酸と電力エネルギーを同時に生産できるシステムを提案した。同社の販売するSNOX-ESAPシステムはペットコークを原料として発電プラントで発電し、このプラントから排出される硫黄分を多量に含む排ガスを利用して、硫酸を精製するシステムで、最新のFS結果によると、370百万US$の投資により、245MWの発電と620千t/年の硫酸生産が可能である。
(3)Copper Outlookセッション
Copper Outlookセッションでは主に将来の銅価格の予測、銅需給動向について講演が行なわれた。特に中国の経済成長とこれに伴う将来の銅の需給動向について3つの講演が行なわれ、関係者の注目を集めていた。
Norddeutsche Affinerie AG(本社:ハンブルグ):Bernd Drouven社長 世界の銅需要予測について講演した。同氏の予測によると世界の銅需要は2008年の18.8百万tから2018年には27.2百万tに45%増加する。増加の主な原因は中国及びアジア地域の需要増によるもので、中国の銅需要は2008年の4.9百万tから2018年は10.2百万tに、中国・日本を除くアジア地域の銅需要は3.8百万tから5.2百万tに増加する。これに対し、北米、日本の銅需要は2008年からの10年間で変化がほとんど認められず、欧州は東欧の銅需要が増加するため2008年の4.3百万tから約12%増加する。これに対し供給サイドは大幅な生産増が困難で、銅の生産を減らすインセンティブ(リサイクルの促進、代替品の開発)が働くとコメントした。
(出典:Norddeutsche Affinerie AG“Staying Strong-NA’s reply to the challenges of the
global copper market” 第7回CRU-WCCプレゼンテーション資料)
図5. 世界各国のGDPと1人当たりの銅使用量
(出典:Norddeutsche Affinerie AG“Staying Strong-NA’s reply to the challenges of the
global copper market” 第7回CRU-WCCプレゼンテーション資料)
図6. 世界の銅需要量予測
Southwire Company(本社:米ジョージア州Carrollton):Stuart Thorn社長
「アメリカのサブプライムローン問題の銅消費に与える影響」と言うタイトルで講演を行なった。サブプライムローン問題の影響により2007年の米国の個人向け住宅販売が激減し、個人向け銅ケーブルの需要が30%減少したが、個人向け住宅に使用される銅ケーブルはそれ以外の公共建物等に使用される銅ケーブルの1/3程度である上、同需要が5~10%増加しているため、サブプライムローン問題は銅需要に直接的には大きな影響を与えていないとの見解を説明した。
Standard Bank(本社:ヨハネスブルグ):Luis Saenz米国金属鉱業部長
鉱業プロジェクトへのファイナンスについて、鉱山業界だけでなく資金を供給する銀行においても、プロジェクトファイナンスが困難となっていることを説明した。これは、新規鉱山開発案件の初期投資額が当初計画より大幅に増加していることと、人材・機材不足により開発計画が遅れていることによる。また、同氏は鉱山開発プロジェクトへのファイナンスについて、初期投資額が20~40%上昇していることは、非常に大きなリスクであるとの見解を発表した。
Chinalco社(中国アルミ業公司、本社:北京):Deng Gang販売部長
同講演で、Chinalco社は中国の製錬所への鉱石供給のため、積極的に海外で鉱山開発を進めていく意向を明らかにした。2007年、ChinalcoはペルーのToromochoプロジェクトを獲得、更にRio Tintoの株式12%を取得した。中国国内の銅資源の減少は同国の産業界の発展を妨げる可能性があり、中国は今後も海外で銅鉱石を調達することが必要であるとコメントした。また、同氏は中国の鉱山の現状について、中国では500千t以上の資源量のある鉱山数は全体の僅か2.7%で100千t以下の資源量の鉱山が全体の88.4%を占めており、小規模鉱山が多数存在していること、中国は低品位鉱山が多く、銅の平均品位は0.87%で銅品位1%以上の鉱山は全体の僅か13%しか存在しないことを明らかにし、今後、中小鉱山への技術の移転が重要であるとコメントした。
(出典:CHINALCO“Term View in Development, Building CHINALCO into a World Class
Multi-Metal Mining Company” 第7回CRU-WCCプレゼンテーション資料)
図7. 中国の銅消費量 (2000~2007年)
(出典:CHINALCO“Term View in Development, Building CHINALCO into a World Class
Multi-Metal Mining Company” 第7回CRU-WCCプレゼンテーション資料)
図8. 中国の銅精鉱・銅地金消費量が世界に占める割合の推移
3. おわりに
今回のWCCでは銅の消費動向について中国、インド等の新興国の経済発展により、今後も消費量の増加が続くという見方がほとんどを占めた。この主な理由は中国・インド等の1人当りの銅使用量が先進諸国と比べと非常に少なく、これら新興国の経済発展に伴い銅需要は当分の間、増加するという考え方に基づくものである。
過去を振り返ると、2006、2007両年のWCCでは銅価格が高騰して間もない時期であったため、銅価格の下落を予測する講演者が複数あり、銅生産コストの上昇問題、銅価格が下落した場合の影響、銅価格の急騰によるリサイクルの促進や代替品の開発等がクローズアップされた。しかしながら今回は、資材・原料や鉱山技術者の不足、資機材の調達時間の長期化による鉱山開発の遅れ等、コスト上昇の問題よりは、供給(生産)障害をテーマとした講演が数多く行われた。銅需要の増加に対し、銅供給サイドには資金投入で解決できない多くの障害があり、銅価高騰により鉱業全般への投資額が急増しているにもかかわらず、需要に見合った増産については困難な状況が説明された。
大会全般を通じて中国のプレゼンスは高いものがあった。本カンファレンスではこれまで2006年1件、2007年2件の中国に関する講演があったが、今回はChinalco社のDeng Gang販売部長の他、CRU北京事務所のGillian Moncur氏、上海証券取引所のGuangxiong Loa副所長による合計3件の講演があり、いずれも中国の経済成長は今後も堅調で、銅需要も増加するとの見通しを発表した。中国は最近の金属価格高騰の原因とされているだけでなく、2003年以降、チリにとって最大の銅輸出先国となっており(2002年までは日本が最大の銅輸出先国)、中国動向の重要性についての認識が示された。
以上の講演で使われた説明資料が後日配布され、JOGMEC金属資源情報センターに保管してあるので参照されたい。

