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報告書&レポート

2008年7月24日 リマ事務所  西川 信康報告
2008年54号

ペルー、Isasi鉱山次官講演会報告 -ペルーにおける鉱業の重要性:貢献と課題、長期的見通し-


 6月10日、カナダの在ペルー商工会議所の主催で、Isasi(イサシ)鉱山次官による「ペルーにおける鉱業の重要性:貢献と課題、長期的見通し」と題する講演会がリマ市内のホテルで行われた。この中で、同次官は、鉱業が、国や地方に対し経済的にも社会的にも大きく貢献しており、もはや鉱業なしでは、この国の最大の懸案である貧困問題は解決しないことを強調するとともに、そのために、社会的責任のある企業の一層の投資が必要であり、ペルー政府もそうしたモラルのある鉱業活動を後押ししていきたい考えを表明した。本稿では、その講演内容を紹介する。

1. ペルーにおける鉱業の位置付け
 Isasi鉱山次官は、まず、鉱業の位置付けについて、「国のレベルは平均値で計るのではなく、最貧困層の生活水準を基準にすべきであり、ペルーで約2割存在すると言われる最貧困層に焦点を当てた対策が何より重要である。鉱業は、ペルーのこうした貧困問題を解決するための最も現実的かつ有効な切札である」との認識を示した。
 その上で、鉱業は、環境面、経済面、社会面の3側面に大きく影響を与えているとし、まず、環境面では、「言うまでもなく、鉱業は、環境への配慮なしに成立しないが、現在は、開発と環境との両立が図られる時代となっている」。また、経済面では、「鉱業は、地元での消費拡大、外貨の獲得、所得税やロイヤルティの納付など、国や地方の経済活動に多大な貢献を行っている」。さらに、社会面では、「鉱業は、合わせて180万人の直接・間接雇用を創出しているほか、各鉱山地域で様々な社会貢献を行っている」と説明した。

2. 鉱業の経済的貢献
 同次官は、鉱業生産の現状について、次のように述べた:
 2007年、ペルーの鉱山生産は金・モリブデンを除く全ての鉱種で前年比増となり、中でも、銅が13.5%増、亜鉛が20.0%増となるなどベースメタルの生産量が大きく拡大した(表1)。また、「現在ペルー国内では、カナダ、豪州、米国、中国等80以上の企業が270件以上の探鉱開発を実施しているほか、操業鉱山は602(露天掘鉱山289、坑内掘鉱山152、砂金鉱山124、その他37)に及び活発な鉱業活動が展開されており、2008年は、更なる飛躍が期待できる。昨今の金属価格の高騰で、特に金の不法採掘急増し、現在、その数は3,500件に上っており、その対策が大きな課題となっている」との問題点を指摘した。

表1. ペルーの鉱石生産量 (金属量:2007、06年)

出典:エネルギー鉱山省
鉱種 2007年 2006年 増減(%)
鉄鉱石(kt) 5,104 4,785 6.7%
銀(t) 3,494 3,471 0.7%
亜鉛(kt) 1,444 1,203 20.0%
銅(kt) 1,190 1,048 13.5%
鉛(kt) 329 313 5.0%
金(t) 170 203 -16.1%
錫(kt) 39.019 38.470 1.4%
モリブデン(kt) 16.787 17.209 -2.5%


図1. ペルーの鉱石生産量 (金属量:2007、06年)

 また、鉱業による経済効果について、2007年、鉱業は輸出額全体の62%を占めているほか、法人所得税の50%以上が鉱業からもたされている(表2)。これは、貧困対策に最も関係の深い教育省や保健省の予算をほぼカバーできる規模と強調できる(表3)。

表2. 法人所得税及び輸出額に占める鉱業の貢献度

出典:エネルギー鉱山省
  税額(百万US$) 増減
2005 2006 2007 ‘06/05 ‘07/06
○法人所得税額
  法人所得税総額 2,189 3,994 5,390 82.5% 35.0%
  鉱業法人所得税額 657 1,758 2,745 167.6% 56.1%
○輸出額
  輸出総額 17,336 23,749 27,956 37.0% 17.7%
  鉱産物輸出額 9,790 14,707 17,328 50.2% 17.8%
◎法人所得税額総額の鉱業割合 30.0% 44.0% 50.9% 14.0 6.9
◎輸出総額の鉱業割合 56.5% 61.9% 62.0% 5.5 0.1

表3. 各省庁の2008年度予算額と2007年鉱業法人所得税額の比較

出典:出典:エネルギー鉱山省(為替レートは2008年1~6月間平均値3.299926N.Soles/US$を使用)
省庁名 2008年度予算額 鉱業所得税額÷各省予算
(百万N.Soles) 換算(百万US$)
労働雇用促進省 311.1 94 27.98倍
法務省 542.6 164 16.04倍
公共省 603.0 183 14.43倍
エネルギー鉱山省 701.3 213 12.41倍
司法 991.3 300 8.78倍
農業省 1,001.6 304 8.69倍
運輸通信省 2,638.3 800 3.30倍
保健省 3,436.4 1,041 2.53倍
教育省 5,290.1 1,603 1.65倍

 地方への貢献度について、鉱業は、ペルーが推進している地方分権・地域振興に最も貢献している産業であり、国内の最貧困層が存在する地域社会への裨益は大きい(表4)。鉱山企業は、地方への発展に寄与できるこうした事実を“重荷”ではなく“特権”であると捉えるべきである。一方、地方政府は鉱業によってもたらされる財源を有効かつ計画的に活用し、鉱山操業が終了した後の持続的な社会成長につながる投資を行わなければならず、行政側の取組みは重要かつ必要である。
 さらに、ペルーの鉱業が抱えるもう一つの重要な課題として、人材不足問題があり、鉱業に関連する技術を習得できる教育機関の整備を行い、人材育成に取り組んでいかなければならない。

表4. 鉱業税収の推移

出典:エネルギー鉱山省
  税収額 (百万US$) 増減率 (%) 2007年度
の割合(%)
2005 2006 2007 ‘06/05 ‘07/06
鉱業ロイヤルティ 61 112 151 84.7% 35.0% 8.4%
鉱区料 16 28 31 73.5% 10.9% 1.7%
カノン税 269 532 1,627 97.8% 205.5% 90.0%
合計 346 672 1,809 94.4% 169.1% 100.0%

3. 鉱業の社会的責任
 Isasi鉱山次官は、鉱業の社会的責任問題に触れ、「企業が社会的責任を果たすということは、慈善事業を行うのではなく倫理的な責任を果たすということだ。長期的には、社会責任を果たすことが事業の安定に結びつくと信じる。これは、必ずしも地元への拠出金額やプロジェクト数によって決まるのではなく、一度地域社会に対してコミットしたプログラムや事業を、誠意をもって確実に実行することが重要である」と述べるとともに、「社会的責任とは、住民参加や公正な配分といった枠組みのもと、社会的責任の指針形成や、企業と地域社会の良好な関係の促進を通じて、鉱業活動地域住民の持続的発展を促進するプロセスを通じて果たされるものである」との考えを示し、法的には、最高政令042-2003-EMにおいて、[1]環境への配慮[2]文化、生活習慣の尊重[3]自治体、住民、市民団体との継続的な対話[4]地方発展[5]地元雇用の促進[6]地元消費の拡大を求めていることを紹介した。
 2007年度から実施された自発的拠出金制度について、同次官は、「当初マスメディアから多くの批判が集まったが、2007年には5億1,756万8,382N.Soles(157百万US$)が拠出された。このうち、郡・区レベルの自治体に対して3億3,518万5,143N.Soles(101百万US$)、県政府に対して1億8,238万3,239 N.Soles(55百万US$)が配分された。全国248区及び18県において、健康、栄養、教育、地域産業など持続的な地域発展を支えるプロジェクトが実施されている。」と着実に成果をあげているとの認識を示した。

4. 最近の法改正
 Isasi鉱山次官は、最近、法改正された2点について、以下のようにコメントした。

(1)環境規則の改正
 4月に改正された探査許認可に伴う環境規則について、「改正は決して大幅なものではなく内容の改善と明確化を行ったものである。今回の改正の狙いは、投資の促進に向けて行政手続の簡素化・迅速化を図るもので、調査項目を細かく定め、フォーマット化し、いままで、書類の様式が不統一で、解釈があいまいのため審査が滞っていた点を改善した。一方、最近問題になっている地域住民とのトラブルを回避するため、市民参加や環境対策など企業の社会的責任に関する規則を強化した」。また、鉱山操業に関する環境影響調査の審査プロセスに関しては、外部のコンサルタントの協力によって軽減化を検討する方針であることを明らかにした。

(2)鉱区取得年数の上限設定
 探査期間の期限を12年と定めた法令1010に関して、同次官は、「現在、国内には約8,000件のコンセッションが存在しているが、そのうち生産段階に入っているのはごく僅かで、しかも、鉱区料を払うのみで何の活動も行っていない鉱業権者が数多く存在している。こうした状況は、真に投資を行うことが目的で鉱区申請を希望する投資家に対して、投資の機会を奪う結果になっている。従って、期限の設定は必要である」との認識を示した。一方、参加者から、鉱業は金属価格の動向に大きく左右される事業であり、また、地域住民との調整や、鉱山省からの許認可の遅れなどから、探査から開発まで12年以上を要するケースもあり得るとの指摘があり、これに対して、同次官は、「十分精査して、活動中の投資家に不利益にならないよう、現在作成中の本法令の細則に反映させたい」と語った。

5. 政府の長期目標
最後に、次官は、政府の方針と具体的課題について、以下を挙げた。

(1)政府の方針
  • 政府として、引続き法律・税制面での安定性を保証し、投資の誘致に努めたい。但し、ペルーで活動する企業は環境規則を遵守し、投資は投機的なものでなく生産的なものでなければならない。
  • 鉱業の貢献度を広く周知するために積極的な広報を行う。
  • 2007年の鉱業大会の結論でも確認されたことだが、地域との最初のコンタクトは技術的なものではなく社会的なものでなければならない。つまり、鉱物ばかりに目を向けるのではなくまず地域社会に目を向けることが重要である。
(2)課題
  • 貧困の打開に結びつく鉱業の展開
  • 鉱害対策の実施
  • 地方政府における社会・環境政策の強化
  • 鉱業における市民参加と透明性の実現
  • 地域住民の権利保障
  • 非合法鉱業の根絶。ただし、非合法鉱業を単純に否定するのではなく、これらを環境や労働基準を満たす合法鉱業に変化させることが目標である。エネルギー鉱山省は、Puno、Madre de Dios、Piura県等で合法化プロジェクトを実施中である。

 次官は、これらの課題の克服、解決に向けて、政府、地域社会、企業が一体となって等しく協力することが重要であり、最後に、投資家に対して、次の3点を求めていきたい考えを改めて示し、講演会は終了した。

  • 投機目的でない生産的な投資
  • 環境への配慮
  • 社会的責任の遂行

6. おわりに
 世界の金属市場が拡大する中で、重要な資源供給国として順調に発展しているペルー鉱業も、足元では、地域住民問題や環境問題など、数々の課題が山積しており、もう一段の鉱業の飛躍に向けて、大きな曲がり角に差し掛かっている時期と言える。
 こうした状況の中、本講演では触れられなかったが、施行後20年近くが経過している鉱業一般法について、社会や環境に配慮するとともに、諸手続の軽減や更新すべき条項を盛り込むなど、現状に即した形に改定すべきとの声が高まっており、現在、エネルギー鉱山省内で、その草案が検討中であるとされる。また、昨今、活発化しているウラン探鉱開発についても、安全かつ適切なウラン開発を保証するための新たな法案作りに着手していると伝えられている。このように政府による相次ぐ法改正の動きに対し、その行方を注意深く見守るとともに、投資家の不利益とならないよう、監視を強めていく必要がある。

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