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報告書&レポート

2008年7月24日 バンクーバー事務所  武富 義和報告
2008年55号

北米を中心とした金ETFの現状と 商品現物交換型ETFの活用の可能性について


 ETFsとは、Exchange Traded Fundの略で、株価指数連動型上場投資信託(上場投資信託)と訳される。最初は1990年にカナダトロント証券取引所(TSX)で創設された。現在、TSXでは62本、米国アメリカン証券取引所(AMEX)では1993年にSPDRs(Standard & Poor’s 500 Index)を対象指数としたETFを開発して以来、現在180本、ニューヨーク証券取引所(NYSE)では240本のETFが上場されており、年々増加傾向にある。欧州のドイツ証券取引所、ユーロネクストにおいてそれぞれ300本程度、ロンドン証券取引所(LSE)にも130本程度上場されている。日本では、東京証券取引所(東証)、大阪証券取引所を合わせても20件程度となっている。
 このETFの連動対象は、日経平均株価やTOPIXのような株価指数の他、債券指数、為替レート、原油、小麦等の商品先物、金、銀、プラチナ、パラジウム等商品現物を担保としたものがある。
このようなETFの中でも筆者は特に商品現物交換型の金ETFに着目している。日本においても、経済財政改革の基本方針、金融審議会金融分科会の答申を受け、先の国会で金融商品取引法等の一部を改正する法律(平成20年6月6日成立)が成立し、商品現物と交換可能な投資信託の導入が整備されたところである。2008年6月30日には東証においてNYSE上場金ETFが重複上場され、注目度を増してきている。一方、金という現物を投資信託したこの仕組みは、今後、類似の金属現物ETF上場の可能性を秘めている。
 ここでは、その現状と商品現物交換型ETF活用の可能性について言及してみることとする。

1. 金ETFについて
(1)金ETFとは
 金ETFとは、金現物の所有権を証券化し、金価格に連動した有価証券のことであり、主に、年金運用機関投資家向けに開発された金融商品である。 金ETFの概念は、2002年5月、インドのBenchmark Asset Management Companyによって提案されたが許可が下りず、2003年3月、豪州において最初に商品化された。同年11月にロンドン証券取引所(LSE)にも上場され、2004年以降は、米国のNYSE、AMEXをはじめ、パリ、ハンブルグ、チューリッヒ、シンガポール、ヨハネスブルグ等世界11か国の証券取引所で取扱われている。日本では2008年6月30日に上場され、今後、ムンバイ、香港等でも重複上場される計画である。
 このように、短期間に各国で相次ぎ上場される背景としては、対象としている金が現物商品であるため証券市場との関連性が低いこと、インフレヘッジになること、有限性、希少価値があることに加え、弱くなった米ドルの代替としての意味合いがありそうである。ただ、このような背景は今までと何ら変わることがないが、従前との大きい違いは、金ETFが開発される以前は、投資家が自ら金を直接購入し、保険料、輸送料、保管料等として年間3~5%を支払う必要があり、一般投資家はもとより機関投資家にとっても敷居の高い存在であった。金ETFの登場により、一般投資家、機関投資家は、低コストで容易に金市場に参入可能となった。
 この金ETFの開発者は、2,400億US$の運用資産を持つ世界最大の公的運用年金基金であるcalPERS(カリフォルニア州職員退職年金基金)のCEOを9年間務め、現在、World Gold Council(WGC)のCEOとなったJames Burton氏である。このcalPERSは2008年2月、2010年までに商品投資を現在の450百万US$から16倍、総運用資産の3%に当る72億US$まで増やすことを決定している。

(2)金ETFのメカニズム
 NYSEに上場している最も大規模なSPDR Gold Sharesを例として説明する。
 このETFは、WGCの子会社であるWorld Gold Trust Service社(WGTS)が開発し、上場目論見書を米国証券取引委員会(SEC)に提出したが、SECにはこのような商品取引管理の経験がなく、また、金ETFのコンセプトに今までのETFとは異なる仕組みが組込まれていたことから、2004年11月の認可までに2か年を要している。
 WGTSは、受託者(Trustee)、保管銀行(Custodian)、マーケティング会社(Marketing Agent)を任命するスポンサーとなっている。証券の発行、基準価額算出等を行うTrusteeにはThe Bank of New York、信託が保有する金塊の管理を行うCustodianにはHSBC Bank USA、商標供与、プロモーションを行うMarketing AgentにはState Street Global Marketsが任命されている。市場への金ETFの販売はGoldman Sacks & Co.、BMO Capital Markets Corp.、Credit Suisse Securities(USA)LLC、Lehman Brothers Inc.等17社の認定参加者(Authorized Participants)を通じて行われる。
 金ETFの取引単位(1口)は1/10(0.1)ozに設定されており、手数料が0.4%、通常の株式と同様いつでも売買ができ、流動性が高くなっている。また、10,000oz(10万口)を1バスケットとし、金現物との交換が可能となっている。

出典:東証
図1. SPDR Gold Sharesのメカニズム
表1. SPDR Gold Sharesのそれぞれの役割について

出典:SPDR Gold Trust
名前 会社名 役割
Sponsor World Gold Trust Service(WGTS) ・Trusteeの専解任、監督
・Marketing Agentの専解任等
Trustee The Bank of New York ・ETF証券の発行、償還の手続
・日常的信託財産の管理
・Custodianの監督
・基準価額の算出等
Custodian HSBC Bank USA ・証券会社等証券市場参加者か
 ら信託された金の保管管理
・信託への金の出入等
Marketing Agent State street Global Markets ・商標ライセンス供与
・商品プロモーション等

2. 世界における金ETF取扱いの現状
 現在、世界各国の証券取引所で上場されている主要な金ETFは表2に示すとおりである。

表2. 世界の証券取引所における金ETFについて

注)※1は2008年6月24日、※2は2008年6月26日時点
出典:各webサイト
ETF名 取り扱い証券取引所 金保有量
(t)
価値
(百万US$)
SPDR Gold Shares※1 New York Stock Exchange(NYSE)
Singapore Exchange(SGX)
東京証券取引所(東証)
628.21 17,959
Lyxor Gold Bullion Securities※1 London Stock Exchange(LSE)
Euronext Paris
Borsa Italiana
Frankfurter Wertpapierborse
(Deutsche Borse)
115.41 3,289
Gold Bullion Securities※1 Australian Stock Exchange(ASX) 10.81 308
New Gold Debentures※1 Johannesburg Securities Exchange
(JSE)
28.09 795
The iShares COMEX Gold Trust※1 Toronto Stock Exchange(TSX)
American Stock Exchange(AMEX)
61.23 1,750
Central Fund of Canada※2 Toronto Stock Exchange(TSX)
American Stock Exchange(AMEX)
25.83 755
Central Gold Trust※2 Toronto Stock Exchange(TSX)
American Stock Exchange(AMEX)
4.73 138

 上記ETFのうち、SPDR Gold Shares(銘柄略称:GLD)、Lyxor Gold Bullion Securities、Gold Bullion Securities、New Gold Debenturesについては、金ETFの草分け的存在であり、WGCがスポンサーとなったExchange Traded Goldグループが上場しており、最大のファンドとなっている。The iShares COMEX Gold Trustは、2005年1月にAMEXに上場され、Exchange Traded Goldグループに次ぐファンドとなっている。また、Central Fund of Canadaはカナダ、カルガリーに本拠を置き、金に加え、1,300tの銀、若干の現金を保有するClosed-end Fund、Central Gold Trustは、金のみを運用するClosed-end Fundである。
 今まで、金への投資は宝飾、工業用、金塊、金貨が中心であったが、2003年に金ETFが登場し、それ以来、株式市場や債券市場取引のリスク分散、サブプライム問題に端を発した米国株不安から回避するための米ドル建て株売却の後釜として、ヘッジファンド、年金基金による金ETF購入が加速している。最近の金ETFへの投資は、ここ数か年で全体投資の7%程度を占めるに至っており、金ETFへの投資は上昇基調にあるといえる。

出典:WGC

図2. 金需要の推移

 2008年3月時点での金ETFの累積量は943t(280億US$)に達しており、その中での最大ファンドであるSPDR Gold Sharesが金ETFの7割弱を占めている。

出典:WGC
図3. ファンド別、金ETF保有の推移

金ETFへの投資量は、2002年の3tに始まり2003年は39t、2004年は133t、2005年に208t、2006年には260tと急速に増加した。2007年は251tであり対前年比4%減少したものの、世界の金鉱山で1年間に生産される総量の1割、世界第1位である南アの金生産量275t(2006年)にほぼ匹敵する。

表3. 金への投資量の推移1
(単位:t)
出典:WGCから抜粋

 金ETFへの投資額は、2007年には対前年比16%増の5,715百万US$となっており、投資額全体に占める割合も2005年は5.7%、2006年は7.5%、2007年は7.2%となっている。

表4. 金への投資額の推移1
(単位:百万US$)
出典:WGCから抜粋

3. 日本での商品現物交換型ETF活用の可能性
 2007年7月、大阪証券取引所に、金の価格に連動したETFが上場された。また、2008年6月30日には金現物を保有し金価格に連動する商品現物交換型の「SPDRゴールドシェア」が東証に重複上場された。
 しかしながら、前者は金価格に連動はするが、金の現物は保有しておらず、また、後者についてはNYSEでは認定参加者17社を通じバスケット単位(1万oz=311㎏)で金現物との交換が可能となっているが、日本国内においては金現物との交換が行われていない。つまり、2008年6月に成立した改正金融商品取引法の適用を受けた商品現物交換型ETFはまだ国内には存在していないのが現状である。
 繰り返しになるが、筆者は、本来の金ETFが提案するように、現物である金を日本国内に保管するETFに非常に興味を持っている。これは、日本の一般投資家、機関投資家が、金ETFを購入すればするほど日本の金保有量が増えていくことを意味している。
 更に、白金現物ETF、または、金ETFにレアメタルを一定比率組み込んだ商品現物ETFを開発することができれば、金のみならず、レアメタルも市場を通じ日本国内に保有されることになる。
 希少資源で取引量が少量であるが故に価格が乱高下し、供給が不安定といった特徴を持つレアメタルを企業の在庫という形ではなく、商品現物交換型ETFの担保として国内に一定量保有することができれば、レアメタルを必要とする次世代産業にとって朗報となる。非常時にこれら金属が優先的に次世代産業で使えるというスキームが開発されれば、次世代産業は当該金属を供給障害に対応し保有する必要が無くなり購入費用若しくは借入金利の負担軽減に繋がるのである。言い換えれば、企業にとっては保有資産の分離による資産圧縮(オフバランス)が可能となり、有利子負債削減に繋がり、事業展開が容易となる。また、国にとっても国家予算を備蓄という形で投入する必要が無くなり、また、日本の投資家(=国民)の資金が国の安全保障に貢献することになる。
 一例として、ここでは、次世代産業には欠かせないが供給形態が偏在し供給量が少量のレアメタルについて、簡単な試算を表5に示す。
 用途を自動車触媒、強磁性体材料、液晶用ITO等重要用途に限定し、現在行っているレアメタルの備蓄と同様に必要量を2か月分の国内消費量とすると、白金(Pt)の金額は204百万US$、インジウム(In)64百万US$、ネオジム(Nd)32百万US$、ジスプロシウム(Dy)16~19百万US$程度となる。
 なお、金属によっては、その特性により長期保管、保管場所、保管料等種々の問題がありうるし、緊急時にどのようなスキームで必要とする金属のみを市場に放出するかといった問題もあるが、今回は、それら個別具体的な議論は行わないこととする。

表5. 希少金属の用途別消費量と価格

出典:レアメタルニュース、JOGMECレアメタル ハンドブック2008
金属名 白金
(Pt)
インジウム
(In)
レアアース
ネオジム
(Nd)
ジスプロシウム
(Dy)
用途 自動車・石油精製触媒、電子部品用接点、宝飾品等 液晶等透明電極用ITO、ボンディング等 強磁性体材料 耐熱性強磁性体用添加剤
主要輸入先
(2006年)
南アだけで輸入の80% 中国からの輸入が全体の55% 中国からの輸入が全体の88% 中国からの輸入が全体の88%
用途別消費量
(2006年)
自動車排ガス用18.5t 液晶等透明電極用ITO 790t 4,500t 600~700t
単価
Pt、Inは3月価格
Nd、Dyは5月価格
2,044US$/oz
(=65.7千US$/kg)
481US$/kg 43US$/kg 158US$/kg
2か月分の消費量 3.1t 132t 750t 100~117t
2か月分の購入額 203.7百万US$ 63.5百万US$ 32.3百万US$ 15.8~18.5百万US$

 一方、NYSEで発行している金ETF(GLD)は2004年11月に販売開始したところであるが、残高は既に金600t、180億US$に達している。東証に上場している企業の時価総額はNYSEの1/3程度であることから、ここでは、保守的に東証がNYSE(GLD)の1/10程度の取扱量が期待できると仮定する。その場合には東証の金ETFは18億US$の残高となる。
 先程述べたように、用途を限定した希少性の高い金属をIn、Nd、Dyの3つに絞ると、その2か月分の金額は110百万US$程度という試算結果となり、18億US$の6%程度にしか当らない。これらの金属の価格が多少変動したとしても、ETFに占める金の割合が94%と圧倒的に大きいことから、ETF価格変動への影響は極めて小さい。

4. 終わりに
 レアメタルを組み込んだETFの開発、緊急時に必要とされる金属を市場に供給する仕組みが構築できるか否かは分からない。 しかしながら、もし構築できれば、国の予算に頼らず、投資家である国民が我が国の次世代産業を支えるモデルケースとなり、国、産業、投資家(国民)の間でWin-Win-Winの関係が構築できる可能性もあるのではないか。

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