閉じる

報告書&レポート

2008年7月31日 企画調査部  上木 隆司報告
2008年56号

銅品位の低下傾向について


  国内銅地金生産量は、ここ数年間は増産基調にあったが、銅山の粗鉱及び精鉱の品位低下傾向に伴い国内銅製錬8社の2008年上期計画量計は前年同期比で1.5~1.7%減産を余儀なくされることが新聞紙上で報じられている(日刊産業(H20.4.6付)、鉄鋼(H20.4.21付)、鉱業(H20.4.25付))。図1に示すとおり、H16(2004)~H19(2007)年間、国内銅地金生産量は平均伸率4.9%で増産されてきた。2008年通年生産計画量を下期も上期と同等量と仮定すると1,583千tとなり、2007年実績1,624千tから2.5%減となる。
 以下に主要銅山の銅品位の低下傾向に関してまとめた。


図1. 国内企業別の銅地金生産実績・計画(予想)量

1. 粗鉱品位の低下:斑岩銅鉱床胚胎状態による必然的要因
 図2に典型的な斑岩型銅鉱床としてEscondida銅鉱床の垂直断面図(地質、鉱化変質、鉱化帯の三種)を示す。その鉱化帯断面図において上部レベルから順に次頁のように分帯される。


図2. 斑岩型銅鉱床の垂直断面図〔Escondida(チリ第Ⅱ州)の事例〕

〔原図: Porter,T.M. and Glen R.A.,2005-The Porphyry Au-Cu Deposits and Related Shoshonitic Magmatism of the Palaeozoic Macquarie Volcanic Arc, Eastern Lachlan Orogen in New South Wales, Australia; in Porter,T.M.(E.d.),Super Porphyry Copper & Gold Deposits:A Global Perspectiver, PGC Publishing, Adelaide,v.2、pp287-312〕〕

◎“Leached Capping(溶脱帯)”
 元々は“Hypogene Cu-Fe Sulfidation(黄銅鉱・黄鉄鉱初生鉱化作用)”が現在の地表上部までほぼ一様に鉱染状に及んでいたが、酸素を溶存した天水の浸透水が地下水面の上部範囲に浸透し、黄鉄鉱(FeS)は鉄酸化バクテリアの酸化作用を受けて酸化・分解して硫酸第1鉄、更には2鉄を含む硫酸酸性水が発生し、共生する黄銅鉱(CuFeS2)の浸出を促進した※1

〔参考:黄鉄鉱・黄銅鉱の酸化反応(硫酸、硫酸第1・第2鉄の生成反応)〕
黄鉄鉱の酸化による硫酸と硫酸第1鉄の発生: FeS2+7O+H2O→FeSO4+H2SO4
硫酸第1鉄から硫酸第2鉄への酸化反応(1): 4FeSO4+O2+H2SO4→2Fe2(SO4)3+2H2O
        〃      (2): 6FeSO4+3O+3H2O→2Fe2(SO4)3+2Fe2(OH)6
黄銅鉱の酸化と硫酸銅の発生(1): 4CuFeS2+17O2+2H2SO4→4CuSO4+2Fe2(SO4)3+2H2O
       〃      (2): CuFeS2+2Fe2(SO4)3→CuSO4+5FeSO4+2S0

 硫酸銅はその下部で方解石(CaCO3)等と反応し、酸化銅鉱帯が形成された※1

〔参考:酸化銅鉱物の生成反応〕
孔雀石: 2CuSO4+2CaCO3+2H2O→(CuOH)2CO3+2CaSO4+CO2
藍銅鉱: 3CuSO4+3CaCO3+H2O→(CuOH)2Cu(CO3)2+3CaSO4+CO2
珪孔雀石: CuSO4+CaCO3+H4SiO4→CuO・H4SiO4+CaSO4+CO2
赤銅鉱: 2CuSO4+2FeSO4+H2O→Cu2O + Fe2(SO4)3+ H2SO4
(自然銅: Cu2O + H2SO4→CuSO4 + H2O+Cu)

【酸化鉄鉱は剥土され、ずりとなるが、酸化銅鉱はSxEw用希硫酸浸出鉱として採掘対象となる】

◎“High Enrichment Supergene Chalcocite Blanket(強二次富化(輝銅鉱)帯)”・“Low Enrichment Supergene Covellite-Digenite-Chalcocite Blanket(弱二次富化(銅藍・ダイジェナイト・輝銅鉱)帯)”
 更に硫酸銅を溶存する硫酸酸性水は下部に浸透して地下水面以下に達し、初生鉱床帯の硫化鉱(主に黄鉄鉱)と還元反応して銅の組成比が高い二次富化鉱を生成した。上層部は輝銅鉱(Cu2S)主体の強二次富化帯、その下層には銅藍(CuS)・ダイジェナイト(Cu1.75S)・輝銅鉱からなる弱二次富化帯を形成した※1

〔参考:二次富化銅鉱物の生成反応〕
輝銅鉱(黄鉄鉱と硫酸銅の反応): 14CuSO4+5FeS2+12H2O→7Cu2S +5FeSO4+12H2SO4
〃  (黄銅鉱と   〃     ): 11CuSO4+5CuFeS2+8H2O→8Cu2S +5FeSO4+8H2SO4
斑銅鉱(黄鉄鉱と硫酸銅の反応): 2FeS2+6CuSO4+4H2O→2Cu3FeS3 +4 H2SO4+12O
銅藍 (黄鉄鉱と硫酸銅の反応): 4FeS2+7CuSO4+4H2O→7CuS+4FeSO4+4H2SO4
〃 (黄銅鉱と   〃    ): CuFeS2+ CuSO4→2CuS+FeSO4

【選鉱による精鉱(高品位)生産用あるいはSxEw用の鉱石となる。】

◎“Hypogene Cu-Fe Sulfidation(銅-鉄初生硫化鉱帯)”
 元々は付近上部一帯にまで及んでいた黄銅鉱・黄鉄鉱からなる初生硫化鉱がほぼそのままの状態で胚胎している。同帯は深部にある上に、二次富化帯よりも銅品位が低い。SxEw銅山として酸化銅鉱あるいは二次富化鉱を終掘し、初生鉱の採掘に移行する計画事例も幾つか発表されているが、採掘がピット底から更に深部に至り、露天掘では剥土比等において不利となるため坑内掘に転換する場合※2 が多い。初生鉱を選鉱した結果得られる精鉱は黄銅鉱が主体であり、その組成(前頁参照)から鉄と硫黄の含有率が高くなり、輝銅鉱主体の精鉱の品位から相当低下する※3
【選鉱による精鉱生産用鉱石。従来法のSxEw用の浸出対象鉱には不向きであるが、精鉱とした後のバクテリア・リーチングあるいは塩素系化学浸出法等※4 に関する技術開発が各社・各機関により凌ぎを削って実施されている】

主要銅山の粗鉱品位の推移を銅価の推移を添えて図3に示す。


図3. 主要銅山の粗鉱品位 (出典:各社アニュアルレポート、WMS等)

 図3から銅山別に次のことが言える。(※注:“OP”は露天掘、“UG”は坑内掘を示す)Escondida(OP、チリ第Ⅱ州)とCollahuasi(OP、チリ第Ⅰ州)
 Escondidaは操業開始から8年間2.0%以上、Collahuasiは同6年間1.5%以上と高品位の鉱石を採掘してきた。両銅山の粗鉱品位が高い理由は図2に示す二次富化帯が著しく発達していたからにほかならない。二次富化帯が発達した理由として初生鉱化作用において黄鉄鉱の含有量が高かったこと、チリ北部にあって初生鉱床生成以後、高温の砂漠気候、隆起に伴う地下水位※5 の漸次低下など気象・地下水理・地質条件が溶脱、浸出に適していたであろうことが挙げられる。

Chuquicamata(OP、チリ第Ⅱ州)とEl Teniente(UG、チリ第Ⅴ州)
 Chuquicamataは1915年生産開始の露天掘銅山、El Tenienteは1905年生産開始の坑内掘銅山で、共にCODELCOが操業するチリを代表する長命の大規模銅山である。両銅山の粗鉱品位は微減傾向にはあるが、その傾斜は緩く極めて穏やかである。これは初生鉱床帯の採掘を主体に継続している状況にあって、採掘がより深いレベルに移行しつつあるためと考えられる。El Tenienteはブロック・ケービングの応用工法でロック・バースト※6 対策でもあるパネル・ケービング法により採掘しているが、既に1982年頃に二次富化帯を過ぎ下部の初生鉱床帯の採掘が主体となっており、採掘レベルは漸次深部化※7 しつつある。

Los Pelambres(OP、チリ第Ⅳ州))
 Los Pelambresの粗鉱品位低下傾向は二次富化帯の鉱石(輝銅鉱・斑銅鉱(Cu5FeS4))の比率が低下し、初生鉱床帯の鉱石(黄銅鉱)の比率が上昇しているため※8である。生産開始の1999年当時は粗鉱品位1.05%であったが2007年には0.76%まで低下している。しかしながら、図4に示すとおり精鉱品位が極めて高い上に、低コスト採掘を可能とする好条件(剥土比が0.5と著しく低い※8、ピットから上部レベルへの運搬工程がほとんど皆無等)により競争力の高い銅山とされている。

Candelaria(OP&&UG、チリ第Ⅲ州)
図3に示した中で唯一、斑岩型銅鉱床ではなく、マント型、あるいはIOCG(Iron Oxide Copper-Gold:酸化鉄鉱に伴う銅・金鉱床)に分類され、同鉱床の東翼に相当するAtacama Kozanも同タイプである。これらは、斑岩型銅鉱床が鉱染状であるのに対して層状(塊状)あるいは網状(角礫型)で、大量の磁鉄鉱と黄銅鉱・黄鉄鉱からなり、少量の磁硫鉄鉱や閃亜鉛鉱等を伴う※9 。また、溶脱帯や二次富化帯が発達していない※10 ことを特徴の一つとするため、斑岩型銅鉱床のように採掘の進展に伴う銅品位の顕著な低下はないはずであるが図3に見るとおり低下傾向が続いている。これは下部レベルにおける鉱床形態や、それに起因する「ずり」混入率の変化が原因かと推測される。Candelariaは露天掘主体(2005年から一部、坑内掘開始(図6(4)参照))であるが、Atacama Kozanは坑内掘(サブレベル・ストーピング法)であるため鉱床形態に応じた採掘が可能で、粗鉱品位は安定して推移するものと予想される。

Grasberg(OP&UG、インドネシア・Papua州)とBatu Hijau(OP、同Nusa Tenggara Barat州))
 両鉱山とも斑岩型銅・金鉱床である。
Grasbergは、1994年までの粗鉱品位は1.5%を超えていたが、漸減傾向にあり2007年には0.79%にまで低下している。これは露天掘採掘の深部化と坑内掘による出鉱比率が高まっている-つまり深部レベルの鉱石比率が高まっているため(図6(7)参照)と考えられる。
 Batu Hijauは、生産開始年の1999年から2004年間の粗鉱品位は0.70%以上であったが2005年以降低下し2007年は0.54%にまで低下している。

2. 粗鉱品位の銅価との相関関係
 折りしも銅価が2003年以降に高騰しているが、このような銅価が高水準にある時期、低迷期には採掘対象ではなかった、あるいはマージナルな低品位鉱や難処理鉱であっても採掘対象となり得る。また、粗鉱品位を低めに設定することはマインライフの確保にもつながる。坑内掘の方が露天掘よりも品位コントロールがし易いと考えられるが、露天掘においても現地条件に応じ、あるいは短期的に可能な場合があるものと考えられる。図3に銅価と粗鉱品位の関係図を、表1には相関係数を示す。この相関係数の強弱は、鉱床形態の必然性の要素が大きいと考えるが、品位コントロールの可能性について推定してみる。
 表1によりBatu Hijau、Los Pelambres、Collahuasiが強い逆相関を、El TenienteとGrasbergがやや強い逆相関を示し、これら銅山は粗鉱品位がコントロールされている可能性が考えられる。
 Escondida、Candelaria、Chuquicamataは極弱い相関を示し、銅価との関連はあまり見えない。

表1. 銅価と粗鉱品位の相関係数 (1992~2007年間の操業期間)
銅山名 相関係数※ 備考
Batu Hijau(OP) -0.96  
Los Pelambres(OP) -0.85 強い逆相関
Collahuasi(OP) -0.82  
El Teniente(UG) -0.77 やや強い逆相関
Grasberg(OP&UG) -0.52
Escondida(OP) -0.35  
Candelaria(OP&UG) -0.33 弱い逆相関
Chuquicamata(OP) -0.30  
※注: 本表の相関係数の強弱は鉱床形態の必然性と粗鉱品位制御の複合結果と見られる。
※( )内、OP:露天掘、UG:坑内掘

3. 精鉱品位
 図4に精鉱品位を銅価と共に示す。また、表2に粗鉱品位及び銅価との相関係数を示す。


図4. 精鉱品位と銅価   (出典:各社アニュアルレポート、WMS等)

 図4により明瞭に判ることは、チリで1990年代に新規に生産開始した斑岩銅鉱山であるEscondida(生産開始1990年)、Collahuasi(同1998年)、Los Pelambres(同1999年)の精鉱品位が極めて高い水準からの低下が目立つ一方、それ以外の銅山の銅精鉱は28~32%でほぼ一定していることである。これは、前述のとおり、前者の銅山は精鉱生産開始以降、輝銅鉱など二次富化鉱主体の精鉱生産が続いてきたが、初生鉱の黄銅鉱の割合が上昇しつつあることを示しているものと見られる。
 インドネシアの斑岩型銅・金鉱床であるGrasbergとBatu Hijauも粗鉱品位及び精鉱品位の低下傾向が見られる。

表2. 精鉱品位と粗鉱品位、及び銅価との相関係数 (1992~2007年間の操業期間)

銅山名 粗鉱品位との 銅価との
相関係数 相関関係 相関係数 相関関係
Escondida(OP) 0.95   -0.45 逆相関
Collahuasi(OP) 0.88 強い相関 -0.81 強い逆相関
Los Pelambres(OP) 0.86   -0.62  
Batu Hijau(OP) 0.78 やや強い相関 -0.69 逆相関
Grasberg(OP&UG) 0.73 -0.57  
El Teniente(UG) 0.56 -0.33 弱い逆相関
Chuquicamata(OP) -0.17 相関なし 0.07 相関なし
Candelaria(OP&UG) -0.37 弱い逆相関 0.80 強い相関
     ※( )内、OP:露天掘、UG:坑内掘

 表2により、精鉱品位は概ね、粗鉱品位と相関関係があり、銅価と逆相関を示すと言える。(精鉱品位と採収率は二律背反とされている※11
 つまり、粗鉱品位と精鉱品位は相関するが、銅価が上昇すると精鉱品位が低下し(精鉱品位より採収率を優先)、銅価が低下すると精鉱品位が上昇する(採収率より精鉱品位を優先)傾向がある。
 他方、ChuquicamataとCandelariaの精鉱品位は異質で粗鉱品位と相関が無いか弱い逆相関を示す。Chuquicamataは銅価とは関係なく、Candelariaは銅価と強相関を示す。Candelariaは元来、採収率が90%以上と高いことと、丁度、銅価高騰期に差し掛かる2005年から坑内採掘が加わったこととの関連があるかもしれない。

4. 富鉱比
 図5には富鉱比(enrichment ratio)の推移を銅価の推移を添えて示す。富鉱比とは精鉱品位を粗鉱品位で除した比率であり、鉱石から精鉱にどれほど品位が向上しているかを表す指標であるが、濃縮率とも言い換えることができるかと考えられる。

図5から次のことが言える:
(1)総じて富鉱比が上昇している。

(2)そのことは粗鉱品位の低下に対処して、金属量ベースでの生産量の維持あるいは増産を行うため、粗鉱生産量(選鉱給鉱量)を拡張しつつ、選鉱では富鉱比を上げられている(粗鉱品位の低下に対して精鉱品位の低下をより小さく抑制する)ことを意味する。

(3)Los PelambresとBatu Hijauの富鉱比は生産開始当初より、他銅山に比べて際立って高いが上昇しつつあり2007年には50に達している。

(4)Escondidaは他銅山と比べ粗鉱品位がかなり高かった(図3)こともあり、富鉱比は1995~97年間には15~16と低かった。1998年以降は粗鉱品位の低下と共に富鉱比が上昇し、2001年以降は概ね22程度に安定している。


図5. 富鉱比の推移と銅価    (出典:各社アニュアルレポート、WMS等)

表3. 富鉱比とその銅価、及び粗鉱品位との相関係数
銅山名※ 富鉱比(平均) 富鉱比の
最高/最低比
銅価との
相関係数
粗鉱品位との
相関係数
Los Pelambres(OP) 45.4 1.24 0.84 -0.78
Batu Hijau(OP) 45.3 1.32 0.91 -0.91
Chuquicamata(OP) 30.2 1.51 0.33 -0.89
Candelaria(OP&UG) 29.6 2.19 0.46 -0.97
El Teniente(UG) 27.4 1.20 0.75 -0.86
Grasberg(OP&UG) 26.3 1.80 0.57 -0.97
Collahuasi(OP) 23.6 1.44 0.67 -0.86
Escondida(OP) 19.5 1.71 0.29 -0.98
     ※( )内、OP:露天掘、UG:坑内掘

5. 粗鉱生産量の拡張
 各銅山は粗鉱品位の低下傾向にあって粗鉱生産量(粗鉱処理量)を拡張して銅生産量(精鉱中の銅含有量)を高水準に維持、あるいは拡張してきた。
主要銅山の状況について各社アニュアルレポート等を基に図6(1)~(8)に示す。


図6(1). Escondida:粗鉱処理量と粗鉱品位の推移


図6(2). Collahuasi:粗鉱処理量と粗鉱品位の推移


図6(3). Los Pelambres:粗鉱処理量と粗鉱品位の推移


図6(4). Candelaria:粗鉱処理量と粗鉱品位の推移


図6(5). Chuquicamata:粗鉱処理量と粗鉱品位の推移


図6(6). El Teniente:粗鉱処理量と粗鉱品位の推移


図6(7). Grasberg:粗鉱処理量と粗鉱品位の推移


図6(8). Batu Hijau:粗鉱処理量と粗鉱品位の推移

6. まとめ
 代表的大型銅山の粗鉱品位は総じて低下傾向にあるが、1990年代に開発された新規開発銅山とCODELCOが操業する歴史的長命銅山を比較すると、その要因は二次富化鉱の出鉱比率の低下、言い換えれば初生鉱の出鉱比率の上昇にあることが明瞭である。粗鉱品位と銅価の関連は上記の鉱床胚胎形態による必然的要素が大きいものの、多くの銅山で粗鉱品位は銅価と逆相関を示す-つまり銅価上昇時には粗鉱品位を下げ、低迷時には品位を上げるという粗鉱品位の制御がなされている可能性がある。この目的として、銅価良好期における最適切羽への整備、低品位・高コスト鉱画の採掘、それらの結果としてマインライフの確保等が考えられる。
 粗鉱品位が低下すれば、精鉱品位も必然的に低下するが、精鉱中の銅含有量を高水準に維持するために富鉱比を上げ、精鉱品位の低下が抑制されている。これは歩留を向上させた、より高度な選鉱操業への改善努力がなされていることを意味する。具体的にはSAGミルとPebble crusherの組合せによる破砕・磨鉱システムや浮選機の大型化、浮選時間の延長等が挙げられる。
 図7に精鉱中銅量に銅価を付して示す。これら代表的大規模銅山は、粗鉱品位の低下傾向にあって、粗鉱生産量を拡張しつつ、精鉱は富鉱比を上げて精鉱品位の低下を抑制し、高水準の銅生産量を維持している。代表的な事例としてEscondidaは、段階的拡張と周辺探鉱・新規開発(Norteピット)により大幅な増産を実現している。
 本報告の最後に痛感されることは、低品位鉱に対応した低コスト・高効率の採掘、選鉱、湿式製錬に係る技術の重要性である。

(出典:各社アニュアルレポート,WMS等)
図7. 精鉱中銅量と銅価 〔※注:精鉱中銅量のみを表示(SxEwカソードを含まず)〕

1“加藤武夫,鉱床地質学,冨山房,昭和12年”,及び“Konishi,Saitoh,Nomura(Osaka Prefecture Univ.) PYRITE BY THE THERMOPHILIC ARCHAE ACIDINUS BRIERLEYI IN BATCH AND CONTINUOUS-FLOW STIRRED TANK REACTORS,Cu2007,The John E.Dutrizac International Symposium on Copper Hydrometallurgy,2007”を参照。
2近年、露天掘から坑内掘へ転換した事例としてPalabora(南ア,2003年)、Northparks(豪,2004年)等の銅山(いずれもオペレーターRio Tinto)があり、同様計画例としてChuquicamata(チリⅡ州)、Radomiro Tomic(同左)、El Abra(同左)、Grasberg(インドネシア・Papua州)等がある。〔中山(サンティアゴ事務所), 「大規模銅鉱山開発の新たな展開」, JOGMECカレント・トピックス2004年57号(H16.12.16付)、池田(ジャカルタ事務所),「インドネシアPapua州Grasberg鉱山現地調査」, JOGMECカレント・トピックス2008年06号(H20.1.24付)参照)〕
3精鉱に含有される鉄と硫黄は製錬工程において鉄はスラグとなり、硫黄は硫酸となる。それらは一時期には廃棄物や販売が難しい副産物であったが、最近、スラグは船舶の錆落し、硫酸は硫安(肥料)や鉱業分野ではSxEw用等の需要が旺盛であり、プラス要因への状況変化として注目される。〔日経産業(H20.3.11付)参照〕
4最新情報として、日鉱金属㈱が品位Cu 20%以下の低品位銅精鉱を対象に開発した“N-Chlo Process (日鉱式塩化法)”がある。〔鉄鋼(H20.6.25付)、日経(H20.6.24付)等)〕
5現世においても砂漠気候ながらアンデス山脈の雪氷融水起源の地下伏流水が存在する。
6和名“山はね”。地下深部の硬い岩盤を坑道掘削した際に、坑道の岩盤が振動と大音響を伴って瞬時に破壊して飛び散る現象。El Tenienteでは初生鉱(岩盤強度が高い)の出鉱割合が上昇した1978年頃から発生し始め、その対策としてパネル・ケービング法が1982年にTen-4(2347mSL)に導入された。(“Hustrulid&Bullock,UNDERGROUND Mining Methods,SME,2001”参照)
7El Teniente鉱体の現在の地表部の標高は3000mSLで最下底レベルTen-8が1983mSL。鉱量計算は更に1200mSLレベルまでの範囲が対象となっている。(同上資料参照)
8後藤(日鉱金属㈱),「Los Pelambres鉱山開発参画(課題と対応)」,金属資源開発の基礎, P.220,JOGMEC編,朝倉書店,H20.3.31第1版
9一井・阿部・市毛・松永・三好・古野・横井(日鉄鉱業㈱),「チリ共和国第Ⅲ州アタカマ鉱山の銅探鉱について」,資源地質,57(1),1~14,2007
10被りが厚かったこと、鉱床胚胎層上部を石灰岩層が厚く覆っていること、随伴する鉄鉱物として磁鉄鉱や磁硫鉄鉱の割合が高い反面、黄鉄鉱の量比が低いことなどにより硫酸酸性水の生成環境になかったためと推測される。
11“臼井(㈱みずほコーポレート銀行),「選鉱技術(SX-EW含む)」,金属資源開発の基礎, P.220,JOGMEC編,朝倉書店,H20.3.31第1版”による。

ページトップへ