報告書&レポート
メキシコ・Sinaloa州鉱業事情報告

Estado de Sinaloa(シナロア州)は、メキシコ国内鉱業生産に占める割合は1%程度に過ぎないが、同国屈指の鉱業州であるSonora(ソノラ)、Chihuahua(チワワ)、Durango(ドゥランゴ)の各州に囲まれており、これら州境部の鉱物資源ポテンシャルは高いとされている。 今般、同州内で操業を開始したばかりのNuestra Señora鉱山(Scorpio Mining Corp.(本社バンクーバー))及び地元資本の鉱山会社であるLoomex社を訪問する機会を得たので、これらを中心に同州の鉱業事情について紹介する。 |
図1. Sinaloa州地図及び訪問先([1]Nuestra Señora [2]Loomex)
1. Sinaloa州の概要及び鉱業生産
(1)Sinaloa州の概要
Sinaloa州はメキシコ北西部に位置し、北はSonora州及びChihuahua州、東はDurango州、南はNayarit(ナジャリ)州に接する。西側は太平洋及びCalifornia(カリフォルニア)湾に面する。面積は58千km2(同国31州中18番目)、人口は260万人、州都はCuliacán(クリアカン)である。州内にメキシコ主要港の一つであるMazatlán(マサトラン)港を有する。同州はメキシコの食糧生産の30%以上を占める農業州として有名である。
(2)Sinaloa州の鉱業生産
2006年のメキシコ国内及びSinaloa州の主要鉱産物の生産量を表1に示す。Sinaloa州の鉱業生産は、Chihuahua州、Zacatecas(サカテカス)州等の鉱業州に比べると非常に少なく、国内鉱業生産に占めるシェアは1%程度である。
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出典:経済省鉱山局 |
Sinaloa州の鉱業生産額を表2に示す。2003年の州内の鉱業生産額は55.6百万US$であったが、2006年の生産額は29.8百万US$とほぼ半減している。鉱業生産額減少の原因は砂利を主とする非金属鉱物の減産であり(注)、金属鉱物の生産額は金を除いて大幅に増大している。
表2. Sinaloa州の鉱業生産額 | (単位:US$) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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出典:経550済省鉱山局、INEGI(オリジナルデータはペソ表示:年平均Peso/US$為替レート(2003年 10.7913、2004年 11.2871、2005年 10.8895、2006年10.9006)で換算) (注)Sinaloa州の砂利生産量は2003年(2,322千t)から2006年(237千t)の間で1/10に減少。 |
2. Nuestra Señora多金属鉱山の概要
本鉱山は、Sinaloa州Cosalá(コサラ)町東方10kmに位置する。2008年8月からの商業生産を目指して、現在、選鉱プラントの試運転が行われている(2008年5月に開山式を催行)。
2007年6月に発表されたプレFS結果によれば、本プロジェクトの生産量は銀34t/年、亜鉛8,200t/年、銅820t/年、鉛4,100t/年と見込まれ、粗鉱処理量1,000t/日でマインライフは約6年である。また、開発コストは26.5百万US$、その回収期間は約3年、副産物クレジットを考慮した銀生産キャッシュコストは-0.98US$/ozと見積もられている。金属価格をAg 11.00US$/oz、Zn 1.25US$/lb、Pb 0.50US$/lb、Cu 2.25US$/lbと想定した場合、割引率10%での税引後現在正味価値(NPV)は14.3百万US$、内部収益率(IRR)は26.2%と試算されている。2008年5月時点の資源量評価は表3のとおりである。
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出典:Scorpio Mining社ニュースリリース |
同鉱山で生産された鉛精鉱はPeñoles社(Torreon(トレオン)製錬所(Coahuila州))に、亜鉛精鉱はOcean Partners社(カナダ)に売却することが決定している(亜鉛精鉱は韓国または中国に輸出される)。従業員は約250名。技術スタッフはストで操業が中断しているCananea銅山の他、Durango、Gunajuato州から雇用した。労働者は主に地元採用である。採掘は10時間×2方(シフト時にベンチレーションを2時間行う)、選鉱プラントは12時間×2方の操業を予定している。

3. Loomex社の概要
Loomex社は州北部のChoix町周辺でSanta Anita鉛・亜鉛鉱山とChoix選鉱場を操業するほか、多数の鉱区を保有している。Santa Anita鉱山の採掘量は約8,000t/月。粗鉱はChoix選鉱場で処理され、Zn精鉱(約1,500t/月)とPb精鉱(約500t/月)を生産している。精鉱はPeñoles社Torreon製錬所で委託製錬されている。
Loomex社Ramon社長の話によると、Peñoles社の製錬委託料の大幅な引上げ(2008年5月に220US$/t→525US$/t)及び鉛・亜鉛価格の下落によって、同社の経営は苦境に陥っており、鉱山及び選鉱場の操業中止も考えられている。同社の主な保有鉱区はSan Antonio(Mo:3,100ha)、Santa Monica(Zn,Pb:4,500ha)、Mariana(Cu:15,000ha)等である。

4. おわりに
Sinaloa州では、カナダ系Scorpio Mining Corp.により2008年7月に生産を開始したNuestra Señora多金属鉱山、米国のTara Minerals社(本社:IL州Wheaton)によって2008年8月から生産を開始したDon Ramon and Lourdes銀・鉛・亜鉛鉱山(Choix町東北東20km)など新規鉱山が開発されている。また、外資が関与する鉱業プロジェクト数を州別にみると、2008年6月現在、Sinaloa州内のプロジェクトは59に及び、Sonora(140)、Chihuahua(82)、Durango(64)に次ぐ4番目に相当する(出典:Estadísticas Sobre Exploración(メキシコ経済省))。
以上の様な状況から、今後、メキシコ鉱業におけるSinaloa州の重要性が増大していくものと考えられる。近隣のColima州には、太平洋に面したメキシコ有数の港湾設備を備えるManzanillo(マンサニージョ)港が立地しているため、我が国をはじめアジア市場への鉱物資源の供給基地としても期待できる。他方、同州は麻薬組織の拠点として知られており、近年、治安の悪化が憂慮されているため、同州の鉱業開発のみならず社会情勢も含めて注視していく必要がある。

