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報告書&レポート

2008年10月16日 ロンドン事務所 竹谷正彦報告
2008年70号

「Zinc Day」セミナー参加報告


 Mining Journal誌が主催する「20:20 Investor Series」と称されるセミナー・シリーズの一環として、「Zinc Day」が2008年9月4日にロンドンで開催された。同シリーズでは、主に欧州の投資家向けに、各金属、あるいは国ごとのテーマにより年4、5回程度開催されている。個々のセミナーの共通テーマは、金属の価格動向、各国の鉱業法規、採鉱・生産動向、そして関連企業の事業内容・展望・投資ポテンシャルなどである。今回のセミナーでは亜鉛にスポットを当て、需給・価格動向に関する講演が1件、カナダ及び豪州探鉱企業による自社プロジェクトの概況についての講演が3件行われた。以下に講演の概要を報告する。

1. 需給・価格動向に関する講演
 CRU Group(英)、Mr.Giles Lloyd、アナリスト
 世界の鉱山、金属、電力等を専門とする業界分析、調査、コンサルティングを行うCRU Groupによる亜鉛業界、市場展望に関する講演が行われた。

(1)亜鉛業界現況
・市場は2007年後半に供給過多に転じ、この状況は当分続くものと予想される。
・中国との輸出入はほぼ均衡を保っているものの、西側先進諸国では需要が軟化する中、供給が増加に反転、需要を大きく上回るようになり(図1参照)、市場全体が弱気の動きとなった。仮に中国への輸出が増えても、現在の供給過多、弱気の値動きは容易に修正されにくいと見られる。


図1. 西側諸国における亜鉛の需給と市場バランス

・亜鉛の現市場価格は2,000US$/tを下回っているが、2007年の生産実績を見ると西側先進諸国の25%の鉱山業者がt当り2,000US$を上回るコストで操業しており、明らかにに多くの鉱山業者が既に赤字に陥っていることを示している。
・一方、市場価格の低迷に加え、昨今のコスト・インフレが亜鉛鉱山業者の収益を圧迫、亜鉛地金生産コストで最大比重を占める製錬コストの急上昇がコスト・インフレの主因となっている。2005~2006年と比較するとt当り400US$程度の製錬キャッシュコストが2007年には900~1,200US$までに上昇しており、コスト急増の要因となっている事を示している。
・また2007年前半までの強気の市場動向を反映して、数多くの鉱山業者が低品位の亜鉛鉱石生産量も増やした事から、業界全体として平均的品位低下の傾向が見られたが、この傾向は2008年に入って反転しつつある。

(2)亜鉛業界見通し
・亜鉛業界が低価格に大きく反応を見せなければ、今後記録的な供給過多に至ると考えられる。
・価格低迷に反応して、業界では採掘現場でのコスト削減等の動きが見られるが、過去の価格サイクルを例に取ると赤字操業の鉱山が本格的に操業中止を行い、それが亜鉛価格の上昇に影響を与えるに至るには数年を要すると見られる。
・先回の価格サイクルの下落基調は2000年に始まった。その時点での西側先進諸国の鉱山業者が理論上赤字操業・操業中止に至るコスト分岐点は1,050~1,100US$/tであったが、実際に価格が750US$/tまで下落して初めて大型の鉱山の操業休止や減産が見られる様になり、その後2年間に減産の動きが本格化、2004年に入って価格が上昇するに至った。
・中期的な世界亜鉛需要は年平均4%増加と堅調であると見るも、過去の市場低迷期の供給サイドでの鈍い反応から判断して、今回の価格サイクルも回復には多少時間を要すると予想される。価格低迷に反応し2009年に入って西側先進諸国、中国両地域での操業中止が本格化し、その後数年間継続して操業中止が増加、精鉱の在庫調整が進んだ上で、価格が上昇基調に至るのは2012年以降になると見込まれる。


図2. 西側諸国及び中国の亜鉛鉱山減産予想量と亜鉛価格(3か月先物)の関係

・その間LMEベースの亜鉛市場価格は現レベルから更に下落し、1,500US$/tを下回るに至ると予想される。
・亜鉛市場は価格低迷期にあるが、開発に時間を要する業界体質を鑑みて、投資家としては次回の価格上昇時期を待つというよりは在庫レベルが下落するタイミングを見込んで現時点において見込みのあるプロジェクトを準備している探鉱・開発会社を支援するのが賢明と思われる。そうすることで将来的に在庫が枯渇するような状態に至る前に供給体制を整えられ、スムーズな需給関係を築き、突発的な価格上昇等も避けられると考えられる。

2. Jabiru Metals社
 Mr.Gary Comb, Managing Director
 Jabiru Metals社(本社:豪WA州Perth)は、南東部を中心に亜鉛、銅、銀の鉱山開発プロジェクトを実施している。講演は中西部に位置するTeutonic Bore地域のJaguarプロジェクトと、2008年に入札・落札、豪州VIC州政府の認可を受けボーリングを開始したStockhamプロジェクトを中心に行われた。

(1)Jaguarプロジェクト
 2002年にボーリング調査を開始。JaguarプロジェクトのB-FS(バンカブルFS)は2006年1月に完了し、2007年より鉱山建設・生産開始。同プロジェクトの2007年12月(4半期ベース)の概況は以下のとおり。

表1. 生産実績

生産量 目標予定量 07/12月
(4半期ベース)
(日平均) 905t 700t
品位    
亜鉛 11.0% 9.0%
2.5% 2.0%
回収率    
亜鉛 69% 60%
75% 55%
精鉱品位    
亜鉛 47% 45.4%
21% 21%
開発 718m 900m
表2. 資源量

資源量 1.7mt
亜鉛(%) 20.0%
亜鉛(%) 11.3%
銅(%) 3.0%
鉛(%) 0.7%
銀(%) 115g/t

Macquarie May 2007 Metal price forecast

 2008年4月より操業キャッシュ・フローはプラスに転換。ガス・パイプライン、発電所などの設備投資も完了し、生産量、回収率、精鉱品位もB-FSレベルに近づきつつあり、鉱山設備建設は予算を下回って計画どおり進捗。今後もキャッシュフローも大きく伸びるものと見込まれる。
・2008~2009年ベースで、亜鉛、銅精鉱の処理規模は365,000tと予測。回収率は亜鉛79%、銅87%とB-FSを達成すると見込まれる。精鉱品位ベースではB-FS予想目標48%の亜鉛を60,000t、同24.5%の銅は35,000tを生産、銅精鉱から650g/tの銀を抽出すると予測される。
・2008~2009年の予想余剰キャッシュフローは68百万A$、その後の予想(年ベース)余剰キャッシュフローは1億A$に達する見込み。
・今後は銅が全収入の50%以上を占めると予想される。
・Jaguarプロジェクトの利点は低コストにあり、業界他社の亜鉛プロジェクト比較統計コスト・カーブでみると、同プロジェクトはコスト競争力でトップ25%に含まれる。
・Jaguarプロジェクトの位置するTeurtonic Bore地域は全世界トップ5%品位のVMS(火山性塊状硫化物)鉱床を有し、同地域全域に渡り多数の鉱床が分布すると見られる有望地域である。Jaguarプロジェクトの他に同地域にて2008年9月より、ボーリング調査開始。今後8~10年を目処に8~12百万A$の予算にて、調査・探査活動継続予定。

(2)Stockhamプロジェクト
 VIC州中東部、面積166km2の同鉱区において2008年6月にボーリングを開始した。ボーリングの目的は以前よりJORC基準による金属鉱床形成有望地域を見られていたCurrawong、Wilga両鉱床を確認するためのもの。ボーリングの結果、新規にVMS鉱床の存在が確認され、その概要は以下のとおり。

表3. Currawong鉱床のボーリング結果

深度(m) 着鉱幅(m) 銅(%) 亜鉛(%) 銀(g/t)
170 17 1.17 3.57 22.3
191 16 1.86 3.66 24.7
225 27 2.18 2.45 22.7
265 9 1.85 4.59 28.4
294 31 1.25 4.33 37.5
305 6 3.93 7.79 25.7
314 4 7.86 4.96 34.7
表4. Wilga鉱床ボーリング結果

着鉱幅(m) 銅(%) 亜鉛(%) 銀(g/t)
11 4.5 6.3 31.2
16 9.9 4.8 37.8
21 9.1 3.5 42.2
27 5.9 5.5 41.8

深度については非公開

・Wilga鉱床:90~350mの深度に位置し、長軸300m、37m厚の単一層のVMS鉱床。
・Currawong鉱床:90~300mの深度に位置し、VMS5鉱床が確認されている。
・2008年は10~15百万A$の予算にて、環境対策・保全調査、Scoping Study、空中電磁気探査(VTEM)などを継続。
・キャッシュフローで既に採算ベースとなっているJaguarプロジェクトの知識、経験を参考。銅、亜鉛のマーケティングでJaguarプロジェクトとのシナジー効果も期待される。


図3. Jabiru Metals社プロジェクト位置図(豪州WA州)

3. Selwyn Resouces社
 Mr.Harlan Meade, President/CEO
 Selwyn Resouces社(本社:バンクーバー)は、カナダ北西部においてSelwyn Projectを主体開発事業としている。
 2005年にHoward’s Pass JVを買収後、買収領域と従来から同社が有する地域と合わせSelwyn Projectとして探鉱・開発を開始。2005~2006年探鉱活動により世界最大級のポテンシャルを有する亜鉛・鉛鉱床を確認。開発地域は全長60km、面積321km2の地域に及ぶ。2007年にそれまで の旧事業体Pacifica Resouces社にて企業再構築を行い、同プロジェクト以外の全事業は新規に設立した別会社Savant Explorationに移籍、同プロジェクトを単一事業として開発を進めるためにSelwyn Resouces社が設立された。2005~2007年の間に総費用55百万C$、掘削総計86,000mにおよぶボーリング調査を実施。2008年1月現在の露天掘レベルでの鉱床評価では次のような結果が得られた。

表5. Selwyn鉱床の資源量

  概測鉱物資源量 予測鉱物資源量 ポテンシャル
資源量(百万t) 154 231 240~250
亜鉛(%) 5.35 4.54 4~5
鉛(%) 1.66 1.42 1~2

・2006年のボーリング調査を基に2007年に出した暫定的経済評価では、亜鉛の価格を1.10US$/lbとして(2006年から遡る過去2年間の平均価格)、税引前内部収益率32.2%、資本返還期間は2.7年間と、極めて良好な投資概要となっている。
・2006年以降のボーリング調査を通じて2008年までに予測資源量が大きく増加した事から(予測鉱物資源量は2006年2月には112百万t、2007年4月には216百万t、2008年1月には231百万t)、2007年に出された暫定経済評価はかなり控えめなものとなったが、今後の亜鉛価格の動向(0.8~1.8US$/lbのレンジ)をも勘案しおおまかに投資概要を把握するために控えめベースながら以下に当初の経済評価を紹介する。

表6. Selwynプロジェクトの経済評価表


・同鉱床から亜鉛・鉛の合計品位12%以上の高品位資源の目標採掘期間は25年間。精鉱年産量は亜鉛28万t、鉛11万t。
・今後の開発計画の主なスケジュールは以下のとおり:

    (1)環境対策・保全の関連認可入手 (2011年までに終了)
    (2)B-FS (2011年までに終了)
    (3)Scoping Study (2011年までに終了)
    (4)鉱山設備建設 (2013年までに終了)
    (5)商業ベースでの生産開始 (2013年)

・今後急を要する重要事項は、B-FS、探鉱・開発活動を継続し、資金面でプロジェクトを円滑に進める為に事業・投資パートナーを探し選び出すこと。現時点で世界の大手鉱山会社、精錬会社を含む12社が社外機密同意書(Confidential Agreement)にサインし、パートナーとなる事に興味を示している。
・また2008年中にKaska先住民族との社会経済参加同意書(Socioeconomic Participation Agreement)を完了、また関連行政官庁からの認可入手のため、環境査定(Environmental Assessment)レポートの作成に取り掛かる予定。



図4. Selwynプロジェクト位置図(カナダYokon州)

4. Donner Metals社(カナダ上場企業)
 Mr.Patterson, Chairman
 BC州バンクーバーに本拠を置くベースメタル探鉱・開発会社。今回はQC州南西部にて、亜鉛、銅、銀、金の開発を進めているMatagamiプロジェクトについて講演がなされた。
 Matagami鉱山地域は1957年に初めて鉱床が発見されて以来、1963年から2003年に亘り10社により探鉱・鉱山開発が進められた。その後、いくつかの新鉱床が発見されているが、同社は2006年にスイスに本拠を置く大手鉱山会社Xstrataのカナダ子会社とJVという形でMatagamiプロジェクトに参加、開発を進めている。なお、JVの形態はDonner Metal社が2011年5月までに総額25百万C$の探鉱関連費用を同プロジェクトに投じることにより、JVの50%参加・権益を取得するオプション権を有する。
 プロジェクトの概要は以下のとおり。
・同プロジェクトは4,750km2に渡る広大な地域にて亜鉛、銅が豊富に存在すると見られるVMS鉱床の探鉱・開発、現在801km2の鉱物権益を有する。
・2007年に開始したボーリング調査ではBracemac、McLeod両地域にて高品位のVMS鉱床の5か所で極めて重要と見込まれる鉱化帯が確認された。その概要は次のとおり。

表6. Matagami探鉱プロジェクト着鉱状況

ZONE 深度(m) 着鉱幅(m) 亜鉛(%) 銅(%)
1 653~676 24 11.5 5.6
2 828~856 28 9.2 1.0
3 845~877 32 9.6 1.3
4 526~533 7 18.5 2.1
5 637~653 16 0.2 4.1

・同プロジェクトの探鉱費は25百万C$。2008年の開発費用は約8百万C$と見込まれる。
・Matagami地域は過去に鉱山開発史において繁栄した・確立された産業基盤も有し、以下のとおりプロジェクトにとって極めて有利なマクロ的インフラを備えている。
(1)主要都市と結ぶ鉄道、舗装道路が最寄に存在。発電所に加えて、1日当り2,600tの処理可能の製錬所(Xstrata所有)を有する。
(2)地質調査から開発活動に至るまで関連事業の人材が周辺部に豊富に存在。これは低コストへの一要因ともなっている。
(3)同地域において2000年に鉱床発見、2008年より既に生産開始となっているPerseverance地区の探鉱、開発、FSの経験がMatagamiプロジェクトに活用。上記Bracemac、McLeod両地域の鉱床発見から生産までの時間短縮にも寄与すると見られる。
(4)QC州政府は極めて協力的な姿勢を示し、同プロジェクトの費用に対し、40%の補助金給付という形で支援している。
・Matagami地域の同プロジェクトの近隣PerseveranceにおいてJVのパートナーであるXstrataは2008年に入って512万tの資源量、品位Zn 15.8%、Cu 1.2%の開発に着手している。同地域での過去、現在開発進行プロジェクトや今までの調査結果から見てMatagamiプロジェクトのポテンシャルは極めて大きいと見られるが、開発可能性判断のために引続き調査を継続予定。



(出典:Donner Metals Ltd. HPより)
図5. Matagamiプロジェクト位置図(カナダ QC州)

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