報告書&レポート
チリ鉱山調査報告

2008年6月7~13日に南米鉱山調査として、チリ及びペルーの主要鉱山の調査を実施した。本稿では、このうちチリ鉱山調査について紹介する。 |
1. Atacama Kozan Mine(アタカマ鉱山)
(1)Atacama Kozan Mineの概要
Atacama Kozan Mineは日鉄鉱業が出資するAtacama Kozan特約会社(Sociedad Contractual Minera Atacama Kozan)が操業する鉱山で、チリ第Ⅲ州の州都Copiapoの南南東約16km、標高500mに位置する。Copiapo市内から鉱山までは舗装道路が整備されており、車で約30分を要する。同社は1999年5月に設立、出資割合は日鉄鉱業60%、チリ資本のInversiones Las Cruces社40%で、現在チリで日本企業がマジョリティを有する唯一の鉱山である。Atacama Kozan Mineの年間銅生産量は2万t以下(銅金属量)で、銅生産量10万t以上の鉱山が13あるチリにおいては、生産量20位以下にランクされる中・小規模鉱山であるが、最近の銅価格の高騰により、安定した操業を行っている。
(2)沿革
1992年6月 | 日鉄鉱業JV探鉱(1次、2次探鉱)開始 |
1995年10月 | 企業化調査(FS)開始 |
1999年5月 | 合弁会社、S.C.M.Atacama Kozan設立 |
2000年1月 | 建設工事開始 |
2002年12月 | 坑内掘準備工事を完了 |
2003年1月 | プラント建設工事完了、試験操業開始 |
2003年6月 | 商業生産開始 |
(3)地質・鉱床
Atacama Kozan Mineの位置するPunta del Cobre地区は数多くのIOCG(酸化鉄銅金型)鉱床が分布する地域で、同鉱山周辺には、ワールドクラスのCanderalia(Atacama Kozan Mineの西方約1km)の他、Santos、Socavon Rampa、Carola、Alcaparrosa等の銅鉱山が存在する。
Atacama Kozan Mine周辺の地質は下位から下部白亜系のPunta del Cobre層(主に安山岩溶岩、安山岩質火砕岩類、黒色頁岩等により構成され、下部安山岩部層、中部堆積岩部層、上部火山砕屑岩部層に細分類される)、Abundancia層(主に石灰岩、石灰質砂岩等により構成)、Nantoco層(主に砂岩、頁岩を挟む石灰岩により構成)及び更新世、完新世の未固結堆積物からなる。
鉱床はマント型及び網脈型のIOCG鉱床で、採掘対象は、Punta del Cobre層中の緩傾斜層状鉱体(マント型鉱体)及び脈状・網脈状鉱体(角礫型鉱体)である。マント型鉱体は同鉱山の採掘対象の主体となっており、Punta del Cobre層中の最下層である下部安山岩部層中の安山岩溶岩とその上位の中部堆積岩部層の凝灰岩・砂岩・頁岩との境界に沿って東西約800m、南北約1.4kmに分布し、層厚は最大40mである。
マント型鉱体の鉱石鉱物は磁鉄鉱・黄銅鉱・黄鉄鉱で少量の磁硫鉄鉱・閃亜鉛鉱を伴っている。角礫型鉱体は主に下部安山岩部層中に胚胎し、主要鉱石鉱物は黄銅鉱・黄鉄鉱・磁鉄鉱で磁硫鉄鉱を伴うことがある。FS作成時の埋蔵鉱量は約30百万t、品位Cu 1.5%である。
写真1. Atacama Kozan:坑口
(4)操業状況
鉱石の採掘は主にサブレベル・ストーピング及びオープン・ストーピング法により実施されるが、鉱体の薄い場所では一部ルーム・アンド・ピラー法を採用している。坑内で採掘された鉱石はLHD(Load Haul Dump)により20tダンプトラックに積込まれ、坑内にある1次破砕機(ジョー・クラッシャー)まで運搬され、約150mm以下のサイズまで1次破砕された後、ベルト・コンベア(3.5km)により坑外貯鉱場へ運搬される。その後、坑外で2次、3次破砕機(コーン・クラッシャー)により7mm以下にされた粗鉱はボール・ミルにより磨鉱され、浮遊選鉱工程に送られる。浮遊選鉱工程には、ラッファー・セル、カラム・セル、スカベンジャー・セルが設置されている。カラム・セルで回収した精鉱は精鉱シックナーに送られ、セラミック・フィルターを経て銅精鉱として貯鉱される。また、廃さいは選鉱場から16km離れたEl Gatoダムまでパイプラインによりスラリー輸送され堆積される。
2007年の粗鉱生産量は1,775千t、精鉱生産量は63千tで、精鉱品位Cu 28.8%である。精鉱の主な販売先はENAMI(チリ鉱山公社)Paipote製錬所及びPPCの玉野製錬所で、Paipote製錬所に24,000t、残り39,000tを玉野製錬所向けとしている。日本向けの精鉱はAtacama Kozan Mineから約170km離れたBarquito港までトラックで輸送し、CODELCO Salvadorの船積施設を使用して出荷している。
以下に最近の粗鉱・精鉱生産量の推移を示す。
2005年 | 2006年 | 2007年 | 2008年 1~5月 |
|
粗鉱生産量(t) | 1,634,000 | 1,476,000 | 1,775,000 | 621,000 |
精鉱生産量(t) | 74,000 | 56,000 | 63,000 | 19,000 |
写真2. Atacama Kozan:選鉱場外観
写真3. Atacama Kozan:浮遊選鉱設備(ラッファーセル及びコラムセル)
写真4. Atacama Kozan:精鉱シックナーと精鉱貯鉱場
(5)その他
従業員は直轄270人、請負359人である。このうち日本人スタッフは社長代行以下10名であり、採鉱、保全、地質、設備等の技術部門の主要ポストや経理に配置している。また、総務、人事、採鉱部門の責任者にはチリ人を採用している。
現在、可採鉱量の確保のため、鉱山周辺地域で積極的に探鉱活動を行っている。
2. Candelaria Mine(カンデラリア鉱山)
(1)Candelaria Mineの概要
Candelaria Mineは1994年に操業を開始した銅山で、前述のAtacama Kozan Mineの西方約1kmに隣接する。操業はCompania Contractual Minera Candelariaによって行れており、FCX(Freeport-McMoRan)が権益の80%を所有し、日本企業が残り20%(住友金属鉱山16%、住友商事4%)を所有する。Candelaria Mineの年間銅生産量は18.1万t(2007年)でチリでは8位にランクされるが、同鉱山はIOCG(酸化鉄銅金型)鉱床の鉱山としてはチリで最大規模である。鉱石の大半はCandelariaピットでの露天掘によるが、2004年からピット北側の高品位鉱体Candelaria Norteを対象とした坑内掘(粗鉱生産量4,000t/日)が行れているほか、オープンピット南側の高品位鉱体であるCandelaria Surについても坑内掘による開発が検討されている。
(2)沿革
1987年 | Phelps Dodge(現FCX)がCandelaria鉱床を発見 |
1989~90年 | 企業化調査(FS) |
1991年 | 住友金属鉱山及び住友商事が権益の20%を取得 |
1993年3月 | 掘削工事開始 |
1994年10月 | 商業生産開始 |
2004年10月 | Candelaria Norte鉱床坑内掘開始 |
2007年3月 | FCXがPhelps Dodgeを買収 |
(3)地質・鉱床
Candelaria Mineは上述のAtacama Kozan Mineと同様Punta del Cobre地区に位置し、同鉱山の西側約1kmに隣接する。
Candelaria Mine周辺の地質は、Atacama Kozan Mine周辺と同様、下位よりPunta del Cobre層、Abundancia層が分布する。
鉱床はPunta del Cobre層中に胚胎され、マント型及び脈状、網脈状、角礫状の多様な産状を呈するIOCG鉱床で、鉱体の外郭は延長2,000m、幅600m、深さ350mに及ぶ。鉱体の大半は下部安山岩部層とその上位の凝灰岩部層に胚胎し、マント型鉱床はこれら境界部に胚胎する。現在のオープンピットにおいて、下位に下部安山岩、上位に凝灰岩部層が露出している。
主要な鉱石鉱物は黄銅鉱及び黄鉄鉱で磁鉄鉱・赤鉄鉱を伴い、少量の磁硫鉄鉱、閃亜鉛鉱を伴う。
(写真のオープンピット左奥にCandelaria Norte鉱床、右奥にCandelaria Sur鉱床が位置する)
写真5. Candelaria:オープンピット
(4)操業状況
Candelariaでは、主要鉱体を対象とした露天掘のほか、高品位鉱体Candelaria Norte鉱床を対象とした坑内掘が2004年から行われている。Candelariaの埋蔵鉱量は360百万t(確定+推定)、品位Cu 0.59%、Au 0.13g/tである。露天掘での操業は採掘量330,000t/日(剥土比4:1)、粗鉱量72,000t/日で、カットオフ品位は0.227%(品位Cu 0.4%以上は選鉱プロセスへ、0.227~0.4%は貯鉱に分類)である。また、粗鉱品位はCu 0.7~0.8%(2008年5月実績0.708%、6月実績0.808%、7月見込み0.88%)、Au 0.12~0.15g/tである。オープンピットは長径2,000m×短径1,500m×深さ580mに及び、将来、採掘終了時には2,500m×1,500m×800mに達する見込みである。
坑内掘が行れているCandelaria Norte鉱床の生産量は4,000t/日、投資額は11百万US$、鉱量は10.9百万tで、品位Cu 2.15%、生産規模は27,000t/年である。さらに、オープンピット南側の高品位鉱体Candelaria Surについても開発を検討しており、その投資額は2.04百万US$とされている。
採掘された鉱石は1次破砕された後、ベルトコンベヤ(457m)により貯鉱場(最大貯鉱量500,000t)へ運搬された後、選鉱場内に2列に併設された磨鉱工程へ送られる。各磨鉱ラインはSAGミル(36×15feet)、ペブル・クラッシャー及び2基のボールミル(20×30feet)からなり、これらによる磨鉱工程を経た後に浮遊選鉱工程に送られる。浮遊選鉱工程は、上述のAtacama Kozan Mineと同様、ラッファー・セル、カラム・セル、スカベンジャー・セルが設置されており、カラム・セルで回収した精鉱は精鉱シックナーに送られ、セラミックフィルターを経て銅精鉱として貯鉱される。精鉱はPunta Padrones港までトラック輸送され、船積みされる。
精鉱生産量は2,500t/日、銅回収率は約93%、金回収率は70~80%、銀回収率は80~90%、精鉱品位は30~31%で、2007年の銅生産量は181.0千tである。
写真6. Candelaria:SAGミル(奥)とボールミル(手前)
写真7. Candelaria:浮遊選鉱設備
(5)その他
Candelariaでは、同山の北北東約5kmに位置し、同じくFCXが操業するOjos del Salado鉱山からの鉱石を一部受入れて選鉱処理しているほか、Ojos del Salado選鉱場からの廃さいを受入れている。
3. おわりに
今回の鉱山調査では、チリで唯一日本企業がマジョリティを有するAtacama Kozan Mineと、同山に隣接し日本企業がマイナーで資本参加するCandelaria Mineを訪問した。チリでは、安定した鉱業投資環境を背景に、我が国企業による探鉱・鉱山開発投資は引続き堅調に推移している。現地日系企業の関係者にも今回の鉱山現地調査にご同行いただいたが、このような機会はプロジェクトの最前線を担当する方々の参考になるものと期待する。
最後に、今回の鉱山調査実施に当たって便宜・ご協力いただいたAtacama Kozan Mineと日鉄鉱業株式会社及び、Candelaria Mineと住友金属鉱山株式会社に感謝申し上げる。

