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報告書&レポート

2008年10月30日 資源探査部 栗原健一、リマ事務所 西川信康報告
2008年73号

ペルー鉱山調査報告


 昨今、ペルーから日本へのベースメタル輸出量が急増しており、日本にとって、ペルーの資源供給国としての重要性はますます高まりつつある(2007年、ペルーは、我が国精鉱輸入相手国として、銅はチリ、インドネシアに次いで第3位、亜鉛は第1位)。
 これは、日系企業が参画している鉱山からの供給が拡大していることに他ならないが、今般、その代表的鉱山であるCerro Verde、Antamina、Huanzaraの3鉱山を訪問する機会を得たので、それぞれの鉱山の最新の動向を報告する。

図1. 日系企業が参画している鉱山位置図
図1. 日系企業が参画している鉱山位置図

1. Cerro Verde(セロ・ベルデ)銅・モリブデン鉱山
(1)Cerro Verdeの概要
 Cerro Verdeは、ペルー南部に位置する同国第2の都市Arequipaの南西約36kmに位置する斑岩型銅・モリブデン鉱床である。Freeport MacMoRan(53.6%)、Compania de Minas Buenaventura S.A.A.(18.2%)のほか、日本企業としてSMM Cerro Verde Netherlands社が21%(住友金属鉱山16.8%、住友商事4.2%)を出資するSociedad Minera Cerro Verdeにより、露天掘による操業が行われている。Cerro Verdeの2006年の生産量96千tはペルー第5位であったが、2007年6月に、それまでの酸化鉱・二次硫化鉱のSxEw(溶媒抽出-電解採取)処理に加えて初生硫化鉱の選鉱処理がフル生産に入ったことに伴い、2007年の生産量は273,960t(うち精鉱181,620t、カソード92,340t)と前年の約3倍増となり、一気にペルー第2位の銅山に躍進した。また、2007年からはモリブデンの回収プロセスを新設し、現在試験操業中である。

(2)沿革

1900年代初頭 Anacondaによる探鉱の実施
1970年 Minero Peruの管理下に置かれた
1977年 Minero Peru、酸化鉱のSxEw法による生産開始
1993年 Cyprusが一般競争入札により落札
1996年 Buenaventuraによる資本参加
2004年 住友金属鉱山及び住友商事が資本参加に合意
2007年~ 初生硫化鉱の選鉱処理フル操業開始、モリブデン回収プロセス新設

(3)地質・鉱床
 Cerro Verde鉱床は、チリ北部からペルー南部に伸びる暁新世-前期始新世の斑岩型銅鉱床帯に位置し、その南東には同じ鉱床帯に属しCerro Verdeに次ぎペルー第3位及び第4位の生産量であるCuajone、Toquepala両鉱床などが位置する。
 Cerro Verde周辺は、先カンブリア紀~古生代初期の片麻岩類が広く分布し、これに白亜紀~古第三紀の複数の花崗岩類が貫入する。斑岩型鉱化作用はこれら花崗岩類の貫入活動に関連するものであり、これまでにCerro Verde、Santa Rosa及びCerro Negroの3鉱床が把握されている。このうちCerro Verde鉱床は片麻岩類と花崗岩類の境界付近に、Santa Rosa鉱床は花崗岩類中に主に胚胎される。また、各鉱床周辺では熱水角礫岩の分布が認められ、鉱床の富鉱部の一部を形成する。
 鉱床は浅部の酸化鉱(ブロシャン銅鉱、珪孔雀石等)・二次硫化鉱(輝銅鉱、銅藍等)と深部の初生硫化鉱により形成されるが、現在は初生硫化鉱が採掘の中心となっている。現在探鉱出鉱中のCerro Negro鉱床を含めた鉱量は740百万t、品位はCu 0.44%、Mo 0.014%である。

写真.1 Cerro Verde:オープンピット
写真.1 Cerro Verde:オープンピット

(4)操業状況
 Cerro Verde鉱山では、Cerro Verde鉱床及びSanta Rosa鉱床において露天掘が行われているほか、Cerro Negro鉱床では探鉱出鉱が行われている。上述のように、上部には酸化鉱・二次硫化鉱、下部には初生硫化鉱が賦存するが、これらは共に採掘対象となっており、前者はSxEw法にて処理され、後者は浮遊選鉱処理される。粗鉱処理量は10.8万t/日である。住友金属鉱山は、生産された銅精鉱の5割を10年間に渡って引取る権利を保有している。なお、2007年日本向け出荷量は、ペルー通関統計によると、556,655t(精鉱量)となっている。一方、銅カソードは約40%がペルー国内向けに販売され、残りの約60%はスポット市場で取引されている。
 酸化鉱及び二次硫化鉱を対象としたSxEwでは、採掘された鉱石を8m/ベンチの高さでヒープし、pH3.5の酸浸出液を散布する。浸出液の散布量は20,000ガロン/分で、これはMorenci(モレンシー、米AZ州)鉱山の約1/5に相当する。銅を溶解して青色を呈する貴液は貴液ポンドに貯えられた後、SxEw工程に送られる。貴液中の銅濃度は約2.3g/Lであり、これをSx(溶媒抽出)工程で50~60g/L程度まで濃集させEw(電解採取)工程で処理される。
 初生硫化鉱は、2007年6月にフル生産に入った浮遊選鉱設備(総経費890百万US$をかけて拡張された)にて処理される。鉱石は、一次破砕された後にベルトコンベヤ輸送され、選鉱場脇に設置されたコーン・クラッシャーに投入され二次破砕された後、選鉱場内に4列設置された磨鉱-浮遊選鉱工程に送られる。各磨鉱ラインはボール・ミル及びHPGR(High Pressure Gridding Roll)からなり、これら工程によって鉱物が単体分離され浮遊選鉱工程へと送られる。選鉱場拡張に当りモリブデンの回収プロセスを新設しており、浮遊選鉱工程では銅・モリブデンのバルク浮選の後にモリブデンを分離回収して銅精鉱を生産する。銅精鉱は専用の輸送用コンテナ(15t)に入れられ、トラック(コンテナ2基搭載可能)で鉱山から58kmにあるLa Joya駅まで輸送される。コンテナはここで専用列車に積替えられてMatarani港まで62km鉄道輸送され、船積みし輸出される。

写真2. Cerro Verde:リーチング・パッドと貴液ポンド
写真2. Cerro Verde:リーチング・パッドと貴液ポンド

写真3. Cerro Verde:選鉱場全景
写真3. Cerro Verde:選鉱場全景

2. Antamina(アンタミナ)銅・亜鉛・モリブデン鉱山
(1)Antamina鉱山の概要
 Antaminaは、Ancash県のアンデス山系(海抜3,900~4,500m)に位置し、首都リマよりパンパシフィックハイウェイを約200km北上し、Pativilca(パティビルカ)からHuaraz(ワラス)街道、Antamina道路を経由、全面舗装道路で約7時間を要する。
 Antaminaは、ペルーで最大の銅・亜鉛鉱山で、世界でもトップクラスの露天掘鉱山として知られている(2007年:銅8位、亜鉛4位)。同鉱山は、BHP Billiton(33.75%)、Xstrata(33.75%)、Teck Cominco(22.5%)のほか、三菱商事が開発段階から10%の資本参加をしている。

(2)沿革

1860年 イタリア人により小規模な鉱床の存在が初めて報告される
1950年代 Cerro de Pascoによる探鉱の実施
1980~95年 Minero Peruによる管理
1996年~ Rio Algom MiningとInmet Miningによる本格的な探鉱の実施
1997年 BHP Billiton、Noranda、Teckによる開発の決定
1998年 三菱商事による資本参加
2001年~ 生産開始

(3)地質・鉱床
 Antamina鉱山は中央ペルー多金属帯と呼ばれる鉱床区に位置し、この鉱床区には後述のHuanzalaやIscaycruz、Cerro de Pascoなどの多金属鉱床が賦存する。
 Antamina鉱山周辺には、ジュラ紀後期から白亜紀にかけての石灰岩層を含む堆積岩類が広く分布し、これに中新世の石英モンゾナイト斑岩が貫入する。堆積岩類には北北西-南南東のトレンドを持つ逆断層や褶曲など構造が顕著に認められる。

写真4. Antamina:オープンピット全景
写真4. Antamina:オープンピット全景

 鉱床は主に石灰岩類からなるJumasha層と頁岩及び石灰岩類からなるCelendin層に貫入した石英モンゾナイト斑岩によって形成されたスカルン(-斑岩)型鉱床である。スカルン鉱化体は貫入岩体を中心に以下のような累帯配列を呈する。
・中間帯:褐色ガーネット・エンド・スカルン。黄銅鉱主体のガーネット・スカルン。
・外帯混合帯:褐色ガーネット・エキゾスカルン。褐色~緑色ガーネットへの移行帯。黄銅鉱及び少量の閃亜鉛鉱を伴う。
・外帯:緑色ガーネット・エキゾスカルン。閃亜鉛鉱を主体とし、黄銅鉱を伴う。
・珪灰石外帯:wollastonite-diopsideスカルン。班銅鉱と閃亜鉛鉱からなる。石英モンゾナイト斑岩は銅・モリブデンの鉱化を受けており、これらを含む鉱量は1,521百万t、品位はCu 0.93%、Zn 0.51%、Ag 10.9g/t。Mo 0.02%。

写真5. Antamina:オープンピット南面切羽
(写真中央の黒い部分がスカルン鉱体)
写真5. Antamina:オープンピット南面切羽

(4)操業状況
 採掘は露天掘で、浮遊選鉱処理により銅、亜鉛、銀、モリブデンを回収する。最新のディスパッチシステム(ショベルやダンプトラック等の稼働状況をモニタリングし、リアルタイムで採掘管理を行うシステム)を導入し、作業効率を大幅に向上している。現在は54台のダンプトラックにより鉱石運搬のため稼動している。剥土比は2.5:1で、最終的なピット径1,200m、深さ465mになる見込み。
 Antaminaでは、多様なタイプの鉱石が産出することから、銅・亜鉛・ビスマス・砒素の含有量や含有鉱物等に基づいて鉱石タイプが分類され、鉱石タイプごとに一定期間のサイクルで採掘され、また選鉱処理される。まず、採掘された鉱石は、オープンピット内にあるジャイレトリー・クラッシャーで一次破砕され、選鉱プラントに輸送される。その後、SAGミル・ボールミルによる磨鉱工程を経て浮遊選鉱が行れる。生産された精鉱は、パイプラインによるスラリー輸送により、山元から320km離れたHuarmay港まで輸送され、脱水後に船積みされる。なお、ズリは性質により3種類(A:dirty~C:clean)に分類され、2か所の堆積場に分けて堆積されており、また、選鉱廃さいは自然の氷河湖を利用した堆積場に投棄し上澄水の80%をポンプアップして循環利用している。
 2007年の粗鉱処理量は、31,174千tで、銅329.9千t、亜鉛291.7千t、モリブデン14,069千lb(Teck Cominco Quarterly Report(4Q))である。同山から日本には、銅精鉱、亜鉛精鉱を各々163,760t、81,399t(精鉱量)が輸出されている(ペルー通関統計)。

写真6. Antamina:浮遊選鉱設備
写真6. Antamina:浮遊選鉱設備

3.Huanzala(ワンサラ)亜鉛・鉛・銀鉱山
(1)Huanzala鉱山の概要
 Huanzalaは、Antaminaの南南東約50kmに位置する。三井金属鉱業が70%、三井物産が30%出資するサンタルイサ鉱業によって1968年より操業、2008年が開山40周年にあたる歴史のあるペルーを代表する鉛・亜鉛鉱山の一つであり、本邦企業の資本のみによって操業されている唯一の海外鉱山でもある。また、2006年3月には同山近傍(南方40km)に新たにPallca鉱山が新たに開発され、現在、これら2鉱山の連携を図りながら、ペルーにおける鉱山事業の長期的な安定に向けた取組みを行っている。

(2)沿革

1918年 ペルー人Piaggio氏が鉱区を取得
1957年 Cerro de Pascoが探鉱を実施
1961年 三井金属鉱業が買山調査を開始
1966年 サンタルイサ鉱業の全株式購入(出資比率 三井金属:70%、三井物産:30%)
1968年6月 開山式(ベラウンデ大統領出席)、粗鉱処理量500t/日で操業開始
1985年 1,000t/日に増産
1998年 粗鉱処理量1,700t/日を達成
2006年 Pallca鉱山鉱石受入れ開始、粗鉱処理量1,600t/日
(Huanzala鉱山1,100t、Pallca鉱山500t)
2008年 銅浮選を30年振りに再開

(3)地質・鉱床
 周辺の地質はAntamina鉱床と同様に、ジュラ紀後期から白亜紀の堆積岩類が広く分布し、これらの堆積岩類には北北西-南南東のトレンドの逆断層や褶曲が著しく発達する。
 鉱床は、Antaminaの胚胎層準よりも下位のSanta層及びCarhuas層の石灰岩、石灰質頁岩を交代したスカルン鉱床である。鉱床の周囲でも上記の構造は顕著であり、下写真では横臥褶曲のため地層が逆転し、Santa層の下位のChimu層(主に珪質砂岩からなる)が見掛け上位(左側)となっている。
 鉱化作用は、関係火成岩とされる花崗閃緑斑岩を中心として北西-南東方向に7kmに及ぶ。5つの鉱床群(北からAlberto、Recuerdo、Huanzala上部、Huanzala本坑、Huanzala南部)からなり、これらはレンズ状、層状、または不規則塊状を呈する。鉱石鉱物は、方鉛鉱、閃亜鉛鉱、黄鉄鉱が主体で、黄銅鉱などを伴う。
現在まで確認された鉱量は約20百万tで、このうちの約4分の3が既に採掘済みである。残鉱量は約5百万t、全体の約26%に相当する。

写真7. Huanzala:鉱山施設とChimu層-Santa層-Carhuas層
写真7. Huanzala:鉱山施設とChimu層-Santa層-Carhuas層

写真8. Huanzala:本坑鉱床スカルン質鉱 写真9. Huanzala:南部鉱床黄鉄鉱質鉱
写真8. Huanzala:本坑鉱床スカルン質鉱 写真9. Huanzala:南部鉱床黄鉄鉱質鉱

(4)操業状況
 Huanzala鉱山では、2006年以降、Pallca鉱山から鉱石を受入れて処理を行っている。2007年の生産量は、Pallca鉱山からの受入れ分を含めて亜鉛(精鉱)87,417t、鉛(精鉱)17,552tで、粗鉱品位はCu 0.23%、Pb 2.5%、Zn 8.9%、Ag 2.41oz/tである。開山以降の累積(1968~2007年)は粗鉱生産量1,414万t、亜鉛(精鉱)251万t、鉛(精鉱)82万tに及ぶ。従業員は約360名で、うち日本人が技術顧問として7名勤務している。
 採掘は、トラックレス方式により、主な採鉱機械は、油圧ジャンボ、LHD、ルーフボルター等新鋭機から構成されたメカナイスド・カットアンドフィル法を採用している。
 選鉱は先に鉛を浮かせて回収し、次に亜鉛を浮かせる直接優先浮選方式を採用している。また、今後は銅品位の高い鉱体が採掘対象となるため、現在、銅回収プロセスを新設し、試験操業中である。電力は雨季には水力自家発電(4,200kW)、乾季には買電またはディーゼル自家発電(3,500kW)を利用している。
 生産された精鉱は30tトラックによりCallao港まで運搬し、亜鉛精鉱の約8割は日本向け(ペルー通関統計によると、2007年の日本向け輸出量は66,535t)で、残りはペルー国内及びブラジル向けとなっている。一方、鉛精鉱は、ペルー国内及びスポット市場向けとなっている。
 環境対策はPAMA(環境適正化プログラム)に基づいて実施されており、堆積場は2か所(1か所は堆積を終了し植栽済み)、中和処理施設(処理能力8m3/分、pH3からpH8.5に中和)がある。

4. おわりに
 昨今、世界経済の減速感が広がる中、金属価格は調整局面を迎えているが、加えて、燃料や人件費の高騰、電力不足問題の顕在化、地元住民からの利益還元、環境対策等、こうした様々な要因が鉱山経営を圧迫し始めており、ここ数年好調に推移してきたペルー鉱業の潮目が変わる兆しが見られる。
 今回、訪問した鉱山はいずれも、銅、亜鉛精鉱の日本の安定供給に大きく貢献しており(2007年銅の輸入シェア:Cerro Verde約11%、Antamina約3.3%、2007年亜鉛の輸入シェア:Antamina7.3%、Huanzala(Pallca含)約6.0%)、今後も、こうした課題に対処、問題を克服し、持続的・安定的な日本への原料供給基地として、その一翼を担い続けていくことを切に期待する。
最後に、今回のCerro Verde、Antamina及びHuanzala各鉱山での鉱山調査実施に当って便宜・ご協力いただいた住友金属鉱山、三菱商事及び三井金属鉱業、サンタルイサ鉱業に感謝申し上げます。

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