報告書&レポート
Mining Journal社『Nickel Day』セミナー参加報告

Mining Journal誌が主催する「20:20 Investor Series」と称されるセミナー・シリーズの一環として、「Nickel Day」が2008年10月28日にロンドンで開催された。同シリーズでは、主に欧州の投資家向けに、各金属、あるいは国毎のテーマにより年間4、5回程度開催されている。個々のセミナーの共通テーマは、金属の需給・価格動向、各国の鉱業法規、採鉱・生産動向、そして関連企業の事業内容・展望・投資ポテンシャルなどである。今回の「Nickel Day」セミナーでは、最近の金融市場の混乱、そしてコモディティ価格の下落傾向等により、参加者が少ないと予想されていたが、鉱山会社、鉱山開発コンサルタント会社、金融関連企業等から総勢110名程が集まり、ニッケル需給・価格動向に関する講演が1件、ニッケル探鉱企業による自社プロジェクトの概況についての講演が5件行われた。以下、本報告書では、ニッケルの需給・価格動向と、紹介された探鉱プロジェクトの概要を報告する。 |
1. ニッケル需給・価格動向に関する講演 ~長期的には、現況は悲惨ではない~
-Mining Journal社(英)、Dr. Chris Hinde, Editorial Director-
1-1 はじめに
ニッケル鉱床には、硫化鉱と酸化鉱(主にラテライト鉱)が存在し、その分布は地域毎に特徴がある。硫化鉱は、豪州、カナダ、ロシア、南アで、主に坑内採掘が採用されており、硫化鉱が採掘される鉱床には、銅及びPGMsを伴うものが多い。一方、酸化鉱のラテライト鉱は主に、豪州西部、ニューカレドニア、インドネシア、フィリピン、コロンビア、キューバ、ベネズエラ、ブラジル、ドミニカ共和国において露天掘で採掘されており、コバルトを副産物として生産している例が多い。ニッケル鉱石生産における硫化鉱:酸化鉱(ラテライト鉱)の比率はほぼ同率であるが、埋蔵量については、硫化鉱:酸化鉱(ラテライト鉱)の比率は3:7と酸化鉱が圧倒的に多い。
1-2. ニッケル供給の増加
表1にニッケル鉱生産上位10か国を示す。2007年の世界のニッケル鉱山生産は1,596.2千tで、前年に比べて8.7%増加した。また、インドネシア、ニューカレドニア、フィリピンは、前年比20%以上の大幅増を記録した。豪州に関しては、2006~2007年のニッケル価格高騰の波に乗り、豪州も増産が期待されていたが、豪WA州での大型開発プロジェクトであるBHP BillitonのRaventhorpeのスケジュール延期(建設費の上昇、労働力不足等が原因)により、2007年には初期生産目標の5千tまでにしか達せず、同国の増産には大きく寄与しなかった。以上により、2007年にインドネシアが豪州を抜いて、世界第3位のニッケル鉱石生産国となった。
表1. ニッケル鉱生産上位10か国(単位:千t) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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(出典:World Nickel Statistics,No.10,Oct.2008,INSG) |
1-3. 今後も供給増加と予想
現在は、ニッケル価格暴落や、経済不況によるステンレス鋼の需要減退により、ニッケル生産プロジェクトの採算性の再検討がなされているが、全体として今後もニッケル鉱石及び一次ニッケルの供給増が予想されている。現在進行中の主なニッケル開発プロジェクトは、表2に示す4件で、うち3件がカナダのプロジェクトである。
[1]Voisey’s Bayニッケル製錬所の増設(カナダ) | ||||
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[2]Raglanニッケル鉱山の拡張(カナダ) | ||||
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[3]Rim South、Fraser Morganニッケル探鉱プロジェクト(カナダ) | ||||
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[4]Ambatovyニッケルプロジェクト(マダガスカル) | ||||
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1-4. 需要の減少で、価格が暴落
ニッケル価格は過去40か月で大きく変動している(図1を参照)。2007年は、中国を中心とする好調なステンレス鋼の生産、旺盛なニッケル消費、投機筋の介入により価格が上昇傾向となり、2007年5月には空前の51,600US$/tを記録した。なお、この価格高騰を受け、豪州で低品位ラテライト鉱からのニッケル生産が増加し、中国でのニッケル銑鉄の増産が見られた。(中国のニッケル銑鉄生産量(Ni純分)は、2006年30千tから、2007年には85千tにまで増加している。)
しかしながら、2007年末には、価格高騰時に見られたニッケル含有比率の低いフェライト系ステンレス鋼への代替が進んだことによる需要減と、経済悪化によるステンレス鋼自体の需要が減退したため、ニッケル価格が下落傾向となり、26,300US$まで下落した。その後、2008年3月上旬には、33,200US$/tにまで回復したが、2007年中頃に発生した米国のサブプライム問題、金融引締政策、経済不況が原因で、2008年10月末には10,000US$台を割り、9,350US$/tとなった。なお、10,000US$割れは、2003年9月以来、約5年ぶりのこととなった。2008年10月28日現在、世界的な株価回復を受けて、買い安心感が広がったためか、約2か月ぶりに大幅な反発高を見せ、1,1640US$/tまで回復しているが、現在は価格周期の谷に入りつつあると考えられる。
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(2005年1月~2008年11月現在:LME現物取引価格[セツルメント]) |
(出典:LME公式ウェブサイト) |
図1. ニッケルの価格推移 |
1-5. まとめ
Tony Howland-Rose氏(Allegiance Mining社(豪)の会長)は、「市場悪化は“Chart hiccup(=図上の(一時的な)しゃっくり)”で、ニッケル価格暴落は“A lot of noise(=大きな雑音)”である。」と説明している。Dr. Hindeも同様に、「図1からも考えられるように、経済悪化の現況は、長い歴史から観察することが重要で、長い目で見れば、現在の波乱はそれ程悲惨ではない。」との考えを見せた。また、この逆境は返って、素晴らしい機会を生んでいるとも判断でき、次のような良いニュースも挙げることが出来ると言い添えた。
- 中国の貿易業者によると、中国の旧正月(2009年1月26日)には、ニッケル価格が上昇する可能性がある。
- Alto Capital社によると、ニッケル需要は2030年までに倍増となり、“現実的な”ニッケル価格は、今後2~3年間の平均価格は15,000~17,000US$/tと予想できる。
- 中国経済は成長減速しているが、2008年の中国のニッケル消費量は、約352千tと予想され、世界全体のニッケル消費量の24%に上るだろう。これは、8年前に比べて6倍の消費量である。
2. 探鉱・開発企業による講演
2-1. European Nickel社(本社:London、AIM上場)
-Mr. Simon Purkiss, Managing Director-
European Nickel社は2000年に設立され、アルバニアでの探鉱活動から着手したが、現在はトルコ、フィリピン、インドネシアにて4件のラテライト鉱プロジェクトを有する。Purkiss氏は、「高品位ニッケル鉱床の発見と低コストが、成功のカギ」と指摘し、「BHP Billitonと共同で開発研究を行っている、同社特有の低コストで操作が容易なヒープリーチング技術は、他社技術に比べ優位性を生む。」と紹介した。同社は、抽出プロセスとして、Atomospheric Acid Heap Leach(常圧酸浸出法)を選択している。これは、従来のフェロニッケル製錬法やHPAL法よりも投資コストが低いというメリットがある。なお、上記4件で1百万tのニッケル資源量を予測し、5年以内に年間50千tのニッケル生産を目標とする。
同社のヒープリーチング技術の詳細は次のサイトを参照されたい。
http://www.enickel.co.uk/Caldag-Project/heap_leach_process
トルコCaldagプロジェクト(Ni・Co)
トルコ西部に位置するCaldagプロジェクト(European Nickel社の権益100%)は、鉱山稼働に必要なインフラ設備は全て整っており、エンジニア設計作業の80%は、予算内で計画どおり完了している。2007年前半には、同社のヒープリーチング処理を利用して、販売可能なニッケル・コバルト水酸化物を生産し、バンカブルFSの結果、ヒープ・リーチングのサイクル20か月、ニッケル及びコバルトの回収率72%となっている。同社は、トルコ環境森林省から未だ承認を取得していないが、講演の中で、承認は最終段階に入っていると説明された。
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2-2. Albidon社(本社:Perth、AIM(ロンドン新興企業(ベンチャー企業)向け株式市場)及びASX(豪州証券市場)上場)
-Mr. Dale Rogers, Managing Director-
Albidon社(African Lion社が20.5%、Jinchuan Groupが5.6%の株式を保有)は、2004年に初めてAIMに上場し、アフリカ南部を中心に探鉱を行っている。Albidon社が行っている探鉱事業は以下のとおりである。
- ザンビア:Munaliニッケル探鉱プロジェクト(権益100%)
- ボツワナ:Selebi-Phikweニッケル探鉱プロジェクト(権益100%)
- タンザニア:Songeaニッケル探鉱プロジェクト(BHP BillitonとのJV事業)
- タンザニア:Luwambuプラチナ・ニッケル探鉱プロジェクト(Albidon 10%、IMX Resources90%)
- チュニジア:Nefza亜鉛探鉱プロジェクト(OZ Minerals社とのJV事業)
- ザンビア:Chirundu / Kariba等のウランプロジェクト(African Energy Resources社とのJV事業)
ザンビアMunaliプロジェクト(Ni・Cu・Co・Pt・Pd)
Albidon社が権益100%を有するMunaliニッケルプロジェクトは、ザンビアのルサカから60km南方に位置する。2005年上期に最初の資源量が発表され、2006年半ばにはバンカブルFSを完了、2008年6月には初期生産が開始された。同鉱山では、浮遊選鉱法が採用され、まずは、選鉱場の粗鉱能力を0.9百万t/年、ニッケル生産量(純分)8,500t/年に向上することを第一目標として、2009年第1四半期までには粗鉱能力1.2百万t/年、ニッケル生産量(純分)10,500t/年に増強する予定である。また、現在もVoyager鉱床の近辺で、ボーリング調査を継続している。
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2-3.African Eagle Resources社(AIM及びAltX上場)
-Mr. Mark Parker, Managing director-
ザンビア、タンザニア、モザンビークを開発拠点とし、主に銅・金の探鉱・採掘を手掛けるが、現在はニッケルやウラン探鉱にも事業を拡張している。1996年にTwigg Resources社として設立し、2002年に豪の探鉱会社AERC社と合併し、African Eagle Resources Plc.に改称、現在に至る。同社が担う探鉱地域は以下のとおりで、同社の重要な戦略の一つは、“コモディティの多様性”である。
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FS段階 資源量の評価段階 ステージの高い探鉱段階 初期探鉱段階 |
(出典:African Eagle Resources社、「Nickel Day」プレゼンテーション資料) | |
図2. African Eagle Resources社の鉱区図 |
タンザニアDutwaプロジェクト(Ni・Co)
Dutwaにあるラテライト鉱床は、“金の丘(Money Hill)”と呼ばれるKilimafedhaグリーンベルト(Lake Victoria Goldfield域内)に位置する。また、同鉱床より50km南方には、同社が探鉱中のZanzuiニッケル鉱床が存在する。Dutwa鉱床では、150孔のボーリング調査を完了し、現在は更なるボーリング調査及び資源量の評価が行われている。同鉱床では、本ボーリング調査(150孔)のうち最初の80孔が分析され、地表~57m間で、Ni 2.57%(着鉱幅15mで品位Ni 6.91%を含む)、深度6~30m間で、Co 0.47%(着鉱幅21mで品位Co 0.64%を含む)等の鉱徴を捕捉している。また、資源量の評価は、SRK Consulting社によって2008年に完了する予定である。
2-4. Mirabela Nickel社(本社:Perth、ASX上場)
-Mr Nick Poll, Managing Director-
同社は、ブラジルのSanta Ritaニッケルプロジェクトの権益100%を所有する。Santa Ritaは、2004年11月に発見され、グリーンフィールド案件では、過去12年間に世界で発見された硫化ニッケル鉱床のうち、最大規模のものとされており、地表上近くで、鉱物資源量(予測+概測+精測)150百万t(Ni品位 0.6%, Ni純分789千t)が把握され、露天掘で採鉱が可能である。なお、同社の鉱区では、南北2km、深さ1,000mの領域で、40m~140mの厚さの鉱化帯が確認されている。同社は現在、本鉱床の深部拡張プログラムによるボーリング調査を集中的に行っており、深さ861mから着鉱幅97mでNi 0.85%、Cu 0.25%等の良好な探鉱成果を発表している(図3参照)。この優勢なボーリング結果により、同地域の鉱物資源量は2008年11月に更新される予定である。同鉱山の浮遊選鉱場の建設は既に約60%完了しており、破砕・磨鉱工程は12月に完成する予定で、ニッケル回収率は70%と見込まれている。
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(出典:Mirabela Nickel社[2008年10月31日公表]) |
図3.ブラジルSanta Ritaプロジェクト・ボーリング結果報告書 |
なお、同社は本プロジェクトの開発コストとして、すでに545百万US$を調達している。この内訳は、同社の新株発行による165百万US$、Credit Suisse及びBarclays両銀行からの融資280百万US$、ならびにFortaleza及びHarjavalta製錬所への鉱石供給契約事項の一部として、Votorantim(本社:サンパウロ)及びNorilsk Nickel(本社:モスクワ)からの劣後ローン100百万US$となっている。
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