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報告書&レポート

2008年12月11日 ジャカルタ事務所 小岩孝二報告
2008年83号

セミナー報告「8th Asian Pacific Mining Conference&Exhibition」その2-鉱業に期待かかる地域開発・インドネシア-

 2008年10月14~16日の3日間、マニラ市内(フィリピン)において、「8th Asian Pacific Mining Conference &Exhibition」(第8回アジア太平洋鉱業会議・展示会)が、東南アジア諸国の鉱業担当大臣、政府高官、鉱業団体、鉱山会社などから約300名が参加して開催された。本稿では、インドネシア政府及び鉱業界が大会で表明したインドネシア鉱業の現状、今後の展望について報告する。

1. はじめに
 金融危機が発生し、金属価格も大幅に下落し始めた時期での大会となったが、長期的には消費量増大が見込まれる中国、インド、安定的な消費量が見込まれる日本、韓国、台湾等への一大供給ゾーンとしてアピールする発表を東南アジア各国、企業が行った。本稿では、その中でインドネシアが政府、鉱業界、進出外資それぞれの立場で同国の鉱業について発表を行ったので紹介する。

2. インドネシア政府(エネルギー鉱物資源省)
 Ministry of Energy and Mineral Resources, Geological Agency(エネルギー鉱物資源省地質庁)長官Dr. R. Sukhyarが大臣の代理として以下の発表を行った。

  • [1]1967年に制定されて以来40年以上が経過した現鉱業法の成果として、これまでに235件のCOW(鉱業事業契約)、141件のCCOW(石炭鉱業事業契約)を締結し、外国投資を受け入れてきた。また、国内企業による開発も650件以上に上る。その結果、銅、ニッケル、錫、石炭等の鉱物資源が開発され、国家収入に大きく寄与(表1~5、図1参照)してきた。
  • [2]しかしながら、1998年のSuharto(スハルト)政権崩壊後の国家方針である次の要請については、現行法では対応しきれていない。 
    イ)地方分権の推進 
    ロ)民主主義の発展 
    ハ)環境重視 
    ニ)人権尊重
  • [3]また、資源開発政策について、国内各方面から以下のような強い意見を受けている。 
    イ)国内産業への原料供給源たるべき 
    ロ)石炭は単なる鉱業生産物ではなく、石油に代替すべき国内エネルギーである 
    ハ)鉱業関連国内サービス産業の育成 
    ニ)政府、鉱業界一体となった、丁寧な地域開発
  • [4]更には、現在鉱業が抱える問題として、次の事項が挙げられる。 
    イ)金、銀は鉱量枯渇により生産量が減退 
    ロ)石炭の生産量は伸びているものの、既存鉱山の拡張によるもの 
    ハ)既存のCOW、CCOWによる探鉱量の低下 
    ニ)地方政府の鉱業に対する不慣れ 
    ホ)環境問題 
    へ)無くならない不法採掘 
    ト)輸入品で占められる鉱業関連施設、設備 
    チ)土地利用権をめぐる争い 
    リ)生産物の付加価値が低い
  • [5]これらの問題を解決するため、鉱業法を以下のように改正し、投資の増大、鉱業生産の増加、国民福祉の拡充、国・地方政府の収益力強化を図りたい。 
    イ)金属鉱物・石炭資源は国民の財産であり、国家は国民のためにこれを管理する 
    ロ)鉱業権は、国家及び地方政府が付与 
    ハ)生産活動は国民(特に資源所在地の居住者)の利益にならなければならない 
    ・税収及び税外収入の確保、国と地方への配分 
    ・生産物の付加価値を極大化 
    ・石炭を国内エネルギー源として活用 
    ・生産物を国内の戦略的産業へ供給 
    ・地域開発と雇用の創出 
    ・環境保全 
    ニ)国家と地方の権限と責任の明確化 
    ホ)企業の説明責任 
    へ)鉱業権発給手続の単純化 
    ト)(COW、CCOWのような)国家または地方政府が企業と直接契約を締結するような仕組みはとらない
  • [6]新鉱業法は国会での議論を受けて現在最終法案を作成中であり、間もなく成案が得られる見込みである。
表1. インドネシア金属鉱物・石炭生産量
  2005 2006 2007
千t 1,083 818 797
t 143 86 118
t 326 261 269
錫精鉱 千t 78 81 66
錫地金 千t 68 65 64
ボーキサイト 千t 1,442 1,502 1,251
ニッケル*1 千t 77 73 78
ニッケル精鉱 千wmt 4,081 4,354 7,113
フェロニッケル*2 千t 7 14 19
石炭 百万t 153 180 179
*1 ニッケルマット中のニッケル純分量
*2 フェロニッケル中のニッケル純分量
出典:エネルギー鉱物資源省資料

表2. インドネシア金属鉱物・石炭輸出量
  2005 2006 2007
千t 788 611 474
t 109 66 80
t 233 179 174
錫地金 千t 67 61 64
ボーキサイト 千t 1,618 1,537 964
ニッケル*1 千t 77 73 78
ニッケル精鉱*2 千wmt 4,097 4,309 6,907
フェロニッケル*3 千t 7 14 18
石炭 百万t 106 130 140
*1 ニッケルマット中のニッケル純分量
*2 ニッケル精鉱の単位wmtは湿潤重量
*3 フェロニッケル中のニッケル純分量
出典:エネルギー鉱物資源省資料

表3. COW及びCCOW(石炭)の状況
  活動中 終了 総計
概査 探鉱 FS 開発 生産 小計
COW 3 13 9 4 12 41 194 235
CCOW 5 18 17 37 77 64 141
出典:エネルギー鉱物資源省資料

表4. 探鉱開発投資額推移
(単位:百万US$)
  2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007
COW(金属) 467 303 238 324 506 778 728
CCOW(石炭) 114 66 142 134 239 275 294
国営会社 278 121 353 563 135 72 158
合計 859 490 733 1,021 880 1,125 1,180
出典:エネルギー鉱物資源省資料

図1. 探鉱開発投資額推移
図1. 探鉱開発投資額推移

表5. 鉱物資源(非石油・ガス)開発からの国家収入
(単位:1億Rupiah*)
  2006 2007
税収 230,263 286,370
税外収入 66,648 86,971
 鉱区料 582 762
 ロイヤルティ 41,640 57,718
 石炭ロイヤルティ 24,426 28,490
合計 296,911 373,341
(参考)国家総収入 6,377,990 7,230,580
出典:エネルギー鉱物資源省及び中央統計局資料
*1億Rupiahは、おおよそ1万US$に相当

3. IMA:インドネシア鉱業協会
 IMA(インドネシア鉱業協会: Indonesian Mining Association)会長Dr. Arif Siregar(PT. Inco社長)が、インドネシア鉱業界を代表して次のとおり発表した。

  • [1]鉱業とは 
    イ)再生不能資源を採掘するものであり 
    ロ)環境への影響を最小限とし 
    ハ)持続可能性を追求し 
    ニ)良好な鉱業活動を行うことが必要である。
  • [2]また、鉱業の役割として次を念頭に活動を行っている。 
    イ)地域開発 
    ロ)雇用機会の増進 
    ハ)自治権の尊重、進展
  • [3]鉱業の発展には“持続可能性”が鍵を握っており、現鉱業法が制定された1967年以降に起こっている世界の変化に対応した法改正が必要である。 
    イ)グローバリゼーションの進展 
    ロ)自由貿易協定 
    ハ)中国の改革開放政策 
    ニ)110に上る国における鉱業法、鉱業政策の改定 
    ホ)鉱山会社における合併の進行 
    へ)商品価格とインフレーションの不整合 
    ト)技術、産業の進展
  • [4]そして、鉱業と地域の発展のために、関係機関と広く協議・調整された上での新鉱業法の制定が不可欠であり、協力と進歩をキーワードに、産業界と地域とが政府の後押しを受け、発展し、利益を享受していくことが重要である。
  • [5]最後に鉱業法改正の進展状況については、2008年中に成立見込みとの話も一部からは聞こえてくる。しかし、3年以上にわたって国会審議が続き、間もなく成立との情報がこれまでも幾度となく報じられながら、現在に至っている。この間、積極的な鉱業投資も行われてこなかった。鉱業、国、地方の発展のためには、一刻も早い鉱業法成立が必要である。

4. 外資企業による鉱山開発事例としてのGrasberg(グラスベルグ)鉱山
 PT. Freeport Indonesia社(Freeport-McMoRan 90.64%、インドネシア政府9.36%)副社長Mr. Tony Wenasが、Grasberg鉱山の国及び地域への貢献について発表した。

  • [1]COWに基づきGrasberg銅・金鉱山を運営している。第1次COW(Ertsberg鉱山)が1967年4月に、第2次COW(Grasberg鉱山)が1991年12月に締結されている(期間30年、10年間2回の更新可能)。これまでインドネシアへ多大な貢献を果たしてきており、今後も引続いての貢献を約束(表6~8)する。
  • [2]2007年は、平均5,000t/日の銅精鉱(品位Cu 28.5%、Au 40.8g/t、Ag 80.8g/t)を生産した。
  • [3]インドネシア投資へのインセンティブとして次が挙げられる。 
    イ)資源賦存ポテンシャルの高さ 
    ロ)新投資法制定(2007年)による原則内外無差別、税制特典等のインセンティブ等
  • [4]インドネシア鉱業の問題点として次の事項がある。 
    イ)多くの権限が地方政府へ移管されているが、地方政府にはそれを実行するだけの力がない 
    ロ)地方政府による、上位法令に合致しない条例の制定 
    ハ)地方政府収入増大の要請
  • [5]新鉱業法については、 
    イ)既存COWの取扱いに注目している 
    ロ)国会議員の中では、既存COWは新鉱業法に適合させるべきという意見あり 
    ハ)政府は、既存COWはその契約期間中は尊重されるという意見 
    ニ)新法の下では新規のCOW(国との鉱業事業契約制度)は廃止 
    ホ)生産物の国内製錬等義務が課される等の事項を挙げ、インドネシアの発展のためには早急な解決が必要であると訴えた。
表6. Grasberg鉱山のインドネシアGDPへの寄与
(単位:10億US$)
  2003 2004 2005 2006 2007
インドネシアGDPへの寄与額 3 3 8 9 10
寄与率 1.15% 1.08% 2.78% 2.57% 2.42%
出典:PT. Freeport Indonesia社資料

表7. Grasberg鉱山のインドネシア財政への貢献
(単位:10億US$)
  2007 1992~2007
税、配当及びロイヤルティ 1.8 6.9
給与、国内資材購入、周辺投資 1.3 12.3
出典:PT. Freeport Indonesia社資料

表8. Grasberg鉱山の鉱山周辺地域への貢献
住宅 2,000棟以上
病院施設 病院2件、診療所5件保有
2007年は延べ150千人以上が受診
奨学金給付 受給者7,000人以上
学校、寄宿舎 30以上
協会 100以上
直接雇用者 12,453人(2007年)
(34.48%がパプア人)
間接雇用者 8,166人(2007年)
出典:PT. Freeport Indonesia社資料

4. おわりに
 今回の会議では、インドネシア政府、鉱業協会、進出外資企業がそれぞれインドネシア鉱業についての見解を表明した。それぞれ立場は異なるものの、国、地方、鉱業の発展のためには、安定した法制度とその運用体制を整え、外国投資を呼込む必要があるという点で共通している。そのための第一歩として新鉱業法の早急な成立が必要であり、続いて詳細を定める省令、地方政府への運用支援等が必要である。
 なお、鉱業界として地方振興のための責務の一端を担っていることの自負と共に、本来は政府の施策として実施しなければならない地方振興策を、東南アジアの鉱業諸国は民間企業である鉱山会社に負わせ過ぎているのではないかという声も場外から聞こえたことも付記しておく。

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