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報告書&レポート

2008年12月18日 ロンドン事務所 竹谷正彦報告
2008年84号

Mining Journal社「Copper Day」セミナー参加報告

  Mining Journal誌が主催する「20:20 Investor Series」と称されるセミナー・シリーズの一環として、「Copper Day」セミナーが2008年10月10日にロンドンで開催された。同セミナー・シリーズでは、主に欧州の投資家向けに、各金属、あるいは国毎のテーマにより年間10回以上開催されている。個々のセミナーの共通テーマは、金属の需給・価格動向、各国の鉱業法規、採鉱・生産動向、そして関連企業の事業内容・展望・投資ポテンシャルなどである。
 今回のセミナーでは、銅にスポットを当て、需要、価格動向に関する講演が1件、探鉱企業による自社プロジェクトの概況についての講演が8件行われた。以下、その主な講演の概要を報告する。

1. 銅市場の需給・価格動向
Aspermont UK社(英)‐Chris Hinde Editorial Director
 Aspermont UK社は鉱山業界を専門とする出版社であり、Mining Journal(週刊)などを発行している。編集担当のChris Hinde氏が、過去40か月の銅市場状況と価格動向の概要及び市場の展望について講演した。

(1)銅市場の価格動向
 セミナー前日に銅価は4,750US$/tと前の日から14%急落するなど、世界的な金融市場の混乱を背景に、銅市場も乱高下の傾向にあり短期的な不安定状態に陥っている。
 銅価の2006年2月平均値は4,700US$/tであったのが、3か月後には72%急騰し8,200US$/tを付けた。その後9か月間に35%下落し、2007年2月には5,300US$/tとなった。2008年に入ってからは1~4月まで4か月は8,700US$/tと高値で推移し、いったん下降したものの、7月にはまた高値を付けたが、その後3か月内に40%下落し5,200US$/tまで落ち込んだ。

図1. 銅・金価格の推移
(出典:プレゼンテーション資料より)
図1. 銅・金価格の推移

図2. 各国通貨による銅価推移
(出典:プレゼンテーション資料より)
※銅価はUS$通貨単位で計算されるのが一般的であるが、豪ドル(A$)、カナダドル(C$)、南ア通貨(Rand)、EUユーロ通貨(€)で判断した場合では、銅価の価値は必ずしも一致しない。
図2. 各国通貨による銅価推移

(2)需給バランス
 ICSG(国際銅研究会:International Copper Study Group)の報告(10月時点)によると、2008年前期では銅の供給は125,000t不足するが、後半には反転し、235,000tの余剰が予測されることから、2008年度の需給バランスは最終的に100,000t供給過多になるとされる。
 2009年度は275,000tの供給過多が予想されている。これは全体需要の1.5%に相当する。
 ただし、現況の世界的な金融市場の混乱によって経済活動が減速し銅利用も減少するとみられている(すでに中国ではその傾向が現れている)。また、信用収縮が銅産出の遅延を招くといった悪影響も免れず、予測数値データの修正が必要になると思われる。

(3)銅生産状況
 2008年度の銅の採鉱生産量は1.8%上昇し、15.7百万tになると予想される。上昇率の95%はSxEw方式の製錬法を導入したことによる。ただし、原鉱品位の低下、生産障害、施設利用の制限、現地労働状況の懸念などから銅精鉱の生産はフルキャパシティに達していない。これらの障害が改善されれば2009年の鉱石生産量は10.7%の大幅上昇となり、17.4百万tになると見込まれる。
 2008年度の銅の地金世界生産量は1.9%上昇し、18.4百万tになる見込み。08年度、09年度も精鉱不足が続くとされるものの、2009年度の地金は、生産量は19.2百万tになり、4.3%の上昇と予測している。

(4)銅の消費量
 2007年度の銅消費量は17.7百万t、伸び率は4.1%となった。これは主に中国での需要消費によるもの。中国の銅総輸入は144%の上昇を示した。反面、2008年では中国での消費が減少したことから世界消費量は3%の伸びにとどまった。2009年は既に消費減少の兆候がみられているが、中国のほかインド、エジプト、湾岸諸国などで大規模な建設計画が出ており総生産量は18.9百万t、3.4%の伸び率を予想している。

表1. 銅生産見通し
(単位:百万t)
2007年(確定) 2008年(推定) 2009年(予測)
ラテンアメリカ 7.127 7.195 7.494
北アメリカ 2.114 2.184 2.603
オセアニア諸国 1.040 1.081 1.310
アフリカ大陸 0.842 1.011 1.285
アセアン10か国 0.898 0.773 1.022
アジア、CIS 0.515 0.521 0.550
その他アジア 1.400 1.464 1.603
EU27か国 0.748 0.716 0.741
その他ヨーロッパ諸国 0.755 0.778 0.798
合計 15.441 15.720 17.406
伸び率 3.1 1.8 10.7
(出典:プレゼンテーション資料より)

 ラテンアメリカと北アメリカでの合計採鉱量は、ほぼ全体の2分の1を占める。
 オセアニア諸国、アフリカ大陸、アセアン10か国、アジアCISをあわせた地域の伸び率は15.25%となっている。

2. 探鉱・開発企業による講演
2-1. Weatherly International(英社、AIM上場)
Mr Rod Webster, Chief Executive Officer

 南部アフリカのナミビアに拠点を置く、銅生産及び製錬を行う会社。現在、中部地区のOtijhase、Mathless、北部のTsumeb West、Tschudiの4か所で坑内採掘と地金生産を行っている。銅の総資源量は690,000tとされている(JORC基準)。北東部のOtavi Valley地帯のBerg AukasプロジェクトはFS段階に入っており、2008年内に完了する予定。
 ほかにナミビアの他にブルキナファソ北部のTambao Manganeseプロジェクトを有する。
 Tsumeb製錬所は、ナミビアにある4製錬所のうちの一つで、複雑鉱の精鉱を処理している。純度98.6%の粗銅を生産し、ほかにも金、銀、鉛、砒素を若干精製している。2008年度の粗銅生産は30,000t/年を見込み、拡張工事が終了する2009年中頃には年産50,000t生産能力となる。自山鉱が5割、残る5割は近隣諸国からの輸入鉱である。鉄道、港などインフラに恵まれていることから、ザンビアなどアフリカ内部に留まらず、北米や欧州市場への進出も視野に入れており、現時点ではブルガリアとペルーからの精鉱を最大で年間74,000t製錬する長期契約を結んでいる。
 Weatherly社所有鉱床における総鉱物資源量(2007年)は59百万t、銅含有量は695,219t、銀含有量は532,108t(JORC基準)と報告されている。詳細は表2のとおり。

表2. Weatherly社がナミビアに所有する銅鉱床
鉱床名 資源量 品位 銅含有量
(t)
銀含有量
(t)
金含有量
(t)
銅年産能力
(t)
マインライフ
(精測・概測・予測) Cu Ag Au
(百万t) (%) (g/t) (g/t)
Tschudi 43.388 0.83 10.52 358,117 14.20 3,400 4年以下
Tsumeb West 0.649 2.28 18.62 14,828 0.38 1,600 5年以下
Matchiess 0.917 3.2 29,346 2,300 10年以下
Otjihase 12.168 1.86 7.17 0.31 225,784 0.70 3.78 6,200 14年
Kombat 2.783 2.18~3.37 43 67,145 1.28
(開発段階)
合計 59.905 695,220 16.55

 2008~2009年度の銅予測生産量は中部地域オペレーション(Otjihase鉱床、Matchiess鉱床)で8,500t(2008~2009年の数字)、Otjihiase選鉱所にて年間100万t選鉱処理能力を見込む。
 北部地域オペレーション(Tschudi鉱床、Tsumeb West鉱床)では、2008~2009年の銅予測生産量は5,000t、Tsumeb&Slag選鉱所にて、年間800,000t(Nameplate Capacity)の選鉱処理を見込む。
 そのほかに開発段階のOtavi Valley鉱床地帯では年間400,000tの選鉱(Kombat選鉱所)処理を見込んでいる。

BERG Aukasプロジェクト
 Berg Aukasはナミビア北部に位置するOtavi Valley鉱床地帯内にあり、同社が100%の権益を有する。
 母岩はドロマイトであり亜鉛、鉛、バナジウムを生産していたが、元々坑内水が多く1978年に洪水のため閉鎖された。再開発は、既存のKombat鉱山(再開発中)のインフラ設備と製錬所を再利用する。これまでのデータでは、鉱物資源量は1.7百万t、亜鉛17%、鉛5.0%、バナジウム(V2O5)0.6%が確認されている。2008年にFSを完了し、2010年に生産再開の予定。年間250,000tの精鉱生産量をベースにした場合、亜鉛、鉛、V2O5の年産量はそれぞれ30,000t、10,000t、750tを見込んでいる。マインライフは最大10年。初期投資は最大で15百万US$と見込まれる。

Tambao Manganeseプロジェクト
 北西アフリカのブルキナファソでのプロジェクト。Tambo鉱石地帯では19百万tのマンガン(品位50%)が確認されている。同社が72%の権益を保有する。2008年後期にバンカブルFSが完了予定。

表3. Tambao Manganeseプロジェクト生産見込
  0~2年段階 3~4年段階 4年以降段階
マンガン年間生産量(t) 350,000 550,000 1百万
資本金(百万US$) 124 113 134
操業コスト(US$/t) 85 58 48
(2008年2月時点のWorley Parsons社による暫定報告書より)

図3. プロジェクト位置図
(出典:プレゼンテーション資料より)
図3. プロジェクト位置図

2-2. EMED Mining (キプロス、AIM上場)
Mr Harry Anagnostaras-Adams, Managin Director

 キプロス共和国に本社を置き、主に銅、金を開発・採鉱する鉱山開発会社。採掘活動拠点は北及び中央ヨーロッパ諸国、イランを含む中東地域であり、過去に銅、金を採掘したVMS(火山性塊状硫化物)鉱山の再開発を行っている。現在、Klirou Copper-Zinc(キプロス共和国)、Biely Vrch(スロバキア)、PRT(Proyect de Rio Tinto、スペイン)で3つのプロジェクトを実施している。このほかにトルコの採掘権を保有するKEFI Minerals社(AIM上場)の権益32%を取得。今回の講演ではPRTプロジェクトに焦点が当てられた。

(1)PRT(Proyecto de Rio Tinto)プロジェクト
 同社最大のプロジェクト。PRTはスペインのセルビア市北西65kmに位置する同国最大の鉱床地帯。鉱床地域の範囲にわたる採掘権(20km2)と探鉱権(36km2)を所有し、同社が100%の益権を有する。2009年の再生産操業に向けて現地当局との法的手続、経済的評価などの最終的調整段階に入っている。ただ現在は、世界的な株式市場が正常化するまで一時的に施設の修理作業を中断している。
 1990年代おけるPRTの銅粗鉱年産量は最盛期に900万t(最大年の1998年)、粗鉱品位Cu 0.49~0.61%、Cu回収率82~86%、精鉱品位Cu 23%(最大)であった。再操業後も同レベルの生産量を計画している。AMCコンサルタントによる生産計画によると、2011年より年間粗鉱処理量8.5百万t、銅精鉱年産量36,000tを見込んでいる。マインライフは10年間以上。またEBITDA(金利・税金・償却前利益)の年平均額は40百万US$を見込む。(設定銅価2.67US$/lb)

表4. PRT鉱床の鉱物資源量
  資源量(百万t) 品位Cu (%) 銅含有量(t)
概測 48 0.38 180,000
精測 155 0.48 750,000
予想 2 0.50 10,000
合計 205 0.46 940,000
※カットオフ品位Cuは0.20%
(JORC基準)

表5. PRT鉱床の鉱石埋蔵量
  鉱石量(百万t) 品位Cu (%) 銅含有量(t)
確定 38 0.37 140,000
推定 85 0.52 440,000
合計 123 0.48 580,000
(JORC基準)

 カットオフ品位Cu 0.20%を基本にして算出したEBITDAは、LME銅価2.30US$/lbの場合において、最初の5年間で±40百万£、銅価が2.70US$/lbを維持した場合は±46百万£と試算される。

(2)Klirou Copper-Zincプロジェクト
 Klirou地帯は首都ニコシア市の約20km南西に位置し、VMS銅鉱床を形成するTrodosオフィライト複合地帯内にある。
 2006年にプレFSが完了し、2007年にはプレFSの報告事項を裏付けるための調査をAMCに発注して済ませ、環境影響評価と並行してフルFS段階にあるが、6か月前より、政情不安のため同プロジェクト開発は中断している。
 これまでの調査で予想鉱物資源量は4.5百万t、品位Cu 0.41%、銅含有量18,500t、品位Zn 0.74%、亜鉛含有量33,400tが確認されている。今後、過去の探査データをもとにTroodos複合体地帯の南西部を中心に地質、ボーリング調査が予定されている。

(3)Delva及びStiavnica-Hodrusa Licences金探鉱プロジェクト
 東欧スロバキアの2つの金鉱床採掘プロジェクト。同社がそれぞれ100%の権益を取得している。2006年にDetva Licence地帯のBiely Vrch地域で精密ボーリング調査が開始され、2007年のボーリングで大規模な金鉱化帯が確認された。斑岩金鉱床とされるBiely Vrchの東西250m、南北100m、地下460m範囲における鉱物資源量は50百万t、品位Au 0.2~1.9g/t(典型的な品位は0.8~1.1g/t)、含金量1.2百万oz(37t)と推測しているが、今後さらに探査調査を行い、JORC基準に沿って再計算を行う予定。
 もう一方のStiavnica-HodrusaLicence地帯では、金2.4百万oz(75t)、銀120百万oz(3,732t)、亜鉛70,000tが過去の探鉱で確認されているが、現在、同社は、最新技術を導入して同鉱量増大を目指して調査を続けている。
 同社では、他にトルコの鉱山会社KEFI Minerals社(AIM上場)の32%の株式を取得している。グルジア共和国で進めていた初期段階の金探査プロジェクトは2008年7月より停止している。

図4. プロジェクト位置図
(出典:プレゼンテーション資料より)
図4. プロジェクト位置図

2-3. Discovery Metals(豪社、ASX、BSE、AIM上場)
Mr Brad Sampson, Managing Director

 2003年に豪州で設立された探鉱開発会社。アフリカ南部のボツワナにおけるBoseto Copperプロジェクトの開発に重点を置くことで効率的な利益獲得を見込んでいる。同社はまた、ボツワナ北東に位置するSelebi-Phikwe地域でDikoloti Nickel鉱床の地質調査も進行している。そのほかに豪州で小規模な3プロジェクト(うち2つは同社が51%の権益を有するJVプロジェクト)にも着手している。今回の講演では同社最大のBoseto Copperプロジェクトに焦点が当てられた。

(1)Boseto Copperプロジェクト
 ボツワナ北西に分布するKalahari Copper Beltで12,000km2の鉱区を有する。また、6,435km2の範囲でZeta、Petraなど7か所の鉱床の探査・採掘権100%を取得している銅探鉱・開発プロジェクト。現在、第2段階のボーリング調査を終了している。プレFSの報告では、操業可能期間は2011から2020年の10年間。露天掘で、いずれも年間鉱石生産量は2百万t、銅生産量は23,500t、銀生産量は9,000tを見込んでいる。プロジェクトの総予算は185百万US$。バンカブルFSが進行中であり、2009年中期に完了予定。

<生産操業までのスケジュール>
2006年Q1 ~2008年Q3 FS報告のためのボーリング調査
2008年Q3   プレFS完了
Q4   環境影響評価完了、バンカブルFS開始
2009年Q3   工事着工
2010年Q4   試験操業開始
2011年Q1   銅、銀生産開始

表6. Boseto鉱床の鉱物資源量
鉱床名 予想鉱物資源量(百万t) Cu(%) Ag(g/t)
Plutus 15.9 1.6 16.4
Petra 4.5 1.1
Zeta 30.0 1.2 18.2
合計 50.4 1.3 17.6

(2)Dikoloti Nickelプロジェクト
 ボツワナ北東に位置するSelebi-Phikwe地域のニッケル鉱脈612km2範囲の採鉱ライセンス許可を所得している。鉱床はBCL Ltd.が所有し、選鉱場が稼動している。予想鉱物資源量は、4.1百万t、ニッケル0.7%、銅0.5%、PGE 1.5g/t、カットオフ品位Ni 0.5%と算出されている。2008年後半に経済性の再評価が報告される予定で、同鉱床のもたらす利益は40~50百万A$と予想される。(設定ニッケル価格22,000US$/tベース)

図5. プロジェクト位置図
(出典:プレゼンテーション資料より)
図5. プロジェクト位置図

2-4. Vulcan Resources社(豪社、ASX上場)
Mr Alistair Cowden, Managing Director

 フィンランドの東部Kylylahtiで、銅・金バルク精鉱及びニッケル・コバルト・亜鉛バルク精鉱生産プロジェクトを手掛ける。しかし、世界的な株式相場下落の影響を受けて資金調達が難航、同社のプロジェクト開発は中断している。同社資本の45%を欧州投資家による株式投資に頼っているため、現在は賛同企業との提携など経営体制の見直し、再編に取組んでいる。同社最大のKylylahtiプロジェクトについては、6か月後に同プロジェクトの再開ができるものと期待している。

Kylyhahtiプロジェクト
 FS、環境影響評価など必要な手続が完了。地下採掘で、年間生産量800,000t。マインライフは10年。銅金鉱石とニッケル・コバルト・亜鉛鉱石を採掘。ニッケル・コバルト・亜鉛バルク精鉱は、Kaajaniの南東約35kmのTalvivaara製錬所に出荷される。いずれも年間の生産量で、含金銅精鉱からは銅8,800t、金0.4t、ニッケル・コバルト・亜鉛・銅バルク精鉱からはコバルト1,900t、ニッケル1,350t、亜鉛3,800t、銅1,700tの生産が見込まれている。

図6. プロジェクト位置図
(出典:プレゼンテーション資料より)
図6. プロジェクト位置図

上記各社の他、Exco Resources(豪社)、Yellohead Mining Plc.(加社)、Hampton Mining Ltd.(英社)Copper Fox Metals Inc.(加社)による自社プロジェクトの講演も行われた。

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