報告書&レポート
ロンドン『第6回Mines and Money 2008』カンファレンス参加報告

毎年、ロンドンで開催されている『Mines and Money』カンファレンスであるが、2008年は、12月2~3日の2日間で開催された。ロンドンは、国際的な鉱山関係企業の本拠地が多く、また、世界的な資本・金融センターとして重要な拠点の一つでもあることから、本カンファレンスは鉱業分野への投資を主なテーマとしている。以下、本カンファレンスで講演された内容を、「金融危機に直面する鉱山企業の現状」及び、「市場回復時期の予想」に分けて報告する。 |
1. はじめに
昨年同時期に行われた鉱業ブーム時の『Mines and Money』とは打って変わって、2008年のブース数は140社、そして、参加者は公式には2,500名と発表されているが、実際の人数はそれ程多く見受けられなかった。金融危機による企業の株価暴落そしてコモディティ価格の急落を反映して、講演の多くは不況に関する内容で、第2日目の講演会場では、本カンファレンスの開幕式に比べ講演への参加者は半減し、講演会場外で鉱山企業、金融機関、投資家が真剣に意見交換を行っている場面が多く見受けられた。なお、本カンファレンスに参加したジュニア企業の中には、「これでは、『Mines and Money』ではなく、『Mines and No Money』だ。」とコメントをする者もいた。
2. 金融危機に直面する鉱山企業の現状
(2)-1. ジュニア企業の動向 ~Mines and No Money、中国の投資が解決法か?~
Standard Bank社のデータによると、2008年全体の鉱山企業の資金調達は、前年比23%増の過去最大となっているが、2008年下期初頭の金融危機そして銀行の貸し渋り等が大きく影響し、現在も鉱山分野の株価は急落している(図1を参照)。Ernst &Young社の調査によれば、英国での鉱山企業のIPO(株式新規公開)による資金総額は、2008年上期に約44億US$を記録したが、同年下期の現在は、1百万US$以下である。この状況により、Societe Generale社のJudith Mosely女史は、「この資金繰りの悪化により、弱者は生き残れない。」とまで発言している。
本カンファレンス講演者の多くは、「現状の鉱山企業にとって重要なことは、経済性のある資産(長期のマインライフ、良い資源量、低コスト、低リスク等)と、強固なマネージメントを確立すること」と述べる。しかしながら、経済性のある資産はメジャー企業が占有し、強固なマネージメントには資金繰りが必要なので、ジュニア企業にとっては、実行し難い助言であった。よって、この状況から、「生き残ろうとしている」ジュニア企業には、典型的に2つの動きが見られる。1つは、メジャー企業と同様、プロジェクトの進行を減速させ、コストを最小限に抑制するケースである。Ernst &Young社の2008年11月末までの調査によれば、現在探鉱活動を休止している鉱山企業は、AIM上場企業(LSE(ロンドン証券取引所)傘下の主として中小ベンチャー向け市場)で187社、TSX-V(トロントベンチャー取引所)上場企業で1,500社に上り、経済が回復するまで、更に休止する企業が増加すると予想されている。2つ目は、資金調達を急ぎ、M&A、合併、または資金支援パートナーを継続して探しているケースである。特に、M&A及び合併の機会は、西側世界の経済では、2008年後半から激減しているため、現在でも依然として活況を呈しているBRICs諸国(特に中国、ロシア)での資金調達を狙うケースが増加している。香港株式市場を運営するHKEx(香港取引所)の副社長Fok氏によれば、HKExの市場では、2008年7月1日から海外企業がDR(預託証券)の発行を通じて香港市場に上場することを認めたことにより、ロシア、カナダ、豪州、カザフスタン及び、モンゴルの海外企業の上場が誘致され、また、合併及びM&Aが増加していると述べる。Global Mining社のKeith Spence氏も、「中国では未だ政治的抵抗があるかもしれないが、海外投資の余地が多くあると考えられ、西側の企業は、中国を代替的な投資先として注目していくべきだ。」と述べた。
(出典:2008年11月26日付けのBloomberg、Standard Bankによる統計データ)
図1. 平均企業株式価格の指標推移(1998~現在まで)
(2)-2. メジャー企業の動向 ~寒さに対する完全防備~
金融危機はメジャー企業にも打撃を与え、図2のとおり、株価収益率は激減している。Mining Journalの編集者であるPhil Halliday氏は、「メジャー企業は現在、この大きな底冷え状態に対応するために、操業状況やコストを見直し、また、必要な場合には、減産や閉鎖を行い、極寒の冬に備えている。」と述べた。無論、多くの場合、コモディティ価格が生産コストを下回る時は、赤字を減らすため操業停止は妥当な策である。また、この供給削減が、価格回復に寄与する。
例として、FCX社も現在は、操業コスト及び資本支出を減額し、生産調整を行っていると述べた。また、「メジャー企業の中には、ジュニア企業が手放す権益及びそれら企業自体のバーゲンセール前に準備している企業がある。」と予想する講演者もいた。本カンファレンスでは、Rio Tintoは現在、財務状況の見直しを完了し、[1]Assets(コモディティそして世界の多様性)、[2]Value(CSR、地域社会を通して価値の創造)、[3]Cost-Reduction(ディスカバリーコストの削減)をモットーに、探鉱は拡大すると講演した。
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(出典:LSE) |
図2. FTSE 100の鉱山会社:現在及び予想されている株価収益率の割合 |
(2)-3. M&A動向~西側世界のメジャーなM&Aは減少基調~
Standard Bankのデータによれば、過去3年間は、Rio TintoのAlcan買収(380億US$)、FCXのPhelps Dodge買収(259億US$)、XstrataのFalconbridge買収(188億US$)、CVRDのInco買収(157億US$)などの大型M&Aが見られた。しかしながら、現在の市場では、メジャーなM&Aが影を潜め、2008年はBHP Billion-Rio Tinto、Xstata-Lonmin、Vale-Xstrata、Sterlite-AsarcoのM&Aは、全て中止された。Societe Generale社によれば、これは、企業の[1]急速な市場悪化への不安、[2]負債管理及び負債ファイナンスへの懸念、[3]この変動期における買収資金借入れの困難性があるからである。なお、上記のとおり、BRICs経済では現在に至るまでM&Aの勢いは決して減退の気配は無く、中国企業は依然として活発である。
(2)-4. 中国の投資動向 ~投資は未だ活況、投資先をアフリカから西側世界へ転換~~
中国の海外直接投資は、特に天然資源及びハイテクの分野で増加基調にあり、現状でも活発である。Deloitte社のDebbie Thomas女史によると、総合分野での海外直接投資は、2007年が推測額200億US$(国内直接投資は1,400億US$)、2008年は同500億US$(国内直接投資は1,000億US$)と2.5倍となっている。これは、中国の『[1]世界貿易の多様性』と『[2]現況での強い為替レート』から恩恵を受けていると考えられる。また、鉱業分野において、現在までの中国の主な海外投資プレーヤーは、中国アルミ業公司(=Chinalco)とSinosteel社で、前者は、2008年2月にRio Tintoの株式12%を約143億US$で買収し、後者は2008年7月に豪州の鉄鉱石企業Midwestに対して13億US$の買収オファーを提案している。
過去数年に多く見られた中国の鉱業投資動向は、銅、アルミを中心に資源確保を目標として、アフリカ等のような新興成長市場に出ている初期段階のプロジェクトへの投資が多く見られた。中国は政府間でインフラ協定を結び、特にアフリカでは、ザンビア、ニジェール、DRCコンゴ(2008年7月にインフラ開発へ60億US$と鉱業活性化に30億US$、合計90億US$を投資)を中心にインフラ設備に投資する代わりに、鉱山プロジェクトの権益を確保している。しかしながら、現在では、経済不安が原因で、アフリカの初期段階プロジェクトへの投資から、先進国(インフラ設備が十分に整っていて、熟練者の多い資源保有国[特に、豪州、カナダ、チリ])で巨大なアドバンスド・ステージのプロジェクトへの投資へと変えつつある。
なお、中国は2007年、カナダのBC州での石炭プロジェクト(UG)において、400名の中国人をカナダへ移住させる計画を発表し、カナダと大きな議論を引起こした事件など、複数の問題も残している。しかしながら、パネルディスカッションでは、「中国の市場出資の傾向は、事業を失敗した際に、ヨーロッパに対して面目を失わないためからか、41%以下のマイナー株式及び権益を狙っているように考えられる。」という意見も出て、これは資金のみを調達したい企業にとっては、有利な条件であると考えられ、また、中国は資金調達が早く、鉱山プロジェクトへの取組みが早いということも利点として挙げられていた。例えば、通常は製錬所建設には、少なくとも5年を要すると考えられるが、中国はザンビアにて2年で建設を完了している。これらの事象からも、本カンファレンス講演者からは、中国の投資が「この逆境の助け」のように説明している者が多く、先進国でも中国投資が受入れられつつあるように感じられた。
(2)-5. 資源保有国の動向 ~鉱業ブームは国益を増強、現在は外資導入姿勢~
資源保有国は過去数年間、金属価格の高騰をきっかけに、鉱山の重要性を再認識し、資源開発による国益の確保策を増強させてきた。例えば、エクアドル、ギニア、タンザニア、ザンビアでのロイヤルティの引上げ、タンザニア及びボリビアの法人所得税の上方修正、エクアドル及びベネズエラの資源ナショナリズム、DRCコンゴ、ギニア及び、シエラレオネの鉱業権の見直し、豪州でのウラン探鉱認可に対する州政府の主導権、ロシアでの一部資源ナショナリズムなどが挙げられる。また、直近では、2008年12月に南アがロイヤルティ法を制定した。
現在、供給サイドでは、アフリカは新興成長市場を先導する投資先となりつつあるが、昨今の金融危機では、ガバナンスの弱さ、インフラ設備不足等が浮き彫りとなり、政府へ権益が戻る可能性が高くなると予想する者もいた。このことからも、資源国は外資導入姿勢に再転換し、また、上記のとおり、中国が巨大なアドバンスド・ステージへの参入を狙い、政府レベルでの投資協力関係(例えば、中南米及び豪州等)を深め、資源を確保する動きが見られつつある。
3. 市場回復時期の予想 ~市場回復は2009年後半、2010年、それとも2012年か?
ポジティブな予想とネガティブな予想が交錯~
(3)-1. ポジティブな予想
本カンファレンスの多くの講演者は、市場回復時期について、“2009年後半”と期待している。Ernst &Young社のMichael Lynch氏は、2009年には銀行が特に中小企業向けのdebt financing(負債金融)を再開するので、経済の回復によって需要が増え、2009年の後半には、コモディティ及び株式価格は回復するであろうと予想している。その他、ポジティブな予想として、Petaquilla Minerals社のGianni Kovacevic氏は、「過去100年の銅需要の統計では、中国は市況悪化に影響されず、年間約4%ずつ増加しており、また、BRICs諸国の銅需要は継続して増加基調にあるため、中国及びインドが主要な消費国となって、2009年、2010年、または2012年の近い時期に、価格は回復するであろう。」と予想していた。
(3)-2. ネガティブな予想
2008年の価格高騰及び鉱山活動の活発化を反面に、会場内の一般的な見方として、2009年も継続して落下するであろうと予想する声が多かった。現状では、需要が減少し、ヘッジファンドの返済も増加、また、現物価格で取引する企業が増えているため、実質的には下落が予想されている。また、Standard BankのThys Terblanche氏は、「現在は企業が鉱山の閉鎖または減産を活発に行いつつあるので、供給減により金属価格が回復し、その回復が、稼動再開の動機となることは確実に言えるが、回復時期を予測することは不可能である。」と述べている。世銀のPaulo de Sa氏も、「新興成長市場の需要はこの先数年間増加が継続することは予想され、Chinese Miracleの継続も期待はされているが、この先12か月間の市場予想は難しい。」と言う。また、パネルディスカッションでは、現在の市況を受け、操業コスト削減のために、多くの労働者が解雇されているが、現在の鉱山業界の熟練雇用者の平均年齢は高齢であり、経済回復後に容易に復帰させることができるかが懸念され、更なる人材不足も今後の課題として議論されていた。
4. さいごに
2007年の『Mines and Money』では、生産が需要に追いつかず、中国による資源独占化が懸念されていたが、2008年の『Mines and Money』では、中国に対して、中国の内需の拡大により世界的な需要の落ち込みを緩和させる役割や景気回復のための牽引車としての役割が期待されていた。また、ジュニア企業の資金繰り悪化により、中国企業に対する出資への期待が主題となった。ジュニア企業は、金融危機が短期であれば、現在の対策である探鉱/採掘の規模縮小または稼働休止により対応できるが、ジュニア探鉱企業の資金調達が難しくなってきていることは既に明らかで、今後も厳しい状況が続きそうである。

