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豪州の主要な資源開発プロジェクト-ABARE発表の主要開発プロジェクトリスト(2008年10月末現在)

2008年11月19日、ABARE(豪州農業資源経済局:Australia Bureau of Agricultural and Resources Economics)は、豪州の鉱業・エネルギー分野における開発動向(Major Development Projects on Minerals and Energy(October 2008 Listing))について発表した。 |
1. はじめに
11月19日発表のABARE資料によれば、2008年10月末現在の豪州における1主要開発プロジェクト数は85件であり、2005年10月以来3年ぶりの低水準となった。一方、投資額総計は673億A$となり、2008年4月時点から4%の減少となったものの、前年同期比でみれば逆に16%増加した。
その内、鉱業分野における開発案件は31件、投資総額は230億A$となり、昨今の資源価格下落、金融危機の影響を受け昨年同期の50件を下回っている。
探鉱に関しては、2007/08年度(2007年7月~2008年6月間)の探鉱投資額は55億A$となり過去最高を記録、これは過去25年間の平均年間投資額の2倍に相当する。
2. 探鉱への投資動向
ABS(豪州統計局:Australia Bureau of Statistics)の統計によれば、豪州における2007/08年度探鉱投資総額は、石油は55億A$となり、前年度に比べ39%増となった。これは過去最高であるとともに、過去25年における年間平均投資額の2倍となっており、全ての主要な鉱物・エネルギーに関する探鉱投資額は前年に比べて増加している。
1980/81~2007/08年度間の豪州における探鉱投資額の推移を図1に示す。
図1. 企業探鉱年度予算額の推移
個別鉱種では次のとおり。
- [1]ベースメタル(銅、ニッケル、コバルト、鉛、亜鉛、銀):
前年度比41%増、投資額7.8億A$以上。これは国際価格の高騰を反映している。 - [2]金:
前年度比30%増、投資額5.9億A$以上。この額は10年前の1997/98年度以来の最高記録となった。 - [3]ウラン:
ウラン価格の上昇と、エネルギー・セキュリティや環境問題等の高まりから世界中で原子力発電所建設の関心が高まったことを受け、投資額は前年度倍以上の2.32億A$となった。 - [4]鉄鉱石:
前年度比58%増、投資額は4.5億A$。これは鉄鉱石価格(スポット価格、協定価格)の急上昇、引続き中国需要の増加が期待できることを反映した結果を示している。
なお、2008年Q2まで続いてきた資源ブームにより、需要に対して供給がタイトであったことによる資源価格の上昇が探鉱への投資額を押上げてきたが、最近の資源価格の下落により探鉱への投資額が今後どのように推移するかについては不透明である。将来的に期待される資源価格が投資額の決定を左右するため、仮に投資家(鉱山、探鉱会社等)が将来の価格予想を現状維持か、あるいは低めに見積もれば、投資額も減少すると考えられる。
3. 2007/08年度の新規投資額
- (1)図2は、1980年以降の鉱山開発及び鉱石処理施設建設に対する新規投資額の推移を示している。豪州においては、投資の大部分が鉱石処理施設よりも鉱山開発部門に向けられていることが判る。
- (2)ABS統計によれば、2007/08年度の鉱山部門への投資額は311億A$となり、前年度比12.8%増、1980/81年度からの平均投資額の3倍以上となった。一方、2007/08年度の金属加工業への投資額は38億A$となり、これは前年度に比べ19%の減少となった。

図2. 新規鉱山開発投資額の推移
4. 最近稼働を始めたプロジェクト
2008年10月末までの6か月間に22件の主要な鉱物・エネルギープロジェクトが稼働を始めており、これら事業に合計108億A$の投資が行われている。
その内、金属鉱業プロジェクトについては次のとおりである。
- (1)2008年10月末までの6か月間に12件の金属鉱業開発プロジェクトが終了、合計投資額44億A$であった。
- (2)最大の投資額は、年産45百万tの能力を持つFortescue Metals Group社によるWA州Pilbaraの鉄鉱石プロジェクトで、将来的に生産能力を55百万tに拡大する計画となっている。
- (3)金鉱山に関しては4件、合計で3.74億A$の投資が行われ、年産490千oz(約17.3t)以上の生産量が期待されている。
- (4)ベースメタルでは、Compass Resources社及びGuardian Resources社が175百万A$(当初計画額:140百万A$)を投資したNT準州のBrowns Oxide多金属鉱山開発プロジェクトは9月に完成し、年産1万tの銅カソード、900tのコバルトカソード、800tのニッケルの生産能力を有する。
5. 現在開発中のプロジェクト
- (1)概要
2008年10月末現在、ABAREリストには85件の開発中プロジェクトがある(85件の中には開発検討中プロジェクトも含む)。85件の開発数は、2005年10月以降最低の件数となり、2008年4月の97件から減少しているが、これは、この6か月間に開発ステージ移行プロジェクト数が10件であるのに比べ、開発完了件数が22件になったことによる。
これら85件に投資された合計額は、2008年10月末で673億A$、2008年4月から4%の減少となったが、前年同期で比べれば16%上昇している。
また、1件当りの平均投資額も1995年以降の平均が439億A$であるのに比べ、2008年10月末の実質ベースでは726億A$と大幅に上回っている。これは、巨額の資金投入により比較的規模の大きなプロジェクトが開発されていることを意味している。
しかしながら、このところ世界の経済情勢が著しく変化したことで、資源需要がさらに弱くなることが予想されることから、この85件の中には今後、開発が延期、あるいは見直し、さらには中止されるものが出てくることが予想されている。 - (2)金属鉱山プロジェクト
2008年10月末現在で31件の開発プロジェクトがあり、合計投資額は約230億A$となった。このうち11件は鉄鉱石のプロジェクトで、投資額は123億A$と全体の53%を占めている。
2008年10月末までの6か月間に、5件、総額27億A$のプロジェクトが新たに加わっている。 - (3)鉱石処理施設プロジェクト
2008年10月末までに、9件の鉱石処理施設関連のプロジェクトがあり、合計投資額は61億A$となっている。プロジェクトの内容としては2008年4月のABAREリストから変更なく、この6か月間の完成プロジェクトや、新規開始プロジェクトは無い。
6. プレFSまたはFS中の開発プロジェクト
プレFSまたはFS中の開発プロジェクト中には、何年間も開発ステージが先に進んでいないもの、最近の経済情勢や厳しい競争環境に直面しているもの、あるいは新興経済国の市場への輸出機会を窺うためにスケジュールの変更に直面しているものがあり、加えて、例え高い成功の蓋然性を有する質の高いプロジェクトだとしても、開発のための予算確保が保障されていないものもこの中に含まれている。
2008年10月現在、ABAREリストにある347件のプロジェクトの内、76%に相当する262件のプロジェクトが開発に進むか否かの明確な立場をとっていない。
7. ABAREリストに追加された新規プロジェクト
2008年4月に発表したリストから開発あるいはプレFS~PS中のプロジェクトとして追加され数は31件である。この数は2007年10月から2008年4月までの半年間の58件、2007年4月末から2007年10月末までの半年間の46件に比べて少ない件数となっている。
8. おわりに
今回発表されたABAREの開発動向資料は半年前(2008年4月)に発表された内容に比べ、資源価格の低迷や世界の経済情勢を反映して豪州資源産業が厳しい状況に置かれつつあることを反映した内容となっている。しかしながら、探鉱を始めとして開発に長い時間を要する業界であることから、中長期的観点からシームレスな投資が行われる必要がある。また、こうした投資は豪州投資家以外の海外投資も期待されており、中長期的な日本の資源確保の観点からも、現在開発が行われつつある優良開発案件にこれまで以上に注目することが重要であると思料する。
なお、発表されたABAREの開発動向資料の詳細(具体的な開発案件プロジェクト等)は、「金属資源レポート(3月号)」に掲載する予定でこちらを参照して頂きたい。
参考文献等
Minerals and Energy (Major development projects (October 2008 Listing)) (ABARE発表資料)
1開発を行うことに言及されたプロジェクトを含む。ABAREは、毎年4月までのデータと10月までのデータを用いて、年2回、Major Development Projectを纏めている。本稿は“Major Development Project October 2008 listing”というレポートを基にしている。

