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2008年チリ鉱業を振返って
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2008年前半のチリ鉱業は金属価格高騰に支えられ、順調な生産活動と投資が行われた。この期間のチリ大手鉱山会社は過去最高を記録した2007年と同様に順調な売上と利益を計上した。しかしながら、世界的な経済危機とこれに伴う銅価の大幅下落により、2008年10月以降、チリ鉱業界は困難な局面を迎えることになった。銅生産コストの高い中小鉱山は操業停止に追込まれ、大手鉱山会社の2008年Q4の売上高、収益はいずれも大幅減となる見込みである。 |
1.銅・モリブデン生産動向-銅は2007年を4.2%下回り、モリブデンは大幅減
チリ統計局の発表によると、チリの2008年の銅生産量は2007年と比べ4.2%減の5,364千tとなった(2007年は5,602千t)。下請従業員によるストが発生したCODELCOではストの影響と銅品位低下によりCODELCO Norteディビジョン(Chuquicamata、Radomiro Tomic)で前年比15%を越える減産となる他、Salvador、El Tenienteでも減産の見込みであり、CODELCO全体の銅生産量は前年比10%以上の減となる。また、世界最大の銅生産量を誇るEscondidaではSAGミルの故障により、銅生産量が10%以上減少する見込みである。
一方、モリブデン生産量は2007年と比べ大幅に減少する見込みである。COCHILCOのデータによれば、チリの2008年1~11月間のモリブデン生産量は30,047tで2007年同期40,520tから26%減少となり、2008年通年(予測値)は33,304tとなる見込みである。モリブデン減産の主な原因は、主要生産者であるCODELCOの各鉱山、特にCODELCO Norteディビジョンでの鉱石処理量の減少及びモリブデン品位低下である。
| 表1. チリ:銅・モリブデン生産量 | (単位:t) | |||||||||||||||||||||
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| 出典:銅チリ統計局、モリブデンCOCHILCO | ||||||||||||||||||||||
2. 鉱産物輸出動向-銅輸出額は過去最高を記録した2007年から9.2%の減少
2008年のチリの銅生産量減少により、銅輸出額は過去最高額を記録した2007年を大幅に下回ることとなった。チリ中央銀行の発表によれば、2008年の銅輸出額は前年比9.2%減の34,118百万US$となった。これは、2008年9月以降、世界的な経済危機の影響による大幅な銅価下落のためである。これまで好調であったチリの大手鉱山会社は銅価下落を受け2008年Q4の売上・収益が大幅減となる。
2008年のモリブデン輸出額は生産減と価格下落により、前年同期の3,826百万US$から11.9%減少し、3,369百万US$となった。この他、2008年の鉄輸出額は前年比36.3%増の548百万US$、銀輸出額は同23.8%減の346百万US$となり、銅・モリブデンを含むチリの鉱産物輸出額総計は同8.4%減の39,479百万US$となった。
| 表2. チリ:鉱産物輸出額 | (単位:百万US$) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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| 出典:チリ中央銀行 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
3. 鉱業投資-2008年前半は好調な投資、後半から見直しが相次ぐ
金属価格の高騰に支えられ、2008年前半は鉱業部門への大型投資が計画されていた。COCHILCOが2008年8月に発表したチリの鉱業投資予測によると、2008~2012年の5年間の投資額は銅185億US$、金31億US$で、銅投資額の内、CODELCO分が44%を占めていた。しかしながら、2008年9月以降の銅価下落により大型投資プロジェクトの見直しが行われている。
SONAMI(チリ鉱業協会)によると、世界的な経済危機による銅価下落に伴い、次期10年間に見込まれるチリ鉱業部門への投資額400億US$の内、約25%が消滅の危機にあるとされており、今後も銅価低迷が続けば大型投資プロジェクトの見直しが行われるものと考えられる。
| 表3. チリ:鉱業投資予測(2008~2012) | (単位:百万US$) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
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| 出典:2008-2012 Forecast on Cu and Au Mining Investment in Chile (COCHILCO 2008) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 表4. チリ:大型投資プロジェクト一覧 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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| (※企業名略称 FCX:Freeport McMoRan Copper&Gold, Inc.、PPC:パンパシフィック・カッパー(株)) |
4. 労働争議-2年連続でCODELCOの下請従業員によるストが発生
2007年に続き、2008年にもCODELCOの下請従業員によるストが発生し、CODELCOは大規模な損失を被った。
2008年2月にEl Tenienteディビジョンの下請従業員50名が同鉱山に通じる道路を封鎖し、労働者約2,000名の出勤を妨げた。この抗議活動の理由は、2007年7月にCODELCOの各ディビジョンで発生したストの後、CODELCOと下請従業員代表間の合意事項がEl Tenienteで実施されていなかったこととされている。El Tenienteでは3月4日にも同様の抗議活動が発生、数日間に亘り同鉱山の操業が停止した。その後、4月16日にSalvador、Andina、El Teniente各ディビジョンで大規模なストが発生し、操業が停止する事態となった。CODELCOは下請従業員代表との直接交渉を拒否し、ストは長期化した。CODELCOは下請従業員の交渉相手は下請会社であるとして、交渉を一切行わなかったが、チリ政府が仲介に入り、下請従業員1人当り500,000Peso(約1,100US$)のボーナス支給や労働条件の改善をCODELCOに保証させることで、5月5日に合意に至った。このストによりCODELCOが受けた損失額は1.5億US$と予想されている。
5. 下請従業員の正規雇用問題-最高裁で企業側の主張を認める判決
2007年12月にチリ労働局がCODELCOや大手鉱山会社に対し、下請従業員の一部を正式に雇用するよう指示した問題で、CODELCO及びEscondida鉱山会社は労働局の判断を不服として裁判所に提訴した。労働局は2007年、CODELCOの下請従業員のストに起因してCODELCOや大手鉱山会社に対し非正規雇用事業法の遵守状況について監査を実施し、CODELCOの合計約5,000人、Escondidaの767人の下請従業員を正社員として採用するよう命じる決定を行った。
これに対しCODELCO及びEscondidaは、会社が雇うべき労働者の人数を政府が決めるのは違憲で、労働局の判断は無効であるとし、それぞれの鉱山を管轄する高等裁判所に提訴した。Antofagasta、Valparaiso及びRancaguaの高等裁判所は鉱山側の主張を認め、労働局には下請従業員を発注企業の正社員として採用するよう命じる権限はなく、このような命令は下請企業とその従業員が締結した労働契約を無視する違法行為であるとの判決を下したが、CODELCOのSalvadorディビジョンを管轄するCopiapo高等裁判所はCODELCOの訴えを却下した。
CODELCOはCopiapo高等裁判所の決定について、最高裁判所に上告、労働局もAntofagasta、Valparaiso、Rancagua高等裁判所の判決を不服として最高裁判所に上告した。2008年5月にチリ最高裁判所は、CODELCO及びEscondidaに多数の下請従業員を正規社員として採用するよう命じた労働局の決定を違法な行為であるとして、この決定を無効とする判決を下し、この問題は終結した。
6. 新規鉱山操業-CODELCO、Gabriela Mistral(旧称Gaby)鉱山が生産開始
CODELCO、Gabriela Mistral銅山(旧称Gaby、SxEw)で2008年5月より銅カソードの生産が開始された。CODELCOにとっては1995年生産開始のRadomio Tomic銅山(SxEw)以降13年ぶりの新規鉱山となった。Gabriela Mistralの鉱物資源量は酸化鉱618百万t、品位Cu 0.41%、CAPEX(鉱山開発初期投資額)は967百万US$で、2008年の銅カソード生産量80,000t、2009年150,000t、それ以降は年間165,000tの生産(CODELCO全体の約10%に相当)が計画されている。同山は、残存鉱量の減少や銅品位低下などが原因で銅生産量が減少しているCODELCOにとって、銅生産量を維持するために重要である。なお、2008年10月、CODELCOの役員会で200,000t/年までの生産能力拡張計画が承認された。
Gabriela Mistralについては、中国Minmetalsが同山の権益を49%まで獲得できる権利を有していたが、2008年9月にCODELCOとMinmetalsが同山売却に関する権利及び義務を無期限に延期することに合意し、CODELCOが同山の権益100%を所有することとなった。Minmetalsは同権益を放棄する見返りにCODELCOと共同で中南米の他の国やアフリカでの探鉱プロジェクトを実施することで合意している。
7. 電力・エネルギー問題-アルゼンチンからの天然ガス供給不安が続く
チリは天然ガスの供給をアルゼンチンに100%依存しているが、アルゼンチン国内の天然ガス需要の急増及び天然ガス資源の減少により、アルゼンチンからの天然ガス供給が停止する事態となっている。この影響により、2008年3月にチリ北部で発電所を操業するGas Atacama社が財政破綻の危機に陥り、大手鉱山会社による救済を受けることとなった。
Gas Atacama社はアルゼンチンからの安価な天然ガスを燃料とした発電を行っていたが、天然ガスの供給停止により、コストの高いディーゼル燃料を使用しなければならなくなり、財政危機に直面した。同社の経営が成立たなくなると、チリ北部で鉱山を操業する多くの鉱山会社が電力供給難となるため、大手鉱山会社はGas Atacama社の負債の一部を資金提供する契約を締結した。Gas Atacama社が契約した相手はCODELCO、BHP Billiton、Collahuasi、El Abra、Zaldivar、SQM、Mantos Blancos、El Tesoro、Lomas Bayas、Quebrada Blanca、Meridianである。この契約の中でGas Atacama社は、天然ガスが使用できなくなった場合、輸入重油に切替えて最大容量600MWまでの電力を引続き供給することに合意した。鉱山会社はその見返りとして、2008~11年に見込まれるGas Atacama社の負債額900百万US$の71%に当たる650百万US$の資金提供を行ない、各社の負担額は電力消費量に比例して決定されることになった。
一方、アルゼンチンからの天然ガス供給不安に対処するため、大手鉱山会社は独自に電力・エネルギー確保を進めようとしている。大手鉱山会社が進める電力・エネルギープロジェクトは以下のとおりである。
- Mejillones GNLプロジェクト:CODELCOとSuez Energy社が50%出資し、チリ第Ⅱ州Mejillones市に液化天然ガスの受入ターミナルと再ガス化プラントを建設するもので、チリ第Ⅱ州の鉱山に合計1.1GWの電力供給を行う予定である。既にBHP Billiton、Escondida、Collahuasi、EL Abra、CODELCOがJV企業体と買電契約を締結している。2010年より操業開始予定で、投資額は当初の1.9億US$から5億US$に大幅に増加している。
- BHP Bllitonによる石炭火力発電所計画:同社は2010年以降チリ北部の鉱山操業に必要な電力を確保するため、石炭火力発電所を建設する予定である。同発電所は300MWのユニットを2基建設する計画で投資額は800百万US$、2012年より操業を開始する見込みである。
- CODELCOによる石炭火力発電所計画:CODELCOはチリ中央部に位置する、Salvador、Ventanas、Andina、EL Teniente各ディビジョンの電力安定供給確保のため、10億US$投資しチリで最大の発電能力(800MW)を有する石炭火力発電所を建設する計画である。また、チリ北部に発電能力400MWの石炭火力発電所の建設も計画している。
- Suez Energy社による石炭火力発電所計画:同社の子会社がチリ北部で発電能力150MWの石炭火力発電所を建設する予定で、同社はCODELCOと21年間に亘る売電契約を締結した。CODELCOはこの電力をGabriela Mistralの操業及びChuquicamataの拡張に活用する見込みである。
8. 環境問題-Los Pelambres鉱山の廃さいダム建設問題が和解へ
2008年にチリで最も大きく取上げられた環境関連争議はLos Pelambres銅・モリブデン鉱山のEl Mauro廃さいダム建設に係る訴訟であった。この問題は同廃さいダム建設に当たり、地元農民が灌漑用水に影響が出ているとして訴訟を起こし、建設許可無効の判決がサンティアゴ高等裁判所から出されたものである。同鉱山会社と政府は最高裁判所に上訴、最高裁判所で審議が行われていた。
2008年5月、Antofagasta Mineralsは、Mauro廃さいダム建設に反対し、訴訟を起こしていた灌漑用水権者及び農園主に総額23百万US$の和解保証金を支払うことで和解に成功し、本件に係る11件の訴訟の内、10件で和解が成立した。また、同社は2008年10月に最後まで反対していたMauro農業団体とも和解し、Mauro廃さいダム建設問題は完全に終結することとなった。
9.中小鉱山経営危機―チリ政府が緊急対策を実施
急激な銅価下落により、チリの多くの中小鉱山は経営危機に陥り、チリ政府が緊急に救済対策を実施することとなった。SONAMI(チリ鉱業協会)によると、銅価低迷により2008年10~11月の2か月間にチリの中小鉱山の約20%が操業停止に追い込まれ、約5,000人の鉱山労働者が職を失った。中小鉱山が経営危機に陥った主な理由は、チリの中小鉱山は大規模採掘を行う大型鉱山と比べ銅生産コストが高いことと、銅価の高騰期に生産量を拡大するため借入金による設備投資を行った鉱山の多くが、銅価下落により返済が困難となったためである。
このような状況下、2008年11月27日にチリ政府は中小鉱山を救済するため、政府が保有する安定化基金をENAMI(チリ鉱山公社)の助成制度に活用することを承認した。これは、ENAMIが15か月間に亘り安定化基金から約18百万US$の拠出を受け、この間、たとえ銅価が1.99US$/lbを下回っても、ENAMIは中小鉱山から同価格で銅鉱石を買鉱することを保証するものである。ENAMIは選鉱設備等を保有しない中小鉱山を支援するため、これらの鉱山から鉱石を買取り選鉱・製錬及び地金販売を行っているが、今回の対策はこのような中小鉱山の直接的な救済制度を強化するものである。また、政府内では中小鉱山を資金援助するため、新たな融資制度を検討しており、今後も中小鉱山の救済を目的とした政策が実施される見込みである。
10. おわりに
銅価高騰期において、順調な生産活動、探鉱・鉱業投資が行われてきたチリ鉱業は2008年9月以降の世界的な経済危機とこれに伴う銅価下落により減速に転じた。CODELCOを含む大手鉱山会社の売上・収益は、過去最高を記録した2007年実績を下回る見込みで、探鉱活動や鉱業投資も大幅に減少する傾向にある。銅価下落による中小鉱山への影響は多大で、経営危機に陥る中小鉱山が相次ぎ、チリ政府は緊急に救済対策を実施することとなった。この状況は2009年も継続する見込みで、中小鉱山の操業停止、投資プロジェクトの中断・延期等、チリの鉱業活動の減退は避けられない状況にあり、今後も関連情報を注視していく所存である。


