閉じる

報告書&レポート

2009年3月5日 シドニー事務所次長 原田富雄, 企画調査部 審議役 神谷夏実, 調査課長 上木隆司
2009年12号

BHP BillitonによるRio Tinto買収断念とChinalcoのRio Tinto資産買収合意―世界第1・2位の資源メジャー合併劇と中国の豪鉱業におけるプレゼンスの増大―

1.資源メジャー企業の再編
 2007年11月にBHP Billiton(以下BHPB)がRio Tinto(以下RT)買収意思を表明して以降、両社合併が実現すればスーパー・メジャー誕生となることから、この1年2か月間の両社の動向が注目され続けた。
時代を遡れば、金属鉱物資源分野におけるM&Aは、かつてセブン・シスターズと言われた石油メジャーに比べて規模も話題性も低く、新興経済国の隆盛から資源争奪戦を演じるようになる近年まで、世界市場における影響も左程大きいものではなかった。しかしながら、昨今の資源需要の急増、2006~08年後半までの間の資源価格高騰を背景とした資源メジャーによるM&Aの活発化に伴い、大手資源メジャーによる寡占化が進み、日本を含め需要国側の買鉱条件等原料調達に重大な影響を及ぼし始めたことから大きな脅威となった。
 1994~2008年3月間の世界における資源企業のM&Aは1,965件1 に上る。
資源メジャーによる大型M&Aは、2006年以降に本格化し、その主要M&Aとして次が挙げられるが、いずれもカナダを代表するアルミやニッケルのメジャー企業であった:

       

表1. 近年の資源メジャーの大型M&A (m:百万)
買収時期 買収社 被買収社 買収額(mUS$)
2007年7~11月 Rio Tinto(英・豪) Alcan(加) 38,100
2006年10月~’07年1月 Vale(ブラジル) Inco(加) 17,544
2005年8月~’06年11月 Xstrata(スイス) Falconbridge(加) 14,899

 このように資産評価価値で世界の上位に入る企業同士のM&Aが最近の特徴となっている。BHPBによるRT買収という頂点を極める巨大M&A案件は、世界の鉱業業界や日・中・韓・欧州諸国など需要国側を震撼させた。

2.巨大資源メジャー誕生の影響
2-1.BHPBによるRT買収戦略

 BHPBは、合併によりもたらされる効果として、次を挙げている;

  • (1)大規模プロジェクト開発に向けた経営体制、資金調達力
  • (2)中国、インドといった新興経済国の資源需要増に合わせ、高騰する金属価格を捉えて最大限の利益の獲得
  • (3)本社機能の統合・合理化、鉄道・港湾等ロジスティックの共同利用といった相乗効果による経費削減
  • (4)操業の合理化効果と市場独占

2-2.需要側から見たマイナス面
 反面、需要国側から見れば合併によるマイナス面として次が挙げられる;

  • (1)多くの鉱種で寡占化が進行し、鉱石供給面で資源メジャーの支配力が拡大し安定供給に懸念が生じる
  • (2)銅、鉄鉱石、原料炭・一般炭等の買鉱条件交渉で不利となる

2-3.BHPBとRTの主要鉱産物生産量から見た合併の想定
 具体的にBHPBとRTの合併を想定した場合、金属市場に与えるであろう影響は次のとおりである。
(1)銅
 世界最大のEscondida (チリⅡ州)87.5%、Bingham Canyon(米UT州)100%、Olympic Dam(豪SA州)100%、Spence(チリⅡ州)100%などの大型銅山を単独で保有することになり、BHPB・RT両社計1,985千tはCODELCOの1,665千tを抜いて世界計の13%を占める最大の産銅企業となる。

表2. BHPBとRTの2008年生産量:銅鉱
                                       (kt:千t)
銅鉱(精鉱中含量+カソード:kt)   ‘08生産量
(kt)
Escondida(チリⅡ、57.5%) BHPB 702.6
Escondida(チリ,30%) RT 384.5
Bingham Canyon(米,100%) RT 238.0
Olympic Dam(豪SA、100%) BHPB 195.9
Spence SxEw(チリⅡ、100%) BHPB 164.8
Antamina(ペルーAncash、33.6%) BHPB 111.9
Cerro Colorado(チリⅠ、100%) BHPB 104.1
Palabora(南ア,49%) RT 49.1
Northparks(豪,80%) RT 19.8
Grasberg JV(インドネシア,40%) RT 7.1
Pinto Valley SxEw(米AZ、100%) BHPB 6.7
BHPB計 1,286
RT計 699
BHPB+RT合計 1,985

表3. 銅鉱生産企業上位5社(2008年)
順位 企業名 ‘08生産量
(kt)※
シェア
1 BHPB+RT 1,985 12.8%
1 CODELCO(チリ) 1,665 10.7%
2 FCX(米) 1,517 9.8%
3 BHPB(豪・英) 1,286 8.3%
State of China ※ 931 6.0%
4 Xstrata(スイス) 918 5.9%
5 RT(英・豪) 699 4.5%
その他 8,516 54.8%
世界計 15,532 100%
※各企業別生産量は各社HP(アニュアルレポート)による。
 中国(State of China)及び世界計はWMSによる。

(2)アルミナ・アルミニウム
 RTは2007年7~11月にアルミ大手のAlcanを買収し、アルミナ・アルミニウム市場での同社のシェアを大きく伸ばし、2008年生産量ベースでRusal、Alcoaに次いで第三位(9.4%)のアルミ地金生産量となっている。更にBHPBとRTの合計値を表6に示すが、その割合は12.6%に拡大し、Rusalを抜いて世界最大のアルミ生産企業となる。

表4. BHPBとRTの2008年生産量:アルミナ
プロジェクト名称(所在国、権益比率) 両社区分 ‘08生産量
(kt)
Queensland Alumina(豪,38.6⇒80%) RT 3,074
Worsley(豪WA,86%) BHPB 2,969
Gove(豪,100%) RT 2,325
Jonquiere(加,100%) RT 1,370
Yarwun(豪,100%) RT 1,293
Paranam(スリナム,45%) BHPB 970
Speciality Plants(加,仏,独,100%) RT 759
Alumar(ブラジルPara,36%) BHPB 542
Sao Luis(Alumar)(ブラジルPara,10%) RT 150
Gardanne(仏,100%) RT 38
BHPB計 4,481
RT計 9,009
BHPB+RT合計 13,490

表5. BHPBとRTの2008年生産量:アルミ地金
プロジェクト名称(所在国、権益比率) 両社区分 ‘08生産量
(kt)
Hillside(南アKN,100%) BHPB 688
Alma(加QV,100%) RT 424
Boyne Island(豪,59.4%) RT 330
Tomago(豪,51.6%) RT 270
Dunkerque(仏,100%) RT 254
Mozal(モザンビーク,47.1%) BHPB 252
Tiwai Point(ニュージーランド,79.4%) RT 250
Kitimat(加QV,100%) RT 247
Laterriere(加QV,100%) RT 234
Grande-Baie(加QV,100%) RT 212
Sebree(米,100%) RT 197
ISAL(Reykjavik)(アイスランド,100%) RT 187
Alumar(ブラジル,40%) BHPB 179
Bell Bay(豪,100%) RT 178
Arvida(加QV,100%) RT 172
Lynemouth(英,100%) RT 165
St-Jean-de Maurienne(仏,100%) RT 130
Bayside(南アKN,100%) BHPB 123
Shawinigan(加QV,100%) RT 100
SORAL(Husnes)(ノルウエー,50%) RT 86
Ningxia(Qingtongxia)(中,50%) RT 81
Anglesey(英,51%) RT 60
Beauharnois(加QV,100%) RT 50
Lochaber(英,100%) RT 43
Sohar(オマーン,20%) RT 9.8
Lannemezan(仏,100%) RT 5
BHPB計 1,242
RT計 3,685
BHPB+RT合計 4,927

表6. アルミ地金生産企業上位5社
順位 企業名 ‘08生産量 シェア
State of China ※ 13,177 33.6%
1 BHPB+RT 4,927 12.5%
1 Rusal(ロシア) 4,152 10.6%
2 Alcoa(米) 3,642 9.3%
3 RT(英・豪) 3,685 9.4%
4 Norsk Hydro(ノルウェー) 1,683 4.3%
5 BHPB(豪・英) 1,242 3.2%
その他 24,860 63.3%
世界計 ※ 39,264 100%
※各企業別生産量は各社HP(アニュアルレポート)による。
 中国(State of China)及び世界計はWMSによる。

(3)鉄鉱石
 BHPBの2008年鉄鉱石生産量118 mt(m:百万)は、Vale 302mt、RT 142mtに次いで世界第3位であるが、毎年の鉄鉱石価格交渉では、特にBHPBは輸送費等を理由にVale、RT以上の鉱石価格の値上げを製鉄会社等に要求していた。BHPBとRTの合計値260mtは15.9%に相当してValeに僅かに及ばないものの、上位3社計561mtは世界計の34.4%に達し、特にアジア市場向け鉄鉱石輸出に関してますます価格交渉力を増すことになると懸念された。

表7. BHPBとRTの2008年生産量:鉄鉱石
プロジェクト名称(所在国、権益比率) 両社区分 ‘08生産量
(kt)
Hamersley Iron(豪,100%) RT 95,553
Yandi(豪,85%) BHPB 39,670
Goldsworthy, Area C JV(豪WA,85%) BHPB 33,665
Mt Newman(豪WA,85%) BHPB 28,494
Robe River(豪,53%) RT 26,631
Samarco(ブラジルMG,50%) BHPB 9,262
Channar(豪,60%) RT 6,229
Hope Downs(豪,50%) RT 5,468
Jimblebar(豪WA,85%) BHPB 5,215
Eastern Range(豪,100→54%) RT 4,420
Corumba(ブラジル,100%) RT 2,032
Iron Ore Company of Canada(加,58.7%) RT 1,876
Goldsworthy(豪WA,85%) BHPB 1,215
BHPB計 117,521
RT計 142,210
BHPB+RT合計 259,731

表8. 鉄鉱石の主要生産企業ランキング (参考)
順位 企業名 ‘08生産量
(kt)
シェア
  State of China ※ 332,300 20.4%
1 Vale(ブラジル) 301,696 18.5%
2 BHPB+RT 259,731 15.9%
2 RT(英・豪) 142,210 8.7%
3 BHPB(豪・英) 117,521 7.2%
4 ArcelorMittal(蘭) ※ 40,340 2.5%
5 MMC(露) ※ 28,560 1.8%
その他 ※ 667,373 40.9%
世界計 ※ 1,630,000 100%
※印はロウ・マテリアル・グループによる2007年データであり、
表8のシェア等は参考値である。

3.買収の結末と今後の動向
 2007年11月8日、BHPBによって発表された総額1,400億US$に及ぶ買収提案は、昨今の世界同時不況の影響もあり、発表からほぼ1年後の2008月11月25日、BHPB自らが買収断念を発表する結果となった。しかしながら、この間の駆引きは当事者の二社のみならず、買鉱側企業、また各国の公正取引当局を巻込んだ事態に進展し、鉱物資源業界においてこれほど注目されてきた買収劇はかつて無かった。特に、資源を持つ側(国)と、持たざる側・不足している側(国)との立場がクローズアップされた。上述のとおり、供給者側(企業)から見れば、自社収益の増額及び株主への利益還元を第一に考え、需要者側は如何に安く安定的に資源を確保できるかが収益に直結する。さらに、新興経済国の台頭による需要増から、両社の合併は鉱物資源の寡占化を増長することになる。結論から言えば、資源を有する立場、言い換えればBHPBとRTが生産拠点とし資源供給側にある豪・米・加・南ア等の公正取引当局は買収に対して承認のスタンスを、一方、需要国側の日・中・韓・EU等需要国側各国政府は巨大資源企業の誕生に懸念を示すスタンスを示した。最終的にBHPBがRT買収オファーの1年後に断念の判断を下したのは、当該M&Aの発端となった。
 鉱物資源価格の高騰をもたらした需要拡大と2008年9月以降のその急降下であった。現在、未曾有の不景気が世界を覆い、ラッキー・カントリーと評されてきた豪州の資源産業にも暗い影を落としている。図1に示すとおりBHPBによる買収から逃れたはずのRTの株価は大きく下げ株式市場においてマイナス評価を受けた。RTはAlcan買収に伴う借入金が重荷となり、2009年中に全負債額の1/4に当る100億US$の債務削減を迫られており、全従業員の14%に相当する14,000人の雇用削減を行うとしている。また、後述するとおり2月1日、Chinalcoに重要な保有資産の一部を切り売りする形で売却することに合意している。
 一方、そのような多額の負債を抱えるRT買収断念により自社の財務体質を守ったかに見えるBHPBはRTとは逆に株価を幾分戻す結果(図1参照)となったが、資源メジャーの中ではバランスシート上大きな問題を抱えていないとされるBHPBでさえ図2に示すとおり2009/08豪年度上期(2008年暦年下期と同期)には利益率を大きく下げ、6,000人の雇用削減を行うとしている。また、図4に示すセグメントのとおりステンレス原料(ニッケル等)は通年で営業利益は赤字に陥っている。

図1. BHPBとRTの資産評価額の推移(2000年9月~2009年2月)
図1. BHPBとRTの資産評価額の推移(2000年9月~2009年2月)

図2. BHPB:売上高、売上高・営業利益率、売上高・純利益率
図2. BHPB:売上高、売上高・営業利益率、売上高・純利益率

図3. RT:売上高、売上高・営業利益率、売上高・純利益率
図3. RT:売上高、売上高・営業利益率、売上高・純利益率

図4. BHPB:財務セグメント比較
図4. BHPB:財務セグメント比較
〔売上高(2007年):43,669mUS$⇒(2008年):63,714mUS$、
“Profit from Operations”(2007年):19,368mUS$⇒(2008年):21,883mUS$
利益率(2007年):44.4%⇒(2008年):34.3%〕
※BHPBの四半期報告を基に暦年ベースに集計した

図5. RTの財務セグメント比較
図5. RTの財務セグメント比較
〔売上高(2008/’07年度):33,518mUS$⇒(2008年):58,065mUS$、
EBITDA( 2008/’07年度):13,611mUS$⇒(2008年):23,611mUS$
利益率(2008/’07年度):40.6%⇒(2008年):41.1%〕

 世界経済の減退により一旦沈静化したかに見える鉱業分野におけるM&Aは世界経済や市況の回復の兆しが見え始めた時期にM&A動きが再開するものと予想されるが、それまでの間に手放される優良鉱山や開発案件が多数あり、中国を始めとした海外から豪州資源産業への直接投資(Foreign Direct Investment)がここ数年、着実に伸びている。鉱物資源開発には長い時間を要し、また、資源量にも限りがあるからこそ、地道な鉱物資源開発が待たれるところである。資源ブームが過ぎ去った今だからこそ、次の資源ブームが訪れる前に、冷静沈着に資源戦略を考える好機にあると言えよう。

表9. BHPBによるRT買収オファーと断念までの経緯
年月日 出来事
2007年
11月 8日 BHPBがRT買収を表明、RTが提案を拒否
11月20日 中国鉄鉱石鉄鋼協会(CISA)が合併に懸念を表明
12月21日 英国買収委員会(独禁当局)はBHPBに対して2月6日までに買収の意思表明を行うよう指示
2008年
2月 1日 中国アルミ大手Chinalco及びAlcoaがRT株式の9%を取得
2月 6日 BHPB株3.4対RT株1で買収を英国独禁当局に公式提案(買収総額1,640億US$)、RTが本提案を拒否
2月 7日 欧州鉄鋼協会がEU競争政策当局に提訴
5月30日 BHPBがEUにRT買収を正式通知
7月 4日 米国法務局、貿易委員会が承認
7月 4日 EC当局がEU合併規則に基づく詳細調査開始
7月 日本公正取引委員会が独占禁止法に基づき正式審査
10月1日 豪州競争委員会が承認(市場競争力に影響はない。)
10月23日 南アフリカ競争委員会が条件付で承認
(12か月以内にRTが所有するCoegaアルミ精製所を売却)
11月4日 EU当局がBHPBに正式な異議告知書をBHPBに送付
11月14日 BHPB、日本公正取引委員会に買収計画などの書類を提出
11月25日 BHPB、RT買収を断念したと発表

4.論議を呼ぶChinalcoによるRTへの追加出資
4-1.豪州に向けられた中国の資源戦略
 2008年2月1日、ChinalcoとAlcoaがRT株式の9%を取得したことはBHPBによるRT買収断念に少なからず影響を与え、Chinalco(中国アルミ業公司)つまり中国政府の狙いもそこにあったものと見られるが、政府による資源権益獲得戦略の軌道修正、つまりアフリカを主体とした資源外交に伴う権益獲得から、地理的に近く、より安全な豪州を投資先として豪州鉱業資産獲得への拡大の動きを見せ始めた出来事でもあった。
 2009年2月にはその本格化を予感させる動きがあった。2009年2月12日、RTのPaul Skinner会長は、Chinalcoとの間で先駆的な戦略提携を結ぶことに合意したと発表、今後Chinalcoは、総額195億US$をRTに投資する。内訳は、アルミ関連に21億US$、銅山に45億US$、鉄鉱石に52億US$、そして合弁プロジェクト開発に5億US$の計123億US$、転換社債(平均9.2%の利札付き)の購入に72億US$が充てられる。
 現在、Chinalcoは、RT株式9.3%を保有しているが、購入する転換社債を株式に転換すれば、Rio Tinto Ltd.(豪州証券取引所上場)の14.9%、Rio Tinto Plc(ロンドン証券取引所上場)の19.0%、RT全体の18.0%の株式を保有することになる。
また、鉱業資産の権益比率は表9のとおりとなる。さらに、プロジェクト開発資金として投入される5億US$は、50対50の合弁事業として、中国国内及びギニアのSimandou鉄鉱石プロジェクト用として使用されるとともに、今回の投資によりChinalcoはRTに2名の役員を送り込むことができる。

4-2.豪州政府の困惑
 2008年8月のChinalcoによるRT株式取得に関して、①豪外国投資審査委員会(FIRB: Foreign Investment Review Board)の審査に基づく政府の承認なしにRT全体での株式の11%以上の取得を認めないこと、②全体での株式の15%に満たない場合は役員の指名ができないことといった条件を課していた豪州政府であるが、Swan財務大臣は、今回のRTの発表内容が豪州証券取引所(ASX: Australian Securities Exchange)に正式に通知される直前に、Chinalcoは現行の外国投資関連法規に規制のない転換社債という言わば抜け穴を利用しているとして、法律の改正を直ちに行い、2009年2月12日から適用するとの声明を発表した。
 巨額の負債を抱えるRTの資産売却に関しては、これまでVale、Xstrata、BHPBなど大手メジャーから申し出があったが、いずれも交渉には至らず、RTの優良資産売却に懸念を示すBHPBは、Chinalcoによる本件投資を連邦政府に拒否させるための意見書を準備させるなど、ロビー活動を行いつつある。一方で、ChinalcoもFIRBによる承認が短期間で下りるようにと、ロビー活動を行っている。
 一方、Chinalcoによる投資は、鉱物資源開発という観点からは好ましいもので、特に金融危機以降、閉山による失業問題に対して2千人もの雇用の機会を与えることができることから、Swan財務大臣への承認圧力につながるとの考えがあるが、中国国有企業であるChinalcoからの投資は、投資は外国政府から独立したものでなければならないとする現行法令上問題が生じている。また、洪水の如く豪州の資源権益の買収を行う中国に対し、鉱物資産の支配権をどのように国益に適合させるのか豪州政府の下す判断が注目される。

表10. ChinalcoによるRT資産取得合意状況
資産 RT Chinalco
現権益
(%)
08年
生産量
(千t)
Chinalco
に売却後
の権益
(%)
RT権益に
占める
割合
(%)
全体の
割合(%)
権益分
生産量
(‘08:kt)
アルミ資産            
  Weipaボーキサイト鉱山 100 702.6 70 30 30 211
  Yarwunアルミナ精錬所(*1) 100 1,293 50 50 50 647
  Boyneボーキサイト・アルミナ・アルミ生産プロジェクト(*2) 59.4 330 30.3 49 29.1 96
  Gladstone石炭火力発電所(*3) 42.13   21.48 49 20.64  
銅資産            
  Escondida鉱山(*4) 30 384.5 15.1 49.75 14.9 57
  Kennecott鉱山 100 238.0 75 25 25 60
  Grasberg鉱山〔JV拡張分〕 40 7.1 28 30 12 1
  La Granja探鉱・開発(*5) 100   70 30 30  
銅資産            
  Hamersley鉱山 100 109,968 85 15 15 16,495
※1)Yarwunは旧Alcan資産
※2)Boyneアルミプロジェクト(ボーキサイト鉱山・アルミナ精錬所・アルミ製錬所)のChinalco参入後の権益比率: RioTinto30.3%、Chinalco29.1%、日本企業連合40.6%(三菱商事、住友軽金属、YKK、住友商事、丸紅、住友化学工業)
※3)Gladstone石炭火力発電所のChinalco参入後の権益比率:RioTinto21.48%、Chinalco20.64%、日本企業連合20.38%(三菱商事、YKK、住友商事、丸紅、住友軽金属)
  同発電能力:1,680MW
※4)Escondida(銅山、SxEwプラント、海水淡水化プラント等からなる)のChinalco参入後の権益比率: BHPB57.5%、RioTinto15%、Chinalco15%、日本企業連合10%(三菱商事7%、日鉱金属2%、三菱マテリアル1%)、IFC2.5%
※5)La Granja銅鉱床の予測鉱物資源量2,770mt、品位Cu0.51%、銅量14.127mt、CAPEX:2,750mUS$

表11. ChinalcoによるRT資産買収・提携に関する要点
1)ChinalcoによるRT資産買収等提携内容要点
  ・Chinalcoによる資金支援総額195億US$(1.7兆円)
 〔内訳〕①RT資産の権益獲得(表9に示す10件、総額123億US$)
   ②転換社債発行(72億US$)
(現在の株式シェア9%に加え、株式転換後はRT全体の約18%に相当)
・非常勤役員2名派遣
・RT-Chinalcoの戦略的提携
 ①共同開発の推進(ギニア鉄鉱石案件等)
 ②中国国内での共同探鉱の推進、RTによる権益獲得
2)本件実現までの課題と流動的要素:
(株主総会(2009年5月)、関係国承認ほか)
・経営陣の意見対立(次期会長候補役員の辞任)、想定される機関投資家の反対
・豪州政府にとって転換社債による外国企業参入は想定外で再審査される
3)ChinalcoによるRT出資による影響
・当面、Chinalcoはマイナーシェアであり影響力は左程大きくはない。
・中長期的には、中国のグローバル資源産業への影響拡大を契機に市況低迷時に海外資源権益獲得のための投資を加速すると見られる
・Chinalcoが役員2名をRTに派遣することで今後、中国側の発言権が強まる可能性あり
・RTとしては中国進出の足掛りになる。

5.まとめ

  • (1)BHPBによるRT買収断念は、2008年9月以降の米国に端を発する世界的な経済減退気運と金属市況の下落にある。また、それまでの鉱物資源価格の高騰と中国をはじめとした振興需要国の需要増大見込みに伴う資源メジャーの拡大戦略の軌道修正にある。BHPBやRTなど大手資源メジャーでさえも2008年Q4は厳しい財務実績となっている。
  • (2)また、この買収断念にはChinalcoとAlcoaによるRT株式の9%取得も少なからず影響を及ぼしたものと見られる。
  • (3)ChinalcoによるRT資産買収実現のための課題として、5月に予定される株主総会、主要機関投資家の合意状況、豪州政府が転換社債の株式への転換を認めるのか、また、他国による権益取得の動きをどのように国益に適合させるのかについての検討が挙げられる。
  • (4)中国がアフリカなどにおいて資源外交を行いつつ鉱山権益を取得する戦略に加えて、日本の2倍相当に達した中国の外貨準備高(※)による巨額資金を基に、豪州を最も地理的に近く安全で確実な投資先として位置付ける戦略への本格的な転換と認識される。
    〔※外貨準備高は中国(2008年9月末時点:中国中銀発表)1兆9,056億US$(世界第1位)に対して日本(2009年1月末時点:財務省発表)1兆109億5,800万US$)〕
  • (5)ChinalcoによるRT資産獲得により日本企業連合が参画しているRTとの大型合弁事業であるBoyne(アルミ)、Escondida(銅)に日本企業連合の既得権益を超えた比率で参入することになる。これにより、 中国側の長期買鉱契約交渉における発言力が強まる可能性も考えられる。

1出典:ロウ・マテリアル・グループ資料

ページトップへ