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報告書&レポート

2009年4月2日 リマ事務所  西川信康
2009年18号

エクアドル:新鉱業法が公布

 南米で銅資源のフロンティア国と呼び声の高いエクアドルであるが、昨年4月に公布されたMandato Minero(鉱業指令)により、新鉱業法の成立まで、すべての探鉱開発活動を凍結する異例の措置が講じられ、同国の鉱山開発ビジネスは、暗礁に乗り上げた状況にある。そのような中、1月29日、新鉱業法が公布され、政府は、同国の鉱業振興に向けた突破口としたいと表明しているが、現下の世界的な景気悪化の中、こうした政府の思惑を疑問視する声が大きい。本稿では、新鉱業法のポイントと、業界の反応等について報告する。

1. 新鉱業発布までの経緯
 エクアドルでは、コレア政権による資源の国家管理が強まる中、2008年4月、制憲議会において新鉱業法の骨格となるMandato Minero(鉱業指令)が成立し、休眠鉱区等の権利取り消しや鉱業権取得件数の制限、さらに、新鉱業法公布まで探鉱開発活動を凍結することなど鉱業活動が大きく制限される異例の措置が講じられた。これにより、同国初の本格的な銅鉱山として、開発の進展が期待されているMiradorをはじめとするプロジェクトが事実上、停止されるとともに、承認済みの4,516件の鉱業権のうち、Patente料未払い、鉱業活動未実施、環境影響評価の未提出、元鉱業機関の関係者の所有の鉱業権など、2,408件の鉱業権が取り消され、国に返還されたとされる。
 鉱業指令では、6か月以内に、新鉱業法を定めるとしていたが、2008年9月の国民投票によって新憲法(大統領の再選や、中央銀行などの主要機関を大統領の指揮下に置くこと、貧困層支援強化、環境保護、資源の国家管理強化などが骨子)が承認されたことで、漸くその審議が本格化し、本年1月26日制憲議会総会での承認を経て、同29日の官報517号に掲載され正式な公布に至った。なお、新鉱業法の施行細則については、発効日より120日以内に定めることになっている。

2. 新鉱業法の概要
 新鉱業法の構成は、12の章、158の条文からなり、持続的な鉱業発展に向けて鉱業権を一括管理する政府機関や鉱山公社の新設、ロイヤルティ制度の復活、環境規制の強化等が盛り込まれ、これらのルールを遵守する鉱業活動を幅広く認可することを定めている。概要は以下のとおり。

(1)政府機関の新設
 鉱山・石油省内に以下の新規の部署、組織を設立する。
・鉱業統制・管理局(La Agencia de Regulación y Control Minero):鉱業行政の中心的組織で、鉱業権の付与、失効など鉱業権の管理業務、鉱区台帳の管理等を行う。
・地質鉱業冶金局(El Instituto Nacional de Investigasión Geológico,Minero, Metalúrgico):基礎的な地質調査、鉱業や冶金業に対する技術開発、研究等を行う。
・国家鉱山公社(La Empresa Nacional Minera):国内外の民間企業等と共同で金属・非金属の探鉱・採掘事業を行う。

(2)鉱業権、鉱業活動
<鉱業権認可方式>
 全て公開入札で付与、鉱業指令で国に返還された鉱区については競売、詳細は施行細則に明記

<国籍要件>
 外国個人・法人はエクアドル国民・法人と同様の権利を有する。しかしながら鉱業権を取得するためには、国内に住所を定めなければならない。

<面積>
 1鉱業権の面積は、最小1ha、最大5,000 ha、鉱区座標はUTMを使用。

<鉱業権の有効期限>
・探鉱開始から採掘終了まで:最長25年。更に25年の延長が可能。
・探鉱:4年。更に、探鉱面積の縮小を前提として4年延長可能。(最大8年)
・FS:2年。更に2年の間の延長可能。(最大4年)

<鉱区税(patent)>
・探鉱(当初4年以内):年間1ha当り最低賃金(※)の2.5%
・探鉱(最大4年の延長期間)及びFS:年間1ha当り最低賃金(※)の5%
・採掘:年間1ha当り最低賃金(※)の10%
                    (※最低賃金:2009年は218US$)

◎小規模鉱業の場合
・探鉱(当初4年以内):年間1ha当り2US$
・探鉱(最大4年の延長期間)及びFS:年間1ha当り4US$
・採掘:年間1ha当り10 US$

<鉱業採掘契約>
 FS期間中に鉱業権者は、管轄省と鉱山採掘契約を締結しなければならない。この契約書には税法の基準となるベース価格を明記する。契約にあたり、鉱業権者は、承認済み環境影響評価報告(環境ライセンス)、地域社会との合意書、探鉱期間のPatent支払い証明書などを提出。

<生産報告書>
 年に2回、1月15日、7月15日までに、半年間の生産実績報告を鉱業統制・管理局提出する。

(3)環境規制
<環境ライセンス>
 探鉱、FS、採掘、選鉱、製錬、閉山全ステージの鉱業活動前に環境影響評価報告を提出し、環境省の認可(Licencia Ambiental)を取得しなければならない。環境影響評価報告に関する規定については現環境法に準拠する。

<水処理規定>
 鉱業活動において使用される水は、現行法に従い、規定の水処理後、取水した川、湖などの水源に戻されなければならない。

<地域社会との合意>
 鉱山開発は、憲法規定に従い、地域社会との協議と合意を前提とする。また、鉱業権益者は、政府機関を通じて、全ての鉱業活動内容を地方自治体、地域社会に報告する義務を有する。

(4)鉱業税制等
<ロイヤルティ>
 納付は3月、9月。生産実績報告と税務庁提出財務諸表の裏付けが必要。
・一般鉱業:鉱石販売額の5%以上
・小規模鉱業:鉱石販売額の3%
・零細鉱業:ロイヤルティ対象外
※)規模による各鉱業の定義
・零細鉱業(Minería Artesanal):生活の糧を目的とする零細鉱業:投資額が最低賃金の20倍以下で、手工業的な個人、家族、団体による鉱業活動。許可制。
・小規模鉱業(Pequeña Minería):日産鉱石300t以下の鉱業活動、建設資材においては日産800m3以下。鉱業権益の取得が必要。
・一般鉱業:零細鉱業、小規模鉱業を超える規模の鉱業

<税制>
・法人所得税 25%
・付加価値税(IVA) 12%
・国際相場上昇による特別利益 70%
・鉱業における税法上の優遇措置なし

(5)労働基準

労働法における従業員利益配当15%のうち、3%を従業員に配当し、残り12%は国庫に納付し、国家開発計画に基づき、鉱山が立地する地域の保健・教育・住宅など社会投資に充てる。

未成年者の鉱業就労禁止

全労働者のエクアドル人比率は80%以上

(6)移行規定
・2008年4月のMandato Mineroにより鉱業活動が停止している鉱業権者は、活動を開始することができる。
・監督行政のために、新鉱業法の発布から120日以内に施行細則を定める。

新旧鉱業法の主な内容の比較

 

旧鉱業法

新鉱業法

税制度

所得税25%
付加価値税12%

所得税25%
ロイヤルティ3~5%
特別利益税70%
付加価値税12%

優遇措置

鉱業活動に必要な資機材等の輸入は、最低の関税率を適用また、付加価値税は免除

なし

鉱業権有効年数

申請時より30年(さらに30年まで延長可能)

申請時より25年
(さらに25年まで延長可能)
初期探鉱4年
(探鉱面積の縮小を前提に4年延長可能)
FS:2年(さらに2年延長可能)

年間鉱区維持費

0~3年:1US$/ha
4~6年:2US$/ha
7~9年:4US$/ha
10~12年:8US$/ha
13年~:16US$/ha

初期探鉱:最低賃金の2.5%
(2009年度:5.45US$/ha)
探鉱延長、FS:最低賃金の5%
(10.9US$/ha)
採掘:最低賃金の10%
(21.8US$/ha)

鉱業権認可方式

ライセンス方式

入札方式

国の権益持分要求

なし

鉱山公社を通して権益を保有

3. 新鉱業法に対する波紋
(1)地域住民による新鉱業法反対運動
 新鉱業法の国会での審議が大詰めとなっていた1月上旬、南部4州(Azuay、Morona Santiago、Zamora Chinchipe、Loja)において、地元住民が新鉱業法に反対して、主な幹線道路を封鎖するなどの抗議運動を展開し、警察隊と衝突、住民側リーダーらが逮捕された。住民側は、鉱業活動によって水源汚染や露天掘りによる自然破壊等の環境汚染が避けられないこと、地域住民が権利を有する天然資源を外国企業が進出して採掘することは許されない、などの理由から、新鉱業法を認めることができないと主張し、今後も抗議運動を継続すると表明。
 また、全国先住民同盟(Conaie)も、これに同調し、1月7日より、南部4州と北部のImbaburaで道路閉鎖、ハンガーストライキなど抗議運動を展開。さらに、Conaieの呼び掛けで1月20日に、Azuay、Pichincha、Imbabura、Cotopaxi、Chimborazo、Pastaza、Morona Santiago各州などで、道路閉鎖や抗議行進などが行われ、Conaie側に10名の逮捕者、警察側に6人の怪我人が出る事態に発展した。

(2)業界の反応
鉱業会議所のCordoves理事の見解

新鉱業法は昨年9月までの金属価格が維持されるとの前提で、政府がロイヤルティ復活、価格上昇に伴う特別税を設けたが、現状の市況では、外国企業の新規投資どころか、政府優先プロジェクトと指定されているEcuaCorriente、Kinross、Iamgold、IMC各社が鉱山開発に動き出すかどうか、非常に難しい状況にある。

特に、EcuaCorrienteに関し、同社は鉱山開発を開始するとは言っているが、金融危機の影響で、開山工事の資金を獲得できるかどうか非常に疑問である。資金ショートから開発を先送りになる可能性が高いとみている。

一方、金市場は堅調であることから、Kinross、Iamgoldは鉱業施行細則を見極めた上で、開発にゴーサインを出す可能性が高い。しかし、新鉱業組織のもとで、環境ライセンス取得手続きなどの業務が機動的に行われるとは思われず、また、新鉱業法に沿った環境法の改正も必要になるので、実際の操業開始は相当先になると見られる。

新鉱業法は、他国と比較して税制面、環境面、当局の管理面で非常の厳しい内容となっており、会議所としても施行細則で柔軟な対応を政府に求めている。施行細則の公布は新鉱業法公布から4か月としているが、8か月から1年先と予想している。

Ascendant CopperのJunin 鉱区は既に取り消され、国に返還されている。同Projectは自然保護関連、環境NGOの動き、地域住民との摩擦など問題が多く、民間企業による開発は難しく、政府(鉱山公社)による直接開発しか道は無いだろう。

Kinross GoldのBurt CEOの見解

新鉱業法は、期待していた内容に合致するものと一定の評価がされる。

我々は、新鉱業法が、エクアドル経済発展の土台を築き、責任のある鉱業の成長に対する枠組になると信ずる。

Fruta del Norte金探鉱開発プロジェクトについて、政府からの早期の認可を期待する。許可が下り次第、プロジェクトを再開する。

Aurelian EcuadorのChanner代表の見解
 鉱業活動停止が解除になったとしても、新鉱業法で規定される新たな手続きや環境影響評価作成についての鉱業施行細則が発布されなければ、事業再開は難しい。

4. 今後の見通し
 3月初頭、カナダ・トロントで開催されたPDACに参加したエクアドルのJosé Serrano鉱業次官は、2007年4月から停止されている鉱業活動について、近日中に再開を認める通達を出すと表明した(なお、EcuaCorrienteとKinrossは、3月17日、政府より、プロジェクト凍結解除のレターを受領したと発表)。また、同次官は、エクアドルは600億US$相当の金・銅資源があるが、近代的な鉱山開発は行われておらず、今年1月に新鉱業法を公布し法整備を完了、外国企業の進出の基盤が固まったことを強調し、エクアドルへの進出・投資を呼び掛けた。
 また、コレア大統領は1月15日の就任2周年記念演説において、同国の鉱山開発について、一部地域住民や自然保護団体による反対はあるが、国による責任ある鉱山開発は国家発展の基礎であると述べ、露天掘鉱山を含む新規鉱山開発事業を推進していくことを強調している。
 このように、エクアドル政府としては、新鉱業法公布を足がかりに、鉱業振興を目指したい考えであるが、現下の金融危機の影響で、世界的に新規投資案件が相次いで見直されている中、むしろハードルが高く設定されたルールの下で、果たして鉱山開発プロジェクトが政府の思惑通り、前進していくのか、疑問視する見方が広がっている。我が国としても、同国の鉱業の行方を注意深く見極めつつ、同国進出の可能性を検討していく必要があろう。

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