報告書&レポート
『環境問題を踏まえたエネルギー安定確保』―Anglo American・エネルギー戦略部長による講演より―

Anglo American(本社:London)のエネルギー戦略部長Samantha Hoe-Richardson女史は3月10日、ロンドンのWoman in Mining連盟の会員に向けたエネルギーセミナーにおいて、『環境問題を踏まえたエネルギー安定確保』に関する講演を行った。同部長は、「エネルギー問題の焦点は、信頼性とコスト及び、持続性である。」と強調した。以下、本報告書では、講演の概要を紹介する。 |
1. 信頼性とコスト
アフリカでの電力供給に関し”Load Shedding”がキーワードである。”Load Shedding”とは、電力不足が生じた際に、各地域で指定された時間帯ごとに、電力会社が意図的に電力供給を制限する政策である。南アでも本政策は頻繁に適用され、2008年前半は活発な産業活動に伴い、鉱山会社が必要とする電力量の90%しか供給されない状況が続いた。Anglo Americanも同年、3日前の通知により電力供給が突然停止され、何週間も生産を中断しなければならなかった。同女史は、南アの電力供給の信頼性が欠けている原因として、以下の事項を挙げた。

図1.南ア・Vereeniging近郊のLethabo石炭火力発電所
(出典:Eskom公社、2008年の年間報告書) |
【原因[1]:安価な電力供給】
南アでは電力会社がEskom公社1件のみ存在し、電力供給責任の点から電力価格が抑えられ、電気を安価にて供給している。この安価であることによって電力需要が高まり、供給不足を招いていると考えられる。南ア政府は、同国のエネルギー消費量を把握し、効果的な価格コントロールを行うべきである。
【原因[2]:需要の増加】
南アでは、現在の経済不況により電力の産業需要が減少しているが、延期されている複数の産業プロジェクトを考慮すると、景気回復後は急激な電力需要の回復と伸びが予想される。Eskom公社によれば、同国の電力需要は2018年に現在の約3倍に増加する。Anglo Americanも、同社の事業拡大や更なる鉱山開発を考えると、電力消費量を削減することは困難である。よって、同社はエネルギー消費の効率化に向けた技術開発に注力している。例えば、Anglo Americanの子会社Anglo Coalは、南アでのエネルギー効率化と温水供給システムの断熱性能を向上するために2百万US$相当を投資し、年間約18GWhの節約を目指している。また、Anglo Americanは、2014年までにエネルギー強度 (Energy Intensity)※1を現在のレベルから15%削減することを目標にしている。また、Anglo Americanは、2014年までに『エネルギー使用の効率化による総エネルギー使用量 / 生産量』の割合を現在のレベルから15ポイント低減することを目標にしている。
【原因[3]:エネルギー開発の予算不足】
南アではエネルギー開発の資金源が限定されており、エネルギー開発が実現できないケースが多い。南ア政府とEskom公社は2009年2月、総額220億ZAR(ランド)で更なる石炭火力発電所を共同建設すると発表したが、原子力発電プロジェクトに関しては資金不足が原因で延期された。将来の安定した電力供給の実現のためにも、Anglo Americanは、Eskom公社と共に南ア政府のロビー活動を行い、エネルギー開発に対する外資導入を働き掛けている。
【原因[4]:“Reserve Margin”(給電予備率)の不足】
“Reserve Margin”とは給電予備率でのことで、電力需要の急激な増加や発電所の故障などの不測の事態に備えた予備電力量の定常給電量に対する比率である。
“Reserve Margin”は、通常15~20%が理想値とされているが、南アは8%と余裕が少ない。また、2009年3月のEskom公社発表では、2020年までに南アの鉱山企業が新規石炭鉱山40件を開発するために、1,100億ZAR(約105億US$相当)を投資して、2018年までに合計385百万t/年を達成することを目標としている。しかしながら、2018年の石炭需要は374百万t/年と予測されているため、本計画では3%の余裕しかない。
Anglo Americanは、更なる電力供給不足を予測し、南ア国内で石炭探鉱・開発プロジェクト2件を進めている。Anglo Americanの子会社であるAnglo Coalは、Zondagsfonteinプロジェクト(開発費:505百万US$)で、2010年までに石炭6.6百万t/年を目標としている。また、Mafubeプロジェクト(開発費:292百万US$)は、2007年12月中旬に生産を開始したが、本格生産(年産5.4百万t)に向けた増強を目指している。なお、Anglo Coalは現在、世界第6位の石炭生産企業で、2007年、南アの石炭生産量は59百万tであり、そのうちの約60%(34百万t)をEskom公社に供給している。また、これは、2007年にEskom社が購入した総石炭量(117.4百万t)の約29%に相当する。

(出典:Anglo American、Coal Fact book 2007/8)
(※注:図の赤色は露天採掘を示し、青色は坑内採掘、白色はその他を示す。) |
図2.Anglo Americanが有する石炭鉱山の位置図と2007年生産量
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〔補足説明:同社は現在、南アで石炭8鉱山を操業し、Mafube鉱山は2007年12月に生産が開始された。図2の[1]~[4]の4鉱山から、原料炭の輸出及び現地販売のために約20百万t/年を供給している。なお、Eskom公社とはNew Vaal、New Denmark、Kriel各炭鉱から一般炭年間計35百万tの供給契約を締結している。〕
2. 持続性
図3のとおり、南アではエネルギー供給源の約90%を石炭に依存しており、その他の電力源は、ケープタウン郊外にある唯一の原子力発電所Koeberg(5%)と、水力及び揚水式発電(5%)である。
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(※原子力5%と石炭90%分の電力は Eskom公社から供給されている。) 石炭の燃焼は、化石燃料からのCO2排出の40%を占め、また、石炭を採掘する際に発生するメタンガスは二酸化炭素に比べて、21倍の温室効果ガスを発生することが懸念されている。 |
図3.南アのエネルギー供給源
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同社は、南アのエネルギー不足と環境対策に積極的に取り組んでいる。メタンに関しては新技術を開発し、豪州をはじめ、ボツワナや南アのWaterberg等で適用している。(詳細:http://www.angloamerican.co.uk/aa/development/environment/energy
:本技術で、メタンを回収して、それを販売可能なエネルギーに変換できる。)
また、同社は、環境に悪影響を及ぼさないための石炭利用技術 (Clean Coal Technology) やCCS (CO2 Capture & Storage:二酸化炭素回収・貯留) の開発プロジェクトを実施し、低コストでより良いエネルギー源が開発できるよう注力している。その他、同社はJohnson Matthey社と共同でハイドロゲン(水素)燃料電池技術の開発も行っている。燃料電池には貴金属を利用するため、両社にとって興味深い技術である。南ア政府も家庭用の燃料電池の試作を検討している。
3.おわりに
報道によれば、一般炭価格は現在、経済不況により低迷しており、2009年3月の第2週目では、国際石炭指数(globalCOAL index)のRichards Bay Terminalでの一般炭価格が前年40%以上も下落し56.19US$となった。南アのAnglo Coalは、現在の不況にも拘わらず、生産停止などの発表なく、逆に2008年12月の報道では、Zondagsfontein炭鉱開発プロジェクトも順調に進行しており、2009年4月に出炭開始が予定されている。Anglo Coal南ア支社の社長であるBen Magara氏は、2008年12月の時点では、減産は考えていないと発表しているが、今後、石炭価格低迷がAnglo Coal、そして南アのエネルギー供給にどのような影響があるのか注目される。

