報告書&レポート
INSG(2009年春季:定期会合)参加報告(2)-環境対策について-

2009年4月23~24日、リスボンにてINSG(国際ニッケル研究会)の総会及び定期会合が開催された。以下、本稿では前回報告の需給予測の概要に続いて、経済環境委員会の報告を紹介する。 経済環境委員会 |
1. 『2010年に開催されるCSD (持続可能な開発委員会)への報告書準備について』
1-1.CSDへの報告書が重要な理由
Chevier氏は、2010年5月に開催予定の第18回CSD(以下CSD18thと表記)への準備は鉱業の将来にとって、非常に重要であると強調する。なぜなら、GHS(化学品の分類および表示に関する世界調和システム)の例からも判るように、国際的な規制は国際連合によって採択されるからである。1990年中期までは世銀を含まず、国際連合は、鉱業活動の支援として年間2億US$相当の資金援助を行っていた。しかしながら、今日では鉱業の環境問題が注目され、鉱業は持続可能な開発を繋がらないと主張し、現在では国際連合でも鉱業の悪い印象のみが浮き彫りとなり、環境面での鉱業に係る規制が厳しくなってきている。
リオサミット10周年に当る2002年9月には南ア・ヨハネスブルグにて『持続可能な開発に関する世界首脳会議』が開催され、その結果、加盟191か国は実施計画を採択した。そのパラグラフ第46章の中に、環境サミット関係では初めて鉱業という産業分野が取り上げられ、鉱業の社会貢献や恩恵(発展途上国の経済発展、地域社会や女性の雇用機会、鉱業における既存の環境対策など)が示された。
CSD〔持続可能な開発委員会(United Nations Commission on Sustainable Development〕は、1992年の地球サミットにおいてUNCED(環境と開発に関する国連会議)でのコミットメントのフォローアップを確実に行うため、1993年に国連のECOSOC〔経済社会理事会(Economic and Social Council〕の下に設立された委員会であり、アジェンダ21に基づいたテーマを討議するため、毎年会合を開催している。次の会合は2010年5月に開催されるため、カナダ天然資源省は、UNCTAD (国際連合貿易開発会議)主催のIGF〔鉱業、鉱物、金属と持続可能な開発のための国際的政府間フォーラム(Intergovernmental Forum on Mining, Minerals, Metals and Sustainable Development)〕や同フォーラムの会員団体及び利害関係者の協力の下、CSD18thでの鉱業レビュー及び政策に関する報告書作成に注力し、CSD19 thで開発具体策を発表していく計画である。
1-2.焦点と今後の予定
2010年のCSD18th,、2011年のCSD19thは、『鉱業に於ける化学物質』、『廃棄物及び輸送管理』、そして『持続可能な生産及び消費パターン』が焦点となる。また、2010年5月には、CSD18th計画に基づいて作成された各国の進捗報告書の見直しを行う予定である。
表1.CSD18thへの準備日程 |
焦点 | 2010年のCSD18th、2011年のCSD 19th会議では、『鉱業に於ける化学物質』、『廃棄物及び輸送管理』、そして『持続可能な生産及び消費パターン』が焦点となる。 |
日程 | 2009年春/夏:CSD加盟国は国家報告書に向けて情報収集を行い、パラグラフ第46章にどのように貢献できるかを検討する。2009年秋~2010年冬:2009年10月下旬にIGF会議を開催。CSDへの各国のレポート提出。2010年5月:CSD 18th会議への参加。 |
重要な点として、CSDは、自主的な鉱業政策及び現況に関する国別報告書を求めている。よって、鉱業に関する規制緩和のためにも、カナダ天然資源省は、CSD18th準備に向けた鉱業関係者からの参加を強く呼び掛けている。
2. 『EUの原料確保戦略』欧州委員会Paul Anciaux氏による講演
欧州委員会のAnciaux氏は、原料確保戦略に向けた以下の3つのテーマを報告した。なお、本政策案は欧州議会に既に提出されており、同議会は5月に決定を下す予定である。
表2.EUの原料確保戦略の3テーマ |
テーマ1:国際市場の原料アクセス確保 | [1] EUの戦略的資源外交の開始 (他国との協力関係の強化。また、世銀、UNCTAD、G8 、OECD等との国際協力を推進。北極圏及び深海での資源開発ならびに国際貿易ルートに関する対話、キンバリープロセスやEITI等の国際的イニシアチブのサポート。) [2] 貿易協定における原料条項の取り組み (2か国間または多国間の貿易協定を開発するなど。) [3] 貿易歪曲の排除 (WTO交渉、貿易上の紛争解決、市場アクセス・パートナーシップなどから、EU貿易障害を調査、排除に努める。) [4] 開発政策における持続的資源アクセスの推進。 |
テーマ2:EU圏内での資源アクセス強化 | [1] 土地アクセスに関する法的枠組みの改善 [2] EU内の最適な地質調査所ネットワークの構築 [3] 産学官人材育成 |
テーマ3:EU圏内の資源利用効率化、リサイクルの推進 | [1] 資源の効率的利用及び原料物質代替開発研究 (『Action Plan on Sustainable Consumption and Production and Sustainable Industrial Policy』の一環) [2] リサイクル及び二次原料利用の促進 (EU圏内の廃棄物輸送規制を統一し、不法な廃棄物輸送の規制を目指す。また、法律や指令などによって、分類・ラベル表示の強化を行い、リサイクル市場を促進する) |
(参考:http://ec.europa.eu/enterprise/non_energy_extractive_industries/raw_materials.htm) |
おわりに
欧州連合加盟国の間では、欧州の確固たる基本方針である『全ての危険有害物から、人の健康と環境を保護する』によって、ニッケル産業に影響する指令または法律が増加している。
しかしながら、REACH規制の認可段階からも判るように、欧州議会は、規則・指令を草案する際に社会経済的便益の要素も考慮する傾向がある。よって、カナダ天然資源省のPatrick Chevalier氏が主張するとおり、国際的に、ニッケルに限らず金属製造、そして鉱業の社会貢献や恩恵をアピールし、環境保全策とともに鉱業に於ける持続可能な開発を行っていくことは、鉱業に関する適切な規制水準への是正、そして金属生産活動の継続のためにも重要な対応策であると考えられる。
【付録】『ニッケル産業に影響する欧州連合の規制に関する概要』
2009年3月、INSG経済環境委員会委員長のStewart氏は、主要国でのニッケル生産に影響を与える規則及び指令に関する概況リストを公開した。Stewart氏から掲載許可のもと、欧州連合のみの内容を以下に紹介する。
指令67/548/EEC (危険物質指令)→ 危険物質の分類とラベル表示に関連 |
2009年1月15日に公表された理事指令2009/2/ECにより、67/548/EECは一部改正され、ニッケル化合物を有害化学物質の分類対象とする。 (理由:Read Acrossにより、同等の水溶性を有するニッケル物質は、同レベルのNi(+2)イオンの生物学的利用能と、同等の全身毒性を有するという主張)。 | 技術進歩により、定期的に更新 http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2009:011:0006:0082:EN:PDF |
指令93/72/EEC (危険物質の分類、包装、ラベル表示) |
67/548/EECの第19回適合により、ニッケル地金、硫酸ニッケル、炭酸ニッケルを発がん性物質カテゴリー3に分類し、その他のいくつかのニッケル含有物質(例えば、一酸化ニッケル、二酸化ニッケル、硫化ニッケルなど)は、発がん性物質カテゴリー1に分類される。 | 67/548/EECのAnnexⅠの見直し継続 |
指令1999/45/EEC (危険な調剤に関する指令) ←指令88/379/EECの改正 |
ニッケル含有1%以上の合金は、発がん性物質カテゴリー3及び、皮膚の接触の感作に分類される。但し、合金の特別な特性を考慮する必要があると考えられ、今後のニッケル・ベアリング製品の分類を暗示する。 | 技術の進歩により、定期的に更新。 |
指令88/378/EEC (玩具指令) |
玩具への危険物質及び危険な調剤利用を厳禁。 | 2008年12月12日、欧州議会は玩具指令の新しい安全性の草案を承認。本指令は未だ採択されていないが、今後、玩具製造に利用できるニッケル許容量が減少されると考えられる。 |
指令76/769/EEC (特定の危険な物質と調剤の販売と、使用の制限に関する指令) |
ニッケルに関しては、本指令のAnnexⅠと、危険物質指令(67/548/EEC)を通じて紹介されている。また、欧州議会は2009年1月15日、76/769/ECに関する見直しを発表し、携帯電話へのニッケル使用は、『皮膚に直接及び長時間接触するように設計されている』とし、携帯電話の表面へのニッケルの使用を制限することに合意している。 | REACHの施行により、2009年6月1日に廃止。今後はREACHのAnnex17へ移行。 |
指令94/27/EEC (ニッケルに関する指令) |
76/769/EECの第12回修正 直接または長時間皮膚に接すると、アレルギー反応などを引き起こすニッケル及びニッケル化合物の使用を制限。 |
特定の物質に対するニッケル使用を禁止。欧州委員会の3つの試験方法に関するCEN基準を発行。 |
指令2004/96/EC (皮膚に接触するニッケル製品販売の条件) |
ピアス、装飾品、衣類へのニッケル使用に関する指令76/769/EECの修正 既成のイヤリングは、0.2Mg/cm2/cm2/週を超える濃度で放出しない。また、直接長時間皮膚に接触する部品は、0.5 Mg/cm2/cm2/週を超える濃度でニッケルを放出してはいけない。 |
2008年に公表。 |
指令94/60/EC (特定の危険な物質と調剤の販売と使用の制限に関する指令) |
76/769/EEC指令の第14回修正。 Annexに含まれるニッケル製品: 発がん性物質カテゴリー1には、二酸化ニッケル、一酸化ニッケル、ニッケル亜硫化物、硫化ニッケルを含む。生殖毒性カテゴリー2には、ニッケル・カルボニル(また、いくつかのクロム及びカドミウム製品)を含む。 |
2004年から施行。 |
規則(EC)1907/2006 (新化学物質規制:REACH) |
100種以上のニッケルに危険物質の分類が必要と考えられる。欧州連合における危険物質指令(67/548/EEC)からの技術進歩に対して適合するための(=Adaptation to Technical Progress)文書であるATP-1、ATP-30、ATP-31では、多くのニッケル物質(ニッケル粉末を除く)が、発がん性物質カテゴリー1に分類され、そして、その中の多くは生殖毒性カテゴリー2にも分類されている。 | 2007年6月施行。 2009年6月1日に、指令76/769/EECをREACHへ移行。 (※なお、REACHは危険物質の使用を制限する効力を有する。よって、ニッケル協会はニッケルが、高懸念化学物質に選出されないように、REACHの分類に影響を及ぼすとされるATP修正提案を積極的に行っている。) |
指令90/394/EEC (職場における発がん性物質ばく露の危険に対する労働者の保護に関する指令) |
本指令は、指令67/548/EECまたは指令88/379/EECによって、発がん性物質カテゴリー1または2に分類されるニッケル及びニッケル化合物の製造工程に適用される。また、本指令のAnnexⅠでは、銅・ニッケルマットの製造工程に発生するダスト、煙、噴霧のばく露に影響する。 | 1992年12月31日よりEU加盟国は遵守。2009年現在までに、指令97/42/EEC及び指令38/99/EECが2回修正された。但し、現時点では、ニッケルのばく露の制限量は含まれていない。 |
指令98/24/EC (職場の化学物質に関するリスクから労働者の安全衛生を保護するための指令) |
ニッケルは本指令の対象であるが、許容量は未だ設定されていない。 | 2001年5月5日よりEU各国にて施行開始。 |
指令89/109/EEC (食品との接触を意図される材料及び物品に関する指令) |
食品との接触を意図される材料及び物品に関する加盟諸国の法律の近似化。食品に接触する材料及び物品は、ヒトの健康及び感覚器官に害を与えるとする物質を放出してはいけない。ニッケルは、食品の製造または保存に利用される倉庫または容器の合金に多く利用されている。 | 指令はすでに適用されている。 |
指令96/61/EC 総合的汚染防止管理(IPPC)指令 |
各産業施設からの大気、水、土壌への汚染物質の排出状況を把握し、汚染防止・削減を目指すと共に、産業施設の認可制度の統合化を図ることを目的とする。 | 1999年以降、EU各加盟国にて、施行開始。一次・二次原料からの非鉄金属生産にも適用。 |
委員会決定2000/479/EC (欧州汚染物質排出登録制度[European Pollutant Emission Register:EPER]) | 96/61/ECの第15条(3)に応じて、EU加盟国は、特定ソースからの排出量に関するデータを欧州委員会に提出しなければならない。ニッケルに関しては、大気中50kg以上/年、水中20kg以上/年を放出する場合、加盟国は報告が要される。 | EU各加盟国は、2008年から3年後ごとに報告書を提出する必要がある。 |
指令98/83/EC (飲料水に関する指令) |
ニッケルのガイドライン濃度は20μg/L。今後、飲料水の浄水または供給に利用される合金へのニッケル使用が制限される可能性も潜む。 | 2003年12月25日に指令EC/80/778から移行。 |
規制EC/793/93 (既存物質の評価) |
ヒトの健康及び環境へのリスク評価の調和。
1997年、ニッケル地金及び硫酸ニッケルはリスク評価の第3優先リストに含まれ、2000年10月には塩化ニッケル、炭酸ニッケル、硝酸ニッケルが第4優先リストに選ばれた。なお、リスク評価国はデンマークである。 |
ニッケル地金、塩化ニッケル、硝酸ニッケル、ヒドロキシ炭酸ニッケル、硫酸ニッケルのリスク評価は、2008年中期に完了。 |
指令91/157/EEC (電池指令) |
危険物質を含む電池の販売制限、消耗電池の回収・廃棄方法の調和を目指す。1993年1月1日からは、水銀を含む電池の販売が禁止された。また、本指令に対して、ニッケル自体は含まれていないが、NiCd電池には影響力がある。デンマークでは、NiCd電池のリサイクルは社会経済利益が少ないという理由からも、カドミウム0.002%以上を含むNiCd電池の市場販売が禁止されている。 | 本指令の見直し継続 |
理事会規則EEC259/93 (欧州共同体内での、共同体への、及び、共同体からの廃棄物輸送の監督及び規制に関する理事会規則) |
廃棄物に関する指令の基本原則は、指令75/442/EECに定められており、指令91/156/EECによって修正が加えられている。
規則EEC259/93では、少数の例外を除いて、「処分のための廃棄物」と定義された物質を輸出することは原則として禁止されており、OECDの決定またはバーセル条約の対象国でない国への「再利用のための廃棄物」の輸出は、特別な合意が必要となる。また、廃棄物は3つのリスト(緑、黄、赤)に分類され、各廃棄物に関する輸出手続きへの特定必要条件が規定されている。 |
Annexの追加が続行。採択された新しいAnnexは、規則2408/98と委員会決定1999/816/ECである。 |
理事会規則EC/1420/1999(廃棄物輸送指令) | 理事会規則EC/1420/1999には、特定の国に特別な廃棄物を輸送する際に必要な輸出手続きが記されている。また、国によっては、廃棄物に含まれるニッケルに対して、特別な輸出手続きを要する。 | Annexを定期的に更新 |
指令76/768EC (化粧品) | 化粧品に対するほとんどのニッケル使用を禁止。 | ATP-31の分類を自動的に誘発。 |
指令1999/31/EC (廃棄物の埋め立てに関する指令) |
地域レベルでの廃棄物の埋め立てに関する技術基準。埋立地には、有害廃棄物、非有害廃棄物、そして不活性廃棄物の分類が存在し、加盟国によっては、本指令よりも厳しい処置を要求することが認められている。 | 2003/33/ECにより、埋立地の技術的な要求及び判断基準を理事会が規定。 |

