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豪州の鉄鉱石鉱床現地調査報告-西豪州鉄鉱業の概況及び鉄鉱石の地質鉱床-

2009年2月にJOGMECの民間企業に対する金融支援制度である「海外探鉱資金出融資制度」、「海外開発資金債務保証制度」の対象鉱種に鉄鉱石が追加され、同年3月には実際に豪州における鉄鉱石の探鉱プロジェクト2件に対して、合計約11億円の融資が実行された。 |
1. WA州の鉄鉱石
豪州においては、1960年代から鉄鉱石の開発が行われ、2007年には中国からの旺盛な需要に喚起され、鉄鉱石生産量が約275百万tに達している。このうち約260百万tが西WA州から生産されており、同州は豪州鉄鉱石産業の中心に位置しているといえる。

図1.豪州の鉄鉱石生産量の推移(単位:百万t)
(出典: | The Government of Western Australia :Western Australian Mineral and Petroleum Statistics Digest 2007-2008 | ) |
WA州の主要な鉱産物は鉄鉱石、石油・天然ガス、ニッケル、アルミナ、金等で、これらの年間輸出総額は58.6 billion A$である。このうち、鉄鉱石は20.5 billion A$と最大のシェア(35%)を占めている。
WA州の鉄鉱石生産の中心はPilbara地域であり、同州から産する鉄鉱石の90%以上が同地域からのものである。日本との関係でいえば、日本は年間134百万tの鉄鉱石を輸入しているが、この約60%に相当する83百万tが豪州から輸入されている。従って、日本が輸入している鉄鉱石の過半はWA州・Pilbara産といえる。

図2.WA州の鉱産物

図3.WA州の鉱産物の輸出額(単位:10億A$、%)
2. Pilbara地域の鉄鉱床
Pilbara地域における鉄鉱石生産の中心は、地域南部のHamersley basin(ハマスレー・べーズン)である。Hamersley basinでは始生代のPilbara craton(ビルバラ・クラトン)を覆って、後期始生代~前期原生代の大規模地質体であるMount Bruce(マウント・ブルース)超層群(層厚約10,000m)が堆積している。Mount Bruce層群に属するHamersley層群は層厚2,550mで、縞状鉄鉱層(Banded Iron Formation : BIF)の存在で特徴付けられる。

図4.Pibala地域・Hamersley basinの地質図(水色:縞状鉄鉱層、赤丸:鉄鉱山)
赤色囲みはMount Bruse超層群
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a)著しい褶曲構造を示す | b)鉄鉱層(青く見えるが実際には黒色部)と チャート層(灰白色部の)バンド構造が特徴的 |
写真1.典型的な縞状鉄鉱層(Banded Iron Formation: BIF) |
BIFは数mm程度の鉄鉱層とチャート層からなるリズミカルなバンド構造が特徴的な岩石である。鉄品位は通常30%程度で、鉄鉱層の割合が高いと鉄品位が高く、逆にその割合が低いと鉄品位も低くなる。BIFそのものは鉄鉱床の母岩であり、これが変質作用を受けることにより鉄分が濃集した部分が鉄鉱床として採掘されている。 Hamersley層群に属するBIFのうち、Brockman(ブロックマン)鉄鉱層(層厚620m)、Marra Mamba(マラマンバ)鉄鉱層(層厚230m)が最も重要である。
Hamersley basinの鉄鉱床は、以下の3タイプに分類される。
a)BIF型鉄鉱床(Enriched Bedded Ore)
BIFそのものを鉄鉱石として採掘することは通常、経済的に困難である。最近の研究によれば、BIFが熱水による変質作用及びその後のSupergene(浅成交代作用)変質作用を受ける過程で鉄が65%程度まで濃集することにより生成された鉱床と考えられており、鉄資源として最も重要な鉱床タイプである。断層、向斜構造などの地質構造が熱水の循環にとって大きな働きをしたと考えられている。 Hamersley basinのBIF型鉄鉱床は、母岩となるBIFの違いによって“Brochman”と“Marra Mamba”に大別されており、主要な鉄鉱物は、前者が赤鉄鉱(Fe2O3)マータイト (結晶系は磁鉄鉱(Fe3O4)であるが化学組成は赤鉄鉱と同じで、磁鉄鉱が赤鉄鉱に変質した鉱物)であるのに対し、後者は赤鉄鉱ゲーサイト(Fe(OH))である。 一般にBrockmanの方が硬質で鉄品位が高い。Brockmanの中でも高品質とされる鉱石はFe 64%以上で、P(リン)の含有率が低い。Brockmanの標準的な鉱石、Marra Mambaの鉱石品位はFe 62%程度である。 |
b)化学的堆積鉱床(Chemically Precipitated Ore)
河川堆積鉱床(Channel Iron Deposit)、ピソライト鉱床(Pisolite Ore)とも呼ばれている。一旦形成されたBIF型鉄鉱床が物理的・化学的な風化作用により河川に流れ出し、木片やBIFの破片を核としてゲーサイトが成長し、豆状の構造(ピソライト構造)をもった鉄鉱石となったものである。周囲の岩石に較べて硬質であるためメサ状の地形を呈している。Fe 57~58.5%で、LOI(灼熱減量)が10%程度であるため運送面で不利である。 |
c)砕屑鉱床(Detrital Ore)
一旦形成されたBIF型鉱床が主の物理的風化作用により、再堆積して形成された鉱床で、ルーズな砂礫状あるいはセメンティングされた組織を呈するのが特徴である。 |
以上のような従来型の鉄鉱石鉱床の他に、鉄品位30%程度のBIFそのものを採掘し、磁鉄鉱を磁力選鉱によって回収するというプロジェクトも立ち上がっている。
これらの鉄鉱床の資源量を合わせるとWA州全体で50bt以上の鉄鉱石資源量の賦存が推定されており、その大部分はPilbara地域に属する。

写真2.鉄鉱石の種類
3. BIF型鉄鉱床の成因
(1)BIFについて
BIFは海中で鉄成分が沈殿したものであるが、その成因については定説はない。従来からの説としては、始生代の還元的な海水中に大量に溶在していた2価の鉄イオン(Fe2+)が約25億年前に大量発生したシアノバクテリア(藍色細菌、藍藻、真正細菌の一群、ストロマトライト)が光合成によって放出した酸素より酸化され、酸化鉄(Fe2O3)として沈殿してBIFとなったという考えがある。
今回の研修では、BIFが海水から直接沈殿したことを示す積極的な証拠がほとんどないことから、海盆中に噴出した熱水からの沈殿物(鉄酸化物、鉄を含む粘土鉱物の混合物)が続成作用・変成作用によって再結晶することによりBIFが生成されたとする説が紹介された。
(2)BIF型鉄鉱床の成因
BIFの初生的な鉄品位は30%程度で、鉄鉱物は赤鉄鉱、磁鉄鉱、鉄炭酸塩鉱物などにより構成される。BIFそのものは低品位であるため、一般的には経済的な鉱床とはならない。BIF型鉄鉱床の生成には地質時代を通じての続成作用や変質作用が大きく関与していると考えられている。今回の研修では初生のBIFが地下深部における熱水変質作用と地表付近の天水によるスーパージーン変質を受けることによって高品位なBIF型鉄鉱床が生成されるというモデルが示された。
熱水変質作用は熱水の作用により、BIFに含まれるシリカなどの成分が除去されることにより鉄分が濃集するもので、熱水が循環するための断層帯の存在が重要である。Hamersley basinにおいては22~20億年前に起こった2サイクルの応力場の変化によって生じた断層が鉱床生成に密接に関係すると考えられている。
熱水変質作用には複数のステージがあったと考えられている。初期のステージでは、まずBIFのチャート層が除去されて熱水の通路となり、熱水がBIF中に拡散することによって鉱化が広がることが助長されたと考えられている。熱水によってBIF中に磁鉄鉱、鉄の珪酸塩鉱物や炭酸塩鉱物が生成され、ステージが進むにつれてこれらがさらに鱗片状の赤鉄鉱(Micro platy hematite)に置換される。熱水変質が強まるにつれ、シリカ分が除去されるので、体積が変質前より減少する傾向にある。
スーパージーン変質は地表近くにおける天水の循環によるもので、これにより鉄分がさらに濃集され高品位の鉄鉱石が生成される。
以上のような過程を経ることによって、BIFに含まれていたチャート層の大部分が除去されるとともに、鱗片状の赤鉄鉱(Micro platy hematite)、マータイト、ゲーサイトを主な鉄鉱物とする鉄鉱床が生成される。
図5にHamersley basinに位置するParaburdoo鉄鉱床の断面図を示す。この鉱床はBrockman鉄鉱層を母岩とする高品位鉄鉱床で、鉱床は断層帯と密接に関連していることが分かる。

図5.Paraburdoo鉄鉱床地質断面図(オレンジ:高品位鉄鉱床)
図6にParaburdoo鉄鉱床の生成モデルを示す。まず、ブラインと呼ばれる比較的高温(160~180℃)の熱水が断層を伝って上昇し、BIFからチャート層(シリカ分)が溶脱し、鉄の炭酸塩鉱物や鱗片状の赤鉄鉱(Micro platy hematite)が生成される(図6A)。さらに熱水活動が終結した後に、天水が断層を伝って深部まで浸透する。これによって炭酸塩鉱物は除去され、磁鉄鉱は赤鉄鉱化を受ける(図6B)。

図6A.Paraburdoo鉄鉱床の生成モデル(熱水変質)

図6B.Paraburdoo鉄鉱床の生成モデル(Supergene変質)
4. BIF型鉄鉱床の探鉱
BIF型鉄鉱床を熱水鉱床と考えれば、その探鉱方法はJOGMECが長年実施している非鉄金属鉱床の探鉱手法と基本的に同じである。母岩となるBIFそのものの賦存状況はほぼ明らかになっているが、地下に潜頭しているBIFの賦存状況を明らかにするためには、空中磁気探査、地上磁気探査、重力探査が有効である。
BIF型鉄鉱床の探鉱においては、BIF中で熱水の循環により鉄分が濃集している場所を探すことになるが、上述のように熱水の通路としての断層帯が重要な探鉱指針となるので、広域的な地質構造の把握が探鉱の第一歩といえる。また、熱水が循環したことを示す炭酸塩鉱物や鱗片状赤鉄鉱の存在も探査指針となる。Hamersley basinにおいては、特定の時期(22~20億年前)に形成された断層が鉱床生成と密接に関連しているので、広域的な地質構造を明らかにするとともに構造発達史を検討することも重要と考えられる。
地化学的な手法については、現在のところ世界の7鉄鉱床80試料程度について主要元素~微量元素の分析データが存在するのみであり、鉱化作用における元素の挙動の詳細については未だ研究途上である。大まかな傾向としては、熱水変質作用により鉄・アルミが付加され、シリカをはじめその他の元素は除去される傾向がみられるので、BIF中のAl2O3/SiO2比などが指標となる可能性が考えられる。
5. Koolyanobbing鉄鉱山
以下に本研修で見学したKoolyanobbing鉄鉱山を紹介する。
同鉱山はPerthの北東約400kmに位置する露天堀鉱山で、米国資本のPORTMAN社が所有している。地質区分としてはWA州南部のYilgarn Craton(WA州南半に分布する始生代クラトン)に属しており、WA州の稼行中心のPilbala地域に比べると鉄鉱床開発の新興地域に位置する鉱山である。
Koolyanobbing鉄鉱山の2008年の生産量は770万t(鉄量ベース)で中規模の鉄鉱山である。鉱床はBIF型鉄鉱床であり、小高い丘を形成しているため、鉱床の位置は地表から容易に認識することができる。全体で7ピットあり、本研修ではその中で最大のKピット(残存鉱量10.4百万t、Fe 62.25%)及びDピット(残存鉱量0.3百万t、Fe 60.87%)を見学した。
Kピット西部においては、断層帯と密接に関連して赤鉄鉱(鏡鉄鉱)帯からなる鉄鉱床が生成され、断層から数m離れると未変質のBIFとなっている現象が認められた。このことは、断層に沿って循環した熱水あるいは天水の働きによって鉱床が生成されたことを明確に示していると考えられる。またピット中央部(底部)には磁鉄鉱を主体とする鉱体が認められた。このような異なる鉱体の存在は、熱水変質のステージの違いを示しているものと考えられる。
Dピットにおいては、Supergene変質起源と考えられるゲーサイトの露頭が観察された。注目すべき現象としては、ゲーサイト露頭(鉱体)と未変質に近いBIFとの中間にある漸移帯において、ゲーサイト中にBIFが取り残されている産状が観察され、鉱床の生成途上にある現象と考えられた。

写真3.Koolyanobbing鉱山Kピット全景(長径800m程度、ピットの南から北方を望む)

図7.Koolyanobbing鉱山Kピット地質図
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(a)Kピット西部-断層に沿った赤鉄鉱露頭 | (b)Kピット中央部(底部)-磁鉄鉱鉱石露頭 |
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(c)Dピット-BIF中に熱水が染み込んだ組織 | (d)Dピット-ゲーサイト中に取り残されたBIF |
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(e)研修参加者集合写真 | |
写真4.Koolyanobbing鉱山での撮影写真(撮影:JOGMEC) |
6. 鉄鉱石の分類
以下に鉄鉱石の分類について述べる。鉄鉱山で採掘された鉄鉱石は、破砕・スクリーニングされ、その粒径によって塊鉱(Lump)と粉鉱(Fine)に分類されて出荷される。
a) | 塊鉱石は6.3~31.5mmサイズの鉱石で、前処理なしに直接高炉に投入することが可能である。輸送時に破壊され易いので高炉投入前に再度スクリーニングを行い、規格サイズ以下の鉱石を粉鉱石として分離することが必要である。 | |
b) | 一方、粉鉱石は150µm~6.3mmサイズの鉱石であり、多種の粉鉱石をブレンドして均質な混合鉱石とされる。粉鉱石はそのままでは溶鉱炉原料とすることはできず、高炉投入前にシンタリング(焼成)を行い、焼結鉱(シンター)に加工することが必要である。焼結鉱は高炉用の鉄鉱石原料の70~80%を占めるため、原料の化学的性質に大きな影響を与える。均質であること、High-Fe、Low-SiO2、Low-Al2O3、Low-Pが望ましいとされている。 | |
c) | 粉鉱石よりも細粒は微粉状の鉱石は直径10~15mmのペレットに成形してから高炉に投入される。微粉状鉱石は運搬効率が悪いため、ペレット工場は通常、鉱山に併設されており、ペレットに加工してから運搬するのが一般的である。 |

写真5.鉄鉱石の分類
7. 鉱石の品質について
Pilbara地区において現在採掘されている鉄鉱石の品質は表1に示すとおりである。SiO2とAl2O3は高炉においてスラグ成分となるので少ない方が良いとされている。またPは鋼を脆くする性質があるのでこれも少ない方が良い。
Brockman、Marra MambaについてはFe 58%、河川堆積鉱床についてはFe 54%がカットオフ品位の目安となってきたが、近年の鉄鉱石需要の増大により、従来開発対象外であったより低品位の鉱石も注目され初めており、Brockman、Marra MambaについてFe 50-55%、河川堆積鉱床についてFe 45-50%で鉱山開発を行う会社も出てきている。
表 1. 代表的鉄鉱石の品位(%) |
Fe( % ) | SiO2( % ) | Al2O3 ( % ) | P( % ) | LOI( % ) | |
Brockman (塊鉱石、ブレンド) | 65.0-65.5 | 2.8-4.0 | 1.5-1.9 | 0.05-0.07 | 1.0-2.5 |
Brockman (粉鉱石、ブレンド) | 62.4-63.0 | 4.2-5.6 | 2.0-2.5 | 0.07-0.12 | 2.0-5.0 |
Marra Mamba | 61.5-63.0 | 2.6-3.0 | 1.5-1.8 | 0.05-0.06 | 5.0-8.0 |
河川堆積鉱床 | 57.0-58.5 | 4.5-5.5 | 1.4-2.7 | 0.04-0.05 | 9.0-10.0 |
8. 生産・運搬プロセス
各鉱山で採掘された鉄鉱石は破砕・スクリーニング工程の後、ブレンディングが行われ、品質毎(Fe, SiO2, Al2O3, P品位等による)に塊鉱および粉鉱に分類され、各鉱山に一次ストックされる。
貯鉱はBHPBなど主要な鉱山会社によって整備された鉄道網を使って列車により港まで運搬される。列車には240~300の貨車が連結されており、全体の長さは2.5~ 4kmと長大で25~35時間間隔で運行されている。
Pilbara地域にはDampier、Cape Lambert、Port Hedland、Cape Prestonの4箇所に港が存在する。各港において再度、破砕・スクリーニング・ブレンディングが行われ、各国鉄鋼メーカーのニーズに応じた品質の鉄鉱石が船舶輸送される。
9. 鉄鉱石生産の推移及び今後の見通しについて
WA州の鉄鉱石の生産は1960年代に始まり、現在に至るまで東アジア地域の鉄鋼業の発展に伴って生産量が拡大してきた。1970年代には年間生産量は80百万t程度であったが、2007年には約270百万tに達している(図1)。1960年代から1970年代は日本の高度経済成長による鉄鋼業の発展がWA州の鉄鉱石生産の拡大に大きく寄与し、日本の経済が成熟した1980年代以降は韓国・台湾の経済発展が大きな役割を果たしてきた。2000年代は中国の急激な経済成長に伴う需要拡大が寄与しており、この傾向は今後も継続すると予測されている。中国向け輸出割合は2006年に約50%であったが、2020年には約70%になるとの予測もある。
WA州の鉄鉱石産業にとって、日本・韓国・台湾が成熟した安定的なマーケットであるのに対して、中国が今後急進するマーケットと考えられている。
現在、WA州においては、今後の鉄鉱石需要の拡大を睨んで、多くの新規開発プロジェクトが立ち上がっているが、これらのほとんど全てに中国企業が投資している。
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※出典について: | 図2~7,表1及び写真1,2,5 Prof.Dr.Habil Steffen Hagemann,Dr Thomas Angerer(2009) In: The Centre for Exploration Targeting JOGMEC Iron Ore Traininng Handbook. 24th and 25th March 2009 |
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