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Cananea銅山のストライキ終結とその影響
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2007年7月末から続いていたCananea銅山におけるSTMMRM(メキシコ鉱山治金労働組合)主導によるストライキは、2008年後半の金属価格の下落と相俟って、Grupo Mexicoに大きな痛手を与えた。このストライキ(以下”本スト”とする)は、2009年4月にメキシコ労働社会福祉省が同銅山全従業員の解雇を認める裁定を下したことで一応の決着をみた。本ストの経緯、及びその影響について論評する。 |
1. ストライキの経緯及び背景
(1)経緯
2007年7月30日に発生したCananea銅山の本ストは、2009年4月14日に労働社会福祉省(STPS:Secretaria de Trabajo y Prevision Social)の連邦調停仲裁委員会(JFCA:Junta Federal de Caoncilliacion y Arbitraje)が同銅山全従業員の解雇を認める裁定を下したことで一応の決着をみた。本ストの経緯は以下のとおりである。
<2007年>
- [1]7月30日、新労働協約の締結と保安衛生条件の改善を求めてSTMMRM(メキシコ鉱山冶金労働組合:Sindicato Nacional de Trabajadores Mineros, Metalurgicos y Similares de la Republica Mexicana)第65支部に属するCananea鉱山の労組員がストに突入。当初STMMRMはGM傘下の9事業所でストを行う予定であったが、実際に本ストに突入したのは、Cananea、Taxco銀山(第17支部)、San Martin銅・亜鉛鉱山(第201支部)の3事業所。
- [2]8月3日、GMは、本ストは労働協約とは関係がなく、個人的かつ政治的な利益を追求しているものであるとして、JFCAに違法ストであると申告。
- [3]8月8日、JFCAは本ストが労働基準法第174条の規定(スト決定は労組の臨時一般総会の投票を経なければならない)に従わない違法ストと裁定。これに対して、STMMRMはストの継続を求めて直ちに司法当局に提訴。
- [4]8月9日、第一審裁判所は違法スト裁定を暫定的に取り消し、ストの継続を承認。その後、同裁判所は職場復帰を希望する労働者による操業再開を認めるが、ストの継続は可能であり、これに参加している労組員の解雇はできないとの判断を下した。
- [5]10月25日、STPSがSTMMRMから脱退した労組員85名によって結成された新組合STUMMSIC(Cananea独立鉱山冶金等単一労組)を認可。
- [6]12月6日、新労働協約の締結と保安衛生問題についての労使協議が行われたが、合意に至らず交渉は決裂。
<2008年>
- [7]1月11日、JFCAが本ストの違法性を改めて宣告し、労組員に対し24時間以内に職場復帰するよう勧告した。STMMRMはJFCAの宣告が憲法違反であると司法当局に提訴。
- [8]3月初旬、GMは職場復帰した労組員(全体の約20%)及び請負業者によってCananeaの銅カソード生産が生産能力の60~70%、銅精鉱生産が30%まで回復したと発表。
- [9]3月末、STMMRMがCananea銅山周辺の道路を封鎖。GMの発表によると、道路封鎖直前の生産量は銅カソード150t/日(100%)、銅精鉱120t/日(35~40%)。
- [10]4月28日、JFCAが第1審裁判所の命令に従い、本ストを合法と認定。Cananea銅山の操業は全面的に停止された。
<2009年>
- [11]1月、メキシコ司法当局は本ストが合法であるとの最終裁定を下した。
- [12]3月20日、GMはCananea銅山の主要設備が甚大な被害を受けているため操業の継続が不可能として、労働協約及び個人雇用契約の終了通知をJFCAに提出。
- [13]4月14日、JFCAはGMの主張を認め、労働法第434条の規定(不可抗力による操業停止に伴う雇用関係の解消)に基づき、Cananea銅山全従業員の解雇を承認。
(2)背景
ストを主導するCananea鉱山労組(STMMRM第65支部)は、本ストの目的を保安・衛生条件の改善及び新労働協約の締結を促進することと表明した。しかしながら、GMとSTMMRMの労使紛争の背景には、公金横領で告発され海外に逃亡中のSTMMRM委員長Napoleon Gómez Urrutiaの問題がある(注1)。GMはSTPSが認めたElias Morales暫定委員長指揮下の組合を正式な労組と見なし、同労組間で新労働協約について交渉済みであるとの立場であった。一方、Gómez委員長を支持する労組リーダーは暫定組合長の下での労使交渉を認めず、労組の定期総会で再選出された同委員長の指揮の下、再交渉を行うべきと主張しストに突入した。
GMは本ストが労働問題に起因するものではなく、Gómez委員長に対する訴追取り下げ等を目的とする政治的なものとの見解を度々発表している。
- (注1)Gómez委員長は、横領罪で告発された後、2006年2月にメキシコ政府によりその地位を追われた。容疑の詳細は以下のとおり。1990年に実施されたCananea銅山の民営化に際し、GMは、同鉱山の権益の95%(残りの権益5%は全労組員が共有)を買収した。2005年3月に同社は、労組員の所有する権益分5%を約55百万US$で買収し、労組の口座に振り込んだ。Gómez委員長は、職務権限を利用して同口座から55百万US$を引き出し、その資金を自身及び家族の口座に分散したとされている。
政府によるGómez委員長の罷免は、労組内の深刻な対立とGM傘下の鉱山及び製錬所における断続的なストの引き金となった(CT第06-51号及び06-71号参照)。なお、2007年4月にメキシコの第1審裁判所は、労働省が暫定委員長と認めたElias Moralesの就任を取り消し、Gómez委員長の復帰を認める判決を下した。
2007年9月にSTMMRMは、外部監査によってGómez委員長の嫌疑は晴れたとして、同委員長とSTMMRMの口座凍結の解除及び同委員長に対する全ての告訴の取り下げをメキシコ政府へ要請した。
Gómez委員長の任期は2008年5月31日で満了。STMMRMはGómez委員長の再任の承認をSTPSに求めたが、2008年6月24日付けで同省はこれを拒否した。STMMRMは同省の不承認を不服とし、司法当局に提訴した。2009年3月30日に第1審裁判所はSTPSの裁定を支持しGómez委員長の再任を認めない判決を下した。
2. 本ストの影響
(1)本ストによる損失
本スト発生以前の2007年のCananea銅山の生産量は、銅金属量で約14,000t/月(銅精鉱中含量9,100t、SxEwカソード4,900t)であった。ストが起こらなかった場合の仮想生産量を上記のとおりとし、各四半期のLME平均銅価格を用いて試算すると、スト開始から2009年Q1までに失われた銅生産量は表1のとおりで損失額は1,729百万US$と試算される。
| 表1 . 本ストによる銅生産の損失 |
| 仮想生産量 (t) | 生産量 *(t) | 損失生産量 (t) | 平均銅価 (LME:US$/lb) |
損失額 (百万 US$) |
|
| 07年Q3 | 42,000 | 14,000 | 28,000 | 3.50 | 216 |
| 07年Q4 | 42,000 | 0 | 42,000 | 3.26 | 302 |
| 08年Q1 | 42,000 | 13,000 | 29,000 | 3.54 | 226 |
| 08年Q2 | 42,000 | 0 | 42,000 | 3.83 | 355 |
| 08年Q3 | 42,000 | 0 | 42,000 | 3.48 | 322 |
| 08年Q4 | 42,000 | 0 | 42,000 | 1.77 | 164 |
| 09年Q1 | 42,000 | 0 | 42,000 | 1.56 | 144 |
| 合計 | 294,000 | 27,000 | 267,000 | – | 1,729 |
| *)生産量は推定値。 GM 及び SCC 社発表によると、 Cananea 銅山の 2007 年の銅生産量は 98.5 千 t( 銅精鉱中含量 63.9 千 t 、 SxEw 34.6 千t ) 、 2008 年の生産量は銅精鉱中含量 6,165t 、 SxEw による生産は未発表。 |
2007年9月20日にGM社長は、ストによるCananea銅山の損失は、EBITDAベースで2.8百万US$/日に上ると発言した。同発言を基に損失額を試算すると、2.8百万US$/日×670日(2007年7月末~2009年5月末)=1,870百万US$となる。また、スト発生1年後の2008年7月30日にGM社は、ストによる1年間の損失が銅量で190,000t、金額で1,360百万US$に上るとの声明を発表した。
本ストは、操業中止による直接的な損害ばかりでなく、GMの鉱山開発投資計画にも大きな影響を与えた。GMの国内投資はCananea、La Caridaの両銅山が位置するSonora州を中心に行われていたが、Cananeaの先行きが不透明であったため、同社は2,100百万US$に上る投資計画の破棄を余儀なくされた。
更に、GMは、スト期間中に破壊された設備を復旧し、Cananea銅山を再開するためには、50~60百万US$の投資と、2~3か月の工事期間が必要であると発表している。
| 表 2 GM の 業績推移 |
| (単位:百万 US$) |
| 07年Q1 | 07年Q2 | 07年Q3 | 07年Q4 | 08年Q1 | 08年Q2 | 08年Q3 | 08年Q4 | 09年Q1 | |
| 売上高 Sales | 1,575.4 | 2,088.9 | 1,865.3 | 1,557.7 | 1,736.1 | 1,758.2 | 1,737.6 | 713.8 | 824.1 |
| 当期損益 Net Income |
437.9 | 524.8 | 498.9 | 207.1 | 452.6 | 451.7 | 342.1 | -175.2 | 19.1 |
| 売上高利益率 | 27.8% | 25.1% | 26.7% | 13.3% | 26.1% | 25.7% | 19.7% | -24.5% | 2.3% |
| 銅生産量(千t) | 171.6 | 159.2 | 136.8 | 125.9 | 127.9 | 117.3 | 118.7 | 125.2 | 119.8 |
(2)他鉱山への波及
本ストの発生以後、メキシコ国内の他鉱山、製錬所におけるストが散発しているが、本ストの直接的な影響を受けて発生した例は数少ない。JFCAが本ストを違法と認定したことへの抗議行動として、STMMRMは2008年1月16日に全国ストを召集した。STPSの集計したデータによると、この全国ストに参加した鉱業所は、国内135鉱業所の1/3に相当する42鉱業所に過ぎなかった。また、このストは同日の一の方のみで行われたものであり、鉱業生産に大きな影響を与えるものではなかった。
最近、メキシコで発生した他の大きなストとしては、PenolesのTorreon製錬所のスト(2009年2月8日~4月14日)が挙げられるが、このストは単なる賃上げ闘争であり(基本給6%、福利厚生費1%のアップで妥結)、Cananea銅山のストのような政治的背景はなかった。
(3)STRMMRMの弱体化
STMMRMはメキシコ最大の鉱山労組(2007年6月現在の登録組合員数:33,581名)であるが、近年、Gómez委員長絡みのストや内部抗争の影響で弱体化が進んでいる。STMMRMは今回のストに先立つ2006年に、労働協約の改定とGómez委員長の復権を目的としたストを、GM傘下の事業所で起こした。しかしながら、このストはLa Caridad鉱山・精錬所の一時閉鎖及び全従業員2,000名(内組合員1,200名)の解雇という結果に終わり、同鉱山・精錬所への影響力を失うこととなった。
今回のCananea銅山のスト中の2007年9月に、メキシコ国内のGM保有8事業所(Santa Barbara 多金属鉱山、Nueva Rosita炭鉱、La Caridad 精錬所、La Caridad銅山、La Calera石灰鉱山、San Luis Potosi銅製錬所、San Luis Potosi亜鉛精錬所、 Charcas多金属鉱山)で実施された労組員の直接投票の結果、これら事業所におけるGMとの労働協約締結組合はSTMMRMではなく、2006年に結成されたSNEEBMRM (メキシコ全国鉱山・探鉱・採掘・選鉱労働組合:Sindicato Nacional de Trabajadores de la Exploracion, Explotacion y Beneficios de Minas de la Republica Mexicana)であると認定された。この労組員の投票は、SNEEBMRMが2007年6月に起こした労働協約締結資格の審判請求をを受け、労働法に規定された手続きに従い、JFCAが実施したものである。JFCAの発表によると、本投票には8鉱業所の労組員4,158名の内、3,865名が参加し、SNEEBMRM支持が3,716票、STMMRMの支持票は僅か149票であった。
Cananea銅山のストが労組員全員(約800名)の解雇という結末に終わり、STMMRMはさらに弱体化するとみられる。
3. まとめ
本ストによる経済的損失は巨額なものと見積もられ、特に金属価格が下落した2008年後半からのGMの業績に大きな影響を及ぼすものとなった。しかしながら、今回のストはPenoles等他の鉱山企業へ大きく飛び火することが無かったため、本件がメキシコ鉱業界へ与えた影響は、少なくとも表面上は限定的なものであった。また、度重なるストライキを主導してきたSTMMRM委員長Gómez氏支持派勢力が、今回のCananea銅山における本ストの終結の結果、弱体化したことから、GM傘下の事業所におけるストの頻発は沈静化するものとみられる。
他方、金属価格の下落と金融危機の影響により、メキシコ鉱業分野では2008年下期に14,000人の失業者が発生したと報道されている。また、メキシコ鉱業会議所(Camimex)の発表によると、2009年4月現在、2,500名の鉱山労働者がストに参加中とのことであり、今後、新たに大規模な労働問題が発生する可能性は否めない。
| 表 3 、メキシコ鉱山治金部門の雇用者数 | ( 単位:人 ) |
| 年 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 |
| 非金属鉱物の採掘・選鉱 | 33,267 | 34,271 | 36,516 | 37,457 | 38,032 |
| 金属鉱物の採掘・選鉱 | 21,390 | 24,095 | 25,206 | 29,257 | 37,289 |
| 塩採掘 | 2,490 | 1,698 | 1,813 | 1,837 | 1,890 |
| 非金属鉱物製品の製造 | 128,207 | 129,844 | 132,293 | 135,641 | 137,655 |
| 金属工業 | 62,610 | 67,441 | 68,620 | 74,806 | 78,127 |
| 合 計 | 247,964 | 257,394 | 264,448 | 278,998 | 292,993 |


