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報告書&レポート

2009年9月3日 サンティアゴ事務所副所長  大野克久
2009年44号

今後の銅市場動向について

 2009年8月26日、チリ大学Carbea講堂において、Santiago Gonzalez鉱業大臣出席の下、COCHILCO(チリ銅委員会)主催の「金融危機後の銅市場動向」に係るセミナーが開催された。
 セミナーでは、COCHILCOのAna Isabel Zuniga調査計画部長が2009年、2010年を中心に今後の銅需給動向に係る講演を行った講演の概要につき報告する(本稿中の図表は全てCOCHILCO発表による)。

1. 銅需給の現状と今後の見通し
 2008年9月の金融危機後の世界経済後退の影響から銅価格は2008年12月24日には2,770US$/tまで下落した(図1)。
需要面では、米国、EU及び日本が落ち込みを見せる中、中国では経済成長に伴う実需増、SRB (中国国家備蓄局)による銅地金備蓄及びスクラップから銅地金への切替利用等によって、2009年の世界銅消費量は、2008年の18,003千tから251千t(1.4%)減の17,752千tとなる見込み(表1)。
 2010年は、先進国で経済回復の兆しが見え始める一方、中国では2009年の旺盛な需要の反動から2009年比185千t(3.0%)の需要減が見込まれ、世界全体では18,378千tと予測され、過去最大であった2007年の18,174千tを超える見通しである。

図1. 銅価格と在庫量推移
図1. 銅価格と在庫量推移

表1. 国別銅地金消費見込み (単位:千t)
  2007 2008 2009見込み 2010見込み
需要 前年比% 需要 前年比% 需要 前年比% 需要 前年比%
中国 4,957 36.5 5,199 4.9 6,183 18.9 5,998 -3.0
EU 3,624 -6.2 3,435 -5.2 2,945 -14.3 3,132 6.3
米国 2,137 0.3 1,952 -8.7 1,650 -15.5 1,747 5.9
日本 1,252 -2.3 1,184 -5.4 850 -28.2 1,003 18.0
韓国 821 1.1 780 -5.0 760 -2.6 794 4.5
ロシア 671 -3.0 650 -3.1 610 -6.2 634 3.9
台湾 603 -5.6 582 -3.5 521 -10.5 542 4.0
インド 475 8.0 500 5.3 525 5.0 550 4.8
トルコ 358 18.5 360 0.6 360 0.0 375 4.2
ブラジル 330 -2.7 386 17.0 350 -9.3 364 4.0
主要国計 15,228 7.8 15,028 -1.3 14,754 -1.8 15,139 2.6
その他 2,946 0.2 2,975 1.0 2,998 0.8 3,239 8.0
合計 18,174 6.5 18,003 -0.9 17,752 -1.4 18,378 3.5
図2. 銅地金消費推移
図2. 銅地金消費推移

 供給面において、2009年及び2010年はチリ、インドネシア及びメキシコにおいて2008年の生産減を埋め合わせる形での銅鉱山生産増が予定されており、近年、生産が活発化しているザンビア、コンゴ民では引き続き順調に生産が増加する一方、米国では髙コスト鉱山の閉山等により鉱山生産量が減少することが見込まれている。
 以上により、2009年銅鉱山生産は2008年比197千t(1.3%)増の15,786千t、2010年は2009年比551千t(3.5%)増の16,337千tと試算される(表2)。
 これに、銅リサイクル供給を勘案すると、2009年及び2010年の銅需給バランスは、各々171千t、123千tの供給過剰と見込まれる(表3)。

表2. 国別鉱山生産推移 (単位:千t)
  2007 2008 2009見込み 2010見込み
生産 増減 生産 増減 生産 増減 生産 増減
チリ 5,557 196 5,328 -229 5,407 79 5,750 343
米国 1,181 -37 1,322 141 1,150 -172 1,107 -43
ペルー 1,175 137 1,249 74 1,242 -7 1,209 -33
中国 946 55 1,023 77 1,069 46 1,085 16
豪州 858 -28 885 27 1,015 130 986 -28
ロシア 682 12 682 0 699 18 725 25
カナダ 592 -8 616 25 629 13 681 52
インドネシア 789 -28 650 -138 890 240 985 95
ザンビア 557 43 582 25 768 186 899 132
カザフスタン 451 -6 461 9 456 -5 455 -1
ポーランド 452 -45 429 -23 420 -9 425 5
メキシコ 326 13 237 -88 248 10 369 121
コンゴ民 184 64 282 98 293 12 410 117
イラン 229 9 239 10 246 7 241 -5
ブラジル 199 54 220 20 224 4 223 -1
その他 1,371 25 1,384 13 1,579 195 1,654 75
15,548 455 15,589 40 16,334 745 17,204 870
生産ロス見込み         -548   -867  
計(調整後) 15,548 455 15,589 40 15,786 745 16,337 870
対前年増減 % 3.0 0.3 1.3 3.5

図3. 銅生産量推移
図3. 銅生産量推移

表3. 世界銅需給動向見込み (単位:千t)
供給 2007 2008 2009見込み 2010見込み
  一次銅地金 15,201 15,253 15,451 15,991
  二次銅地金 2,743 2,623 2,472 2,511
  計 17,944 17,876 17,923 18,502
  対前年比% 3.6 -0.4 0.3 3.2
需要 18,174 18,003 17,752 18,378
  対前年比% 6.5 -0.9 -1.4 3.5
需給バランス -220 -127 171 123
週間在庫 2.9 3.4 3.4 3.3

図4. 世界銅需給バランス推移
図4. 世界銅需給バランス推移

2. 銅価格について
 2009年及び2010年の銅価格について、プラス要因としてUS$が他国通貨と比較し相対的に弱い状況であり、銅需要回復が従来の予測(2009年後半~2010年半ば)より早いペースで進行、中国の銅備蓄新規積増し等がある。マイナス要因としては、銅スクラップ利用の増加、操業鉱山拡張計画に伴う銅生産増等が挙げられる。
 これらの状況を総合的に勘案すると、現在の試算では2009年及び2010年の平均銅価格は、1.95US$/1b、2.10US$/1bと予測される(図5)。

図5. 銅平均価格と銅在庫の推移
図5. 銅平均価格と銅在庫の推移

3. 新興市場国の銅消費見込みについて
 中国の銅使用強度(産業生産高に対する銅の使用割合)を試算すると中国の銅消費の伸びはピークに差し掛かっていると言える。(図6)今年前半に発表された中国政府の景気刺激策もあることから今後しばらくの間、銅消費は伸張するものと考えられるが、経済成長とともに銅消費の伸びは鈍化していく傾向であろう(図7)。
 一方、2010年以降の銅消費成長率では、中国に代わってインドでの銅消費の伸び(2010~2015:8%)が期待される他、CIS及びブラジルでも2005~2010年の2倍程度の銅消費の伸張が予想されることから、今後10年間の銅需要平均成長率は最大3.2%程度であろうと見込まれる(図8)。


図6. 中国における銅使用強度の経年変化

図7. 新興市場国における銅消費見込み
図7. 新興市場国における銅消費見込み
図8. 世界の銅消費の経年変化
図8. 世界の銅消費の経年変化

4. まとめ
・今後10年間において、中国や他新興市場国の需要動向が銅市場を左右するものと考えられるが、長期的には中国の銅需要は鈍化しインドの銅需要の伸びが期待され、今後10年の銅需要平均成長率は最大3.2%程度であろうと見込まれる。
・今後も中国銅需要は堅調に推移し、世界景気回復に伴い先進国においても銅需要が上昇する見込みである一方、金融危機に伴う新規プロジェクトの遅延・延期に伴い、今後の需要動向次第では、2011年~2012年に供給不足となる新たな可能性も想定され得る状況である。

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