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報告書&レポート

2009年9月17日 企画調査部  調査課長 上木 隆司
2009年46号

金属価格に連動する鉱業M&Aと探鉱投資額

 最近の鉱業M&Aや探鉱投資額は金属価格に関係するとされている。つまり、金属価格の高騰期に鉱業M&Aや探鉱活動が活発化し、価格低迷期には沈静化する。
 近年、金属価格は、2006年から2008年前半の間に高騰期、及び2008年9月15日以降の金属価格急落・低迷期、年明け2009年1月以降は回復期にあり(※)、これらの関係を検証する好機と考えられる。
〔※注:主要金属(銅、アルミ、亜鉛、ニッケル、貴金属4鉱種)の2006年1月以降の価格推移を各々、参考図1~5に示す。 (本文中の桁表示様式:千⇒k、百万⇒m、10億⇒b)〕

1.鉱業M&Aの近況〔金属価格の高騰と下落の影響〕
 近年における、主要な鉱業M&Aについて対象となる主要金属の市況状況と対比させながら概観する。表1には2000年以降の主要な鉱業M&A(買収提示額2bUS$以上)を示す。市況状況は巻末の参考図1~5を参照されたい。

1-1.RT(Rio Tinto)によるAlcan買収《AL価格高騰期》
 2007年7月12日、RTは、カナダのアルミ生産大手Alcanの買収(総額38.1bUS$)合意を発表した(2006年のアルミ地金生産量の両社計4,250ktは、世界第1位)。RTは Alcanの発行済み全普通株を1株当り101US$の現金で買取った。11月14日付けでAlcanの買収手続きを完了し、両社のアルミ部門は統合され“Rio Tinto Alcan(本社:加Montreal)”が設立された。

1-2.BHPB(BHP Billiton)によるRT合併提案《Cu価格高騰期》と撤回《Cu価格低迷(急落)期》

 2008年2月、BHPBによるRTの買収提示がなされた。これは、言わば究極のM&Aとしてスーパー・メジャーの誕生となり、強大なバーゲニング・パワーを行使することになるのではないかと極東アジアや欧州の鉄鋼、非鉄製錬業界やエンド・ユーザーを震撼させた。
 ところが、2008年9月15日以降、米国金融危機を端緒とした世界経済の減退は、高水準にあった金属価格の劇的な急落を招き、2008年11月、BHPBはRTの吸収合併を見送った。

表1.2000年以降の主要な鉱業M&A〔≧2bUS$〕


(出典:ロウ・マテリアル・グループにデータ追加, 2009年は7月まで。※斜体、影付きは不成立案件。)

1-3.RT-Chinalcoの戦略協定《AL価格低迷期》と破談《同左・回復期》
 年明け2009年2月にはChinalco(中国鋁(アルミ)業集団公司)とRTとの戦略協定合意が発表された。
◎ RT-Chinalcoの戦略協定
・総額19.5b US$の資金支援〔内訳:転換社債7.2b US$(株式転換後、RT総株式の18%に相当)、資産(アルミ、銅、鉄鉱石)買収12.3b US$〕
◎ 買収合意資産〔所在国:Chinalco取得権益率:2008年RT権益分生産量:買収額〕
   Weipaボーキサイト鉱山〔豪QLD州:70%:702.6kt:1.2bUS$ 〕
   Yarwunアルミ精錬所〔豪QLD州:50%:1293kt:0.5b US$〕
   Boyneアルミ精錬所〔豪QLD州:30%:330kt〕+
    Gladstone石炭火力発電所〔豪QLD州:21.5%:0.45b US$〕
   Escondida銅山〔チリⅡ州:15%:384.5kt:3.388b US$)、
   Grasberg銅山〔インドネシアPapua州(JV拡張分):12%:7.1kt:0.4b US$〕
   La Granja銅鉱床〔ペルー:30%:0.05b US$〕
   Kennecott銅山〔米UT州:25%:238kt:0.7b US$〕
   Hamersley鉄山(豪WA州:15%:109968千t、5.15b US$)

 2009年6月にRTは同合意を破談にしたものの、中国企業による鉱業M&Aのターゲットは、資源メジャーにまで到達し本格化したことを世界に知らしめた。
RTがChinalcoとの戦略協定を破談にした理由は次とされている。
◎RTによるChinalcoとの戦略協定破談理由
(1) 各国政府の経済対策により、各種経済指標に世界経済の改善傾向が見え始め金属価格が年明け2009年1月以降、底を打ち、回復基調に転じたこと。
(2) 株主総会等で主要な鉱業資産のマイナーシェアといえ、中国企業に売却することにより将来的に想定される不利益に関し異議が唱えられたこと。
(3) 売却資産の多くが存在する豪州においては豪政府が慎重姿勢で、議員の中には強硬な反対意見もあったこと。
(4) BHPBから豪WA州の鉄鉱石生産に関し新合弁会社設立提案を受け、合意したこと。

1-4.BHPBによるWMC買収《Cu等の上昇期》
 2005年6 月、豪州第2の大手鉱山会社であったWMC ResourcesをXstrataとの買収合戦の末、大型買収(買収金額7.3 bUS$)に成功した。

1-5.Zinifex、OZ Mineralsの設立とMinmetalsへの主要資産の売却
(1) Zinifexの創設《Zn価格低迷期》 
 2001年、亜鉛価格低迷期にあってPasmincoは業績が悪化、2002~03年には豪会社更生法の適用を受け、不良資産の売却整理を行い、2004年に2鉱山、4製錬所体制で新生Zinfexが創設された。
(2) 下流部門の分社化《Zn価格高騰期》
 2006年12月、Umicoreと両社の亜鉛製錬・合金部門を分社化・合併させることで合意し、2007年4月には新会社Nyrstar設立。
(3) OZ Mineralsの創設《Zn・Cu価格高騰期》
 2008年3月、金・銅主体のOxiana社と亜鉛が主力のZinifex (両社とも本社メルボルン)は、多様なベースメタルと貴金属の鉱山会社を目指して対等合併。
(4) Minmetalsへの主要資産の売却《Zn価低迷期》
 2009年2月、Minmetals(中国五鉱集団公司)によるOZ Mineralsの主要資産買収合意〔総額1,354mUS$: Prominent Hill銅・金鉱山(豪SA州)及びMartabe金・銀鉱床(インドネシア)を除く〕が発表され、6月手続完了。

1-6.ValeによるInco買収とXstrata買収検討
(1) Inco買収《Ni価格高騰期(上昇期)》
 2006年10月24日、Incoの75.66%株式を取得し事実上の買収を発表。更に全株を買い取る意向を株主に提示し、2007年 1月、特別株主総会にてInco社の完全子会社化の手続き完了(買収総額17.5bUS$)。
(2) Xstrata買収の検討と見送り《Ni価格低迷期(下落期)》
 2008年1月、Xstrata買収の交渉中であることが報じられたが、同年3月、Xstrata買収断念を発表した。

1-7.XstrataによるMIM及びFalconbridge買収
(1) XstrataによるMIM買収《Zn価格低迷期》
 2003年、豪州競争消費委員会は、XstrataによるMIMの買収について、豪州産業の競争力低下の問題はないとして承認した。同年5月のXstrataの株主総会、6月のMIMの株主総会で承認され、買収完了(総額2.96bUS$)。

(2) XstrataによるFalconbridge買収《Ni価高騰直前、Cu・Zn価格上昇期》
 2005年8月、Falconbridge社の株式19.9%をBrascan社(加系資産管理会社)から1.703bUS$相当で獲得。2006年7月、XstrataはFalconbridgeの買収提示額引上げ(80%買収総額17.1bUS$相当)、Phelps Dodge、IncoによるFalconbridgeの友好的買収提案に対抗。2006年11月、Falconbridgeの一般株全株買収手続きが完了(2005年以降の買収費用総額18.8bUS$)

1-8.Phelps Dodge によるInco買収失敗《Ni価格高騰期(上昇期)》
 2006年6月、Phelps DodgeはIncoと、IncoがFalconbridgeを買収後の、“新Inco”を40bUS$で買収することで合意し、IncoはXstrataのFalconbridge買収提案に対抗したが、同年7月、XstrataがFalconbridge買収金額を2度にわたり引き上げた結果、同年8月にFalconbridgeはXstrataの買収提案を受入れた。
 一方、CVRD(現Vale)はIncoに対し、Phelps Dodgeの提案を上回る条件を提案したことから同年9月、IncoはCVRDの買収提案受入れを決定すると共に、Phelps DodgeはInco買収断念を株主総会で正式に決定した。(※Phelps Dodgeに対してIncoから支払われた違約金は475m$とされる。)

1-9.FCXによるPhelps Dodge買収《Cu価格高騰期(上昇期)》
 2006年11月19日、FCXは、Phelps Dodgeをキャッシュ及び株式総額25.9bUS$で完全買収することで同社と合意したことを発表した。(Phelps Dodgeの株主はFCXの一般株0.67US$と現金88US$/株を受領可能)
 2007年3月14日に特別株主総会を開催し、3月19日付けで買収手続き完了。

1-10.Barrick GoldによるPlacer Dome吸収合併《Au価格高騰期(上昇期)》
 2005年12月22日、Barrick GoldとPlacer Domeは買収額10.4bUS$による友好的合併合意とGoldcorpに対するPlacer Domeの一部資産売却額合意を発表した。(両社の2004年産金量計258~261t、産銅量168kt)

2.鉱業M&A提示額と件数
2-1.鉱業M&A提示額と件数
 ロウ・マテリアル・グループのデータを集計した結果に基づき、表2に鉱業M&Aの提示額及び件数の年計値を、また、2004年以降に台頭しつつある中国企業の内訳とそれらに占める割合を示す。

表2.鉱業M&A提示総額、件数と中国企業による内訳 (金額単位:mUS$)
2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009*
M&A提示額 18,515 38,676 19,621 23,570 35,883 46,875 198,112 307,547 81,166 38,237
件数総数 116 151 217 239 178 211 229 182 154 13
1件当りの額 160 256 90 99 202 222 865 1,690 527 440
<内、中国企業>
M&A提示額         121 257 244 5,558 16,767 29,308
件数         2 3 5 14 11 87
1件当りの額         61 86 49 397 1,524 2,254
<中国企業の割合(%)>
M&A提示額         1.1 1.4 2.2 7.6 7.2 76.6
件数         0.3 0.5 0.1 1.8 20.7 14.9
1件当りの額         30.1 38.5 5.6 23.6 287.5 513.0
(出典:ロウ・マテリアル・グループにデータ追加, ※2009年は7月まで)

 図1にM&A提示額と件数との関係を、図2には中国企業によるM&Aに占める割合を示す。

 これらから次のことが判る。
(1) 鉱業M&Aが金属価格高騰期にあった2006、2007両年において突出して活発に行われた。
(2) 2008年後半以降の価格低迷期において中国企業が鉱業M&Aの主役となりつつある。


図1.鉱業M&A提示額と件数との関係  (※2009年は7月まで)


図2.中国企業による鉱業M&Aに占める割合 
(※2009年は7月まで)

2-2.鉱業M&Aと金属価格との関係
 図3にM&A提示額と年平均金属価格の関係を示す。


図3.鉱業M&A提示額と年平均金属価格の関係 (※2009年は7月まで)

 凡例には各金属の年平均価格と鉱業M&A提示額年計との相関係数を示すが、その高い方から順に、ニッケル0.938>アルミ0.823>銅0.806>金0.472となる。
ニッケルは2006年のValeによるInco買収、2007年のNorilsk NickelによるLionore Mining International買収、アルミについては2007年のRTによるAlcan買収とった代表例のように、価格高騰期には企業そのものの大型買収が実施された結果かと考えられる。

3.探鉱投資額と金属価格との関係
 メタル・エコノミクス・グループのデータを集計し、図4には鉱種別〔ベースメタル(銅・亜鉛・ニッケルの計)、金、PGM、その他(鉄系等)〕の探鉱投資額(※注:年度当初予算額)の推移を示す。凡例には、可能な限り、金属価格年平均値及び探鉱投資額年計の相関係数を示した。金とPGM(プラチナ)は0.9以上と極めて強い相関関係がある。


図4.鉱種別探鉱投資額の推移

 図5にはベースメタルの内訳として銅、ニッケル、亜鉛の探鉱投資額を示す。
相関係数の高い金属ほど金属価格上昇時に敏感に探鉱投資額(年度当初予算額)が増額されており、そのことは探鉱意欲が高いことを示しているものと考えられる。


図5.ベースメタル鉱種別探鉱投資額の推移

4.まとめ
4-1.金属価格の高騰期にあった2006~2007年に鉱業M&Aが活発に行われた。これは突出した鉱業M&A提示額や件数に表れている。

4-2.金属価格と鉱業M&A提示額との相関関係の強い方から順に、“ニッケル>アルミ>銅>金”となった。
相関係数の高い鉱種は、価格高騰時に企業買収のような大型買収が実施された結果と見られる。

4-3.主要金属の価格と鉱業M&A提示額の相関関係が強い鉱種は順に、“PGM>金>銅>ニッケル>亜鉛”となった。このことは、相関係数の高い金属は金属価格上昇時に敏感に探鉱投資額(年度当初予算額)が増額されること、また、前述の順序により探鉱意欲の差異があることを示していると考えられる。

4-4.2008年後半以降、金属価格低迷期(*)にあり、2009年の探鉱投資額は2008年をピークとして、2006~2007年の水準程度あるいはそれ以下に減少しているものと予想される。

(※注:参考図5に示すとおり、“金”は2008年9月以降の世界経済の減退期にも高水準を維持し、他の金属とは異なる値動きのパターンを示している。これは、世界的に金の産業用途の比率が低いこと、投資資金の一時退避先として景気後退期に買われる傾向があることが挙げられる。)

4-5.中国企業による鉱業M&Aは、2008年9月以降の金属価格低迷期において急増している。これは中国の“走出去”(海外進出促進政策)の資源分野における本格化、強大な外貨準備金に基づく資金力の活用、かつてない金属価格急落の結果として逼迫した資源企業の財務改善の必要性に乗じた権益取得の動きとして注目される。

以上

〔参考:主要金属の価格推移〕


参考図1.銅: 価格の推移〔2006年1月1日~2009年9月〕

参考図2.アルミ: 価格の推移〔2006年1月~2009年9月〕

参考図3.亜鉛: 価格の推移〔2006年1月~2009年9月〕

参考図4.ニッケル: 価格の推移〔2006年1月~2009年9月〕

参考図5.貴金属4鉱種: 価格の推移〔2006年1月~2009年9月〕

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