報告書&レポート
中国福建省龍岩市投資誘致交流会への参加報告

2009年9月16日午後、東京都品川区内のホテルにて、中国福建省龍岩市の人民政府が主催し、中国大使館商務部、(独)日本貿易振興機構、(財)日中経済協会及び当JOGMECが後援して、龍岩市への投資誘致説明会が開催された。挨拶に続き、龍岩市人民政府書記の張健氏による『中国龍岩・投資と発展』、龍岩市対外経済局副長の黄龍荘氏による『龍岩市の投資環境と優位性産業プロジェクト』及びアモイ・タングステン有限公司の副総経理である黄長庚氏による『龍岩市のレアメタル・レアアース産業の特徴及び将来像』の3題の投資誘致に関する説明及び質疑応答があった。龍岩市が、レアアース工業団地を造成し、関連加工産業の誘致を前面に打ち出したことなどから、商社・メーカーなど100名を超える出席者を集め、盛会に開催された。誘致スピーチの中では、豊富なレアアース資源に言及され、注目されている。ここでは、紹介のあった福建省のレアアース資源を中心に概要を紹介する。 |
1. 中国龍岩・投資と発展
龍岩市は、福建省南西部に、広東・江西省に接して位置する。総人口は291万人。アモイと200㎞/時の高速鉄道(日本の新幹線技術を導入)で連絡されるほか、高速道路も整備され、市内空港から福州や上海経由で日本との航空便もある。産業集積も進み、用水・電力・人材・サービスなどの面でも優れた投資環境を有しているとされる。[1]レアアースの分離と川下産業での応用、[2]自動車及びその部品、[3]硬質合金を3大産業として、更に、鉄鋼・セラミックス・原子力発電の振興開発が計画されている。

図1. 龍岩市の位置
資源も豊富で、シリコン・鉄・銅・カオリンの鉱山があるほか、レアアース資源量も潤沢。レアアース埋蔵量は158万t、同市の混合レアアースの主成分は次のとおり:
・La2O3 | 23.95% | ・Pr6O11 | 6.23% | ・SmO2 | 4.45% | ・Gd2O3 | 4.14% |
・Dy2O3 | 4.08% | ・Er2O3 | 1.99% | ・Yb2O3 | 1.66% | ・Y2O3 | 25.52% |
・CeO2 | 2.21% | ・Nd2O3 | 22.72% | ・EuO3 | 0.79% | ・Tb4O7 | 0.72% |
・Ho2O3 | 0.83% | ・Tm2O3 | 0.37% | ・Lu2O3 | 0.34% |
2. 龍岩市の投資環境と優位性産業プロジェクト
龍岩市が誘致したいとする産業は以下のとおり:
[1] 自動車及び部品産業
[5] 硬質合金 |
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3. 龍岩市のレアメタル・レアアース産業の特徴及び将来像
3-1. 中国レアアース資源と産業の現状
・工業資源としての埋蔵量では、中国は世界の30%を占める。
・2008年の中国のレアアース生産(REO:レアアース酸化物)は12.45万t(酸化物)、2000年比70%の増。その中でイオン吸着型レアアースの増加率が大きい。
・磁石材料用、水素貯蔵用、発光材料用消費量の増加率は年率18%を示す。
ただし、日本や欧米と比較すると利用率は、未だ低い。

図2. 2008年 中国のレアアース消費の分野別割合 〔総計67,680t(REO)〕
(合計で100%にならないが、原資料のままとした。 出典:レアアース工程中心)
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3-2. 中国レアアース産業への政策変遷
・1998年以来、中国は、それまでの輸出奨励から、輸出制限の動きへ転換。
・一次産品の生産と輸出の制限と外国企業の鉱山・精製分離への投資禁止。
・付加価値の高いレアアース製品産業の支援。

写真2. 質疑応答に答える来日団
3-3. 福建省及び龍岩市のレアアース資源
・福建省のレアアース資源は主に龍岩市、三明市、3o州市に分布する。
・福建省のレアアース資源は、開発が遅れ、大切に保護されてきたため、国家の埋蔵量統計の福建省の探知埋蔵量は4万tに過ぎないが、市の調査による専門家予測によれば、探知埋蔵量で7万t、予測埋蔵量まで含んだ(A~F)埋蔵量は150万t以上となり、大きな潜在力を秘めている(数値はREOでの換算値)。
・龍岩市のレアアース産業には既に基盤がある。
・アモイ・タングステンを筆頭とするレアアース産業が形成されつつある。
4,000tの分離能力、2,000tの金属生産能力があり、更に1,000tの発光材料プロジェクトが建設中、3,000tの磁性材料プロジェクトや更に1,000tの分離能力が計画中。
・龍岩市のレアアース産業の4つの優位性
[1]品位が高く豊富な資源量
[2]レアアース加工産業を政府も奨励、事業の将来性が高い。
[3]政府による外資奨励
[4]沿岸部に比較すると人件費等の経費が低い。
・龍岩市ではレアアース工業団地により投資受け入れ環境が整っている。
・アモイ・タングステンとの合弁でも可、独資でも可。原料供給は安定的に確保。
4. 福建龍岩(長汀)レアアース工業団地
日本で龍岩市への投資誘致説明会が開催された9月16日、中国の非鉄金属インターネット網の”中国有色網”は、写真3を添付して、『福建省長汀網―福建省(龍岩市)長汀(県)、中国南方希土の都として造成着工』というタイトルの記事を配信した。

写真3. 福建龍岩(長汀)レアアース工業団地の着工式(中国有色網より)
同報は、「福建龍岩(長汀)レアアース工業団地の着工式挙行、長汀県はレアアース資源量も豊富であり、探査で明らかになっている同資源量で福建省の65%を占める」と報じ、同工業団地が、イオン吸着型レアアース分離品の加工産業基地となり、2015年にはレアアース産業の生産高100億元(1,460百万US$相当、龍岩市のホームページでは同市の2007年の産業別生産高としては1位に機械84億元(1,230百万US$)、2位にタバコの71億元(1,040百万US$)、3位に建材の68億元(996百万US$)などがあるが、10位までにレアアース産業は登場しない)を目指すと紹介している。

図2. 福建省、江西省、広東省のレアアース産地位置図 (HP情報等から作成)
中国の南部のレアアース生産省としては、江西・広東・福建・湖南・広西の各省区が含まれ、これまで当地区のレアアースでは、圧倒的に江西省州市が存在感を示してきた。
江西省のレアアースのリーダー企業である紅金希土公司と中国非鉄業界の雄である中国五鉱集団公司は、戦略的企業編成により、世界的なレアアース加工企業を目指して州希土公司を既に成立させている。このほか
州市
県園区には、既に一定規模以上のレアアース企業11社が参集している。また、最近の報道によれば、国家タングステン及びレアアース産品品質検測センター、江西理工大学そして
州市が共同で、同市に”江西省タングステン・レアアース研究院”を設立した(中国有色網(2009.10.9))。同研究院はタングステンとレアアースの産品研究開発、応用開発、生産技術開発、国際的な情報交流、市場研究など多方面にわたり産業を援助サポートする機関とされている。
州市は着々と将来動向を踏まえた産業展開を見せている。同市の主なレアアース鉱山は信豊県と尋烏県にあり、図2に示されるように、これら鉱山は江西省南部に位置し、福建省龍岩市と隣接している。
同じくイオン吸着型レアアースを産出する広東省では、地元の広晟有色集団が周辺8企業の合併を進めている一方で、中央企業である中国有色鉱業集団が地元3企業と連合して中色南方稀土(新豊)有限公司を2008年8月に広東省韶関市に設立した。同社は韶関市新豊県に4.7億元を投資し、年産7,000tのレアアース分離プロジェクト建設を計画している(中国証券報の記事を2009.10.15付けで中国有色網が配信)。
中国南部のレアアース産地では各省区内のみならず、省区単位での三つ巴ともいえる状況も生じている。今後更に、同地区でのリーダー企業を目指した競争に進展することは容易に予想される。まだ不明な点も多いが、中国の新興レアアース産業都市として、福建省龍岩市も注視していく必要がある。

