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報告書&レポート

2009年11月5日 ロンドン事務所  フレンチ 香織
2009年53号

LMEセミナー『モリブデン&コバルトの市場予想』

 2010年2月22日、LMEは、モリブデン&コバルトの先物取引を開始する予定である。その紹介として、ロンドンLMEウィークの2009年10月13日の午前中、LMEは『LME Minor Metals Breakfast Seminar』と題して、コモディティ・アナリストを招き、モリブデン&コバルト市場予想を紹介した。総勢120人ほどが集まり、多くのレアメタル取引企業が参加した。以下、本会議で紹介されたモリブデン&コバルトの需給予想を報告する。なお、本会議の講演資料は、次のLME公式ホームページからダウンロード可能である。
http://www.lme.com/8235.asp

1. モリブデンの需給予想 ~ 市場逼迫で価格上昇 ~
  〔CPM Group(英)ベースメタル・シニア・アナリスト、Catherine Virga女史による講演〕
1-1.モリブデン需要 
   ~ 要因:財政支出からの鉄鋼産業の需要回復、中国が純輸入国に ~

 図1のとおり、モリブデン需要の約70%は鉄鋼産業に依存している。従って、2008年は経済不況により、鉄鋼産業からのモリブデンの需要が急減し、価格の急落に繋がった。しかしながら、2009年下半期以降は、鉄鋼需要の回復により、モリブデン市場も回復するとVirga女史は予想する。同女史は、需要回復の構造的な傾向要因として次の事項を挙げた:
 [1]新興国の経済成長
 [2]エネルギー部門のインフラ設備
 [3]用途の多様化
図1.モリブデンを利用した最終製品2008

図1.モリブデンを利用した最終製品2008
(出典:CPM Group)

 特に、上述[1]、[2]が主要因となってモリブデン需要が増加するだろうと同女史は述べた。世界各国の政府による景気刺激策の財政支出によって、世界中でインフラ建設が増加し、2010年は年間で、最大1,300百万tの鉄鋼が世界全体で消費されることが期待されている。特に、同女史が提示するOECD統計予想によれば、図2に示すとおり、中国のインフラ設備建設の予算は約4,500億US$に上り、2009-2010年の2年間で、中国の鉄鋼消費増大量は約100百万t (世界全体の約77%) となる可能性があるとした。

〔※注:中国の2008年鉄鋼消費量は、425.7百万t(WORLD STEEL IN FIGURES 2009 (World Steel Association))により2010年には500~600百万t、あるいはそれ以上になることを示している。〕

 加えて、中国は従来、モリブデンの純輸出国であったが、現状は同国の多くの鉱山閉鎖が部分的な理由となり、2009年1月以降は純輸入となっている(図3)。総じて、今後も中国を中心としたモリブデンの需要増加を示唆した。

図2.財政支出によるインフラ設備投資 (出典:CPM Group、OECD)
図2.財政支出によるインフラ設備投資 (出典:CPM Group、OECD)

図3. 中国のモリブデン市場 (出典:CPM Group、Antaike、CISA)
図3. 中国のモリブデン市場 (出典:CPM Group、Antaike、CISA)

1-2.モリブデン供給 ~ 市場変動に大きく影響し、供給は停滞 ~
 図4のとおり、2008年後半の経済不況により、銅価格が低迷し銅鉱石の減産と共に、副産物のモリブデン生産が減少した。2009年もモリブデン精鉱供給は前年に比べて低く、今後も急増は予想されていない。2009年以降はモリブデン需要増の予想によって、特にモリブデンのプライマリー生産鉱山での生産が増加すると予想されるが、市場の需要を満たすまでには辿りつかないであろうと同女史は見ている。

図4. 世界のモリブデン鉱山年産量の実績と予想(出典:CPM Group)
図4. 世界のモリブデン鉱山年産量の実績と予想(出典:CPM Group)

1-3. モリブデン市場の予想と価格 ~ 市場逼迫、価格の回復 ~
 結果として、モリブデン需要は急速に増加する一方、供給は緩慢にしか増加しないため、2009年及び2010年のモリブデン市場は逼迫、2011年には供給不足となると同女史は予想した。加えて、価格については、2009年は11.70 US$/lb(=25,794 US$/t)、2010年は17.50 US$/lb(=38,581 US$/t)と予想した。


図5. Platts社、モリブデン平均月価格 (出典:CPM Group)

2. コバルトの需給予想 ~ 供給過剰で価格に影響か ~
  〔CRU Analysis社(英) シニアアナリスト Eric Taarland氏による講演〕
2-1.コバルト需要 ~ 過去の増加率から、逓増と予想 ~
 同氏によれば、2008年のコバルト需要は、化学部門(Chemicals Sector)が約50%、スーパーアロイ部門が約19%を占めている(図6)。また、バッテリー部門からのコバルト需要は、電気自動車またはハイブリッド車が普及するにつれて、今後も必ず増加すると予想されていた。しかしながら、現状ではコバルトのエンドユーザーの多くの市場は“成熟(mature)”」な状態にあるため、過去の増加率からも、コバルト需要の急増はないと予想した。

図6. コバルト需要の1998~2008推移 (出典:CRU Analysis)
図6. コバルト需要の1998~2008推移 (出典:CRU Analysis)

2-2.コバルト供給 ~ DRCコンゴの鉱山生産の急増を予想 ~
 コバルトの埋蔵量は、主に、DRCコンゴ、ザンビア、豪州、キューバで確認されている。特に、DRCコンゴのTenke Fungurume銅・コバルトプロジェクト(FCX権益:57.75%、Lundin Mining24.75%、Gecamines17.5%)は、2009年6月にコバルト生産を開始し、今後、年産8千tのコバルト生産が計画されている。従って、今後はDRCコンゴからの供給増が予想された。

図7. コバルト供給の増加予想 (出典:CRU Analysis)
図7. コバルト供給の増加予想 (出典:CRU Analysis)

 無論、2008年後半以降の経済不況により、遅延しているプロジェクトも多くある。しかしながら、2010年から操業開始予定のプロジェクトが複数存在し、また、中国ではコバルト含有鉱石の3か月消費量相当分が在庫として滞留していると予想されることからも、今後は供給過剰が拡大すると同氏は予想した。

2-3.コバルト市場の予想と価格 ~ 供給過剰で、価格は低迷する予想 ~
 図8のとおり、コバルト価格は過去より大きく変動してきた。しかし、2-2のとおり、供給過剰の拡大によって、2008年3月の50 US$/lb(110,231 US$/t)台に回復するとは予想できない。現状、2009年Q1の9 US$/lb(19,842 US$/t)から回復して、14.5~15.6 US$/lb(31,967 US$/t~34,392 US$/t)の範囲で推移している。インゴット(Co品位99.3%)の平均価格を例にすれば、2009年は20 US$/lb(44,092 US$/t)、長期的には、更に下落して10 US$/lb(22,046 US$/t)と同氏は予想した。

図8. コバルト価格の推移 (出典:CRU Analysis、Metal Bulletin)
図8. コバルト価格の推移 (出典:CRU Analysis、Metal Bulletin)

3. まとめ: ~ 2つのコモディティの将来は真逆の方向へ? ~
 以上、2010年2月22日からLME先物取引が開始予定のモリブデン、コバルトの今後の動向に関し、[1]モリブデンは供給不足で価格上昇、[2]コバルトは供給過剰で価格低下と真逆の予想がなされていた。
 LMEのCEOであるMartin Abbott氏は、「レアメタル市場は歴史的に非常に価格変動が大きく、価格予想は難しい。本会議では、この2つのコモディティの将来は全く違う方向で予想されたが、LME先物取引の新機能が導入されたことによって、両市場は繁栄していくであろう」との明るい将来に期待を表明した。
 2009年10月現在において、世界経済は既に底打ちしたと言われているが、金属需要は2008年前半と比べ依然として低調に推移している。
 参加者の間では、モリブデン、コバルトのLME先物取引開始によって、モリブデンとコバルト市場の活性化を予想するポジティブな声が多く上がっていた。

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