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報告書&レポート

2010年1月21日 ロンドン事務所  フレンチ 香織
2010年03号

ロンドン『第7回Mines and Money 2009』カンファレンス参加報告

 2009年12月1~2日の2日間、毎年恒例のMining Journal主催“Mines and Money”カンファレンスがロンドンで開催された。ロンドンは、国際的な鉱山関係企業の本拠地が多く、また、世界的な資本・金融センターとして重要拠点の一つでもあることから、本カンファレンスは鉱業分野への投資を主テーマとしている。以下、本会議の主なトピックスを紹介する。
(※本会議の講演内容は、次のHPより入手可能である。
http://www.minesandmoney.com/london/presentation-downloads)

1. “Mines and Money 2009”の様相 ~“Stayin’ Alive ”~
 2008年は、“Mines and No Money”と、リーマン・ショック直後で絶望感に溢れていたが、2009年は、経済底冷え期に生き残ったジュニア企業が、金属価格の回復により積極的なカム・バックを見せており、“Mines and a Little Better Money”と称すべき会議であった。参加者の中では、「多くのジュニア企業の生存が確認でき、まさに会場の主題曲は、“Stayin’ Alive”だ」との参加者のコメントも聞かれた。
 なお、主催者の公式発表によれば、探鉱ジュニア企業、投資家等2,800名が参集した。ジュニア企業からは、2009年下期の金価格高騰もあり、金探鉱企業が多く参加していた。投資家からは、中国系企業が前年より多く見受けられ、また、世銀グループのIFC(国際金融公社)やAnglo American等のメジャー企業も、会場で優良案件を探っていた。

2. ジュニア探鉱企業の動向 ~ 復活の要因 ~
2-1. 要因[1]:今後も金属価格が上昇
 2009年、金属価格は著しい回復を示した。Standard BankのVaughan Wickins氏(Head of Mining & Metals)の分析によれば、銅の2009年平均価格(5,164US$/t)は、直近5年平均の5,929US$/tを若干下回る程度に回復し、金の同年平均価格(974US$/oz)は、直近5年平均の718US$/ozを遥かに超え、12月3日午前には史上最高価格1,218.25US$/ozを付けた。同氏は、「これは、実需とは切り離れた投機筋の介入が主因」と分析していた。同氏は、2010年も以下の理由で金属価格は上昇すると予想した。

(1) 投機筋の介入は継続
 金属への投資が活況を呈する時期は、[1]長期国債の低金利、[2]ドル安、[3]原油価格の上昇期である。現在、金利は低く、また、Standard Bankが提示した米ドル指標によれば、2009年12月の米ドルは2009年3月(=同年のピーク時)から16%低下、原油価格は上昇基調にあるため、今後も金属市場への投資が増加すると予想する。
(2) 実需が回復
 多くのリサーチ会社は、2010年も未だ供給過剰が続くとしているが、経済回復と共に、中国、インドを中心としたBRICs諸国の長期的な経済成長が期待されている。金属実需が回復する結果、2011年からは供給不足へ一変すると予想する。
(3) 供給は非弾力的に推移
 一方、供給については、需要のような急激な増加はないと予想する。例えば、2009年は豪ドルが50%上昇、ブラジルのレアル価値が35%上昇し、自国の通貨高が輸出による売上悪化に繋がり、国内の操業コストの縮減を強いた。現在、欧州が米ドルに対する人民元の切り上げ圧力を掛け始めているが、中国の輸出業者は、元が切り上げられた場合の生産を抑制せざるを得ない状況を危惧している。

 なお、Rio TintoのEric Finlayson探査部長(Head of Exploration)も、金属価格の上昇を予想していた。同氏の見解では、今後は坑内採掘の割合が増加するため、生産コストが上昇し、金属価格も上昇すると予想した。(ただし、製錬や採掘の技術的な生産効率の向上によって、高騰は緩和されると説明。)

2-2. 要因[2]:資源の枯渇により、新規探鉱の必要性に注目
 Rio TintoのFinlayson探査部長によれば、世界全体の銅の資源量と埋蔵量の合計は、約18億t(953鉱床)である。過去108年間の傾向から、世界の銅需要が年率3.4%で成長するとすれば、これは約45年分にしか相当しない。従って、それ以降の需要を満たすためにも、大型鉱床の発見が必要と考えられる。他方、既存の鉱山地域では、高品位鉱床は枯渇しており、辺境国または新興国での新たな探鉱の可能性を模索することが必要である。

3.メジャー企業の動向 ~ Rio Tinto、低コストで確実な資源開発 ~
 Rio TintoのFinlayson探査部長は、中長期的には金属供給は不足すると予想することから、本会議では、以下の4つの資源確保戦略を紹介した。ただし、2009年は不況に加えてコスト高も懸念材料となったため、今後も低コストで確実に資源開発を進める姿勢が見られた。

3-1. 戦略[1]:『コア資産に集中』
 銅のグリーン・フィールド開発においては、Oyu Tolgoi(モンゴル、露天掘)、La Granja(ペルー、露天掘)、Resolution(米国、坑内掘)とPebble(米国、露天掘)で大規模鉱床の潜在性が期待されている。

3-2. 戦略[2]:既に探鉱・開発が進んだ『ブラウン・フィールドの更なる開発』

 チリや米国では、浅部の資源が枯渇しつつある。他方、既存鉱山及びその周辺では、既存の設備を利用できるため、深部採掘(坑内掘)となっても開発コストは比較的低くなる。従って、今後はメジャー企業のブラウン・フィールドでの鉱山の深部開発が期待される。例えば、同社では100年以上稼働しているBingham Canyon銅山(米、UT州)の深部のポテンシャルに期待しており、これに伴って、効率的な深部採掘技術改善を目指す。

3-3. 戦略[3]:『低品位鉱の製錬技術の向上』
 1981年はEscondida(チリⅡ)で最後の世界最大規模の銅鉱床が発見されたことから、銅の平均品位が1.35%に上昇したが、2009年には1.20%まで低下するなど、銅鉱石の品位は低下している。コスト高を阻止するためにも、低品位鉱の効率的な製錬技術の開発に努める。

3-4. 戦略[4]:『ジュニア探鉱企業とのパートナーシップを強化』
 自ら行う探鉱と、既に鉱床が発見されている鉱床(山)買収とは、“Discipline(「冷静な状況判断と対応」と解釈される)”ができればどちらも有益である。しかしながら、過去の実施例を比較すると、自ら探鉱に参画する方が、はるかに採算性が良い。例えば、同社のTier 1探鉱費(1997年以降)は、1つの鉱床発見に対する純費用(注:(探鉱費-未利用権益の売却利益)÷鉱床発見件数)は82百万US$であり、これは、鉱山の権益100%を獲得する費用と比較すれば、ほんの僅かである。同社は、効率的な探鉱技術を有するため、ジュニア企業への外部委託は無いが、探鉱パートナーシップを図り、今後も魅力的なアセットへのアクセスを確保していく姿勢である。なお、同社との最近のジュニアパートナーは表1のとおりである。

表 1. Rio Tinto の最近のジュニアパートナー
(Rio Tinto’s Current Junior Partners)
鉱種 パートナー
豪州 ボーキサイト Territory Uranium
ボツワナ ダイアモンド Azure Resources
カナダ ダイアモンド、
鉄鉱石
Arctic Star Diamond Corp. ; Sanatana Diamonds ; MDL Diamonds ; Diamondex ; Shear Minerals ; Stornoway ; Altius
コロンビア Muriel Mining
DRC コンゴ 鉄鉱石、
ダイアモンド
BRC Diamondcore ; Kilo Gold
グリーンランド 多種 Nuna Minerals
ガイアナ ボーキサイト First Bauxite
メキシコ Sierra Minerals ; Azure Minerals
モンゴル 石炭 Adamas Mining ; Gobi Exploration
ペルー 銅、金 Minera IRL ; Orion
南ア 石炭 Kwezi Mining
タンザニア 石炭 Uranium Resources
米国 Kiska Metals ; NovaGold
※ モンゴルでの Ivanhoe 社とのパートナーシップは、鉱床発見後の開発に関する提携である。
( 出典: Rio Tinto の講演資料 )

4. 鉱業関連企業の資金調達の動向
4-1. 資源株ブーム、IPO(新規株式公開)の増加を予想
 Ernst & Young(以下、E&Y)のLee Downham氏(Mining & Metals Partner)は、2009年を『Wall of Debt(借金の壁)』と称する。2009年は、債務の圧縮、将来の需要増に応えるための設備投資などのため、多くの企業が資金調達に努めた。2009年後半は、経済低迷による銀行の貸し渋りが依然として継続していたが、景気刺激策が功を奏した資源部門の株式・社債等の市場では、資金調達が増加した。これらを背景として、本会議では、LSE(ロンドン証券取引所)及びHKEx(香港交易所)の実績が紹介された(表2、4-2.を参照)。
 現状、未だ資金調達に苦窮しているジュニア企業は多く存在し、LSEのAIM市場では、2009年のIPO(新規株式公開)はLondon Mining(英)社の1件のみであった。しかしながら、本会議でのE&Y、LSE、HKEx、MEGからの講演者は、「資源株ブームで、一部の企業が一攫千金に成功したため、これを追って、今後も株追加発行やIPOが増加する」と予想していた。

表 2. LSE 、 HKEx 市場の実績 (2009 年 1 ~ 10 月 )
  LSE メイン市場
( 部門総合 )
LSE AIM 市場
( 部門総合 )
HKEx メイン &GEM 市場 ( 部門総合 )
市場規模
( 時価総額 )
5 兆 3,980 億 US$
 
( ※鉱業部門においては、英国企業の総額が 2,960 億 US$[1 企業平均 156 億 US$] 、海外企業の総額が、 580 億 US$[1 企業平均 34 億 US$])
950 億 US$
 
( ※英国の鉱業企業は、 48 億 US$[1 企業平均 53 百万 US$] 、海外の鉱業企業は、 105 億 US$[1 企業平均 229 百万 US$])
2.2 兆 US$
 
( ※石油・天然ガスを含む天然資源企業は、 3,240 億 US$ 。このうち、金属 & 鉱業企業が約 1/3 を占める。 )
資金調達総額 1,006 億 1,600 万 US$
 
( ※新規発行: 10 億 3,400 万 US$ 、追加発行: 995 億 8,200 万 US$)
70 億 1,200 万 US$
 
( ※新規発行: 9 億 6,200 万 US$ 、追加発行: 60 億 5,000 万 US$)
554 億 US$
 
( ※天然資源企業の実績は不明。但し、 2009 年 9 月 30 日時点の同市場の 1 日の取引高総額は、 14 億 US$)
( 鉱業部門は、メイン &AIM 市場合わせて、
前年同期比 4 倍の 200 億 US$ 以上 )
上場
企業数
英国企業: 1,126( 鉱業: 19) 、海外企業: 332
( 鉱業: 17)
英国企業: 1,084( 鉱業: 92) 、海外企業: 251
( 鉱業: 46)
不明
( 石油・天然ガスを含む天然資源企業: 175 社 )
代表的な鉱業企業 Rio Tinto( 英 ) 、
BHP Billiton ( 英 ) 、
Anglo American( 英 ) 、 Xstrata( スイス ) 等
Centamin Egypt( エジプト ) 、 African Minerals
( 英 ) 等
Jiangxi Copper 、 Zijin Mining 、 Angang Steel 等
  ( 情報元: LSE の数値は LSE の講演、 HKEx の数値は HKEx の講演 )
  *LSE は、 2009 年 11 月 23 日時点の為替レート (GBP/USD 1.66) を利用

4-2. LSE & HKExの動向           ~ 上場審査基準の変革で、さらなる市場拡大を目標 ~
 LSEのNick Langford氏(Head of Primary Market Business Department)は、「現在、LSEでのIPOは、米国及びアジア市場に比べて一歩遅れているが、2010年はロンドン市場でも強豪企業のIPOが増加する」と予想した。香港への資金流入が続くなか、ロンドン市場は、上場審査基準を緩和した新規上場カテゴリーの導入により、同市場の地位を確保する姿勢を示した。
 具体的には、LSEでは、英国の金融サービス機構(FSA)の決定により、メイン市場の新規上場カテゴリーを導入する。従来のLSEメイン市場では、1部上場(主に英国企業)、2部上場(主に海外企業)と分類されており、上場審査基準のやや低い2部には、英国企業は上場できなかった。しかしながら、新制度の導入で、これらはプレミアム上場とスタンダード上場に改変し、英国企業も、EU指令の上場最低基準が求められるスタンダード上場への参加が可能となる。なお、プレミアム上場は、英国の上場審査規則に従って、ディスクロージャーの高い義務を満たす英国・海外企業のみが参加でき、プレミアム上場企業のみFTSE UKインデックスへの参加資格が与えられることとなる。スタンダード上場は2009年10月6日より施行開始、プレミアム上場は2010年4月6日より施行開始となる。
 このようにロンドンでは、多種の企業にふさわしい上場オプションの設定で、市場拡大を目指している。
(※ 参考ウェブサイト:LSE新カテゴリーの導入について)
http://www.londonstockexchange.com/companies-and-advisors/main-market/companies/primary-and-secondary-listing/listing-categories.htm
http://www.ft.com/cms/s/0/8d31ca7e-ac66-11de-a754-00144feabdc0.html?catid=7&SID=google

 本会議でHKExのLawrence Fok氏(副社長)は、「ロンドン、豪州、カナダの市場に比べると、香港市場は’ヤングベイビー’である」と述べる。しかしながら、HKExの時価総額(部門総合)は、1998年12月に比べて2009年10月は535%増の2.2兆US$と、アジアでは第3位、世界では第7位の規模へと成長した。また、HKExでは2009年、IPO(新規上場企業の数)が記録的レベルに達し、資金調達総額は世界第4位の554億US$までに躍り出た(1~10月の実績、下図1を参照)。同氏によれば、HKEx上場の天然資源企業の約89%は、中国で操業を行なう企業である。従って、今後は、資源開発企業に対するさらなる上場審査基準の緩和を策定して、海外アセットを有する企業をさらに誘致し、HKExの資源株市場において、中国企業と海外企業の繋がりを強化することを目標に掲げていた。

図1. HKEx実績 (部門総合)
図1. HKEx実績 (部門総合)

(出典:HKExの講演資料)

(※なお、報道によれば、香港市場に欧州を含めた投資資金が集中。ロシアやカザフスタンなどの旧ソ連の企業が香港株式市場への上場意欲を高めており、2009年末にはUC Rusal(ロシア)がIPOの実施を申請するなど、更なる市場の拡大が予想されている*1。)

5. 中国の動向
5-1. アフリカへの投資が増加
 SAMI FundのAnthony Desir氏(Principal)の講演によれば、中国の海外直接投資総額は、約400億US$(2008)から1,200億US$以上(2009)へと急増した(情報元:Standard Chartered Bank)。この急増の主な原因は、4兆元(5,800億US$相当)の景気刺激策*2である。
 同氏によれば、中国のアフリカへの海外直接投資は、2007年に中国銀行(Industrial and Commercial Bank of China)が南アStandard Bankの株20%を買収したことから急増した。この巨大銀行への投資がアフリカ展開への打開策となり、2007年の中国におけるアフリカへの直接投資は、前年比3.5倍の14億US$、それ以降は同レベルを維持している(情報元:UNCTAD)。さらに、中国は年に1回開催されるFOCAC Forum(中国アフリカ協力フォーラム)によって、政府間でのアフリカ-中国間の関係を強化し、アフリカへの投資を促進している。中国は2009年11月、エジプトで開催された同フォーラムで、100億US$の無利子借款の供与を含む今後3年間のアフリカ支援計画を発表し*3、同氏は今後も中国でのアフリカ投資が増加すると予想した。

※補足説明:中国のアフリカに対する鉱業投資は、豪州に次いで2番目
 本会議の1週間前に発刊されたMining Journal誌「特集:中国」*4でのGlobal Mining社Keith Spence氏(President)の分析によれば、中国の鉱業における海外投資は、アフリカでは無く、豪州が1番多い。同氏によれば、中国には、金属種や投資先に新しいスタンスが見られ、中国の鉱業における海外直接投資 (2007~2009:取引総額の比率)では、銅、そして豪州に集中している(図2を参照)。なお、同氏が紹介する2009年の鉱業に対する海外直接投資は310億US$(推定)で、前年比2倍の増加を示した(情報元:National Bureau of Statistics, China)。

図2. 中国のターゲット鉱種及び鉱業の直接海外投資 (2007~2009年:取引総額の比率)〔投資対象鉱種〕 図2. 中国のターゲット鉱種及び鉱業の直接海外投資 (2007~2009年:取引総額の比率)〔投資対象国〕
〔投資対象鉱種〕 〔投資対象国〕
図2. 中国のターゲット鉱種及び鉱業の直接海外投資
(2007~2009年:取引総額の比率)
(出典:2009年11月27日付、Mining Journal『FOCUS:CHINA』)

5-2. 中国の投資は続くのか?
 SAMI FundのDesir氏の講演によれば、2009年の中国における米ドル準備金は、前年比9.3%増の2兆1,320億US$にまでに上る(図2を参照)。本会議では、中国のスタンスは、海外の資源開発へのアクセス確保が経済成長には必須であり、また、ドル安の悪化も懸念され、中国の鉱業に対する海外直接投資は今後も増加するとの分析を多くの講演者が行っていた。

図3.中国の米ドル準備金 (出典:SAMI Fundの講演資料)
図3.中国の米ドル準備金 (出典:SAMI Fundの講演資料)

5-3. 中国のアフリカ投資に対する不安と本音
 IFCのChristopher Goss氏(Head of Business Development, Oil, Gas, Mining & Chemicals)は、AIM上場の鉱業関連企業の64%がアフリカで活動しているため、こうした生き残りを目指すジュニア企業にとっては、中国のアフリカ鉱業投資の増加は嬉しいニュースであるはずだと評していた。
 一方、本会議のディスカッションでは、中国のアフリカへの投資に対する不安の声も上がった。先ず、不況により欧米企業の投資が減速するなか、中国は安物買いの衝動で投資の勢いに拍車をかけているため、中国の資源アクセスの寡占化について懸念の声が聞かれた。Golder AssociatesのPeter Onley氏(Principal)の分析によれば、欧米企業は株主や政府等の干渉が多いため、地政学的リスクの高い地域への投資は好まれない。その間、中国はアフリカでのインフラ投資を着々と確保しつつある。中国は、米ドル準備金の保有大国であり、ドル安進行の流れを察してドル投資のスピードを早めており、中国が前年買収したアセットは現在、少なくとも価値を7%増している。また、中国は、政府間の提携が多いため、リスク回避が容易な環境にある。このことから、Onley氏は、「欧米プレイヤーがリスク許容度を高めない限り、希少化するコモディティの確保競争には勝ち切れない」との懸念を示した。
 一方、SAMI FundのDesir氏は、「中国は、従来から個人個人のつながりを重視して取引を行うケースが多いため、カントリーリスクのある国の政府と個別で契約を締結する傾向がある。この場合、(資源国の)政権が交代すれば、中国がしっぺ返しを食らう可能性もあるだろう」と述べた。また、同氏は、「中国の投資家は未だ、規制が整っている国際市場での複雑な海外投資取引に慣れておらず、中国は海外直接投資等で面目を失いたくなくて、海外の専門アドバイザーを投資案作成に関与させない傾向がある。」と分析した。

6. おわりに:不鮮明な近い将来 VS 鮮明な遠い将来
 The Economistの“The World in 2010”*5では、2009年の課題は、『不況のなかでの短期的な生き残り』とされているが、本会議に参加した関係者の意見を総合すると、2010年は、『不透明な近未来の懸念を看過しつつ、中長期に再度注目できるかどうか』が重要であると言えよう。
 MEGのChender氏(CEO)は本会議で、「近い将来は、V字回復を見せるのか、またはW字で回復するのかは未だ予想できない」とコメントしており、経済の不透明さは依然として晴れず、また、2009年12月には、ドバイショックという新たな問題も明らかになった。
 加えて、2009年の経済回復の牽引役だった中国の成長もどこまで続くか不透明である。最近の報道によれば、「国家発展改革委員会は、生産能力の過剰が深刻な7業種(鉄鋼、電解アルミなど)について設備新設の認可を暫定的に停止*6している。」また、「欧州連合商工会議所が指摘するところ、過剰生産によって、設備投資資金を融資している中国の銀行が不良債権を抱えるリスクが高まると指摘している。」*7更に、The Economist*5によれば、中国は2010年、世界輸出シェアの10%に達すると予想され、米ドルに対する人民元の更なる引き上げ要請の受け入れ(人民元の管理変動相場制の撤廃)も可能性として無きにしもあらず、為替リスクも存在する。
 このように短期的な将来は未だ暗雲が立ち込めているが、中長期的には、中国、インド等の新興国の実需の成長は確実であると広く認められており、将来的な資源の逼迫が予想されている。鉱山開発は、探鉱から生産までに多くの時間を要すこともあり、本会議では、現在のノイズを振り切って、足元の将来ではなく、更に先の将来にのみ着目しようとするポジティブな姿勢を持ち続けようとする鉱山関係者が、自らを鼓舞している姿が印象的であった。

付録:探鉱プロジェクトの講演(金単独、ダイアモンド案件を除く)
 本会議でプロジェクト講演を行った企業は合計39企業で、その大半は、金の探鉱案件を紹介した。以下、本会議で講演されたベースメタル&レアメタルの探鉱案件を紹介する。

企業名 ( 本社 ) 探鉱プロジェクト場所
( ターゲット鉱種 )
Nautilus Minerals ( 豪、 TSX&AIM 上場 ) PNG 沖の Bismarck 海 ( 銅、金、銀、亜鉛 等 )
African Eagle Resources( 英、 AIM& AltX 上場 ) タンザニア、ザンビア、モザンビーク ( ニッケル、銅、金、ウラン )
European Goldfields( 英、 AIM&TSX 上場 ) ルーマニア、ギリシャ ( 金、銀、鉛、亜鉛 )
EMED Mining( キプロス、 AIM 上場 ) スペイン ( 銅 ) 、スロバキア ( 金 ) 、キプロス ( 銅、亜鉛 )
Fortuna Silver ( 加、 TSX 上場 ) メキシコ ( 銀、金 ) 、ペルー ( 銀、鉛、亜鉛 )
Sumatra Copper & Gold ( 英、 ASX 上場 ) インドネシアのスマトラ島 ( 金、銀、銅 )
Nkwe Platinum( 南ア BEE 企業、 ASX 上場 ) 南ア (PGE)
MBC Corp.( 露 ) ロシア ( 金、鉛、亜鉛 )
Ivernia( 加、 TSX 上場 ) 豪州 ( 鉛 )
Western Lithium( 加、 TSX 上場 ) 米 NV 州北部 ( リチウム )
Jubilee Platinum( 英、 AIM&JSE 上場 ) 南ア (PGE 、金 ) 、マダガスカル (PGE 、ニッケル )
Magma Metals( 豪、 ASX&TSX 上場 ) 加 ON 州 (PGE 、銅、ニッケル ) 、豪州 ( 金、ニッケル、銅 )
Baja Mining Corp( 加、 TSX 上場 ) メキシコ ( 銅、コバルト、亜鉛、マンガン )
Continental Coal( 南ア、 ASX 上場 ) 南ア ( 石炭 )
Kefi Minerals( トルコ、 AIM 上場 ) トルコ ( 金、銅 ) 、サウジアラビア ( 銅 )
Tantalus Rare Earths( ドイツ、非上場 ) マダガスカル (REE 、タンタル、ニオブ )
Monaro Mining( 豪、 ASX 上場 ) キルギス、豪州、北米 ( ウラン )

参考資料:
*1 日本経済新聞(2010年1月4日付) 「香港に上場、機運高まる」
*2 http://www.ft.com/cms/s/0/94314bde-91a3-11de-879d-00144feabdc0.html?nclick_check=1
*3 http://www.jetro.go.jp/world/africa/biznews/4b1623fd0ee48
  https://mric.jogmec.go.jp/public/news_flash/09-44_HP.html#20
  http://en.wikipedia.org/wiki/Forum_on_China-Africa_Cooperation
*4 Mining Journal(2009年11月27日付) 「China’s fresh stance on outbound mining investment」
*5 The Economist(2009年11月12日発刊)「The World in 2010」p.81
 特集記事「The dragon still soars」Pam Woodall氏著 http://www.economist.com/theworldin/displayStory.cfm?story_id=14742408&d=2010
*6 http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPJAPAN-11198720090826
  http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20091105/208959/
*7 http://www.euccc.com.cn/view/home
  http://jp.reuters.com/article/domesticEquities2/idJPnTK857976720091126

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