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中国の内需拡大策の動向―最近の自動車関連の政策制度―
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2008年の世界金融危機への対応から、内需主導による経済発展に転換した中国は、2008年11月に4兆元に達する景気刺激策を発表した。その政策は、地域格差や所得格差の是正、社会インフラの整備を目指しつつ、内需拡大と産業構造再編を行うものである。中長期的な整備と共に、短期的対策も含まれ、中国の非鉄需要にも大きく寄与している。 |
1. 中国の鉛・銅の需要に占める自動車等分野の消費
中国の鉛・銅の需要に占める自動車・バイク・電動自転車の産業が占める消費は表1のように推定される。鉛は自動車やバイクなどのバッテリー用途が主である(この他、伸銅品に用いられる鉛消費があるが集約できていない)。銅はワイヤ・ハーネス(組み電線)として自動車等の電気配線に使用されるほか、モーターなどの電装品や伸銅品として用いられる。
| 表1. 中国の鉛・銅の自動車関連分野消費 |
| 単位;千t |
| 2005年 | 2006年 | 2007年 | 2008年 | 2009年 | ||
| 鉛消費量合計 | 1,970.0 | 2,240.0 | 2,430.0 | 2,701.0 | 2,954.0 | |
| 鉛バッテリー | 自動車 | 269.0 | 315.0 | 361.0 | 411.0 | 471.0 |
| バイク | 97.0 | 100.0 | 110.0 | 119.0 | 129.0 | |
| 電動自転車 | 212.0 | 350.0 | 490.0 | 612.0 | 721.0 | |
| その他車両 | 173.0 | 180.0 | 184.0 | 190.0 | 195.0 | |
| 小計 | 751.0 | 945.0 | 1,145.0 | 1,332.0 | 1,516.0 | |
| 自動車等用途率(%) | 38.1 | 42.2 | 47.1 | 49.3 | 51.3 | |
| 銅消費量合計 | 3,656.1 | 3,613.8 | 4,863.4 | 5,133.6 | 7,170.0 | |
| 自動車 | 85.6 | 109.2 | 133.3 | 144.2 | 207.5 | |
| バイク等 | 8.9 | 12.1 | 14.1 | 14.9 | 14.5 | |
| 小計 | 94.5 | 121.3 | 147.4 | 159.1 | 222.0 | |
| 自動車等用途率(%) | 2.6 | 3.4 | 3.0 | 3.1 | 3.1 | |
| 出典; | 鉛は安泰科作成資料による ・銅消費量はWBMSによる(2009は1-11月実績に基づき推定) ・銅の自動車原単位は「自動車に使用される金属とその資源消費割」(谷俊夫、日本メタル経済 研究所、2008.3)に基づく ・銅のバイク等は推定原単位による |
2. 自動車産業に係る内需拡大策
中国政府は、2008年11月、4兆元(53兆円に相当)に達する内需拡大策を発表した。この内、自動車等産業に直接関連して具体化された項目は表2のとおりである。
| 表2. 自動車産業に係る内需拡大政策(2009年) |
| 発表年月 | 内 容 | 補助額 | 当初期限 |
| 2009.1 | 小排気量自動車の取得税引下げ | 従来10%→5% | 2009.12.31 |
| 2009.2 | (農村地域)自動車と新規取得・旧車買替え補助 | 販売価格の10%(上限5,000元) | 2009.12.31 |
| 廃車費用2,000~3,000元 | |||
| (農村地域)バイク新規取得補助 | 販売価格の13%(上限650元) | 2013.1.31 | |
| 2009.5 | (都市部)旧車・排ガス基準未達車の買替え補助 | 3,000~6,000元 | 2010.5.31 |
| 「世界経済の潮流2009Ⅱ」内閣府政策統括官室資料(2009.11)による 5,000元、2,000~3,000元、650元、3,000~6,000元は、それぞれ66千円、26~39千円、9千円、39~79千円に相当 |
『小排気量自動車の取得税引き下げ(以下“小型車減税”)』は、従来の10%を限定的に5%に引下げるもので、排気量1.6リッター以下の自動車を対象に、2009年1月1日に遡って適用された。
2009年2月に発表された『(農村地域)自動車と新規取得・旧車買替え補助』は、スローガンとしては、『汽車下郷』(“汽車”とは日本語で“自動車”の意、以下『汽車下郷』)と呼ばれている。同時に実施された『家電下郷』と共に、農村地域への普及により、農業の近代化と農家のコスト負担削減を目的としつつ、環境問題への対応も実現するものであった。なお、『小型車減税』と併せての受給はできない。国と地方の負担をそれぞれ80%・20%とする予算50億元(656億円)が設定され、「2009年に市場は30~40%拡大する可能性」(全国乗用車市場情報連絡会秘書長の談話-第一財経日報2009.3.16)の期待も生じた。
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図1. 黄標車章
(広州日報から引用) |
2009年5月に発表された『(都市部)旧車・排ガス基準未達車の買替え補助』も、家電製品と同時に実施され、『以旧換新』(以下『以旧換新』)として実施された。対象は「黄標車」と「老旧車」である。
| ・黄標車; | 排気ガスが2007年施行の『国Ⅰ排ガス基準』に未達のガソリン車(ディーゼル車は『国Ⅲ基準』) 1996年以前に販売された自動車がほぼ適用 |
| ・老旧車; | 車種によって年次が異なるが、例えば軽トラックについては使用開始から13年以上経過している自動車 |
自動車排気ガス抑制は、都市の環境問題克服の観点からも要請されており、これに伴い、大都市での乗入れ禁止措置などが存在している。しかし、補助額よりも中古車売却によるメリットが大きいことから、買換えによる効果が埋没する問題も生じた。これに対して、商務部による中古車市場の管理監督強化(総合媒体2009.12.3)などの対策も進められた。
3. 中国の自動車生産量と内需拡大策効果
中国の自動車等生産とGDPの関係を図2に示す。自動車・バイクの生産量の推移が2009年は変化しているものの、GDPとほぼ平行している。一方、電動自転車はGDPを上回って成長しつつ、最近は頭打ちとなっている様が見て取れる。

図2. 中国の自動車等生産量の年推移
自動車とバイクの生産量について2008年7月以降の生産量推移を図3に示す。

図3. 最近の中国の自動車等生産量の月推移
これらから分かる点は以下のとおりである。
・自動車、バイクとも2008年後半の世界金融危機の影響で生産量が減少し、共に2009年1月に底となった。
・夏季の一時停滞は両年に共通(自動車とバイクの間でも共通して)し、季節要因と考えられる。
・自動車生産は2009年2月以降、急回復し、2009年7月に一旦減退したものの、順調に増加している。この自動車生産増は、『小型車減税』・『汽車下郷』の実施時期(2009年1~2月)と符合し、この効果と見られる。
・自動車の8月以降の増加は、『以旧換新』の効果も加わったものとみられる。
・バイク生産は2009年2月以降急回復した。『汽車下郷』の実施時期と符合し、この効果と見られる。
・バイク生産はその後も自動車と同様な回復過程にあると見られるものの、まだ金融危機前の水準を回復していない。輸出量の減少や電動自転車との競合など、産業構造の問題も存在するとみられる。
4. 中国の自動車の保有量
車両保有量の推移は登録と廃車の二つの要因があり、内需拡大政策の効果が直ちに反映されるものではないが、中国の自動車が拡大基調にあることから、登録要因が強く表れている。公安部交通管理局での分析でも自動車に係る政策の影響を要因として述べている(公安部交通管理局、2009.9.16)。
図4、表3~4から読み取ることの出来る点は以下のとおりである。なお、中国の自動車分類基準(“GB/T 3730.1-2001”、“GB/T 15089-2001”)は2001年に改正され、それまでの基準と現在の分類基準は異なっているが、公安部統計では旧分類を引き継いでいるらしく、ややあいまいである。『小型乗用』はバスより小さな9人乗り以下の車両であり、『ミニ(原文では『微型』)乗用』は乗用車であって排気量1リッター未満のものを示す。

図4. 自動車保有台数の指数推移
・『小型車減税』、『汽車下郷』、『以旧換新』の対象となる『小型乗用』の伸びが著しく、自動車全体の増加を引上げ、内需拡大政策の効果が表れている。
・『軽トラック』の増加率は自動車全体の平均値よりはまだ低く、内需拡大政策の効果を表してはいるものの、『小型乗用』のユーザーほどの購買意欲はまだ喚起されていない。
・『小型乗用』、『軽トラック』は、共に2009年6月に、その前半期に対して伸び
率増加を示し、期待された内需拡大効果を表している。
・『小型乗用』の伸びを支えているのは個人所有乗用車の増加とみられる。『自動車の免許証保有』はこれまでの自動車生産の成長を支えてきたが、内需拡大策による効果は未だみられない。
| 表3. 中国の自動車の保有台数の推移 |
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| 出典;中国公安部 | データが公表されていない 「前期比」は前半期比の意 | |
| * 「率」は2009年6月の対2007年12月の増加率(%) | ||
| 表4. 中国の運転免許証保有者の推移 |
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| 出典;中国公安部 | データが公表されていない 「前期比」は前半期比の意 | |
| * 「率」は2009年6月の対2007年12月の増加率(%) | ||
5. 中国の自動車産業に係る最近の動向
(1)自動車
2009年12月、国務院常務会議は引き続き内需拡大促進が必要であるとして、従来の政策を引き続き推進するともに、農民の消費支援の強化や経済構造の調整と環境保護の要請から、一部政策の調整整備を行い発表した。
自動車に関連する従来の内需拡大策の継続と変更は以下のとおり。
| 表5. 自動車産業に係る内需拡大策の継続(2010年) |
| 発表年月 | 内 容 | 補助額 | 期限 |
| 2009.12 | 小排気量自動車の取得税引下げ継続 | 2009年5%→7.5%(ただし2009年よりは減税幅縮小だが、2008年以前の10%に対しては引下げ) | 2010.12.31 |
| 2009.12 | (農村地域)自動車と新規取得・旧車買替え補助 継続 |
販売価格の10%(上限5,000元) 廃車費用2,000~3,000元 |
2010.12.31 |
| 2009.2 | (農村地域)バイク新規取得補助継続 | 販売価格の13%(上限650元) | 2013.1.31 |
| 2009.12 | (都市部)旧車・排ガス規準不良車の買替え補助、補助額を拡大して継続 | 5,000~18,000元 | 2010.12.31 |
| 「国務院常務会議」報道、人民中国(2009.12.10)等の資料に基づき作成 5,000元、2000~3000元、650元、5,000~18,000元は、それぞれ66千円、26~39千円、9千円、66~236千円に相当 |
この内、『以旧換新』は、前述のような中古車問題点への対応を目指した変更とみられる。また、2009年時点では併用が認められていなかった『小型車減税』と『汽車下郷』(農村地域での自動車の新規取得・旧車買替え、バイクの新規取得)は併せて享受できるように改正された。
上海証券報は2010年1月8日、自動車ローンに関して国がサポートする政策が旧正月(2010年は2月14日)後に提示させる可能性について報道した。2009年3月に公表された『自動車産業振興計画』で示されていた「(自動車に係る)消費者ローンの速やかな展開」の具体的な政策提示である(上海証券報2010.1.8)。自動車販売の更なる拡大(内需による経済成長維持)を目指した政策とされるが、中国政府による金融引き締め懸念と併せて今後の動向が注目される。
また、2010年2月3日の報道によると、中国工業情報化部は自動車産業の集約化促進と過剰投資による生産能力過剰を抑制するため、生産企業再編の指針を取りまとめ中とのことである。3月にもその指針が発表されると伝えられ、合併・買収の際の税制や融資での優遇措置や新工場の建設の原則不許可などが盛り込まれていると報道されている(国際自動車ニュース2010.2.3)。この具体的内容や影響についても注視が必要となろう。
(2)バイクと電動自転車
中国のバイクメーカーを巡る環境は厳しい。都市部への乗入れ禁止などの制度に加え、売上高の40%を稼ぎだしている輸出も、ルピー安による価格優位性を武器にしたインドと競合している。内需拡大策によりやや持ち直しているものの、金融危機以前のレベルまで生産は回復していない。
電動自転車をとりまく制度環境も厳しい。既報(CT 09-69)したように、これまで『自転車』として、運用されてきた『電動自転車』を、設計最高速度などで再分類し、「高機能仕様の電動自転車」を、ナンバープレート登録や運転免許が必要な『電動バイク』・『電動軽便バイク』として『機動車』(日本の『自動車+自動二輪+原付』に相当)管理することとしたもので、2010年1月1日の実施が予定されていた。これにより中国内の電動自転車の販売量は2009年12月に激減したと伝えられている。中国内に約1億台ある『電動自転車』保有者や、製造販売、更に製造企業の『機動車』製造認可基準への移行など、施行を目前にして、各方面から困惑の声が上がり、中国国家標準化管理委員会は2009年12月15日付け通知で、『電動バイク』に係る4件の新規格の実施について一時延期と、現行の『電動自転車』の技術条件に係る規格の改定作業を行うことを発表した。
また、工業情報化部は、『電動バイク及び同部品生産企業参入条件』を2010年1月20日に同部HP上で公布し、即日実施した。発表された『参入条件』は、これまでこのような障壁の無かった『電動バイク』(高機能仕様の電動自転車)への参入に制限を定めたもので、注目されるのは、新規参入条件として、従来のバイク製造業及びその部品製造業への参入条件と等しい管理を要求している点である。
これにより、バイク業界から電動バイク(電動自転車の一部)への参入が容易になる。おそらくは、中国国家標準管理委員会が2009年に発表した『電動バイク』に係る4件の新規格運用に際して、その実施に当っての障害の一つとなっていた現行電動自転車メーカーの救済を、電動自転車業界内の再編と併せて推進する目的と見られる。あるいは、同様に環境の厳しさを持ち構造調整が要請されるバイク業界と併せて産業構造再編を行う政策であるかと考えられる。一部では既にバイク生産企業による電動自転車生産企業の買収の動きも伝えられている。
しかし、制度の『電動バイク』化移行に関しては、生産者と保有者の両面からの、困難を最小限に抑えた移行過程が必要のはずであるが、消費者(保有者)への対応はまだ見られない。
6. まとめ
中国の非鉄金属の大きな需要分野である自動車やバイクそして電動自転車の業界への政策や制度変更が内需拡大を機に続いている。大きな経済構造の変化の中で個々の産業の対応が注目される。今後とも需要へのファクターとして注視が必要である。



