報告書&レポート
Lithium Supply & Market 2010講演概要

2010年1月27日及び28日の両日、ラスベガス(米国)において英国調査会社Metal Bulletinが主催するLithium Supply & Market 2010が開催された。
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1. 2009年Li需給
2009年における世界のLi需要について、Li-ion電池搭載のHEV、PHEV及びEVの商業生産が開始されておらず、小型家電向けLi-ion電池、ガラス、フリット(釉薬)、グリース等景気動向に敏感に反応する製品需要が多いことから、2008年後半の世界景気後退以後は、2008年の在庫取り崩しで対応していたことに伴い、SQMでは2008年比25%減の85~90千t(LCE:炭酸Li換算)、FMCでは同30%減の65千t程度との発表があり、更にSQMでは、製品別及び用途別内訳についても発表した(図1)。
なお、両社共に世界のLi需要が2008年レベル(100~120千t:LCE)に回復するには、今後2~3年を要すると見込んでいる。
英国の調査会社であるRoskillによれば、2009年における中国のLi需要約30千t(LCE)で、内4.5千t(LCE)が中国国内のかん水から生産(表1)されているが、市場スペックの点でプロセス改善の余地があり、西豪州に拠点を置くTalison Resourcesから20千t(LCE)のLi精鉱輸入に依存していることを指摘している(表1)。

図1. 2009年製品別、用途別Li需要(出典:SQM)
表1.2009年中国におけるかん水からのLi生産量(t:LCE) |
企業名 | 2009年生産 | 生産能力 |
CITIC Guoan | 1,100 | 5,000 |
Tibet Mineral (Zabuye) | 1,000 | 5,000 |
QinghaiSaltLake | 400 | 3,000 |
Qinghai Lithium | 2,000 | 5,000+ |
計 | 4,500 | 18,000+ |
(※生産能力は、2008年データ) |
2. 今後のLi需給
(1)需要
今後のLi需要はHEV、PHEV及びEV生産に左右されるとの見方が強いことから、これらLi-ion電池搭載車の市場予測を基にしたLi需要予測が発表された。
HEV、PHEV及びEVの普及については様々な予測がなされているが、2020年におけるこれらLi-ion電池搭載車の生産について、SQMが500万~750万台、Chemetallが500万~600万台、FMCが1,440万台、Roskillが500万台前後(市場普及率5%の場合)と見込んでおり(表2、表3)、また、Western LithiumはHEV、EV普及率とLi需要量の関係をマトリックス化したものを発表した(表4)。
HEV、PHEV及びEV向けLi-ion電池では、正極板の違いで使用するLi量に差異があることから、単純に比較することは適当ではないが、2020年のこれら自動車向けLi需要について、SQMは 40千t、FMC は82千t、Roskillは 60千tと見込んでいる。なお、Li-ion電池の普及率、LCE使用原単位の予想は各社で相違しているが、Roskilは市場普及率5%(HEV 2kg/台、PHEV 15kg/台、EV 22kg/台:LCE)としている。
表2.今後のLi需要予測(SQM) |
2015 | 2020 | 2030 | |
HEV, PHEV, EV(万台) | 120~240 | 500~750 | 1,500~2,000 |
HEV, PHEV, EV向けLi(t:LCE) | 40,000 | 125,000 | |
その他Li (t:LCE) | 150,000 | 215,000 | |
合計(t:LCE) | 130,000 | 190,000 | 340,000 |
表3.今後のLi需要予測(FMC) |
2010年見込み | 2015年見込み | 2020年見込み | ||||
全自動車生産台数(千台) | 70,169 | 91,872 | 117,976 | |||
HEV市場普及率(%) | 1.1 | 2.7 | 5.4 | |||
PHEV市場普及率(%) | 0.0 | 0.5 | 2.6 | |||
EV市場普及率(%) | 0.0 | 0.5 | 4.2 | |||
HEV~EV以外の販売台数(千台) | 69,396 | 88,389 | 103,573 | |||
HEV~EVの販売台数(千台) | 台数 | LCE(t) | 台数 | LCE(t) | 台数 | LCE(t) |
HEV | 744 | 536 | 2,484 | 1,788 | 6,358 | 4,578 |
PHEV | 22 | 132 | 502 | 3,012 | 3,048 | 18,288 |
EV | 8 | 96 | 498 | 5,976 | 4,997 | 59,964 |
計 | 774 | 764 | 3,484 | 10,776 | 14,403 | 82,830 |
世界Li需要 計 (千t:LCE) | 70 | 120 | 220 |
[※リチウム使用量(LCE):HEV 0.72 kg/台、PHEV 6 kg/台、EV 12 kg/台] |
【前提条件】
・石油価格:2015年47.2 ¢/L、2020年50.3 ¢/L
・Li-ion電池価格:2009年1,200 US$/kWh、2020年500 US$/kWh
・自動車寿命:10年、年間走行距離:24千km
・走行距離:ガソリン車13.6 km/L、軽油車11.9 km/L、HEV 19.1 km/L、PHEV 25.5 km/L
表4.今後のLi需要予測(Western Lithium)(単位:千t) |
EV普及率 | ||||||
1% | 5% | 10% | 15% | 20% | ||
HEV普及率 | 5% | 49 | 109 | 185 | 260 | 336 |
10% | 82 | 143 | 218 | 294 | 370 | |
15% | 116 | 176 | 252 | 328 | 403 | |
20% | 150 | 210 | 286 | 361 | 437 | |
25% | 183 | 244 | 319 | 395 | 470 | |
30% | 217 | 277 | 353 | 428 | 504 | |
35% | 250 | 311 | 386 | 462 | 538 | |
40% | 284 | 344 | 420 | 496 | 571 | |
45% | 318 | 378 | 454 | 529 | 605 |
(2)供給
2009年の世界全体でのLi生産能力について、SQMから155千t/年(図2)、Roskillでは約150千t/年と報告され、SQM、FMC及びRoskillでは、2010年代半ば頃に需給がバランスすると予測している。
なお、SQMでは現在の生産者の施設拡張により、2020年の稼働率は71%(生産能力:約265千t)、2025年では90%(生産能力:約285千t)、開発中のプロジェクトも含めると、2020年の稼働率は49%(生産能力:約380千t)、2030年でも稼働率は84%に留まり、当面は供給障害が発生しないとの見込みを発表した(表5)。
](/wp-content/old_uploads/reports/current-topics/images/10_07/10_07pic02.gif)
図2. 2009年における世界各国のLi生産能力[計155千t/年](出典:SQM)
表5.現在進行中のLi開発プロジェクト |
企業名 | 地域 | 鉱床タイプ | 生産能力 LCE (千t) |
操業開始 | 進捗状況 |
Galaxy Resources |
Mount Cattlin, Jiangxi China |
リチア輝石 | 17.0 | 2010 | 開発中 |
Sentient Group | Rincon Argentina |
かん水 | 12 | 2010 | 開発中 |
Orocobre | OlarOZ Argentina |
かん水 | 15.0 | 2012 | FS |
Canada Lithium |
Quebec Canada |
リチア輝石 | 3.3 | 2012 | プレFS |
Keliber (Nordic Mining) |
Lantta Finland |
リチア輝石 | 10+ | 2013 | プレFS |
Simbol Mining | California USA |
かん水 | 3.3 | 2013 | プレFS |
Western Mining | Nevada USA |
ヘクトライト | 27.7 | 2014 | プレFS |
リチウム生産能力 計 | 88.3+ |
(出典:Roskill(一部JOGMEC改)) |
3. Li-ion電池のコスト構成
HEV、PHEV及びEV向けLi-ion電池の技術開発では、安全性、走行距離、電池寿命、低コスト等の観点から技術開発が進められているが、現在PCや小型家電に使用されているLi-ion電池の正極材はコバルト酸リチウムで、高価なコバルト(現在の価格は約21 US$/lb)が使用されていることから、コバルト使用量削減に向けて正極材の技術開発が活発化している。
今次会議では、FMCより正極材としてNi-Co-Mn系のリチウム酸化物を用いたLi-ion電池(25 kWh)のコスト構成について説明があった。
この場合、Li-ion電池コストを15,000 US$と仮定すると電池セルのコストは約7,400 US$で、内Li原料コストは約120 US$、コスト割合について、電池セルでは1.6%、Li-ion電池全体では0.8%程度であるとの発表があった(図3、表6)。

図3. Li-ion電池セルに占めるコスト割合
表6. 自動車用Li-ion電池(Ni-Co-Mn系正極材)のコスト |
(単位:US$) |
電池セル(150セル、25 kWh) | 7,395 |
部品、パッケージング、工賃 | 4,005 |
マージン | 3,600 |
計 | 15,000 |
4. Li埋蔵量
米国の独立系コンサルタントのKeith Evansは、2009年の第1回会議で既往調査結果等を基にLi資源量を発表しており、今回も同様の発表が為された(表7、表8)。
Evansの試算では、2010年のLi資源量は2009年より約460万t増加している。これは、西豪州でTalison Resourcesが保有するGreenbushes鉱床(リチア輝石)でLi埋蔵量が1,000~1,300千t増加したことと、かん水についてはボリビアUyuni湖の資源量についてRisacherのレポート(1989)を引用したためと発表している。
Evansによると、Li資源量は世界全体で3,000~3,500万tと推定されるが、実収率を勘案すると、現時点では50%程度と考えるのが妥当とコメントしている。
表7. リチウム資源量 | 表8. リチウム埋蔵量 |
![]() (出典:Keith Evans試算) |
![]() (出典:USGS:Mineral Commodity Summaries2010) |
5. 最後に
各自動車メーカーがHEV、PHEV、EV試作車を公開し、市場投入時期を発表している中、今次会議においても今後の需要先として期待されるLi-ion電池搭載車の普及予測についての関心が集まっていた。
2020年時点におけるLi-ion電池搭載車の需要予測は40~82千t(LCE)で、現状では2010年代半ばにはLi供給余力が無くなるとの見方が強いものの、既存生産設備の拡張及び新規プロジェクト生産開始で対応可能との見込みである。
現在、車載用Li-ion電池は安全性、走行距離、電池寿命、低コスト等の観点から急速に技術開発が進んでおり、近い将来、これら技術開発要素をクリアするLi-ion電池が開発された場合、地球規模で環境問題に対する意識が高まっている現状も手伝って、Li需要が急激に拡大することも十分に想定され得る。
HEV、PHEV、EVは環境負荷軽減、特にCO2削減の観点から次世代自動車として注目が集まる中、Li-ion電池は1993年にSONYが世界で初めて実用化し、1997年にはトヨタが世界で初めてHEVであるプリウスを市場投入している等、日本は本分野において世界に先駆けた技術力を有していることから、今後ともLi市場について継続的に注視していくことが必要である。

