報告書&レポート
ブラジル鉱業法改正動向について

2000年代前半からの中国等東アジアを中心とした新興市場における鉱物資源需要の拡大、BRICsの一翼を担う国として自国の鉱物資源需要の伸びを背景として、資源国としてのブラジルの位置付けは益々重要性を増している。 |
1. 鉱業法改正の背景
ブラジルでは、1995年のFernando Henrique Cardoso政権発足後、1988年に公布された新憲法が改正(第6条、第9条)され、外国資本による鉱物資源探査開発に係る制限(外資49%以下)は撤廃された。
しかし、探査活動を殆ど実施しない投機目的の鉱区保有やDNPMの探査申請手続の停滞・遅延等の理由から、実際の鉱物資源探査は思うように進まなかった。
そこで、2000年に投機目的の鉱区保有を防止するための鉱区管理の近代化、鉱山保安や閉山規則の確立、DNPMの組織改編等を内容としたブラジル鉱業セクターの改革案が検討され、2001年に制定された。
この内、鉱区管理の近代化については27.5百万US$を投じ、探鉱権をはじめとする諸鉱業権の申請プロセスの迅速化を目的として、DNPMによるインターネット上での申請を開始したが投機目的の鉱区保有防止には繋がらず、また当初議論されていたDNPM組織改編も先送りされている状況にある。
この様な状況下、ブラジル政府は、自国も含めた鉱産物需要の拡大を背景とし、鉱物資源の高付加価値化(国内産業育成)、環境保全に対する積極的な対応を目的として、鉱業法(1967年法令227号)を改正することとした。
2. 主要な改正点
今次鉱業法改正案では、[1]投機目的の鉱区売買を規制、鉱山開発の助長及び鉱業分野での事業の垂直統合を推進、[2]ブラジル連邦政府による鉱業分野への関与を増大、[3]閉山までの環境及び労働管理の徹底等を目的として、組織面、探査・開発許認可、閉山対策、特別区の設定等について検討されている。以下に改正点等について、要点を解説する。
なお、鉱業法改正と併せて、鉱業ロイヤルティ(CFEM)の増率も検討されている。
(1)組織
[1]鉱業審議会の設置
新たに大統領諮問機関として、関係閣僚、一般市民代表から構成される『鉱業審議会』を発足させる。本審議会では、鉱業セクターのガイドラインと対策案の策定及びその評価、新政策提言を行う(電力等他のセクターでは、既に導入済み)。
[2]DNPMの組織改編(以後、新組織を『新DNPM』と呼ぶ。)
これまで新DNPMは、MMEの下部機関として、鉱業政策の実施、探査開発の許認可、鉱区管理、鉱山操業に伴う環境、保安、衛生関連法規の策定、探査・開発時のロイヤルティ徴収等の実施機関であったが、今後はMME大臣直属の機関として、日本の鉱山保安監督局の様な位置付けとなる(役員決定には議会承認が必要)。
(2)探査・開発に係る許認可
改正の主要なポイントについて、現鉱業法との対比で以下に記載する(表1)。
表1. 鉱業法の主要変更点(探査、開発) |
現行法 | 改正案 |
[1]探査 ・探査期間:~3年間(1回更新可能) ※最長6年間 ・探査計画:新DNPM承認が必要 ・探査レポートの提出 |
・探査期間:1年間(5回更新可能) ※最長6年間 ・探査計画:新DNPM承認が必要 ・探査レポート提出時に毎年の探査費用を記載する必要あり |
[2]採掘 ・採掘期間:規定無し |
・採掘期間:最長35年 ※採掘を継続したい場合は、新たに新DNPMに事前申請する必要あり(この場合、過去の操業実績も考慮される。) |
(3)閉山対策
現在の鉱業法における閉山対策の規定は漠然としており、環境保全関連では新DNPMの要請で鉱山操業を実施する州の環境機関が発行する環境ライセンスを取得する必要があるのみである。
今後は、開発企業に採掘権を付与する前に、閉山後の現状復帰義務を規定し、閉山後の具体的な現状復帰計画を記載させる方向で検討している。
閉山に必要な費用については、操業開始時からの積立という考えもあるが、鉱山開発時に多大な初期投資が必要となることから、具体的な方策については企業の資金負担等も勘案し慎重に検討する予定である。
(4)特別鉱区の設定
ブラジル政府は、戦略的及び経済的側面(当該鉱区が莫大な経済的価値を有する場合)から特別鉱区を設定し、排他的に管理することができるようにするものである。
特別鉱区については、ブラジル地質調査所(CPRM:Companhia de Pesquisa de Recursos Minerais)の技術的な助言を受けてMMEもしくは新DNPMを通じて決定される。
なお、特別鉱区の探査開発については、新DNPMが実施する一般競争入札により企業が決定される。
(5)鉱業ロイヤルティ(CFEM)
ブラジル政府の鉱業ロイヤルティは、CFEM(Compensacao Financeira pela Exploracao de Recursos Minerais:鉱物資源開発に係る財政補償)と呼ばれており、1988年の新憲法で規定された。
CFEMは最終生産物販売後の純利益に賦課され、その税率は鉱種によって区別されており、鉄鉱石、銅、ニッケル等では2%となっている。
Edison Lobao鉱山動力大臣は、CFEMを他国の鉱業ロイヤルティと比較し低率過ぎるとして、今次鉱業法改正のタイミングで鉱業ロイヤルティについても見直しを検討している。
同大臣は、CFEMの賦課額を純利益から売上げ総利益に変更し、鉄鉱石、銅、ニッケル等の場合、税率も2%から4%に増率する方針である。
本件について、Valeをはじめとする鉱山企業はIBRAMを通じて、付加価値税、法人税等も含めるとブラジルの税制は世界でも高率(表2)で、CFEMの増率により国際競争力が阻害され、国家財政収入の低減をもたらすものとして反対している。
なお、2010年2月半ばに、Lobao鉱山動力大臣とGuido Mantega財務大臣との協議が合意に至らず、今回はCFEMの増率見送りということである。
表2. ブラジル主要鉱産物別の総合税率一覧 |
鉱産物名 | (※)総合税率 % | 世界ランク |
鉄鉱石 | 19.70 | 3 |
ボーキサイト | 35.14 | 2 |
マンガン | 24.11 | 2 |
銅 | 26.92 | 1 |
ニッケル | 31.49 | 1 |
亜鉛 | 40.10 | 1 |
金 | 17.89 | 2 |
(出典:IBRAM) ※総合税率:CFEM等、付加価値税、法人税等の合計。 |
3. その他(ウラン探査開発に係る民間企業への解放について)
ブラジルのウラン資源量(U純分)は、278千t-U〔ウラン純分, Uranium 2007(OECD)〕で世界第7位のウラン資源国であるが、憲法及び鉱業法において、ウラン資源の開発と生産に係る国家の排他的権利が規定されている。
2000年代半ばからの価格高騰、CO2排出量削減の観点から原子力発電見直しの機運を受け、国内外の民間企業からウラン資源の開発と生産への民間企業参入が要請されていたが、今次改正案には盛り込まれなかった。
ブラジル政府は、2014年までにウランの転換・濃縮工場建設を建設し、自国内でウラン採掘⇒選鉱⇒転換⇒濃縮⇒燃料棒成型加工を完結させることを目標とし、また国内市場重視の政策を指向していることから、国内市場の混乱を防ぐためも民間企業のウラン探鉱開発を認めていない。ただし、2014年の目標が達成した時点でウラン政策が変化する可能性はあり得るとのことである。
なお、現在でもウランの探鉱活動に係る民間企業参入は禁止されている訳では無く、INBでも過去にCameco、ArevaとのJV探鉱計画を進めていたが、ブラジル政府が認可しなかった経緯がある。
4. 今後のスケジュール
鉱業法改正法案審議について、Lobao鉱山動力大臣が2010年10月のブラジル大統領選と同時に実施される州知事選に出馬表明していることから、2010年3月に法案が国会に提出される予定(州知事選出馬表明したことで、法律上2010年3月で辞職する必要あり)である。
ただし、2010年3月に法案提出された場合でも、ブラジルの過去の事例から大統領選後でなければ審議が行われない見通しで、実際の審議は2011年に入るものと見込まれている。
5. 最後に
今次改正案の中で、投機目的の鉱区売買を規制するのは、鉱業の健全な成長を促進する点で好ましいものと思われるが、鉱業ロイヤルティ(CFEM)の増率に関し、特に鉄鉱石分野では、日本の鉄鋼メーカー、商社等も進出しており、日本企業への直接的な影響も大きい。最終的に今回のCFEMの増率は見送られたが、ブラジル政府の動向を注視しつつ、産消対話の機会等を捉えて日本の問題意識を伝えていくことも必要と考えられる。

