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報告書&レポート

2010年4月15日 サンティアゴ事務所  大野克久
2010年17号

2009年 チリの銅・モリブデン生産及び輸出入動向について(その1)

 2008年後半のリーマンショックに伴う景気悪化により資源価格が軒並み下落したなか迎えた2009年であったが、中国を中心とした振興市場国の資源需要の下支えもあり、当初2010年半ば以降と見込まれていた世界景気回復も最近ではその足取りを早め、資源価格についても総じて上昇傾向となっている。
 チリ総輸出額の約50%を占め、重要な外貨獲得源である銅についても、2009年はじめの3,000 US$/t(LMEスポット価格)から2010年3月末には過去20か月間で最高値の8,000 US$/t近くまで回復している。
 COCHILCO(チリ銅委員会)は、2009年4月のCRU世界銅会議で2009年のチリ鉱産物輸出額は、2008年比50%減の200億US$まで低下すると予測していたが、2009年4月以降の堅調な銅価回復もあり、終わってみると20.2%減の304.6億US$という結果であった。
 現在の銅価水準は当面継続するのではないかとの見方が強く、チリ鉱業界も一応の落ち着きを取り戻しているところである。
 本稿においては、チリの重要な輸出鉱産物で我が国への輸出量も多い銅、モリブデンを対象として、2009年の生産及び輸出入について振り返ってみたい。
 なお、チリではリチウムも重要な輸出鉱産物であるが、本件についてはリチウムに係る法的枠組みの現状も含めて、別途カレント・トピックスで報告する。

1. 銅生産及び輸出入動向
(1)生産
 2009年の銅生産は、2008年比61.7千t(1.2%)増の5,389.3千tであった(表1)。チリでは、近年銅鉱石品位低下が顕在化し始めており、2009年はEscondida、Candelaria、El Abra鉱山等で粗鉱品位低下から銅生産量が減少している他、Escondida鉱山では2008年10~2009年7月のSAGミル故障に伴う一部運転休止により、2009年は2008年比150.3千t減少した(表2)。
 一方、2004年以降減産が続いていたCODELCOでは、CODELCO Norteディビジョンの生産拡張、Gaby鉱山の本格操業移行等により、2009年は5年振りに1,700千t台の銅生産を回復した。また、XstrataのLamas Bayas鉱山等の生産拡張等もあり、チリの銅生産は対前年比増という結果であった(表2)。
 2010年には、Andina(第1期)、Radomiro Tomic、El Teniente、Los Pelambres、Collahuasi鉱山の拡張工事が完了し、Esperanza鉱山もH2には操業開始の予定であることから、引き続きチリ銅鉱山生産量は伸張するものと見込まれている(表3)。

表1. チリ銅生産・輸出推移
単位:千t(銅量)、輸出量下段は%
  2005 2006 2007 2008 2009(p) 2009/2008 増減
割合
銅生産量
  精錬銅等 1,239.4 1,119.5 1,104.4 1,086.6 1,159.1 72.5 6.7
Sx-Ew銅 1,584.6 1,691.8 1,832.1 1,971.0 2,112.4 141.4 7.2
粗銅 318.7 445.9 409.9 282.6 363.2 80.6 28.5
輸出向け
 銅精鉱
2,177.8 2,103.6 2,210.6 1,987.4 1,754.6 -232.8 -11.7
小計 [1] 5,320.5 5,360.8 5,557.0 5,327.6 5,389.3 61.7 1.2
輸出量
  銅地金 2,799.3 2,606.8 2,909.7 2,983.1 3,179.3 196.2 6.6
52.5 49.8 51.3 55.2 58.7
粗銅 347.3 457.1 505.5 407.7 396.0 -11.7 -2.9
6.5 8.7 8.9 7.5 7.3
銅精鉱 2,190.4 2,171.1 2,258.1 2,014.4 1,845.2 -169.2 -8.4
41.0 41.5 39.8 37.3 34.0
小計 [2] 5,337.0 5,235.0 5,673.3 5,405.2 5,420.5 15.3 0.3
バランス [1]-[2] -16.5 125.8 -116.3 -77.6 -31.2
出典:COCHILCO
※銅鉱産物輸入については、過去5年間で最大でも輸出の0.5%程度であることから省略している。

表2. チリ主要銅鉱山別生産量
単位:千t
  2005 2006 2007 2008 2009(p) 2009/2008増減
率 % 理 由
CODELCO 1,728.0 1,675.9 1,583.3 1,466.4 1,702.0 235.6 16.1  
  CODELCO Norte 964.9 940.6 896.3 755.3 874.7 119.4 15.8 ・生産拡張
Salvador 77.5 80.6 63.9 42.7 65.5 22.8 53.4  
Andina 248.2 236.4 218.4 219.5 209.7 -9.8 -4.5  
El Teniente 437.4 418.3 404.7 381.2 404.1 22.9 6.0  
Gaby 67.7 148.0 80.3 118.6 ・本格生産開始
Escondida 1,271.5 1,255.6 1,483.9 1,254.0 1,103.7 -150.3 -12.0 ・粗鉱品位低下、SAGミル故障による生産減
AAC Sur※1 293.7 294.8 302.1 283.5 276.9 -6.6 -2.3 ・粗鉱品位低下
Collahuasi 427.0 440.0 452.0 464.4 535.9 71.5 15.4 ・生産拡張、実収率向上、2009年後半高品位鉱体採掘
・Storage Pondからの精鉱回収
Los Pelambres 333.8 335.2 300.1 351.2 322.6 -28.6 -8.1 ・鉱石硬度上昇に伴う粗鉱処理量低下
(選鉱実収率は向上)
El Abra 210.6 218.6 166.0 165.8 164.1 -1.7 -1.0 ・粗鉱品位低下
Candelaria※3 162.7 169.6 181.0 173.5 134.2 -39.3 -22.7 ・粗鉱品位低下
AAC Norte※2 149.7 152.1 151.6 148.9 151.6 2.7 1.8 ・Mantos Blancos鉱山高品位鉱体採掘、実収率向上
Zaldivar 123.3 146.3 142.9 133.5 137.0 3.5 2.6  
Cerro Colorado 90.4 115.5 98.7 104.2 93.7 -10.5 -10.1  
El Tesoro 98.1 94.0 93.0 90.8 90.2 -0.6 -0.7 ・粗鉱品位低下、Esperanza鉱山ROM処理
Quebrada Blanca 81.0 82.4 82.9 85.4 87.4 2.0 2.3 ・粗鉱品位低下
Lamos Bayes 63.2 64.3 61.5 59.2 73.1 13.9 23.5  
Michilla 46.4 47.3 45.1 47.7 40.6 -7.1 -14.9 ・Lince鉱床操業休止
Spence 4.3 128.1 164.8 162.3 -2.5 -1.5  
その他 241.1 264.9 284.8 334.3 314.0 -20.3 -6.1  
合計 5,320.5 5,360.8 5,557.0 5,327.6 5,389.3 61.7 1.2  
出典:COCHILCO
※1AAC Sur:Los Bronces, El Saldado、 ※2AAC Norte:Mantos Blancos, Mantoverde ※3 Ojos del Salado鉱山含む

表3. チリ主要銅鉱山開発・拡張プロジェクト
鉱山名等 プロジェクト名等 投資規模
百万US$
概   要 生産開始
予定年
生産量
千t
進捗状況
CODELCO Radomiro Tomic Sulfide 370 Radomiro Tomic鉱山の破砕鉱石をChuquicamata鉱山まで運搬し処理(100千t/d)。 2010年Q2 160 計画通り
Mina Ministro A Hales. 1,728 新規開発 2013年 170 FS実施中
Pilar Norte
 (El Teniente)
125 El Teniente鉱山新鉱体開発 2010年Q1 55 計画通り
New Mine Level
 (El Teniente)
1,480 El Teniente鉱山新鉱体開発 2017年 430 FS実施中
Plan de Desarrollo
Andina Phase 1
979 粗鉱処理量拡大(72千t/d→94.5千t/d) 2010年Q1 30 計画通り
Plan de Desarrollo
Andina Phase 2
4,800 粗鉱処理量拡大(94.5千t/d→240千t/d) 2015年 350 FS実施中
Chuquicamata
Underground
1,800 Chuquicamata鉱山坑内掘 2018年 340 FS実施中
Collahuasi 第1次拡張計画 0.75 粗鉱処理量を35%拡大(126千t/d→170千t/d)
600千t/y生産規模へ
2010年 150 2009年F/S終了
第2次拡張計画 選鉱設備拡張、二次硫化鉱リーチング開発
1,000千t/y生産規模へ
未定 未定 概念設計中
Los Pelambres 拡張計画 1,000 粗鉱処理量拡大(175千t/d) 2010年 90 計画通り
Esperanza 新規開発 2,300 粗鉱処理98千t/d
銅精鉱生産
2010年H2 191 計画通り
Los Bronces 拡張計画 2,200
~2,500
粗鉱処理量拡大 2011年 170 詳細エンジニアリング設計中
(当初予定より8ヶ月遅延)
Lomas Bayas 第2次拡張計画 未定 サテライト鉱床開発 2011年 未定 FS実施中
El Abra Sulfolix Project 450 酸化鉱採掘から硫化鉱採掘へ移行 2012年 148 鉱床規模拡大の見通し
El Morro 新規開発 2,500 粗鉱処理75千t/d
銅精鉱生産
2013年 157 詳細エンジニアリング設計
及びF/Sアップデート中
Caserones 新規開発 1,860 銅精鉱生産
SX-EWによる銅地金生産
2014年 180 2009年FS終了
Escondida 第5次拡張計画 3,250 選鉱能力50%向上のための3基目の選鉱プラント建設 2015年 210 計画延期(市況次第)
各社レポート、CONAMAホームページ等により作成。
※拡張プロジェクトの場合、増産される銅量を記載。

(2)銅鉱産物生産量について
 鉱山から生産された銅は、最終的に精錬銅等、SxEw銅、粗銅及び輸出向け銅精鉱の4種類の鉱産物に大別される(図1)。
 これまで、チリでは輸出向け銅精鉱の生産割合が最も高く、40%程度を占めていたが、近年減少傾向にあり、2008年を境にSxEw銅の生産割合と逆転している。
 これは、2008年からSxEwにより生産を開始したGaby鉱山や、Lamas Bayas鉱山の生産拡張等によるものであるが、COCHILCOによると、酸化鉱や二次硫化鉱を対象としたSxEwによる銅生産は2010年にピークを迎え、今後は酸化鉱下部に胚胎する一次硫化鉱が対象になることから、SxEw生産は減少すると予測している(一次硫化鉱を対象としたリーチングは考慮していない)。


図1. チリ銅鉱産物生産量(銅量)
出典:Servicio Nacional de Aduanas
※折線グラフは生産割合を示す

(3)銅鉱産物輸出入動向
 チリの銅鉱産物輸出は、銅地金(精錬銅等及びSxEw銅)、粗銅及び銅精鉱の3種類に分類され、全体として2008年比15.3千t(0.3%)増の5,420.5千tであった(表1、図2)。
 このうち、銅地金と銅精鉱で輸出量の90%以上を占めているが、特に銅地金では2006年から年率8%程度で拡大しており、2009年は過去最大の3,179.3千tを輸出した(図2)。
 しかし、これはSxEw銅生産増に伴う輸出の増加であることから、酸化鉱下部に胚胎する一次硫化鉱が採掘対象になると、最終的に銅精鉱、銅地金何れの形態での輸出が増加するかについては、一次硫化鉱を対象としたヒープリーチング等の今後の技術開発動向次第と考えられる。
 なお、チリ銅鉱産物輸入は、過去5年間では最大でも輸出量の0.5%であることから本稿では省略する。
 銅精鉱輸出について、2009年は2008年比169千t(8.4%)減少した(表2)。輸出先では、日本、中国、韓国、インド、ドイツ及びブラジルの6ヶ国で約90%を占めており、中でも毎年約30%程度が日本向けで第1位の安定した輸出先となっている(図3)。
 しかし、2006年以降、中国向け輸出が拡大基調であり、2009年は1,628.2千t(グロス)で精鉱輸出量の27.1%を占めている他、2009 Q4には日本を抜いて第1位の輸出先となっている(図4)。
 また、銅地金輸出先は、中国、韓国、台湾、米国等8ヶ国で90%以上を占めている(図5)。このうち、中国向けについて2009年は2008年比86.3%増の1,325.8千t(グロス)で輸出量の42.7%という著しい伸びを示した。
 因みに2009年の中国銅地金輸入量は約3,160千t(グロス)で2008年比約1,724千t(120%)増加し、チリからの輸入は約40%を占めた。
 2009年H1は中国物資備蓄局(SRB)による300千t規模の銅地金備蓄がなされたとの市場報道がなされたが、2009年H2~2010年2月の間についても銅地金輸入が継続している(図6)。               (以下、次号へ続く。)

図2. チリ形態別銅輸出量(銅量)

出典:Servicio Nacional de Aduanas
※折線グラフは輸出割合を示す

図3. チリ銅精鉱輸出量(国別,年別)

出典:Servicio Nacional de Aduanas
※折線グラフは輸出割合を示す

図4. チリ銅精鉱輸出量(国別,四半期別)

出典:Servicio Nacional de Aduanas
※折線グラフは輸出割合を示す

図5. チリ銅地金輸出量(国別、年別)

出典:Servicio Nacional de Aduanas
※折線グラフは輸出割合を示す

図6. チリ銅地金輸出量(国別、四半期別)

出典:Servicio Nacional de Aduanas
※折線グラフは輸出割合を示す

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