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報告書&レポート

2010年5月11日 シドニー事務所 原田 富雄、増田 一夫、リサーチャー Santiago Mateos
2010年20号

豪州の税制改革(速報)-連邦政府の方針、及び鉱業分野への潜在的影響-

 2010年5月2日、ラッド首相及びスワン財務大臣により、豪州の将来の税制に関する政府方針「Stronger・Fairer・Simpler-A tax plan for our future」が発表された1 。2007年12月に誕生したラッド首相率いる労働党政権は、半年後の2008年5月、今世紀に豪州が直面すると予想される国民生活、経済、地球環境問題を見据えた将来における税制のあり方を検討するため、財務省のヘンリー次官を中心とする税制調査委員会(レビュー・パネル)を設置、2009年末までの約1年と半年をかけて検討を行ってきた。今回の発表は、同委員会から財務大臣に提出のあった報告書「ヘンリー税制調査報告書」2を基に、政府ハイレベルで更に検討が加えられたもので、今後の税制改革法案の叩き台となるものである。

 約1,000ページに及ぶ税制調査委員会による報告書で言及のあった勧告事項は約140項目に及ぶものの、今回の発表内容はそのごく一部に留まっている。しかしながら、国民年金改革や法人税など、国民や企業に幅広く関係する内容が盛り込まれており、メディアは特集を組むなど注目を集めている。また、鉱業分野に関しては、これまで州政府の税収とされてきた資源ロイヤルティ税に加えて、連邦政府が課税する資源超過利潤税(Resource Super Profits Tax)が新たに導入されるなど、資源開発や企業経営を取り巻く環境に変化が生じることが予想される。

 なお、資源超過利潤税の基本構成や、2012年7月1日からの導入に向けた現行プロジェクトの移行手続きといった詳細設計は、今回の発表とともに組織された資源税協議委員会(Resource Tax Consultation Panel)において検討されることが決まっており、2010年末までに資源超過利潤税導入に向けた関連法案の骨子が固まる予定となっている。
 本稿では、鉱業分野で注目されるヘンリー税制調査報告書の勧告に基づく政府の改革内容とともに、鉱業分野への影響や関係者の反応、更には税制改正に向けた今後のスケジュール、検討すべき課題を中心に述べる。

発表に至るまでの主なスケジュール

2008年 内 容
5月13日 スワン財務大臣、豪州の将来の税制制度の検討(Australia’s Future Tax System Review)を表明
2008年8月6日 議論の叩き台「税制とその移転給付制度の構成」を公表
2008年8月19日 税制調査委員会、質問書・意見書の骨格を公表
8月19日~10月17日 一般の意見書を募集
10月 「税制とその移転給付制度」の焦点となる産業界(鉱業含む)、専門家、地域住民等の関係者との協議開始(第1回)
12月5日 財務大臣、年金・企業法大臣は「退職者所得制度」を「税制とその移転給付制度」の前に検討するよう指示
12月10日 意見書、市民集会及び関係者との直接協議に関する情報の提供、並びに意見書に関する諮問書の公開
12月~2009年2月27日 「退職者所得制度」に関する意見書の提出
12月~2009年5月1日 「税制とその移転給付制度」に関する意見書の提出期間
2009年 内 容
1~3月 「退職者所得制度」に関し産業界、専門家、地域住民等の関係者との意見交換
2月27日 「退職者所得制度」に関する意見書の提出期限
3月16~27日 7州の全州都における市民集会
4月 連邦州都特別区、北部準州を除く5州の州都等において関係者間による公開の協議委員会を開催
5月1日 「税制とその移転給付制度」に関する意見書の提出期限
5月12日 「退職者所得制度」に関する報告書の公表
6月18~19日 「税制とその移転給付制度政策」会議をメルボルンで開催
6~11月 「税制とその移転給付制度」の焦点となる産業界(鉱業含む)、専門家、地域住民等の関係者との協議
12月 ヘンリー税制調査委員会、最終報告書をスワン財務大臣に提出
2010年 内 容
5月2日 豪州の将来の税制に関する政府方針の発表

出典:連邦財務省

1 http://www.futuretax.gov.au/pages/default.aspx
  2010年5月11日に発表される「連邦予算原案」に政府の新政策を織り込むために、1週間前に発表したもの
2 http://taxreview.treasury.gov.au/content/Content.aspx?doc=html/pubs_reports.htm
  税制調査委員会が、国民、産業界、州政府といった関係者との間で公開による検討や、鉱業を含む特定の産業分野との意見交換を行うとともに、2009年8月に公表された検討のための叩き台「税制とその移転給付制度の構成」に対する約1,500件の意見書の検討結果を加えて提出に至ったもの。なお、本報告書の公表は政府方針が発表された5月2日と同日であるが、これは政府方針を決めるにあたって、産業界や投資家の不安を払拭する狙いがあったとされる。>

1. ヘンリー税制調査報告書(勧告)に基づく連邦政府の改革方針
(1) 税制改正の必要性

 1996年から11年間続いたハワード自由党政権に勝利し、誕生したラッド労働党政権の最大の公約は、労働者の権利、国民生活の向上であったが、政権が誕生した2007年は、鉱物資源の輸出額は順調に増加基調にあったものの、豪ドル高による輸出の下げ圧力、インフレの高進が見られ、2008年には更なる物価上昇、高金利政策により成長に鈍化が見られたため、国内景気対策に対応せざるを得ない状況となった。また、米国のサブプライム・ローン問題の世界経済への影響や、地球温暖化といったグローバルな問題への対応も必要とされる時代へと変わっていった。

 こうした経済、社会、環境問題に取り組みつつ、2度に及ぶ労使関係法の改正を終えた現政権は、地球温暖化へのイニシアティブを取ることで国民的人気の維持を試みたが、2009年末にコペンハーゲンで開催された第15回気候変動枠組条約締約国会議が不調に終わるとともに、国内の温暖化対策法となる炭素汚染防止法案(Carbon Pollution Reduction Scheme)も上院で否決、産業化への配慮もあり、最終的に法案提出を2013年に先送りするなど、ラッド首相のイニシアティブに翳りが見え始めた。

 2010年は連邦議会選挙の年となるが、先のハワード政権下で作られた連邦・州政府の税制を、今後40~50年先を見据え、豪州が直面すると予想される国民生活、経済、地球環境問題に対応した制度の改革に取り組む姿勢を、選挙前に国民に対して明確に打ち出すことにより、政権浮上に結び付けたいとする政府の姿勢が垣間見える。特に、中国・インドの経済成長に伴い資源産業を中心に経済が好転、先進国の中でいち早く世界金融危機から抜け出した豪州が、高騰を続ける資源価格を背景にどういった成長戦略を描くことが出来るかが鍵となるが、2010年5月11日に発表となる、2010/11年度3の連邦予算案もこうした点が考慮されたものになると考えられる。また、発表された税制改革方針を着実に実施するためには予算の裏づけが必要であり、予算案に先駆けて方針が示されたことの意味合いは大きいといえる。

(2) 連邦政府の改革方針

 5月2日、配布されたラッド首相、スワン財務大臣のプレス・リリースによれば、本税制改革は「公平なる繁栄の共有」のための10年計画の第一段階であり、第二期資源ブーム(Commodity Boom Mark II)によりもたらされる成長の機会を、国民の繁栄のために生かしていくべきとしている。とりわけ、再生不能な資源から得られる利益について、国民全体で公平に享受できるかに焦点をあてて改革を行うとしており、以下の3点が重視されている。
・労働家族の退職年金基金4(Superannuation)の拡充
・全ての企業に対する税の軽減(特に小規模事業)
・将来必要となるインフラストラクチャーへの投資(特に鉱業州)
 しかしながら、同日公表された約1,000頁のヘンリー税制調査報告書に盛り込まれた勧告は138件にも及ぶが、重点分野が上記3点と、あまりに視野が狭いものとなっている。今回、勧告への対応が見送られたものの中には、医療保険税制(メディケア・レビー)や高級車への課税の廃止、酒税の変更といった国民の人気を損なう改革が盛り込まれており、来る選挙を見据えた手堅い選択となっている。また、間接税として給与税と並び州の主財源となっている印紙税についても州政府への配慮から対応が見送られている。

 一方、鉱業及びエネルギー分野は、2008/09年度における豪州の全輸出額(物、サービス)の約6割を占めるものの、全雇用の1.6%を占める5にすぎず、高騰する鉄鉱石、石炭等から得られる利潤は、一部の資源会社に占有されているとの認識が連邦政府内で共有され、資源ブームで得た利潤の一部を税金として課税し、国民に分配する姿勢を明確に打ち出すことにより、政権浮上を試みたものと言えるであろう。

 以下、ヘンリー税制調査報告書の勧告内容と、これに対する連邦政府の方針を示す。

主な内容

ヘンリー税制調査報告書(主要な勧告)

連邦政府の方針

法人税率の切り下げ(鉱業含む)
  30%(現行)→25%(中期目標)

30%→29%(2013/14年度)
29%→28%(2014/15年度)
※ただし、小規模事業(売上2百万A$未満)に対しては前倒しで実施
30%→29%(2012/13年度)

鉱業に関し、資源使用税(Resources Rent Tax)として利益の40%を課す。
  海洋石油・天然ガス事業に課す石油資源使
  用税(PRRT)と同率

全ての鉱物資源の関するプロジェクトに関し、資源超過利潤税(Resource Super Profits Tax)として利益の40%を課す。
 
※2012年7月1日からの導入。ただし、税の基本構成や、現行プロジェクトの移行手続きといった詳細設計は、資源税協議委員会(Resource Tax Consultation Panel)において要検討
  ※現行の海洋石油・天然ガス事業については、資源超過利潤税に移行するか、石油資源使用税に留まるかは選択可

資源使用税は、州政府が鉱業に課税するロイヤルティ制度と置換

州政府のロイヤルティ制度は存続。ただし、二重課税を防止するため、支払ったロイヤルティを償還可能なクレジット(Refundable Credit)として企業に提供する。

資源使用税率は、法人税率の引下げと相殺。また、減価償却の実効レートは長期国債利率(LTBR、現行6%)とする。

全ての企業に対し、鉱物、石油に関する探鉱経費は控除可能とする。

政府は、探鉱許可を与えるに当たり、現金での入札制度を検討すべき

資源超過利潤税を財源とした「インフラストラクチャー基金」を創設。初年度となる2012/13年度は7億A$を積立てる。
  ※投資先は各州政府との話し合いで決まるものの、WA州、QLD州といった資源が豊富な州を予定。

排出権取引制度の下での産業支援は、過渡期を検討すべき

税額控除を通じて新規の鉱物プロジェクトの40%に対して政府の資金援助を行う

下、鉱業分野に影響があると考えられる改革内容について記述する。

(3) 資源超過利潤税(Resource Super Profits Tax、RSPT)の導入6
 連邦政府は、2012年7月1日から一部RSPTの恩恵を被らない低価値の鉱物資源を除き、全ての資源(金属鉱物、石油・天然ガス7を含む)から得られる利益に対し40%が課税される。

 課税対象者は、これらプロジェクトに直接関わる全ての法人(法人格を持たない共同事業(Unincorporated Joint Venture)参加者、豪税法上のパートナーシップ、トラストにも適用)とされ、課税収益から探鉱費、プロジェクト開発関連の資本支出の償却費等の課税時点までに投じた支出を控除した超過利益に対して40%の課税となる。

 また、事業者に課税される実効税率は、2014/15年度の法人税率を28%とした場合、以下のとおり計算される。

  法人税 =(100利潤-40RSPT)×28%=16.8%
  RSPT =40%
  実効税率=所得税+RSPT+(ロイヤルティ-ロイヤルティの控除)=56.8%

 なお、実効税率は、導入されるロイヤルティの税額控除の変動により、上昇する場合も生じることに注意を要する。

 しかしながら、RSPTの基本構成や、2012年7月1日からの導入に向けた現行プロジェクトの移行手続きといった詳細設計は、今回の発表とともに組織された資源税協議委員会(Resource Tax Consultation Panel8 、RTCP)において検討されることが決まっており、2010年末までに資源超過利潤税導入に向けた関連法案の骨子が固まる予定となっており、今後、議論の論点、最終報告書、RSPT法案等を順次発表するとしている。

 協議スケジュールは、後述する。

(4) 資源探鉱費還付制度(Resource Exploration Rebate)の導入

 資源分野における投資や、雇用を促進するため、2011年7月1日以降に発生する探鉱投資に対する還付制度を導入する。現行の税法上、また、今回発表された税制改革においても探鉱に要した費用は法人税の損金扱いであるが、相殺可能な課税所得が発生しない場合、所得が発生するまで繰り延べされる制度となっている。この場合、特に鉱山からの収益のない小規模の探鉱事業者においては、毎年のキャッシュフローがマイナスになる状況となっていた。

 こうした小規模事業者を救済する観点から、課税可能な収益の発生がない事業者の探鉱支出に対し、法人税率に基づいた探鉱費を還付する制度を導入する。例えば、現行法人税率が30%であることから、ある年に1百万A$の探鉱出費を行った事業者に対しては、その支出額の30%に相当する0.3百万A$が還付される。

 一方、新規探鉱投資を促進する観点からカナダにおいて導入されているフロー・スルー株式制度(Flow Through Share Sheme)の導入を求める声が、金属鉱物及び石油関連団体から寄せられてきたが、本還付制度がより簡潔で効果的であるとして導入は見送られることになった。

 なお、制度の裨益は事業の大小を問わず受益できるものとし、2012/13年度の還付開始からの2年間で11億A$の還付による探鉱促進を行うとしている。また、豪州全体のエネルギー供給の20%を再生可能エネルギーとする観点から、地熱発電に係る探鉱にも同制度が適用されるとしている。

(5) 州政府のロイヤルティ制度の存続、及び二重課税の防止策

 陸地及び海岸線から3海里以内にある資源に関しては、各州政府がロイヤルティを課しているが、従量税、従価税あるいはそのハイブリッド・タイプを含めその数は約60にのぼる。一般的に、資源価格が下落した場合や、鉱床が低品位(=低収益)になるほどロイヤルティが事業者の重荷になると言われており、資源開発促進による経済メリットに鑑みれば、連邦政府としてはロイヤルティ制度を廃止し、RSPTに移行したい考えであるが、毎年60億A$のロイヤルティ歳入を継続的に必要とする州政府の立場を理解し、今後も存続させることを可能としている。

 一方、資源事業者からすれば現行のロイヤルティに合わせて、2012/13年度からはRSPTを連邦政府に納税しなければならず、資源に対して二重課税の状況が生じる。したがって、事業者の負担を軽減する観点から、支払ったロイヤルティ相当を税額控除として認める方針であり、今後州政府との間で具体的な控除額について協議される予定である。

(6) インフラストラクチャー基金9の創設

 中国、インドといった新興経済国の需要が増大するにつれ、国内における資源関連インフラの未整備がクローズ・アップされている。2009/10年度にはインフラ整備資金として220億A$を予算化してきたが、今後も必要となるインフラへの投資を行うため2012/13年度にインフラストラクチャー基金を創設する。初年度は、700百万A$を、翌年度の2013/14年度は735百万A$の拠出を予定しており、10年間で約56億A$のインフラ投資が同基金から行われると予測している。なお、基金の一部にはRSPTからの税収が充てられるとしている。

 過去、ロイヤリティ税収を基にした資金が、鉱業事業者の熱望するインフラ整備に十分生かされてこなかったことから、関係者から非難の声が上がってきた経緯もあり、予算が不足気味の州政府からは、豪州の消費税に当たるGSTを財源としてインフラ整備に充当するよう要望が出されてきた。こうした中での本制度創設は州政府を含め歓迎できるものであるが、WA州やQLD州といった資源が潤沢な州へ優先して配分されるとの考えが伝えられており、こうした資源州と資源を持たない州との間で不公平感が生じる懼れもあり、連邦政府は州政府との間で協議を実施するとしている。

2. 政府改革案に対する反応(鉱業関係者、州政府、専門家)
(1) 資源超過利潤税(Resource Super Profits Tax、RSPT)の導入

[1] 豪州鉱業協会(Minerals Council of Australia)
 -前例のない二重課税
 -苦労して手に入れた安定した投資先としての豪州の評判を劇的に失う。

[2] BHP Billiton
 -豪州における操業上の実効税率を43%から57%に引き上げるもので、豪州の競争力を著しく失う。
 -Rio Tintoを合わせたRSPTの納税額は50億A$に達する。

[3] AMEC(Association of Mining and Exploration Companies)
 -多くの鉱山の生き残りを脅かすもので、操業に重大な影響が生じる。

[4] 州政府
 -いくつかの州政府は、連邦政府の検討過程で問題点を指摘していたにもかかわらず、そのまま発表してしまいRSPTのメリットを失う結果となったが、導入に関して州政府が関与するものではない。
 -QLD州財務大臣は、RSPT導入により、特に天然ガス産業に関して投資や探鉱に好影響がもたらされるとして歓迎
 -WA州バーネット首相は反対。RSPTは、鉱業や石油プロジェクトに対してリスクを犯すもの。
 -野党自由党は、政府の税制改革は「純粋な改善」でなく「税の汚泥(Tax Slug)」と呼称。単純な税制を廃止せず、代わりに資源分野に巨大な税を課すもの。影の内閣の財務大臣は、ヘンリー税制調査委員会の勧告のごく一部しか取り上げないことに対して失望。

(2) 資源探鉱費還付制度(Resource Exploration Rebate)の導入

[1] AMEC(Association of Mining and Exploration Companies)
 -制度導入を歓迎する。
 -しかしながら、ジュニア企業は資金繰りに苦慮しており、投資資金の調達に苦しんでいることに連邦政府は答えていない。カナダが導入しているフロー・スルー株式制度は、投資家にメリットのある制度で、探鉱プロジェクトに対して効果的な制度である。

[2] Owen Hegarty(前CEO/Oxiana)
 -フロー・スルー株式制度の導入が見送られたことに失望した。

[3] 専門家
 -2011年7月1日以降に発生する探鉱投資に対する還付制度であれば、現在か
 ら発生時点までの14か月の探鉱投資にブレーキがかかる。

(3) 州政府のロイヤルティ制度の存続、及び二重課税の防止策

[1] WA州政府、QLD州政府
 -州政府がコントロールできるロイヤルティ制度の存続が認められたことを歓迎できるが、一方で外国に支配されている世界一の鉱山会社に対して、豪州の納税者の税金が還付されることになり、驚くのではないか。

[2] 豪州鉱業協会(MCA)
 -RSPTが導入される事で税が複雑となる。企業はロイヤルティの納税に加え、還付の手続きを行わなければならない。

[3] Atlas Iron(豪州第4位の鉄鉱石生産会社)
 -ヘンリー税制調査委員会がロイヤルティの廃止勧告を行ったにもかかわらず、なぜ現行制度の存続を認めたか納得がいかない。現在売鉱による収益があるものの、損失が上回ることから法人税の納付はないが、WA州政府のロイヤルティは生産量に課税されるため、利益がないものの納税が生じてしまっている。

(4) インフラストラクチャー基金の創設

[1] 州政府
 -基金の創設を歓迎。既に基金の分配について州政府間で競争が始まっている。
 とりわけQLD州は、毎年の資源生産量のサイズから、基金の40%の配分を要求している。

3. 今後のスケジュール
 RSPTの基本構成や、2012年7月1日からの導入に向けた現行プロジェクトの移行手続きといった詳細設計は公表されておらず、今回の発表とともに組織された資源税協議委員会(Resource Tax Consultation Panel、RTCP)において検討されることが決まっているのは既述のとおりで、RSPT導入に向けた法案作成が着々と進むと考えられる。現在までに公表されている検討スケジュールは次のとおりである。

第1段階 協 議 検討の詳細

2010年5月

2010年

5~6月

将来に向けた税制の改革方針発表

初期協議開始

RTCPメンバーの発表

RSPTの基本構成、現行プロジェクトの移行手続き、問題点発掘

第2段階    

2010年7月

論点メモを公開、広範な関係者との意見交換

技術的設計の公開

関係者からの意見募集等

第3段階    

2010年末

2011年中頃

2011年末

2012年

7月1日

最終的な設計書作成

RSPT法案の公開

法案の国会提出

RSPT施行

関係者に対し、最終の技術的設計を提示

関係者からの意見を聴取

 なお、連邦財務省は、本件の仕組み作りを促進する観点から、関係者間での情報交換を行うためのメンバーリストを作成する。リストに掲載希望の関係者(団体)は、次のアドレスに電子メールを送ることができる。resourcetax@treasury.gov.au

4. 検討課題
(1) 連邦政府

[1] RSPT課税時点の特定
 ヘンリー税制調査委員会の勧告では、鉱山から鉱石が採掘された過程に近い時点での課税を勧告しているが、政府の発表には明記されていない。一方、採掘から遠い時点で設定すれば、利益を得るに投入した資本の控除額が増加する懸念も言われている。また、利益確定の基になる、資源価値がバリューチェンの中で変化することも注意が必要とされている。

[2] RSPTから課税控除対象の特定
 探鉱費用や操業コストは控除対象、権益取得費や借り入れ費用は控除の対象外とされているが、グレーの費目が存在する(例、本社や事務所の管理費)。
[3] ロイヤルティに関する州政府との対話
 事業者が州政府に支払ったロイヤルティは、課税控除対象(クレジット)として事業者に還付されることでRSPTによる二重課税を防止するとしているが、クレジットの率を2010年5月2日時点に据え置くとの意向から、今後州政府がロイヤルティの料率を上げた場合には、事業者にとって二重課税の状況が生じかねない。
 連邦政府は州政府に税率を上げないよう既に協議に入っている模様であるが、WA州のように、上げることについてアナウンスしている州もあり、今後の協議の行方が注目される。

(2) 資源ビジネス関係者

[1] 早期の資産把握、コンサルテーション
 RSPTの導入が2012年7月1日であり、2010年末までにはおおよその基本構成が発表になることから、事業者は早い段階においての資産把握が求められる。また、連邦政府はコンサルテーションについても早期実施を勧めていることから、こうしたことへの対応が必要となろう。
 JVプロジェクトに権益参加(ファーム・イン)している場合、あるいは今後参加する場合は、権益取得割合と支出額の内容を精査し、支出の中から控除できる対象を特定し、パートナーとの間で公平な仕組みとなっているか検討が必要である。場合によっては、JV合意書の内容についても検討が必要なケースも生じることが考えられる。

[2] 政府との対話に参加
 RSPTの詳細設計については、組織された資源税協議委員会(Resource Tax Consultation Panel、RTCP)において検討することが決定されており、事業に影響がある問題点を抱える事業者は、こうした協議プロセスに積極的に参加することが重要である。

5. おわりに
 以上、駆け足で連邦政府が取り組む税制改革、とりわけ鉱業関係の税制に焦点を当てて述べたが、資源産業は投資環境が安定し、持続可能な仕組みの上に成り立つ産業であり、急激な制度変化に対しては、投資資本や探鉱投資の減少といった負の作用を出現させ、将来の経済、社会構造、あるいは環境問題への取組みなどに重大な支障を及ぼす恐れがある。
 今回発表された税制制度がこのままの姿で施行されるか否かについては、今後の協議の動向を見守る必要があるが、政府にはステークホルダーとの間で十分な意見交換を図ることが期待される。
 新興経済国の台頭、地球温暖化問題といったグローバルな課題に直面する中、資源国豪州の立ち位置を決める重要な転換期にあるが、今後の推移を見守りたい。

3 豪州の会計年度は7月1日開始、6月30日絞め
4 退職年金基金への企業の拠出金を現行の9%から段階的に引き上げ、2019/20年度には12%とする。
5 出典:ABARE Australian Commodity Statistics 2009
6 IMF調査によれば、カナダ各州と米ネバダ州が資源抽出に係る利益に対して課税を行っているが、ノルウェーの石油税に関しては28%の法人税に加えて、50%の超過利潤税を適用している。
7現在、海洋(陸地から3海里以遠)における石油・天然ガスプロジェクトに課税される連邦の資源使用税(Resources Rent Tax)については、RSPTへの移行を促しつつも、現行制度の適用も認められるが、発表のあった2010年5月2日以降に利益の確定するプロジェクトは全てRSPTの適用となる。
8 David Parker (連邦財務省局長、座長)、Junnie Granger (Australian Taxation Office Second Commissioner)、Chris Jordan (Board of Taxation Deputy Chairman)、Paul Binsted (Corporate Adviser)、Greig Gailey (前Business Council of Australia Chief Executive & Pasminco Boss)
9 過去、インフラ整備基金として同様の基金(The Building Australia Fund)を設立し、126億A$を支出してきたが、今回設立する基金はこれと異なる仕組み

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