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報告書&レポート

2010年6月10日 ロンドン事務所  萩原 崇弘
2010年27号

MMTA国際マイナーメタル・コンファレンス参加報告

 2010年4月26~28日、ロンドンにてMMTA国際マイナーメタル・コンファレンスが開催され、MMTAに所属する131企業を始め、世界中から金属資源を扱う貿易商社、生産会社、倉庫会社、政府関係者等が集まり、現状における様々な課題について議論を行った。JOGMECロンドン事務所としては、MMTAからの要請により、欧州政府、LMEなどとともに『貿易と備蓄-鉱物資源の管理』と題するパネルディスカッションに参加し、議論を行った。
 そこで、欧州政府の欧州資源戦略、LMEのモリブテン・コバルトの上場後の状況など、パネル・ディスカッションの様子を紹介することとしたい。
 なお、MMTA(Minor Metals Trade Association)は、ベースメタル以外のマイナーメタル49鉱種(いわゆる「レアメタル」(31鉱種)を含む。)を扱っている貿易商社、倉庫会社、生産企業が作っている協会で、ロンドンに本部がある。日本企業としては、三菱商事(株)、(株)アラ商会が会員である。MMTAについては、以下のURLを参照いただきたい。(参考)MMTAホームページ:http://www.mmta.co.uk/home/

1. パネルディスカッションの概要
(1) 欧州の鉱物資源戦略(原材料イニシアティブ:EU Raw Material Initiative)

Mr. Paul Anciaux, European Commission
  • EUでは、2008年11月に鉱物資源戦略である『原材料イニシアティブ』を定め、現在更なる検討を行っているところ。
  • 戦略の背景として、EUは、重要な原材料の大半を輸入に頼っているが、こうした原材料の市場の歪みが影響を受けるようになってきていること、また、世界各地での探鉱や採取活動は、激しい競争と厳しい環境規制に直面していることが挙げられる。
  • この戦略は、[1]国際市場における鉱物資源アクセスの確保、[2]EU域内からの持続的供給体制の確立に向けた環境整備、[3]リサイクルや省資源化の推進による鉱物資源消費の削減の加速化という3つの柱から成り立っている。
  • 現在、このイニシアティブでは、EUメンバー国及び関係者の中で、EUにとって欠かすことの出来ない重要な原材料は何なのか、39の鉱種を掲げて検討中であり、2010年6月までにレポートを発表予定である。検討しているのは、重要とされる原材料の選定方法の確立とリストアップで、[1]経済的に極めて重要であること、[2]供給リスクがあること、[3]代替性がないことがポイントとなっている。
  • 戦略の柱である[1]国際市場における鉱物資源アクセスの確保については、EUの外交政策との良好で効果的な協調と緊密な連携の確保が必要であり、具体的には、EUとしての戦略的なパートナーシップや第三国との政策対話が重要である。また、国際的な協力の強化を促進すること、二国間・多国間協定などにおいて原材料へのアクセスと原材料の持続的な管理に向けた準備を行うことも重要である。
  • 加えて、2009年6月23日には、中国の9つの原材料に関する輸出制限措置(輸出割当て、輸出税、最低輸出価格等)について、競争を歪曲し、国際価格を吊り上げており、この経済不況の中でEU企業を一層困難な状況に陥れているとして、WTO 提訴を行っている。具体的な原材料物質は、コークス、ボーキサイト、蛍石、炭化珪素、亜鉛、マグネシウム、マンガン、金属シリコン、黄リン。米国及びメキシコも同様の提訴を行っており、2010年1月からWTOパネルが開始されている。
  • その他、EU各国の対策強化として、公的な資金や天然資源の活用・管理などに必要な人材育成、EUとしての資金支援などに加え、鉱物資源関係の取引の透明性確保、適切な税制など適切な投資環境の整備、資源国における環境・社会面の改善など持続可能な開発に向けた対策なども重要である。
  • [2]EU域内からの持続的供給体制の確立に向けた環境整備については、探鉱・採鉱におけるEU域内での成功事例として鉱区活用方法や行政の制度環境などの蓄積・共有、EU各国の地質調査所の連携促進、地表探査へのGMES(EUの地球観測プロジェクト)の活用、Natura2000自然保護地域(欧州連合地域全体の保護地域構想)周辺での採取活動に関する調停ガイドラインの確立などが挙げられる。また、大学、地質調査所、産業界間での連携を通じた資源開発技術・関連環境技術の促進、革新的探鉱・採鉱技術開発の促進なども重要である。
  • [3]リサイクルや省資源化の推進による鉱物資源消費の削減の加速化については、EU域外への違法な廃棄物の貨物輸送の規制強化、鉄、アルミ、銅等スクラップ市場における”End of Waste Criteria”(EUが2008年10月に報告した廃棄物とリサイクル等有用資源とを区別するための判断基準)の適用、リサイクル市場を活性化などが重要である。また、資源効率性の向上、環境負荷の低い製品や革新的生産プロセスの開発も重要となる。
  • 今後、年末までにメンバー国及び関係者間で検討を行い、年末までに結論を出す予定である。

(2) 日本の鉱物資源戦略における備蓄政策

JOGMECロンドン事務所 萩原 崇弘
  • 日本は、天然資源のほとんどを輸入に頼っており、日本の資源政策の目的は、天然資源の持続的な安定供給確保にある。JOGMECはその政策実行機関である。
  • 世界の鉱物資源をめぐる状況は、資源国のナショナリズムの台頭、資源メジャーの寡占化、資源の偏在性に加え、近年の中国等新興国の需要急増、鉱物資源の価格ボラティリティ・リスクの増大、環境低負荷商品需要の急増など激しい状況変化が見られる。
  • 一方、日本産業の強みは、自動車、家電等の製造業の競争力とそれを支える商社や部品・材料産業の連携による強みであった。しかし、資源メジャーの発言力の増大、新興国の需要の急増、中国の鉱山投資の増大などにより、鉱物資源の需給構造が大きく変化しており、鉱山開発に参入しなければ、日本の強みが失われる可能性が出てきている。こうしたことから、日本政府は2009年に鉱物資源戦略を策定し、鉱物資源政策の一層の強化を行っている。
  • 日本の備蓄政策では、レアメタルと総称される金属のうち、日本にとって欠かせない金属について1984年から備蓄を行っている。現在では、昨年から加わったインジウム及びガリウムを含めた9鉱種の備蓄を行っており、備蓄目標は、国家備蓄と民間備蓄を併せて日本の消費量の60日分である。

(3) LMEによるコバルト・モリブテン取引の上場について

Mr. Chris Evans, New Product Manager, LME
  • 2010年2月22日、LME(London Metal Exchange)は、コバルト、モリブデンの上場・取引を開始した。これまでの取引状況は、以下のとおりであり、既に14のLMEメンバーが取引を行った。

(表)これまでのLMEにおけるコバルト・モリブテンの取引状況
  • これまでの取引実績を受渡日で見ると、コバルトは3か月先物が68%、3か月以上が15%、3か月未満が17%、モリブテンは、3か月先物が88%、3か月以上が10%程度、3か月未満が2%となっている。
  • また、これまでの取引を手段で見ると、コバルト・モリブテンいずれも電話取引が6割強を占め、続いてLMEセレクト(電子商取引)が2~3割程度と続き、リングメンバー等による従来の取引がコバルトの場合は1%未満、モリブテンの場合も10%程度に留まっている。
  • 現時点での備蓄は、コバルトは38tのインゴット、モリブテンは精鉱90t(モリブテンを54t含む。)である。
  • 価格については、コバルトの場合は、取引開始以降徐々に上昇し、3か月先物及びスポットともに46千US$/tを超えてきたのに対して、モリブテンの場合は、取引開始直後は上昇したものの、その後3か月先物及びスポットともに39千US$/t程度と取引開始時と同水準で推移している。
  • ここまでのモリブテン・コバルトの上場の評価については、これまでは一応順調であるが、評価をするには時期尚早と言わざるを得ない。LMEとしては、年内は様子を見守ることとしたい。

(4) 質疑・パネルディスカッション
司会:Amoud Willems, Sidley Austion LLP

司会) 貿易と備蓄政策は、金属市場を見る上で、資源国の政策はもとより、先進各国の鉱物資源政策は非常に影響が大きい。今回は、備蓄政策と貿易という興味深い課題を取り上げた。こうした政府の政策立案には、政府と産業間の議論が欠かせないと考えるが、EU及び日本の状況についてはどうか。
EU) そのとおりだと思う。Raw Material Initiativeの中でも様々な段階で産業界と政府とで議論が行われている。
日本)日本の政策は、産業界、学界等とのオープンな議論というプロセスを経て決まることが多い。今回の鉱物資源戦略についても、様々な議論を経て、政府として決定されたものである。
会場) EUとしては、日本や米国等と同様に備蓄政策を講ずることはあり得るのか。
EU) これまで備蓄政策については、EU政府内で随分議論を行ってきた。個人的な意見であるが、現在のところ近い将来EUとして備蓄を行うことはないと思う。議論の中でも、備蓄を行う流れはなかったし、そうした圧力も感じたことはない。例えば、ドイツの金属資源戦略においても、備蓄は含まれておらず、今後もドイツは備蓄政策を講じないだろう。
司会) 日本は鉱物資源の備蓄と放出をどのように行っているのか。
日本) 国家備蓄の積み増しは、備蓄目標に応じて競争入札で行っている。放出には、[1]平時、[2]価格高騰時、[3]供給障害のおそれがある場合(緊急時)の3タイプがある。
会場) 日本が鉱物資源の備蓄を行っている理由如何。市場を信頼するべきではないか。
日本) 日本も市場は信頼している。しかし、残念ながら日本では天然資源はほとんど取れない。そのため、供給障害が生じた場合の緊急措置を設けざるを得ない。
会場) REACHなどの欧州の環境規制が鉱物資源の取引に悪影響を及ぼしているが、今後の対応策如何。
EU) REACHは、そもそも化学物質の安全性を議論した結果、設けられた規制であり、鉱物資源をターゲットとして考案されたわけではない。しかし、鉱物資源を扱う事業者、国民にとっても安全性の確保は有益であると考える。

(5)その他

  • 次回開催は、日時は2011年5月4~6日、場所は米国で開催予定とのこと。
  • MMTA事務局からは、日本企業が現状では日本企業は会員が2社に留まっており、是非拡大したいと考えているとのコメントがあった。

2. おわりに
 日本、EU、米国の鉱物資源戦略を見ると、これまでの米国の戦略は軍事的な意味合いが強い。米国では、国防総省が鉱物資源戦略の司令塔である。2010年3月には、軍事需要が高いレアアースの供給が中国に偏っていることを問題視して、レアアースのサプライチェーンの確保、1年以内の備蓄開始などを謳った法案が国会に提出された。また、米国商務省も国防総省とは別に独自に鉱物資源戦略を検討する動きもあると言う。
 一方、EUの戦略は、鉱物資源の多くを輸入に頼っているという政策議論の出発点において、日本の政策と背景事情は似ている。
 しかし、パネルでも問題になったとおり、EUが備蓄政策を講ずる意思がないという点では、日本と政策面で大きな違いがある。しかし、これには、EU政府の権限が、EU域外との輸出入関税等の水際措置に集中しており、備蓄や研究開発支援などの予算措置は講ずることが難しいという背景事情がある。その結果、中国へのWTO提訴など金のかからない政策は迅速に講ずるが、備蓄政策などは誰がどこにどうやって何を備蓄するかを決めるだけでも紛糾する問題であり、EUとして施策を講ずる段階ではなく、メンバー各国に委ねざるを得ないというのが正直なところであろう。
 そうした中、EUの鉱物資源政策の中では、EU域内での金属リサイクル政策への強い姿勢に印象が残った。欧州は、元々静脈産業が盛んである。さらに、近代国家としての歴史が長く、ベースメタルを中心とした製造物が各国に眠っている。そのため、日本の「都市鉱山」と同様に、廃棄物に眠る鉱物資源を”Urban Mine”や”Secondary Minerals”と呼び、鉱山から生産された”Primary Minerals”の開発よりも政策的に重視している。現在では、EU域内における環境規制なども影響して、携帯電話、コンピュータ、スクラップ等の廃棄物が、バーゼル条約などの対象とならない有価物としてEU域外に出て行ってしまっており、何とかしなければならないというのがEU政府の強い思いである。EUの政策担当者との会話では、こうしたEU域内に一度入った資源を域外に出さないよう、そして域内で如何に既存の優れたリサイクルシステムに乗せられるかが、EUの鉱物資源戦略の鍵とのコメントがあり、極めて印象的であった。
 ところで、本会議の直後、豪州の鉱物資源への新しい税制(超過利潤税の創設等)について、豪州政府から基本方針が発表された。その後、ロンドンの鉱物関係の会議では、ユーロに対する不安はさておき、豪州の新税制が話題となっている。豪州が仮に新税制を導入すれば、これまで超過利潤税制の導入を見送ってきた資源国も同調することが予想され、消費国側の鉱物資源戦略にも大きな影響を与えると考えられる。
 ロンドン事務所としては、こうした鉱物資源をめぐる情勢が急速に変化していく中、引き続き、EU政府、英国、ドイツ、フランス、スウェーデン等のEU各国の鉱物資源戦略の動きを注視していきたいと考えている。

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