報告書&レポート
Minerals Week 2010参加報告

2010年6月2日、首都キャンベラにおいてMinerals Week 2010が開催された。Minerals Weekは、豪州の資源大手企業を中核メンバーとする資源業界団体である豪州鉱業協会(Minerals Council of Australia (MCA))が開催する年次大会で、2010年度の参加者は約500名であった。世界金融危機による資源需要低迷の影響を色濃く反映した2009年度の大会は、需要増の期待感からBRICsの各駐豪大使によるプレゼンテーションに焦点を当ててきたが、今大会は、5月2日に発表された「資源超過利潤税(RSPT)」に反対する業界の姿勢を色濃く打出す大会となっており、今秋にも予定される連邦議会選挙で政権奪取を図る野党自由党も業界の対場に賛同する対場から、アボット党首自ら参加したこともあり、多くの報道関係者が取り巻く中での開催となった。 |
1. Mitchell H Hooke, 豪州鉱業協会 事務局長
政府が取り組むべき政策は、世界金融危機により妥協の連続となっている。幸い豪州は経済不況から難を逃れ、政府は引き続き国家建設を望んでいるようだが、我々に言わせれば、むしろ失敗に終わった排出権取引制度を取り上げるまでもなく、こうした悪政により豪州ビジネスへのリスクを高めてきている。そして今がRSPTである。RSPTは豪州のソブリンリスクを高め、資源産業への投資を危うくするものになっている。
本日、我々産業界は、RSPTをどのように方向転換させるか、利潤を再投資に集中させる代わりに我々が受け入れられるものは何かについて焦点を当てたい。
2. Ian Smith, Newcrest Mining LTD社長兼CEO(現MCA会長)
RSPTについて、政府は資源業界の現行の納税額は国に貢献していないと非難しているが次の点で間違った認識をしている。
・資源産業は急激な社会制度変更に対応できない。
・この10年間で800億A$の納税を行っている。
・2009年で言えば、ロイヤルティを加えた納税額は210億A$である。
・豪州資源からの収益は海外に移転しているのではなく、多くの企業は豪州に再投資している。
こうした政府の考え方に対して我々は次の点について懸念を表明する。
・RSPTの税率は40%、さらに法人税と併せて実効税率は57%という高税率
・6%という低い超過利潤の控除率(資本投資をもとにすれば12-15%を想定するのが妥当)
・現在のRSPT設計のもとで投資を行う企業があるかは疑わしい
・遡及適用(既存プロジェクトへの適用)
・ロイヤルティ制度、或いはコンプライアンス・コストの廃止
この形のままRSPTが導入されれば、長期に亘り
・豪州の評判を損失
・資源業の雇用に影響
・輸入産業への大きなダメージ
を与えかねず、我々は次のことを原則として政府に要求していく。
・資源産業を守る税制とする
・将来が予見されるものにすべき
・鉱種毎に税の設計を行う
・課税は加工前の鉱石価値に基づく
RSPTに対して政府が聞く耳を持つのであれば、我々資源業界は信頼を持って、意見の隔たりを埋めることができる。政府がこの税制改革に必要とするのは、全ての人にとって公平であるための最終決定を行うことである。
3. Martin Ferguson資源エネルギー・観光大臣
資源エネルギー大臣として、本日、ここに集結された友人を前にして自分のおかれた立場を問い直している。また、友人として時には意見を異にし、時には励ましてきたが、友人として同じ場所に腰を下ろし専門的課題や我々の見識を共有してきたことは事実である。これまでも建設的な立場でもって参加してきたと同様に、この場に参加できたことをうれしく思う。鉱業協会(MCA)の鉱業大会は30年以上に亘り資源産業の功績、将来への野心、或いは挑戦の展示場となってきた。今日、この場においては、「必要不可欠な政策(The Policy Imperative)」について話したい。
この場の皆様が資源分野での目標達成に必要となる政策について承知しているものと信じているが、我々政府が産業界に望むものは以下の5点である。
・安全な職場
・環境保護、社会による生産ライセンスの継続的付与
・産業に有益で、社会に対して公平や所得分配が可能な方法での国際的な資源貿易における豪州の市場占有率の成長
・企業が欲する熟練労働者へのアクセス
・(不公平な地域社会への重荷を排除した)市場への資源供給に必要となるインフラへのアクセス
(注:上記5点についての詳細な発言内容は割愛し、資源超過利潤税に関連した発言のみを以下に記載)
○資源超過利潤税(RSPT)
昨日、ラッド首相は「我々はやっと長くて詳細な過程に就いたばかりだ」と語った。RSPT協議委員会(コンサルテーション・パネル)から最初となる中間報告を受けて、現在関係大臣の間で内容を協議している段階にある。私は、ここに出席している多くの方々が協議委員とのコンサルテーションに参加されていることに感謝したい。我々は、皆様と一緒に建設的な議論を積み重ねていきたいと思う。(資源企業の)利潤を基に課税する仕組みについていくつかのメリットがあることについては多くの関係者の方々から指摘していただいている。政府は導入を検討している利潤課税は財政上の安定をもたらし、ロイヤルティ制度下の「lose-lose situation」を転換するものである。この税制の考え方は、企業の業績が良いときに、この国が持つ再生不能な資源から得られる利潤に課税し、それを公平に社会に還元するというものである。同様に、業績が悪くなれば本制度により自宜を得て企業の救済を行うものである。我々は、皆様が
[1]制度の遡及的適用(既存のプロジェクトへの適用)
[2](鉱種毎に利潤にバラツキがあるにもかかわらず)一律の適用
[3]費用の構造
[4]課税ポイント
について懸念を持っておられることを知っている。そして、皆様の懸念に対してどのような解決策が見出されるかについての解を模索している。それは、例えば寛大な移行措置といったものである。私は、昨日MCAが発表した「RSPTが資源企業に与える影響に関する分析結果」や、政府が行ったモデリングや分析結果についてこの場で深く言及するつもりはない。この国は自由な国で、誰でも自らの考えや評価を述べる権利が与えられている。むしろ私は、協議委員会の場を通じて本当の仕事が成し遂げられることに関心を持っている。同委員会はビジネスに開かれており、意見を聞く耳を持っている。私は、一部のビジネスに当てはまることが、他のビジネスには当てはまらないことを知っている。ゆえに、政府は全体のバランスを考えた最終的なパッケージとしての結果を必要としている。皆様の中に、石油資源利用税(PRRT)が導入された25年前の懸念を回想されている方がいるかも知れない。ところがどうであろうか。PRRTは世界の中でもっとも安定的な税の一つとなった。石油産業も支持しており、探鉱や開発が活発化している。(石油・天然ガス)以外の残された資源分野においても、我々の安定した利潤課税制度の導入について検討していくことをお約束する。
○将来の投資
投資判断は、税制全般を考慮して行われるので、投資家がRSPTによってのみ分別を失うものではない。更に言えば、投資判断は税を超えたところにある。だからこそ長期に亘る利益で生まれ、豪州が国際競争力を維持しているのであり、40%の税率(PRRT)が、430億A$もの巨額な投資判断となったGorgon天然ガスプロジェクトを中止に追い込んだこともない。では、何故豪州が肩をならべるようになったか紹介したい。我々は以下の点で飛びぬけた国際競争力を維持している。
・安定的な政治体制
・開かれた、透明性の高い、競争的な市場
・安定した規制、良い統治
・回復力に富む経済
・連邦地質調査所(Geoscience Australia)を含めた世界クラスの専門性
・強健な金融支援サービス
・既知の未開発資源がもたらす富
・広範囲な航空網を有する信頼ある運輸部門
・労働者や請負事業者に対する高いセキュリティ
・言語による障壁がほとんどない
・我々の信頼に期待する長期契約者の満足度
我々政府は、このような豪州の長所全てについて話す機会をほとんど持たないが、物事のあるべき姿の中で事業が営まれていること全てを承知している。多くのエネルギー及び鉱物資源の価格の上昇、またその需要回復が期待される中で、世界経済の成長への見通しはポジティブである。
4. Mark Cutifani, AngloGold Ashanti CEO(南ア商工会議所副会頭)
私は元々Inco(現Vale-Inco)出身であるが、AngloGold社はヨハネスブルクに、海外21か国で鉱山を操業していることから、海外の資源企業、投資家として視点でRSPTの影響を述べる。南アフリカの法人税は約30%、わが社へのロイヤルティは2%であり、RSPT導入後の実効税率となる57%に比べ格段に低い。当社は2009年エジプト、サウジアラビア、エリトリアにおいて金あるいはベースメタル事業への参入を決めたが、中東の諸国では石油税に基づいた税とは異なるモデルの導入の検討を始めており、投資家にとって見れば有利なものになると考えられる。こうしたことから、これら中東の国への鉱業投資は魅力的なものになると見ている。
一方で、成功を収めている豪州の資源分野はどうだろうか。RSPT税率を石油と同じで40%としているが、石油が課税利潤設定を11%としているのに対して、5-6%の長期国債利率でしか見ていない。石油産業は一度噴出すれば収益の10%をOPEX(オペレーションコスト)に回すが、我々鉱山はいったん生産を開始すれば、収益の70%をOPEXとして再投資することになるので、石油に比べ脆弱な産業といえる。
一つ例を示そう。2008年にザンビアがRSPTと同様の超過利得税(windfall tax)
導入を行った。そのとき何が起こったか。資源企業の投資意欲は減退し、政府は税収を上げることが出来なくなり、最後には制度が廃止に追い込まれている。資源企業は、その国の市場、及び資本に対する価格競争力を見て投資判断を行う。当社が、豪州に所有するTropicana金プロジェクト(注:AngloGold Ashantiが権益の70%を保有、2009年7月にpre-FSを終了しており、今後10年以上にわたり年産33~41万ozを生産)に関して、RSPT導入により利潤に対する影響度が上昇してしまい、現在5百万ozで見積もっている資源量を、RSPTの詳細が決まる2010年末には見直す必要が出てくる。
最後に、英国首相だったチャーチルが「Tax is Prosperity」と言っている。政府は国の繁栄を考え、我々資源企業は世界市場を考えるのが役割だ。
5. Peter Johnston, Minara Resources LTD CEO(MCA副会長)
中規模のニッケル鉱山から見たRSPTの影響について述べる。RSPTは次の3つの間違った仮説の基に成り立っている。
[1]非現実の世界
[2]新たなソブリンリスク
[3]競争力への自己満足
[1]に関しては、これまで市場テストされたことのない政策であるとともに、RSPT発表までに資源業界と意見調整されていなかったことにも問題がある。[2]、[3]に関しては、Rio TintoのAlbanese CEOが述べたように世界的に見てNo 1のソブリンリスクであるということであり、既に一部で語られているように豪州の投資の安住地としての評判を傷つけるものといえる。また、このリスクは豪州同様に資源国であるアフリカ、南アメリカ及びカナダに投資が流れ、豪州資源産業は競争力をなくすことになる。
ファイナンシャル・アドバイザーのEL&C Baillieu Stockbroking LTDによれば、「現在270の主要プロジェクトがFSを行っており、資本投資総額は3,200億AS、雇用総数は12万人となっている。RSPTはこうしたプロジェクトの形成過程を無にしている。」と述べており、そのとおりだと思う。
こうしたマイナス面を防止する観点から、RSPTは次の点で見直すべきと考える。
・競争力を弱めるのでなく保護するもの
・新規プロジェクトのみを課税対象とし、既存のものに適用しない
・一律の適用でなく鉱種毎に異なる税率を適用
・課税は加工前の鉱石価値に基づいて算出
・公平かつ効率的(equitable and efficient)
6. Tony Abbott, 野党自由党党首
2年前を振り返れば、ラッド(首相)はこの席において、「資源分野は将来の見通しが明るく、今後もより発展していくことを望む」と発言していた。当時資源分野の投資額は780億A$を記録、前年比で160%の伸びとなっていた。資源エネルギー分野で開発にコミットされたプロジェクト数は98にのぼり、ラッド首相もこれは全豪州経済にとって良いニュースだと強調していた。また、ギラート(副首相)も資源ブームが労働者、事務系を問わず豪州労働者に繁栄をもたらしていると言っていた。ところが、彼らが望む資源超過利潤(RSPT)は、2年前の発言を否定するものになる。RSPTは資源ブームを完全に抹殺してしまうだろう。RSPTはラッドのものでもギラートのものでもなく、ラッドにこの先何が起ころうが知ったことではないが、重要なことはRSPTがこの国の国民と繁栄に向けられた短剣(dagger)だということだ。資源分野のGDP貢献度は7%であるものの、我々の収益の50%(注:貿易額のことを言っていると思われる)を占め、わが国の繁栄を維持する上で重要であることは言うまでもないが、もしRSPTが現実のものとなれば繁栄も何もなくなると言うことだ。
資源企業はこれまで公平な税を負担してきている。ロイヤルティが変動するのは連邦政府の問題ではないが、州政府のロイヤルティに基づいた資源分野への課税は長年機能してきており、資源企業は法人税と併せて40%を納税してきた。ところが、ラッドが求める税はこれを57%に上げるもので、世界で類を見ない高税率となってしまう。RSPTが導入されれば、この新たな税制制度の基での勝者は海外の鉱山会社ということになってしまう。道理をわきまえた豪州政府であれば、豪州より他国の繁栄を優先させることはない。
労働党が語っているRSPTは偽りの上に成り立っている。ラッドは資源企業はその利潤に対し公平な納税を行っていないと何度も繰り返し話しているが、2年前この席で話した内容はいったい何であったのか。彼は、資源分野は豪州経済に対する努力(bid)以上の貢献をしていると言っていた。にもかかわらず、RSPT発表前に意味ある協議がなかったではないか。財務省は資源分野の主要メンバーとの協議よりも、RSPT導入後に何が起こるかについてジャーナリストに説明していた。これは政府が取るべき方法ではない。発表が行われた後、政府はごく限られた議論の結果としてのRSPTを持ち出したと説明しており、資源産業はだまされた結果となっている。
ヘンリー税制再調査(Henry Tax Review)報告書には138の勧告が挙げられているが、政府はこれら勧告のほとんどを取り上げなかった。もっと言えば、勧告ではロイヤルティの変わりに資源利用税(Resources Rent Tax)を導入すべきと言っているが、ロイヤルティに加えて新たな税を導入しろと言っているのではない。また、RSPTからの税収で法人税の減税を行うとまで言っており、これではヘンリー勧告を歪曲して政府が解釈したものと言わざるを得ない。
2010年5月10日、スワン財務大臣は関係閣僚に対して、非常事態(national emergency grounds, on grounds on compelling reasons and special urgency)としてRSPTを指示するための広告キャンペーンを行うとの書簡を出している。労働党が野党時代の2007年の選挙において、ラッド首相は政府広告は「民主主義の癌(cancer to the democracy)」と言っている。
もしあなた方がビジネスの重要性を理解している政党を望むのであれば政府を変えなければならない。もしあなた方が向こう見ずな政府出費を止めさせたいならば政府を変えなければならない。最後に、あなた方がRSPTを止めさせたければ政府を変える必要がある。
7. ジャーナリストによるパネル・ディスカッション
議 長 :Mr. Mitchell Hooke (CEO/豪州鉱業協会)
パネラー:Ms. Jennifer Hewett (国内通信員/The Australian紙)
Ms. Mary Kissel (論説編集員/The Wall Street Journal Asia(香港))
Mr. Dennis Shanahan (政治編集員/The Australian紙)
Mr. David Speers (キャスター/Sky News)
(1) 資源超過利潤税 (RSPT)の見方
(Hewett通信員)
連邦政府は、5月2日のヘンリー税制再調査(Henry Tax Review)及びRSPTを含めたその検討結果の発表の仕方、説明過程での対応を誤っている。また、2020年にも税制の再調査を行い更に発展させていくつもりだが、何をしようとしているのか見えてこない。確かにRSPT導入は良い考えのように聞こえるものの、産業界と相談するといった慎重な対応を怠ったため、それが今後の投資にどのように影響するのか気付いていない。ラッド首相、スワン財務大臣、ヘンリー財務次官、その他政府の主要プレーヤーは、RSPTの発表に対して、いくつかの鉱山企業からの抵抗があると考えていたが、全ての産業から抵抗があるとは思っていないので、主要鉱山企業の最高経営責任者を全く異常な嘘つき呼ばわりしてしまっている。これに対して、野党自由党のアボット党首は、「次に反応するのはどの産業か。RSPTは豪州経済の不確実性を作り出している」と述べている。
(Shanahan編集員)
政府は大きな挑戦に直面しているが、(今秋にも予定される)連邦議会選挙前にRSPTの結論が出ることを好んではいない。政府にしてみれば、RSPTなしには財政黒字を達成できないので、策定した歳入見込み(5月11日発表の政府予算案)を変更せず、現在進行中の交渉(コンサルテーション)を抱えたまま選挙に突入したい考えだ。現政権には、難民政策や学校建設プログラムといった様々な国内政策の不手際が既に露見しており、本来であれば選挙前に扱わなければいけないRSPTへの対応も誤っている。政府は、RSPTに対する国民の支持を誤算してしまった。
(Kissel 編集員)
ラッド首相は、労働法(ワーク・チョイス)の見直し、及び保健改革を掲げて政権を獲得したが、論理的にはRSPTもこの仕事の延長線上にある。ラッド首相は、これらの政策がオバマ米大統領に似ていると2007年の選挙期間中に宣伝しているが、一時期オバマ大統領も米国内でRSPTの提案をしたものの、最終的には導入しなかった点で異なっている。RSPTは、明らかに過去を含めて豪州で最も有害な政策発表であり、海外投資家は投資先を他国に仕向けるだろう。政府はRSPTを争点として選挙に突入したくないだろう。
(Speersキャスター)
アボット野党自由党党首は、RSPTは産業と経済にとってとんでもない話だと言っているが、政治の世界では、既にアボット党首が排出権取引法案(Emission Trading Scheme)を取り消したので(野党連合が議席の過半数を占める上院で否決)、ラッド政権はRSPTで引き下がることができない。しかしながら、選挙で敗北を期さないよう、選挙の前にRSPTに関する中身を変更しなければならないだろうが、彼がどこで妥協するか予想するのは難しい。協議の過程において様々なうわさがあるが、すぐにでも妥協するような動きになるとは思わない。産業界は、RSPT導入に追随する国を望んでいないことから、タフなキャンペーンを行っている。RSPT問題が本物であることは明らかであり、現在の姿のままでは産業にダメージを与えることになる。ただ、アボット党首は与党に議論を吹っかけ、野党自由連合も様々な意見を述べているが、彼らの対案が何であるのか私たちには分からないし、アボット党首が導入を検討している育児休暇プログラムの資金源として、ほとんどのビジネスに関して増税すると見られている。
(2) 会場からの質問(RSPTはジャーナリストにとって大きな話題性があるが、それは資源とは関係のない国民にどんな興味をもたらすのか。なぜメディアがラッド首相に問題だと分からせるのに長く時間がかかっているのかの2点について問いたい。)
(Speersキャスター)
RSPTが退職年金(Superannuation)に関係するので国民は注目している。強い経済であったハワード前首相、コステロ前財務大臣時代に、当時野党であったラッド首相及びスワン財務大臣は、「経済が好調なのは両政治家のイニシアティブでなく鉱業があるからだ」と言って与党と対立していた。彼らが政権を握った今、豪州経済が世界金融危機の影響を受けなかったのは鉱業界が言っているような鉱業の貢献でなく、政府が取り組んだ景気刺激策だと言っている。しかしながら、国民は鉱業が国の繁栄の原因であることを知っており、有権者はRSPTに関心がある。
(Shanahan編集員)
あなたがどの新聞を読んでいるか知らないが、The Australian紙は、かつて数か月にわたりラッド政権の多くの問題点を強調したため、その時政権からそっぽを向かれた経験がある。答えはあなたが新聞のどのセクションを読むのかに依存する。The Australian紙は、経済紙であるThe Australian Financial Review紙よりも良く出来ている。それは幅広い重大案件を扱っているからだ。私たちはラッドの政策を支援もするし、批判もする。それはラッドがこの国で最も大きなボトルネックであるからだ。
(Kissel 編集員)
数多くの人が豪州の外からRSPTの動きに注目し、次に標的となる産業は何かと興味を持って見ている。
(3) 会場からの質問(労働法見直しキャンペーン時のように、今回の産業界のキャンペーンが政権の交代をもたらすのか。また、RSPTがどのくらい他の国まで広がると考えられるのかの2点について問いたい。)
(Shanahan編集員)
政府が始めた広告キャンペーンは云わば災害である。国民は38百万A$を費やす政府広告の浪費に注目し、このことに腹を立てている。一方で、広告内容については関心がない。ラッド首相は、政府は嘘つきであるとの問題点(鉱業企業の納税額の見誤りとして鉱業協会の広告が指摘している点)に対して何もコメントしていない。広告キャンペーンに関する誤解の点についての予断を議会に与えないために何も説明していないと考えられる。鉱業協会を超えた産業界のキャンペーンは、今の主張を強化する能力を持っている。それは労働組合が労働法改正で行ったことであり、組合のキャンペーンは非常に有効だった。しかしながら一方で、当初労働法改正は危険であるという認識を当時世論は示したことも事実で、広告キャンペーンは人々が考えるよりさほどインパクトを与えなかったかもしれない。だが、それは政府に改革させる役割を果たしたことも事実である。
(Kissel 編集員)
最近の世論調査によれば、多くの人がRSPTはひどい話だととらえている。政府は、平均的な人の理解力を過小評価してしまっている。この誤算は政府を失脚させるかもしれない。RSPTは他国に広がる可能性がある。リーマン・ブラザーズ破綻が引き金となった世界金融危機により、多くの政府が財政支出を拡大させたため、産業界に高い税率を課すとともに、保護貿易政策に走らせた。豪州は最も競争力の高い国家のうちの1つであるが、なぜ政府は(RSPT導入により)競争力を削ごうとしているのか分からない。
(Hewett通信員)
RSPTは政府の世界金融危機対応(財政支出)の副産物である。政府はRSPT構想自体に非常に満足しており、それが最良だと知っているのだと思う。一方で国民は自分達の視点を持っており、最近になって連邦政府は自分たちが天才ではないかもしれないとして衝撃を受けている。これは大きなレッスンとなるであろうが、ラッド首相、スワン財務大臣、ギラード副首相はRSPTに関し厳しい言論統制を行う一方で、他の大臣達は、RSPTを批評することによりその地位を失うのを怖れている。世論調査は、政府内の多くの人々に対しこの問題に立ち向かうことを強いることになるので良いことだと思う。これには一体になったメッセージを必要とする。他の国々へのRSPTの伝染の危険性は大して問題ではない。RSPTの問題について多くが語られるが、他の国々は興味を持たないだろう。しかし、誰の抵抗もなければ政府は原案のとおりRSPTを導入するであろうことから、政府にプレッシャーをかける意味においても公開討論を行うことは良いことだと思う。
(Hooke鉱業協会CEO)
例えば職場環境のキャンペーンにおける鉱業協会の役割は、生産力と賃金を改善する観点からで、1996年以降において産業界が改善を行ったとの我々の確信などに基づいたものが背景となっている。政府が導入しようとした二酸化炭素削減法案(CPRS)においても、我々は競争力のある炭素価格の導入を望んだが、政府案は恐ろしいメカニズムを主張していたことからメディアの中でキャンペーンを行ったものである。その時、現政府は我々に対して黙って法案を通過させるよう圧力をかけてきた。我々は政府に裏切られる可能性があると思い、可能な限りモラルを保持していた。この20年間で、地域社会への鉱業の貢献に関し、これだけ政府の激しい攻撃を見たことが一度もない。我々は政府の攻撃に対して黙っている選択肢はなかった。我々の広告キャンペーンは、国民が既に知っていること、また事実を知ることの必要性について創造することを強化するものである。しかしながら、RSPTが国民にとって何を意味するか知ってもらうことの難しさに直面している。我々は、国民に事実を知ってほしい。我々は合理的に討議したい。我々の基本的な責任は、ビジネス環境が投資と成長の助けになることを保証することであり、投資が海外に流出することは避けなければならない。
(4) 会場からの質問(RSPTが地方や小規模事業に与える影響は何であるかを問いたい。)
(Speersキャスター)
法人税率の上昇がカットされることでこうした事業者は利益を受けるものの、それは直ぐには起こらない。また退職年金の枠組み変更も10年間の計画となっており、鉱業以外の産業が特に影響を受けるとは考えられない。
(Hewett通信員)
国民は鉱業からの利益に対して公平な配分を望んでいるが、政府のRSPT設計は度を越している。アボット野党自由党党首は賢明であり、RSPTを拒絶しているが、鉱業界が過払いであるか、あるいはちょうどよい税率であるかについては触れていない。今後の数か月がどのように過ぎていくのか分からないが、最も特徴的なことは、何がポピュラーな考えであるかについて政府が扱いを誤ったということである。
(Shanahan編集員)
政府はRSPTからの圧力を感じている。その影響は、各州により異なり、また産業によって異なるが、地方は最悪となっている。選挙区に労働党の連邦議員を抱える地域社会(鉱業社会)でさえも退職後の収入や退職年金を心配しており、RSPT導入の影響(バラ色)に懐疑的である。
(Kissel 編集員)
ここ12か月の経済はどんな感じでしょうか。政府がRSPTを押す理由のひとつが世界金融危機による景気後退を豪州が経験しなかったことにあるとすれば、中国の成長が1%或いは2%減速したら、また違った感じになっていたかもしれません。
(Speersキャスター)
これに関しては単にアボット野党自由党党首に依存することはできない。RSPTを止めたければ、野党の我々もまた広告スペースを必要とすると言い出すだろう。
(Hewett通信員)
鉱山企業がどれだけの納税をしてきたのか、また経済に対して鉱業の重要性を示すことが大事だと考えるが、公平な配分とは何ですか。もし、私たち(メディア)がそれらの貢献が公平でないと伝えれば、企業は多くの税金を支払い、国際基準と比べても高いレベルにあると宣伝することが重要だと思う。
(Shanahan編集員)
鉱業は納税以上の貢献がある。彼らは企業の社会的責任(CSR)に総生産の約12%を費やしている。それは当然と考えられる。鉱業が国民に何を与え、広く社会に対して何を貢献するかについて啓蒙キャンペーンを行う時ではないかという意見があるが、答えはYesである。彼らが歩んできた長い道のりと同じであるが、RSPTが普通の国民にとって何を意味しているのか伝えたほうが良い。鉱業がどこで活動しているか、鉱業が地域社会にとって最大の資産であることを地域社会に啓蒙していく必要がある。
(5) 会場からの質問(政府は鉱業に対して課税するという話しかしないが、鉱山企業の被雇用者や投資家たる株主を無視した話である。RSPTの発表により株式が10-15%下落し損失を受けたが、将来的にはもっと失われることになる。しかしながら、こうした株主に対する十分な説明が政府から行われていないことについて伺いたい。)
(Kissel 編集員)
人々は株式市場を見ている。普通の投資家は本件を意味深く見ていると思うし、メディアももっとこの点について報道すべきであるが多くを語っていない。野党自由党はこれを利用し、議論することができると思う。前政権のハワードとコステロはこうした経済問題に強かったが、現在の影の内閣の財務大臣であるホッキー議員はこの仕事に長けておらず、説得力もない。もう選挙まで時間がないのに。
(Shanahan編集員)
新聞社の仕事は、人が何を言っているかを伝えること。BHP Billitonは株主に対して手紙を出した。政府は手紙を受け取った50万人の株主が所有する株式への影響を心配することについて関心を示すだろう。メディアは株主のことでなく、投票権を持つ幅広い社会における政治的意味合いについて記事にする。
(Hewett通信員)
たとえば銀行業界が政府が何をしようとしているのか恐れるように、政府に対して公然と対決することに関してビジネス界には躊躇がある。退職年金産業は、RSPTは良い仕組みだと言っているが、こうした資金の小売部門は何も口にしていない。しかしながら、ビジネス界における政府の信用は2009年を通して失墜しており、(RSPTが発表された)先月には特に酷くなった。
8.まとめ
2010年の大会は、さながら資源超過利潤税(RSPT)に反対する決起集会の様相を呈し、資源関係者は、異口同音に現行の資源超過利潤税案への反対の論陣を張っていた。
これに呼応する形で野党自由党もRSPT導入への反発を強めており、今秋にも予定されている連邦議会選挙を睨み、選挙の争点のひとつになると予想される。特に、2007年末に誕生したラッド労働党政権の政策の目玉であった地球温暖化対策へのイニシアティブについて、2009年12月にコペンハーゲンで開催された第15回気候変動枠組条約締約国会議(COP15)が不調に終わり、国内の温暖化対策法となる炭素汚染防止法案(Carbon Pollution Reduction Scheme)が上院(注:野党自由連合が議席の過半数を占める)で否決、同法案提出を2013年に先送りするなど、ラッド首相のイニシアティブに翳りが見え始めた中での今回の税制改革だけに、RSPTが連邦政府の勢力図に与える影響は大きいといえる。これに関し、本大会終了後の週末のSydney Morning Herald紙、及び調査会社のNielsenが合同で実施した世論調査によれば、RSPT導入に対する国民の不支持が影響し、導入に反対する野党保守連合への支持率が53%と与党労働党支持の47%を上回り、現時点で選挙を実施すれば政権が交代するとの見方を主要紙が伝えており、早期のRSPTの修正にラッド政権は応じるべきと論調している。
一方で、RSPTは、プロジェクト損失の40%を政府が補償することにより、40%の持分を政府が保有し、保有者として40%の利益を取るとの立場から、言い換えればRSPT導入は豪州資源の40%を国有化する話とも言える。世界経済不況を端に中国の国営ファンド(SWF)を背景とした官民企業の豪州資源権益の買収や企業のM&Aが急増し、資源をコントロールされるとの国益の観点から国民の間で中国投資に対する懸念が生じたことも事実であり、今後も続くと考えられる世界的資源ブームや投資環境を考慮し、資源から得られる利益の40%を未来永劫国民に還元させることを保障したものとも思える。これは、資源分野への投資の約半分が外国投資という豪州国内事情もあるが、世界の資源ナショナリズムとは異なった新たな形での新たな資源ナショナリズムとも考えられ、こうした国益上の観点とRSPTを始めとした資源利潤税制の関係について注目する必要がある。

