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報告書&レポート

2010年6月24日 ロンドン事務所  フレンチ 香織
2010年32号

ILZSG(2010 年春季:定期会合)- 世界鉛亜鉛消費40%以上を占める中国、さらに成長と予想 –

 国際鉛亜鉛研究会(ILZSG)は、1959年に国連の招請・勧告によって発足された国際機関である。現在32か国が加盟しており、事務局はポルトガル・リスボンに置かれている。同研究会は、鉛亜鉛市場の研究を始め、国際的な鉛亜鉛貿易に係る課題に取り組み、また、それらの議題に関して政府・産業界の利害関係者が定期的に話し合う機会を設ける機能を担っている。通常、定期会合は春季、秋季と、年に2回開催されている。
 2010年4月28日午前、リスボンにて、ILZSG(国際鉛亜鉛研究会)による春季定期会合が開催された。本会合には、ILZSG加盟19か国の政府関係者、EU本部、産業団体、企業関係者で総勢62名が参加。また、同日28日の午後には『金属の革新的な利用方法』と題した3研究会合同のセミナーも開催され、日本鉱業協会の増田勝彦氏(理事兼企画調査部長)より、銅の画期的な利用法の講演がなされた(カレント・トピックス『国際非鉄3研究会合同セミナー参加報告』にて報告)。以下、本稿ではその会合の概要について報告する。なお、本会合での講演資料は、ILZSG公式HPから入手可能である。(ILZSG公式HP:http://www.ilzsg.org)

1. 第43回 産業諮問委員会 (10:30~12:00)
1-1. 2010年の鉛需給予測 (ILZSG統計予測担当官、Paul White氏による発表)
1-1-1.鉛:鉱山生産量 ~ 豪州、メキシコを中心に、前年比5.1%増 ~
 2010年における世界の鉛鉱山生産は、前年比5.1%増の4,199千tが予想された。主な要因は、2009年末にメキシコのPenasquito鉱山(95千t/年)が操業を開始したことと、2010年に豪州のMagellan鉱山(85千t/年)の再開が予想されているからである。

1-1-2. 鉛:地金生産量 ~ 中国の飛躍的な増産により、前年比7.5%増 ~
 2010年における世界の鉛地金生産量について、ILZSGとしては前年比7.5%増の9,406千tと予想した。主な要因は、2009年の不況により休止・減産していた製錬所が、景気回復とともに徐々に生産を回復していることによるものである。例えば、韓国については前年比9.2%減の216千tと予想したが、日本は前年比8.5%増の269千tと回復が見込まれ、また、鉛地金生産において世界第一位の中国は、前年実績に442千tを加えて、前年比11.9%増の4,150千tと予想した。その他、Juiz de Fora製錬所(ブラジル)及びChanderiya製錬所(インド)が、新製錬プラントを開設することも増産に繋がる要因と述べた。
 
1-1-3. 鉛:地金消費量 ~ 中国のE-Bikeや自動車産業の拡大で、前年比7.3%増 ~
 2010年における世界の鉛地金消費量は、前年比7.3%増の9,310千tと予想した。主な要因は、世界第一位の鉛消費国である中国における電動自転車(E-bike)及び自動車産業の更なる拡大が予想されているからである。鉛は、中国では主に自動車SLI(Starting Lighting and Ignition)用鉛蓄電池やE-bikeの蓄電池に利用されている。中国の自動車生産は2009年、2008年11月に発表された4兆元の政府景気刺激策に加え、同年初頭に導入された自動車購入の減税処置(2010年末まで延長)により、前年比28%増の伸びを示した。これに伴い、2010年も中国の(見掛け)鉛消費量が、前年比9.1%増の4,210千tと予想した。
 加えて、世界第二位の鉛消費国である米国も同様、2009年は2008年比6.3%減であったが、2010年は前年比2.8%増の1,460千tへ回復すると予想した。また、日本も2010年は前年比16.3%増221千t、韓国も同比16.5%増310千tの消費と予想した。
 

表1.鉛の鉱山・地金生産及び地金消費量(単位:千t)
区分 鉛: 鉱山生産量 鉛: 地金生産量 鉛: 地金消費量
2009年
実績
2010年
予想
2009年
実績
2010年
予想
2009年
実績
2010年
予想
欧州 306 330 1,687 1,719 1,532 1,581
アフリカ 107 107 93 112 84 97
南北米 1,062 1,120 1,880 2,025 1,843 1,920
アジア 1,992 2,071 4,827 5,296 5,193 5,690
※(内、中国) 1,760 1,820 3,708 4,150 3,860 4,210
オセアニア 530 571 259 254 22 22
世界計 3,997 4,199 8,746 9,406 8,674 9,310

1-1-4. 鉛:世界の需給バランス ~ 2010年、96千tの供給過剰 ~
 2010年は、96千tと3年連続の供給過剰と予想した。欧州を中心とした工業先進国では、EU RoHS1 指令を例として鉛の使用が縮小されているケースが多いが、世界鉛需給の大半を占める甚大な中国市場により、供給・消費ともに増加基調に推移している。

表2. 世界の鉛需給バランス (単位:千t)
区分 2007 2008 2009 2010 増減
09/08
増減
10/09
実績 実績 実績 予想
鉛供給合計 8,126 8,654 8,746 9,406 1.1% 7.6%
鉛消費合計 8,182 8,647 8,674 9,310 0.3% 7.3%
需給バランス ▲56 7 72 96


1※:RoHS指令とは、電気電子機器への特定有害物質の使用制限に関する指令である。
RoHS指令に基づき、2006年7月1日以降は、EU加盟国内において、特定有害物質が含まれている電子・電気機器の販売は原則禁止となった。制限対象となる特定有害物質は、鉛、カドミウム、6価クロム、水銀、PBB(ポリ臭化ビフェニル)、PBDE(ポリ臭化ジフェニルエーテル)の6物質である。
ただし、RoHS指令の適用除外項目として、2010年3月時点までに39項目が設定されている。

1-1-5. 鉛のLME在庫と価格 ~ 在庫の増加、価格の上昇 ~
 LME在庫については、図1のとおり、増加基調にあり、2010年4月には400千tを越えた。他方、LME鉛価格は、経済不況により、2008年12月下旬には1,000 US$/tまで急落したが、2010年4月には2,000 US$/t超えまで回復している。このように、過去数か月の間、在庫は増加する一方、価格も上昇するという通常とは異なった推移を示している。
 これについて、ILZSGは、「現状は、経済不安により、実需の顕著な成長は見られず、在庫は増えている。しかしながら、長期的には、中国の需要拡大が予想されており、また、それにも拘らず新規の鉛亜鉛生産プロジェクトが少ないため、将来の市場逼迫を予想した投機筋の買いが増えており、価格は上昇している。」と分析していた。
 さらに、参加者の間では、「短期的には、2010年も市場は供給過剰が続くと予想されるが、将来の景気回復に対して鉱石不足が予想されているため、当面は、通常の価格VS在庫の関係から逸脱した状況が続くであろう。あえて言えば、当分の間、鉛相場は、需給よりも、経済・金融の見通しに左右される傾向が続くであろう。」との声が聞こえた。

図1. 鉛のLME在庫及び価格(出典:ILZSG)
図1. 鉛のLME在庫及び価格(出典:ILZSG)

1-2. 2010年の亜鉛需給 (ILZSG統計予測担当官、Paul White氏による発表)
1-2-1. 亜鉛:鉱山生産量 ~ 豪州、インド、メキシコの増産により、前年比6.3%増 ~
 2010年における世界の亜鉛鉱山生産については、前年比6.3%増の12,052千tと予想した。主な要因は、2009年の不況による休山・減産の回復のほか、豪州Century鉱山で2009年Q4に起こった輸送欠陥が修復されたこと、インドのRampura Agucha鉱山が増産して世界最大級にまで成長したこと、そして、メキシコのPenasquito鉱山(190千t/年)が2009年末に操業を開始したことなどであると分析した。

1-2-2. 亜鉛:地金生産量 ~ 前年比10.3%増、欧州が回復 ~
 2010年における世界の亜鉛地金生産量については、前年比10.3%増の12,459千tと予想した。これも、主な要因は不況からの生産回復によるものである。特に、ベルギーのNyrstar社のBalen製錬所(255千t/年)が正常の生産レベルに回復し、欧州の生産が前年比16%増の2,385千tと予想されること、インドでHindustan Zinc社が新設したRajpura Dariba製錬所の稼動、そして、中国が前年比11.3%増の4,850千tと予想されていることも大きな要因である。なお、2010年における日本の地金生産量も596千tの同比10.2%増と予想している。

1-2-3. 亜鉛:地金消費量 ~ 前年比11.3%増、中国は8.9%増加と予想 ~
 2010年における世界の亜鉛消費量については、前年比11.3%増の12,045千tと予想している。世界第一位の亜鉛消費国である中国は、2009年に2008年比17.8%の増加を見せたが、2010年も前年比8.9%増の5,150千tが見込まれている。また、2009年における世界全体の消費量は、1975年来の落ち込みであったが、2010年は、経済回復とともに、欧州全体でも前年比21.6%増、世界第二位の消費国である米国も5.6%増の930千t、同第三位のインドも同比7.8%増の555千t、同四位の日本も同比18.5%増の513千tと予想している。なお、こうした中、韓国は2010年、前年比0.3%減の397千tと予想している。

(※ ILZSG事務局が提示する鉛・亜鉛消費量は、『見掛け消費量(Apparent Consumption) = 国内の生産量 + 輸入量 – 輸出量 +/- 正式に報告されている在庫減増(例:中国の上海先物取引在庫、LME倉庫等)』である。)

表3. 亜鉛の鉱山・地金生産及び地金消費量(単位:千t)
区分 亜鉛:鉱山生産量 亜鉛:地金生産量 亜鉛:地金消費量
2009年
実績
2010年
予想
2009年
実績
2010年
予想
2009年
実績
2010年
予想
欧州 955 1,053 2,056 2,385 1,978 2,406
アフリカ 280 286 265 268 173 190
南北アメリカ 4,191 4,389 1,652 1,786 1,566 1,709
アジア 4,646 4,937 6,807 7,499 6,985 7,599
 ※(内、中国) 3,092 3,250 4,357 4,850 4,730 5,150
オセアニア 1,270 1,387 519 521 124 141
世界合計 11,342 12,052 11,299 12,459 10,826 12,045

1-2-4. 亜鉛:世界の需給バランス ~ 418千tと供給超過を予想 ~
 2010年の需給バランスについては、418千tの供給超過と予想している。過去3年間で見ると、2009年には需給ともに減少を見せたが、世界全体の景気回復とともに、2010年は、2008年レベルよりも亜鉛市場は拡大すると予想していた。

表4. 世界の亜鉛需給バランス (単位:千t)
区分 2007
実績
2008
実績
2009
実績
2010
予想
増減
09/08
増減
10/09
亜鉛供給合計 11,360 11,655 11,299 12,459 ▲3.1% 10.3%
亜鉛消費合計 11,307 11,436 10,826 12,045 ▲5.3% 11.3%
需給バランス 60 219 473 418

1-2-5. 中国における亜鉛の国内在庫
 2009年末に、上海先物取引所の亜鉛在庫量は172千tを記録。さらに、2009年Q1には国家備蓄局(SRB)が159千tの買い入れを報告した。従って、図2のとおり、2010年4月時点のSRB及び上海先物取引所の亜鉛在庫量は、400千t程度とILZSGは分析している。なお、SRBは、159千tの買い入れが発表されて以降、何の公表もないことから、ILZSGは、「2010年4月時点もSRB在庫レベルに変化は無いであろう。」と推測している。

1-2-6. 亜鉛のLME在庫と価格 ~ 在庫が増加、価格も上昇 ~
 経済不安により、実需の顕著な伸びは見られず、在庫の増加が同時に起こっている。他方、経済回復とともに、亜鉛価格は2,000 US$超えまで回復している。この価格VS需要の関係がファンダメンタルズを逸脱している状態は、鉛と同様に、長期的な鉱石不足による供給不足を見越した投機筋の買いが増加していることによるものであり、会議参加者からは、当分の間はこの状態が続くとの声が聞かれた。

図2. LME亜鉛の在庫及び価格(出典:ILZSG)
図2. LME亜鉛の在庫及び価格(出典:ILZSG)

1-3. 講演『カナダ北部での鉛亜鉛鉱床開発に係るインフラ課題』

(カナダ天然資源省 Senior Commodity Analyst、Doug Panagapko氏)

 カナダは、世界の亜鉛鉱山生産の約6%(2009年:692千t)、亜鉛地金生産の約6.5%(2009年:689千t)を占めている。カナダには、操業中の鉛亜鉛鉱山が8つ存在するが、NI 43-101規程で資源量が定義されている未開発の鉛亜鉛鉱床はすでに45箇所で確認されており、南北全体に散在している。南部の鉱床は比較的に小規模ではあるが、製錬所付近や鉱山地区付近で鉱山設備が十分に整っている一方、北部の多くの鉱床は遠隔地に存在するため、鉱山設備、電力、雪氷処理設備の不足が、開発の障害となっている。
 持続的な鉛亜鉛の開発を促進するためにも、カナダ政府は、同国北部のインフラ開発を支援する姿勢である。例えば、同国北部のヌナブト準州にあるBathurst Inlet港湾及び道路開発プロジェクト(BIPAR)を通じて、Izok Lake鉱床~Bathurst Inlet港湾間の全天候型舗装道路(300 km)の開発支援を計画している。また、BC州での送電線設置計画(335 km)には、130百万US$の支援を発表しており、今後もカナダ北部でのインフラ需要の研究を継続し、支援を促進する方針である。

1-4. 講演『ハイブリッド車への適用に向けた鉛酸蓄電池技術の新開発』

(高性能鉛酸蓄電池コンソーシアム(ALABC)会長、Patrick Moseley博士)

 
 高性能鉛酸蓄電池コンソーシアム(ALABC)は、150年の歴史を持つ鉛酸蓄電池の性能及び寿命を向上する目的で、1992年にILZRO(国際鉛亜鉛研究機構)によって設立された。現在、会員企業は53社(内、日本企業は古河電池(株)及び新神戸電機(株))、協力企業は5社(ホンダ等)である。
 主に、自動車に利用される鉛酸蓄電池は、SLI(Starting Lighting and Ignition)機能のための搭載であるが、ALABCは、ハイブリッド車(HEV)の電動機の電力源としてのバッテリー開発を進めている。現在開発中で注目されている鉛酸蓄電池は、Ultra BatteryとBipolarである。先ず、Ultra Batteryは、古河電池が豪州のCSIROと共同で開発したもので、鉛2次電池の負極にカーボンを組み合わせ、スーパーキャパシタの機能を一体化させたものである。Ultra Batteryの価格は、従来バッテリー価格の約10分の1《Ultra Battery (2008)は260 US$で、従来のNiMH蓄電池は2,000 US$》で、また、ホンダ製のインサイトに実験的に搭載してみたところ、NiMH蓄電池と同サイズで、テスト車は、既に英国のテストコースで10万mile(約16万km)の耐久試験を終え、8万mile程度で消耗してしまうNiMHよりも寿命は長いと実証された。次に、スウェーデンのEffpower社は、正極活物質と負極活物質を両面に担持させたセラミック基板を、セパレータを挟んで積層させるBipolar構造の電池を開発している。現在、Bipolar鉛酸蓄電池(176 V)をホンダ製シビックに搭載して試験を行い、すでに17万kmのベンチマーク走行テストを完了している。

2. 第18回 経済環境委員会 (12:00-13:00)
 本会合では、欧州を中心とした環境規制、及び環境の向上促進運動の動向が発表された。

2-1. 講演『(西)アフリカにおける鉛酸蓄電池の回収及びリサイクル』

(国際鉛管理センター(ILMC)Program Manager, Brian Wilson氏)

 1996年に経済開発協力機構(OECD)が鉛リスク削減宣言を行った後、ILZRO(国際鉛亜鉛研究機構)は、ILA(国際鉛協会)の協力の下でILMCを設置した。ILMCは、バーゼル条約で指定された使用済み鉛蓄電池に係る有害廃棄物処理の技術ガイドラインに基づいて、環境上の適切な管理(ESM)を徹底することを目標とし、各地での鉛酸蓄電池の回収方法、及びリサイクル方法の改善に努めている。
 セネガルのTiaroye-Sur-Merは、漁業が盛んな地域であるが、2000年中期に鉛価格が上昇した際、廃棄自動車からの不正な鉛回収が広がり、鉛の公害汚染が深刻化した。2008年には、幼児18人が鉛汚染で死亡。また、百数人が鉛汚染によって健康が害され、妊婦の流産が相次ぐという惨事を招いた。そのことから、ILMCは、バーゼル事務局、WHO、米国のブラックスミス研究所、セネガルTiaroye-Sur-Merの地方自治体と提携して、同国の土壌修復、使用済み鉛酸蓄電池の不法リサイクル撲滅、鉛リスクの教育等を実施してきている。
 また、ILMCはセネガルのPagrik鉛リサイクル工場とMOUを締結し、雇用機会の増加のためにも、使用済みの鉛酸蓄電池回収センターの新設を計画しており、このための資金として、オランダ政府、そして国連UNCTAD合意によるCFC(一次産品共通基金)への支援を求めている。ILZSGは、ICB (国際一次産品団体)に指定されていることから、CFCへ本プロジェクトの提案書を提出しており、2010年7月には、CFCが本提案を精査する予定である。
(参考:http://www.ilmc.org, http://www.basel.int/pub/techguid/tech-wasteacid.pdf)

2-2. 講演:『亜鉛の環境リスクアセスメント:欧州亜鉛産業が直面する現状と課題』

(国際亜鉛協会(IZA)Director, European Affairs、Frank Van Assche氏)

 亜鉛は現在、2000年以前にEUで実施された環境リスクアセスメント(以下、EU RA)の結果に基づいて、水質枠組指令(Water Frame Directive:Directive 2000/60/EC*)の規制優先物質に選出されつつある。亜鉛が本指令の対象となると、水中の限界濃度が設定され、排出が制限される可能性がある。
 他方、2000年以前のEU RAは、それ以降にIZAが実施しているRAと比較すると、結果に大きな相違がある。従って、IZAは、欧州委員会及び加盟国に対して、水質枠組指令の対象物質を考査する際に、最新のRAデータを利用するよう提起している。

 《従来EU RAと、更新版のIZAによるRAの相違例》

  • 1972~2006年の間、オランダ-ドイツの国境付近のライン川流域で、亜鉛含有濃度の測定がなされた。ライン川集水域の一部であるRuhr流域は、水中亜鉛含有量が高い地域と確認されているが、IZAは地質的な自然特性が原因と分析している。また、ライン川(オランダ・Lobith村付近)での水中亜鉛濃度は、1972年は270µg Zn/ℓであったのに対して、2006年は自然界平均レベルの30µg Zn/ℓ程度に低下している。
  • 最新のEU RA結果によれば、従来のEU RAでPNEC(予測無影響濃度)を超えていた地域も、無害となるほどの亜鉛濃度に低下している。
  • 欧州圏内の亜鉛製錬所8箇所でモニター分析を行ったが、水中(及び大気)への亜鉛排出量は大幅に減少している。
表5. 欧州圏における亜鉛製錬所サンプル比較(8箇所)
測定年 大気への
Zn排出(t/年)
水域への
Zn排出(t/年)
大気への
排出係数(排出量g/生産量t)
水域への
排出係数(排出量g/生産量t)
1995年 125.3 30.5 150.8 19.5
2006年 49.5 11.5 18.3 6.8
(出典:ILZSGでのIZAによる講演資料。EU RA(2005年)及びIZA(2006年)のデータに基づく)

 なお、水質枠組指令における追加優先物質の選定は、2010年4 月20 ~ 21 日にブラッセルで議論される予定であったが、アイスランドの火山灰の影響で、5月中旬に開催された。しかし、亜鉛については決定が付かず、後日再議論されることとなった。
(*参考(文末の補足説明『水質枠組指令』):http://www.jogmec.go.jp/mric_web/kogyojoho/2010-03/MRv39n6-13.pdf)

2-3. 講演:『国連持続可能な開発委員会(UNCSD)の鉱業部門に於けるEUの位置付け』

(DGEG(ポルトガル地質エネルギー局)Consultant、Alfredo Franco氏)

 2002年に南アフリカのヨハネスブルグで開催された「持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD)」では、採択された「実施計画」のパラグラフ46に、鉱業分野に関する合意が盛り込まれた。それ以来、国連持続的な開発委員会(UNCSD)を中心に、各国の政府関係機関、鉱業団体等が協力して、鉱業における持続的な社会貢献や経済への恩恵を報告し、UNCSDの全体目標に貢献できるよう進めている。

表6. 国連持続的な開発委員会(UNCSD)の全体目標
  • 国際、地域、国家レベルで政策を決定する際に、社会・経済・環境すべての持続可能な開発方法を総合的に採用する。
  • 持続可能な開発に向けて、調和した分野横断的且つ広範囲参加型アプローチを広める。
  • ヨハネスブルグ行動計画(貧困撲滅、環境保護、女性雇用機会の増加など)の目標、及びターゲットの施行に於いて、飛躍的な進歩を実現する。

 2010~2011年のCSD 18-19作業計画には、『[1]運輸、[2]化学物質、[3]廃棄物管理、[4]鉱業、[5]持続可能な消費・生産形態に関する10年計画枠組』が挙げられているため、今後2年間は鉱業界にとって、特に重要な年となる。
 ポルトガルは、Neves-Corvo銅鉱山を始め、鉱業が経済発展への恩恵を示した成功例である。そのため、同国政府は、ポーランド政府の協力により、2009年末に開催された『持続的な地域レベルの実施(RIM)会議』に参画。『ポルトガルの鉱業に於ける持続可能な開発方法』に関する報告書を作成した。本報告書は、2010年5月3~14日にニューヨークで開催されるCSD 18会合で提示される予定である。
 なお、CSD 18会合では、CSD 18計画に基づいて作成された各国の進捗報告書の見直しを行う予定で、[1]資源の効率化、再利用、回収の増加、[2]良いガバナンス、[3]鉱業活動における尾鉱及び廃石の処理、[4]旧鉱山及び放置鉱山サイトの土地修復、[5]労働者に対する安全衛生などが議題として挙がっている。本会合の成果は、2010年ILZSG秋季会合にて報告される予定である。
(参考:UNCSD http://www.un.org/esa/dsd,
http://nexi.go.jp/service/sv_m-tokusyu/sv_m_tokusyu_0902-1.html)

3. 2010年秋季会合について
 次回の国際鉛亜鉛研究会2010年秋季会合は、2010年10月7~8日の2日間、リスボン(ポルトガル)にて開催される予定である。なお、国際ニッケル研究会は、リスボンにて、10月5~6日午前の1日半で開催され、さらに、国際銅研究会に関しては、2010年9月18日がチリ独立200周年であることから、9月28日にチリ・アントファガスタにて開催されることとなっている。(※ チリでの関連イベントは、9月27日にCESCO(銅・鉱業研究センター)主催の鉱山見学、9月28日に国際銅研究会、9月29日にCOCHILCO(チリ銅委員会)セミナー及びCESCO主催ディナーが予定されている。)

< 2010年秋季の国際非鉄金属3研究会の日程 >

9月28日 国際銅研究会(場所:アントファガスタ、チリ)
10月5日、6日午前 国際ニッケル研究会(場所:リスボン)
10月6日午後 3研究会合同セミナー
(テーマ:『持続可能な将来への金属の貢献』)
(場所:リスボン)
10月7~8日 国際鉛亜鉛研究会(場所:リスボン)

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