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報告書&レポート

2010年8月5日 サンティアゴ事務所  大野克久
2010年39号

今後のチリ銅鉱山開発・拡張プロジェクト及び銅生産見込みについて

 現在、一部の国においては債務問題が懸念されているものの、全体として世界経済は中長期的には堅調な推移が見込まれており、銅価について若干の変動はあるものの、2010年に入ってからは6,000 US$/t以上を維持している。
 この様な世界情勢の中、チリの銅鉱山開発・拡張プロジェクトも再開され始め、7月中旬にCOCHILCO(チリ銅委員会)から、2010年5月までのデータを基に今後の銅鉱山開発・拡張プロジェクト及び銅生産予測レポートが公表された。
 本レポートによると、進行中もしくは計画中の銅鉱山開発・拡張プロジェクトの総投資額は過去最大規模の414億US$であり、2017年には銅量で最大7,579千t生産されると予測されている。
 本稿については、このレポートを基に今後の銅鉱山開発・拡張プロジェクト及び銅生産見込みについて概要を報告する。

1. チリ銅鉱山投資計画について

 チリでは開発・拡張工事が進行中のプロジェクトや今後の投資が期待されるプロジェクトを合わせ、過去最大の414億US$の投資が見込まれ(表1)、うち主要なものは22プロジェクト計309億US$(全投資額の74.6%)、銅量で3,241千tの投資規模となっている。
 中でもCODELCO(チリ銅公社)の投資額は、202億US$(同49.0%)を占め最大であるが、これは近年の粗鉱品位低下の影響等により現在の生産体制では2018年に約50%の生産減が予想されることから、今般の大規模追加投資を実施するものである。
 また、今後のプロジェクトのうち新規鉱山開発は、CODELCOのMina Ministro A Halesプロジェクト、丸紅が30%権益を保有し2010年後半生産開始予定のEsperanzaプロジェクト、PPCが100%権益を保有するCaseronesプロジェクト(2013年生産開始予定)及びQuadra FNX MiningのSierra Gordaプロジェクト(2015年生産開始予定)の4プロジェクト(投資額計73億US$、銅量671千t)のみである。
 チリにおいては、近年の資機材価格等の上昇に伴う開発コストの増大や探鉱リスク軽減の観点から操業鉱山の拡張プロジェクトが大勢を占めている。
 しかし、政府としては、チリの輸出総額の約50%は銅に依存しており、今後とも銅は重要な外貨獲得源であることから、新規銅鉱山開発を促進したい意向であり、2009年チリ探鉱費の52%が操業鉱山の周辺探鉱で占められ、未探鉱鉱区が数多く存在することに対して、探鉱活動推進の観点から、探鉱権付与の在り方について見直しを主張している議員もいる。

表1. チリ銅鉱山開発・拡張プロジェクト投資見込み
単位:百万 US$
  ~ 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2015 ~ 2010 ~
2015
CODELCO 開発・拡張中 1,044 649 69 30 26 0 0 0 774 1,818
投資見込み 20 240 370 770 300 0 0 0 1,680 1,700
投資可能性 161 314 565 1,280 1,740 1,595 1,090 1,755 6,584 8,500
その他 0 990 1,047 1,087 1,018 976 1,203 1,875 6,321 8,196
小 計 1,225 2,193 2,051 3,167 3,084 2,571 2,293 3,630 15,359 20,214
大企業
(資源メジャー)
開発・拡張中 2,923 2,345 1,700 950 845 360 45 0 6,245 9,168
投資見込み 67 332 685 520 550 700 600 300 3,387 3,754
投資可能性 45 60 130 220 765 1,650 2,170 2,050 4,995 7,090
小 計 3,035 2,737 2,515 1,690 2,160 2,710 2,815 2,350 14,627 20,012
中小企業 開発・拡張中 17 50 25 0 0 0 0 0 75 92
投資見込み 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
投資可能性 5 35 80 295 555 150 0 0 1,115 1,120
小 計 22 85 105 295 555 150 0 0 1,190 1,212
合 計 開発・拡張中 3,984 3,044 1,794 980 871 360 45 0 7,094 11,078
投資見込み 87 572 1,055 1,290 850 700 600 300 5,067 5,454
投資可能性 211 409 775 1,795 3,060 3,395 3,260 3,805 12,694 16,710
その他 0 990 1,047 1,087 1,018 976 1,203 1,875 6,321 8,196
合 計 4,282 5,015 4,671 5,152 5,799 5,431 5,108 5,980 31,176 41,438
※投資見込み:F/S実施中、開発・拡張に近い案件、または企業が開発・拡張を発表しているプロジェクト
投資可能性:検討中、開発決定が未了のプロジェクト
CODELCO その他:探査、研究開発及びその他の小規模プロジェクト

表2. 主要銅鉱山開発・拡張プロジェクト
鉱山名等 プロジェクト名等 投資規模
百万US$
概   要 生産開始
予定年
生産銅量
千t
備  考
CODELCO Radomiro Tomic Sulfide 382 Radomiro Tomic鉱山の破砕鉱石をChuquicamata鉱山まで運搬し処理(100千t/日)。 2010年6月 160  
Gaberiela Mistral Phase 2 200 採掘、選鉱処理量拡大 2011年H2 20  
Mina Ministro A Hales. 1,542 新規開発 2013年末 170  
Pilar Norte
  (El Teniente)
121 El Teniente鉱山新鉱体開発 2010年6月 55 操業は50 km離れたRancaguaからの遠隔操作で実施
New Mine Level
  (El Teniente)
1,549 El Teniente鉱山新鉱体開発 2017年H2 430  
Plan de Desarrollo
Andina Phase 1
979 粗鉱処理量拡大(72千t/日→94.5千t/日) 2010年8月 60  
Plan de Desarrollo
Andina Phase 2
4,800 粗鉱処理量拡大(94.5千t/日→240千t/日) 2016年 350 粉砕機にHPGR採用予定
San Antonio Oxides 230 Potrerillos酸化鉱廃滓のS x E w 2014年 30  
Chuquicamata
Underground
1,800 Chuquicamata鉱山坑内掘 2018年 340  
Collahuasi 第1次拡張計画 750 粗鉱処理量を35%拡大(126千t/日→170千t/日)
650千t/年 生産規模へ
2010年 150  
第2次拡張計画 2,400 選鉱設備拡張、二次硫化鉱リーチング開発
1,000千t/年 生産規模へ
2015年以降 350  
Los Pelambres 拡張計画 1,000 粗鉱処理量拡大(175千t/日) 2010年 90  
Esperanza 新規開発 2,300 粗鉱処理98千t/日
銅精鉱生産
2010年H2 191  
Los Bronces 拡張計画 2,200 粗鉱処理量拡大(60千t/日→160千t/日) 2011年末 175  
Lomas Bayas 第2次拡張計画 293 サテライト鉱床開発 2012年 0 生産規模75千t/年 現状維持
El Abra Sulfolix Project 600 酸化鉱採掘から硫化鉱採掘へ移行 2012年 160  
Caserones 新規開発 1,860 銅精鉱生産
S x E w による銅地金生産
2013年 180  
Escondida 拡張計画 384 硫化鉱バイオリーチング拡張 2011年H2 不明  
拡張計画 413 酸化鉱倍リーチング拡張 2013年H2 不明  
第5次拡張計画 2,500 選鉱能力50%向上のための3基目の選鉱
プラント建設
2015年以降 不明  
Quebrada Blanca 拡張計画 3,000 二次硫化鉱下部の一次硫化鉱処理 2017年 200  
Sierra Gorda 新規開発 1,600 粗鉱処理110千t/日
銅精鉱生産
2015年 130  
COCHILCOレポートより作成。一部企業データ等で修正
※拡張プロジェクトの場合、増産される銅量を記載。
HPGR:High Pressure Grinding Roll(ロールミルの一種で、従来の一次、二次破砕機やSAGミル、Ballミルの代替として使用。粉砕効率が高く、電力消費削減に効果的)

2. 銅鉱山生産予測について

 COCHILCOは、現在の進行中及び計画中の銅鉱山開発・拡張プロジェクト等をもとに、2020年までのチリ銅鉱山生産量予測を行い、2017年には過去最大の銅鉱山生産量7,579千tに達する可能性があると発表している(表3、図1)。
 形態別では、銅精鉱生産は2019年に2009年比79.0%増の5,886千tが見込まれる一方(表3、図2)、SxEw生産は2010年をピークに2020年には2009年比26.5%減の1,554千tまで減少する予測となっているが(表3、図3)、これはSxEwの対象鉱種である鉱床表層部の酸化鉱及び二次硫化鉱が減少し、採掘の主体が鉱床本体の一次硫化鉱に移行していくことによるものである(一次硫化鉱のリーチングは考慮していない)。
 なお、世界最大の銅生産企業であるCODELCOについて、2010年はRadomiro Tomic Sulfide及びEl Teniente鉱山Pilar Norte両プロジェクトの6月からの生産開始、Andina鉱山Phase 1プロジェクトの8月生産移行により、2010年は2009年比4%増の1,800千t規模の銅生産が見込まれている。
 一方、2011年のEl Salvador鉱山閉山や、鉱石品位低下等によるCODELCO Norteの生産減から、CODELCOの銅生産量は2014年には1,600千t程度まで落ち込むことが予想されている。また2015年以降は、El Teniente鉱山のNew Mine Level、Andina鉱山Phase 2プロジェクトが生産移行し、長期的にCODELCO Norte、El Teniente及びAndinaの3極体制で2,000千t/日の銅生産を維持する計画である。
 この他、Collahuasi鉱山では、2015年以降の1,000千t/日の銅生産体制構築に向けて、2011年Q1に概念設計を終了予定である他、Antofagasta Minerals社ではLos Pelambres鉱山拡張等により、2011年には710千t/日まで銅生産を拡大する計画を有している。
 


表3. 今後のチリ銅生産見込み
単位:千 t
  2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020
精 鉱 Baseline 3,277 3,582 3,749 3,783 3,920 4,096 4,068 3,903 3,798 3,669 3,375 3,246
Probable 0 0 0 0 94 275 325 450 475 475 475 475
Possible 0 0 0 0 0 107 331 659 990 1,268 1,548 1,599
Hypothetical 0 0 0 0 0 0 0 220 387 359 468 412
小   計 3,277 3,582 3,749 3,783 4,014 4,478 4,724 5,232 5,650 5,771 5,866 5,732
SX-EW Baseline 2,113 2,161 2,119 2,125 1,975 1,875 1,677 1,471 1,307 1,125 1,080 989
Probable 0 0 0 0 30 100 180 260 330 330 330 330
Possible 0 0 0 0 5 25 31 41 41 41 41 41
Hypothetical 0 0 0 5 5 5 145 204 252 248 223 194
小   計 2,113 2,161 2,119 2,130 2,015 2,005 2,033 1,976 1,930 1,744 1,674 1,554
合 計 Baseline 5,390 5,743 5,868 5,908 5,895 5,971 5,745 5,374 5,105 4,794 4,455 4,235
Probable 0 0 0 0 124 375 505 710 805 805 805 805
Possible 0 0 0 0 5 132 362 700 1,031 1,309 1,589 1,640
Hypothetical 0 0 0 5 5 5 145 424 639 607 691 606
総   計 5,390 5,743 5,868 5,913 6,029 6,483 6,757 7,209 7,579 7,516 7,539 7,286
出典:COCHILCO
Baseline:操業鉱山及び開発・拡張中のプロジェクトの生産見込み。
Probable:2015年までに開発される可能性の高いプロジェクトの生産見込み
Possible:2015年までに開発される可能性の高くないプロジェクトの生産見込み。
Hypothetical:データが不十分、開発・拡張可能性が不透明なプロジェクトの生産見込み。

図1. 今後のチリ銅生産見込み(銅量:精鉱+SxEw)

図1. 今後のチリ銅生産見込み(銅量:精鉱+SxEw)

図2. 今後のチリ銅生産見込み(銅量:精鉱)

図2. 今後のチリ銅生産見込み(銅量:精鉱)

図3. 今後のチリ銅生産見込み(銅量:SxEw)

図3. 今後のチリ銅生産見込み(銅量:SxEw)

3. 最後に

 チリでは、銅生産の70%以上が操業開始後20年以上経過している鉱山からのものであり、近年は粗鉱品位低下、鉱床深部化、一次硫化鉱主体の操業移行などの課題が顕在化しつつある。
 また、粗鉱品位低下に伴う鉱石処理量拡大や一次硫化鉱主体の操業は、鉱業用水消費を増大させるが、降水量の少ないチリでの鉱業用水確保はかねてより重要な問題の一つであることから、今後は海水淡水化プラント建設や海岸から鉱山までのパイプライン敷設等も考慮する必要が生じてくる。
 更に、チリ銅生産の約80%は北部に集中し、供給される電力の96.9%が化石燃料由来であり、この電力の85%が鉱山向けとなっている。
 こうした理由から、温室効果ガス削減について、チリ政府当局から鉱山に対して一定の貢献が求められており、CollahuasiやEscondida鉱山、Antofagasta Minerals社では、地熱発電可能性把握に係る探査を実施している他、CODELCOのGabriela Ministral(旧Gaby)鉱山では風力発電が導入されている等、各社とも再生可能エネルギー利用促進に向け、各種取組みを行っている。
 昨今の世界情勢の変化や新興市場国における今後の銅需要見込みを背景に、チリにおいても鉱山投資は活発化しつつあるが、鉱業用水確保や温室効果ガス削減等の環境コスト負担も必要になってきていることから、今後とも鉱山の総投資額は拡大する傾向にある。

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