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今後のメキシコ鉱業の見通し-メキシコ鉱業会議所へのインタビュー-

2010年4月にメキシコ鉱業会議所1(CMIMEX:Camara Mineral de Mexico)は、同会議所年次総会において、Felipe Calderon大統領に対し、[1]鉱業副大臣の創設、[2]投資及び土地使用権の保証、[3]労組問題の抜本的解決、[4]競争力のあるエネルギー価格設定の4項目の要望を行った。JOGMECメキシコ事務所では、この要望の背景にあるメキシコの鉱業投資環境の問題点、今後のメキシコ鉱業の見通し等につきメキシコ鉱業会議所に対しインタビューを行ったので報告する。 |
1. (問1)2010年4月にメキシコ鉱業会議所は、同会議所年次総会において、Felipe Calderón大統領に対し、[1]鉱業副大臣の創設、[2]投資及び土地使用権の保証、[3]労組問題の抜本的解決、[4]競争力のあるエネルギー価格設定の4項目の要望を行っているが、この要望の背景をお伺いしたい。
(Almazan事務局長)
[1]鉱業副大臣の創設について
現在、メキシコの鉱業関係のトップは、経済省(Secretaría de Economía)の鉱業総調整官(Coodinador General de Minería)であり、その下にメキシコ鉱業センター(SGM:Servicio Geológico Mexicano)、鉱業振興総局(Direccíon General de Promocíon Minera)、鉱山総局(Direccíon General de Mina)、鉱業振興信託(FIFOMI:Fidel comiso de Fomento Minero)等の機関が設けられている。
しかしながら、メキシコの鉱業投資開発においては、さまざまな政府当局に対し、それぞれ関連する必要書類を申請し、認可を取得しなければならない。例えば、鉱業コンセッションの取得は経済省の鉱山総局、環境影響評価報告書の認可は環境天然資源省(SERMANAT:Secretaría de Medio Ambiente y Recursos)、火薬使用の許可は国防省(SEDENA:Secretaría de Defensa Nacional)がそれぞれ担当している。
我々の要望は、これらの手続き認可取得等の明確化、迅速化及び簡略化のために鉱業副大臣を創設し、同副大臣が全体を統率し、必要な調整を行うことにある。
[2]投資及び土地使用権の保証について
鉱業コンセッション取得者が鉱区の探鉱開発を実施するとき、その土地の所有者と問題を起こすことがある。特に、エヒード2等のコミュニティの共有地であった場合に入山を拒否される場合が多い。
鉱業コンセッション所得者は、憲法第27条(鉱業関連条文)及び鉱業法により鉱業開発を実施する権利を有しているが、土地所有者に対しそのことを理解してもらうことは簡単では無い。我々は、政府が土地所有者を教育し、理解してもらうことによって、両者が協定等を締結し、開発が迅速に促進することを求めている。これは、[1]の鉱業副大臣の創設にも関連し、我々は、政府に対し全体の調整機能を求めている。
[3]労組問題の抜本的解決について
現在のメキシコの連邦労働法(Ley Federal del Trabajo)は、30年以上前に公布されたもので、時代遅れである。鉱業に限った話では無く、全ての経済活動に関わる問題であるが、法的な未整備が無駄に労働問題の解決を遅らせている。解決に2年半以上を要したGrupo MexicoのCananea鉱山の違法ストライキ3等がその一例である。
2010年3月に与党国民活動党(PAN:Partido Accion Nacional)の国会議員グループによって現行連邦労働法の改正案(別添参照)が草案されたところであるが、メキシコ経済の競争力向上のため、早期の改正を大統領に要望した。
[4]競争力のあるエネルギー価格の設定について
電力庁の供給するメキシコの電力料金は、米国の約2倍である。このため、メキシコ鉱業が国際的競争力を持つことのできる電力料金の設定を大統領へ要望した。なお、エネルギー法改正により、自社への電力供給を目的とした発電所の設置が可能(電力供給は国営)となったが、これは大手企業のみができることである。
また、以前は電力の優遇措置があったが、現在では廃止されている。
2. (問2)今後のメキシコ鉱業の見通しをお聞かせ下さい。
(Almazan事務局長)
私は、非常に楽観的に見ている。中国等の資源需要の増大により、金属価格は今後も安定的に高値で推移するであろう。
生産面を見ても、銅、鉛、亜鉛、金、銀の生産は順調であろう。特に、銅については、年間生産量180千tというCananea鉱山のストライキが解決したのが大きい。9月には一部操業が再開されるとのことだ。2009年のメキシコの銅の生産量が238万tであったのだから、この影響は大きい。更に、Grupo Méxicoは、同鉱山の生産量を450千tに引き上げる投資計画を公表4している。また、銀については、カナダを中心とする外国企業のプロジェクトが次々と立ち上がり、ペルーを抜いて生産量が1位になるのも遠くないと思う。
短期的には、ベースメタルと金、銀であろうが、中・長期的には、レアアースも有望ではないかと考えている。
先に述べたような投資環境の問題はあるものの、資源国の中では投資環境は良い方で、政府も外国企業の投資促進を求めている。今後も外国企業の投資の勢いは続くと思う。
おわりに
インタビューを通じ、メキシコの鉱業投資環境が資源国の中で決して悪い方では無く、金、銀を中心に外国企業の投資は活発であるものの、政府全体の調整機能の無さ、鉱山開発に伴う土地使用権での問題、近代的な労働法の欠如、高いエネルギー価格といった投資環境上の問題が存在していることが判った。メキシコ事務所においては、労働法の審議状況等を今後ともフォローアップして行きたい。
(注1) メキシコ鉱業会議所:会員企業全体での鉱物資源取扱量でメキシコの90%以上を占めるメキシコ最大の鉱業関連団体。
(注2) エヒード:法人格と固有財産を保有する農業集落であり、大統領の裁定により、同集落の存続に必要な土地が与えられたものである。
(注3) Cananea鉱山の違法ストライキ:2007年7月に労働組合の組合長の横領発覚に伴い発生したストライキで、2010年2月に雇用契約解消を認める裁判所の裁定が出た後も、労組員が不法に鉱山を占拠し、2010年6月に警察による同鉱山からの労組員の排除によって、全面解決した。
(注4) 2010年8月11日付けニュース・フラッシュ参照。
(別添)連邦労働法の改正案の概要
1. 改正の主要動機
今日のメキシコの社会及び経済の現実は、30年以上前に公布された現連邦労働法(Ley Federal del Trabajo)時代と多大な相違がある。そのため、労働市場へのアクセスを容易にする、良質な労働を強化する、労働に関連する生産性を促進する、概して国の経済の競争力を庇護することを目的とした労働セクターの法の近代化が不可欠である。
国内及び国際レベルの商工業の発展並びに技術進展は、国家の発展及び生産に参加する労働者への正当な恩恵の保証に貢献する近代的な労働法を要求する。
主要国際指摘機関によるとメキシコ経済は、生産性と競争力の向上を達成するために早急な行動を要求する。
133か国で構成される国際経済フォーラムの競争力指数においてメキシコは、効率及び女性の労働市場への参加で115番、世銀のDoing Business指数において、181か国中、雇用契約の困難度で103番、解雇コストで116番及び労働時間の柔軟性で98番にあたる。
2. 連邦労働法改正の5つの主要ポイント
(1)労働市場へのアクセス及び雇用創出の容易化
(2)労働に関する差別を含めた男女雇用の平等及び労働者の権利の保護の奨励
(3)労働権利の監督と通告の強化
[1] ストライキ闘争における必修調停
[2] 雇用契約を行う責任者の手続きにおける必要条件の厳格化
[3] 雇用契約を有する労組員の署名に基づくストライキの実施手続きのための新規必要条件の設定
[4] 労組がストライキを実施するための法規の必要条件を満たさない場合のストライキの無存在宣言
[5] 労組がストライキ実施の理由及びその代償方法を説明しない場合、又は雇用契約若しくは法契約を満たさないストライキ実施の場合の手続きの拒否
[6] ストライキ実施における第三者の所有物の復元のための第三者権利の尊重
[7] 社会安全事項としての障害を受けた労働者のための簡略処置の設立等
(4)労組の民主化及び透明化の強化
[1] 労組リーダーの労組員への労組管理情報の普及の義務及び150名以上の労組員で組織される労組の情報の外部監査を受ける義務
[2] インターネットによる労組組織の登録の公開及び雇用契約と雇用の内部基準の公開
[3] 労働者の雇用数を証明するための労働者の直接・秘密投票の義務
[4] 労組幹部の選挙における労働者の直接・秘密投票の義務
[5] 労働者給料からの組合費天引き義務の排除
[6] 労働者の解雇とともに労組加盟を失う条項の排除
(5)労働当局の監督及び制裁を担う基準機関の強化

