報告書&レポート
パナマ共和国の鉱業の現状
パナマ共和国の鉱業は1990年代後半にかけて金鉱山やマンガン鉱山で小規模な採掘が行われていた程度と低調であった。しかしながら、パナマは南米から北米にかけて連なる斑岩銅鉱床ベルトに位置し、世界でも有数な未開発大規模銅鉱床が存在する。また、2010年1月にはPetaquilla銅・金プロジェクトから分離したMolejón金鉱山が商業生産を開始した。筆者は、2010年11月末~12月初旬にかけてパナマを訪問し、Zahadia Barrera商工省鉱物資源総局長、パナマ鉱業会議所(Cámara Minera de Panamá)、パナマで鉱業活動を行っているMinera Panamá社及びPetaquilla Gold社から話を聞くとともに、Mina de Cobre Panamá銅プロジェクト予定地及びMolejón金鉱山を視察する機会を得たので、ここに報告する。 |
1. パナマの鉱業の概況
パナマには、2010年1月に商業生産を開始したMolejón金鉱山の他、3つの銅プロジェクト及び3つの金プロジェクトが存在する。Zahadia Barrera商工省鉱物資源総局長によれば、パナマの鉱業は開発が遅れていたが、2009年7月に就任した現Ricardo Martinelli大統領は鉱業開発に熱心であり、その指示の下、南米の鉱業先進国を参考に鉱業法の改正を行う等、鉱業開発を着実に進める意向である。
写真1. Barrera総局長(右)以下の鉱物資源総局幹部
図1. パナマの操業鉱山及び鉱山開発プロジェクト 出典:パナマ商工省鉱物資源総局
表1. パナマの銅プロジェクト 出典:商工省鉱物資源総局(注1) |
プロジェクト名 | 銅の埋蔵量 | 経済的価値 | 備考 |
Mina de Cobre Panamá (Minera Panamá) |
4.99百万t | 330億US$ | Petaquilla銅・金プロジェクトから分離 |
Cerro Colorado | 11.35百万t | 750億US$ | – |
Cerro Chorcha | 1.00百万t | 66億US$ | – |
(注1)Mina de Cobre Panamáの埋蔵量には、2010年3月の最新のFS結果(下記2.(1))が盛り込まれていないものと推測される。 |
表2. パナマの金鉱山・プロジェクト 出典:商工省鉱物資源局 |
プロジェクト名等 | 金の埋蔵量 | 経済的価値 | 備考 |
Molejón金鉱山 | 31 t | 12.8億US$ | Petaquilla銅・金プロジェクトから分離 |
Cerro Quema | 16 t | 6.9億US$ | – |
Santa Rosa | 12 t | 5.1億US$ | – |
Remance | 3 t | 1.3億US$ | – |
鉱物資源総局は、2011年の国会に鉱業法の改正法案をかけ、2月頃には承認を得られる見通しであるとしている。その内容は、未だ不確定であるとのことであったが、[1]現在の鉱業法が1963年制定と古いものであるので、南米の鉱業先進国の鉱業法を参考に時代に合ったものに改正する、[2]鉱業開発を行う意志の無い者が投機目的で鉱区を持つことが鉱業開発の阻害要因となることから、一定期間開発を行わない者から鉱区を取り上げることができる規定を設ける、[3]これまで認められていなかった外国政府系資本の参加を認める(これまでも外国の民間企業の資本参加は認められていた)、[4]ロイヤルティを現行の2%から4%に引き上げるといった内容の改正を行う予定とのことであった。
2. Mina de Cobre Panamá(Minera Panamá)銅プロジェクト
(1)プロジェクトの概要
Colon県のColon市の西南西約120 kmに位置する大規模銅プロジェクトである。当初は、Petaquilla銅・金プロジェクトとして計画され、1970年にJICA前身の国際協力事業団、JOGMEC前身の金属鉱業事業団(MMAJ)などにより探鉱活動やインフラ整備計画調査が実施された。2005年9月にパナマ政府が段階的開発計画を承認したことを受け、同鉱区内に位置するMolejón金鉱床開発が分離された。その後、本プロジェクトはMina de Cobre Panamá 銅プロジェクトと称されているが、パナマ政府関係者は現在の会社の名前を取ってMinera Panamá銅プロジェクトと称している。
本プロジェクトは、カナダ企業3社(Inmet Mining Corp.、Tech Cominco社及びPetaquilla Copper Ltd.)の保有するJVプロジェクトであったが、2008年12月にInmet社がPetaquilla Copper社を買収し、Tech社が同社分権益をInmet社に売却したため、Inmet社の権益が100%となった。その後、2009年10月に韓国のLS-Nikkoが開発時に20%出資するオプション契約を締結している。
2010年10月、同社は、パナマ環境庁に対し、環境社会影響調査報告書を提出した。
1997年にTech社主導の下にAMEC Engineering社が行ったFSの結果によると、Petaquilla鉱床の埋蔵鉱量は11.15億t、平均品位は銅0.50%、金 0.09g/t、モリブデン 0.015%と見積もられていた。その後、2010年3月にInmet社の委託でAMEC Engineering社が行ったFSの結果によると、精測・概測資源量21.43億t、平均品位は銅 0.41%、金 0.07g/t、銀 1.43g/t及びモリブデン 0.008%と見積もられ、操業期間の年平均生産量は銅 255千t、金 2.8t、銀 47.0t、モリブデン3.2千tと試算されている。
(2)現況及び今後の計画(ヒアリング結果)
現在、2011年10月~11月完了を目途にベーシック・エンジニアリングを実施している。この頃までに、現在環境庁で実施している環境社会影響調査の評価が終わる見通しで、2012年1月から建設工事に入り、44か月の建設期間の後、2015年から操業を開始する予定とのことである。
本プロジェクトでは現地に選鉱場を建設し、25 kmのパイプラインでスラリー状の銅精鉱を北部のカリブ海側に運ぶ。そこに港と300 MWの石炭火力発電所を建設する。石炭はコロンビアから輸入し、電力は選鉱場まで送電する。
ヒアリングの結果では、Petaquilla鉱床の銅品位は0.43%で、操業開始直後は粗鉱量150千t/日、将来的には210千t/日で採掘する計画である。
100%権益を持つMinera Panamá社の親会社は、Inmet社(加)であるが、韓国のLS-Nikkoが開発時に20%出資するオプション権益を持っている。LS-Nikkoに対しては、KORESが支援しており、2011年に予定されている鉱業法改正により外国政府機関の出資が認められるようになった時点で、LS-Nikko10%、KORES10%の権益とする予定である。銅精鉱のうち韓国権益分については、パナマ運河で太平洋側に運び韓国に輸出する予定である。残りの銅精鉱については、トルコ、ドイツ等にセールス・プロモーションを行っている。
Minera Panamá社は、日本企業を含め、外国企業による本プロジェクトへの投資を歓迎している。
写真2. Colina鉱体方向 | 写真3. Betija鉱体方向 |
図2. Mina de Cobre Panamáプロジェクト位置図(全体図):25 kmのパイプラインでカリブ海に精鉱を運び、そこに港と石炭火力発電所を建設する。 出典:Minera Panamá社資料 |
図3. Mina de Cobre Panamáプロジェクト位置図(拡大図):鉱山施設(PLANTA)予定地の周りに3つの鉱体(COLINA、BOTIJA、VALLE GRANDE)を有する。 出典:Minera Panamá社資料 |
3. Cerro Colorado銅プロジェクト
(1)プロジェクトの概要
パナマ市と西方のコスタリカとの中間部に位置し、銅以外に銀、亜鉛、モリブデンを含有する斑岩銅鉱床である。Mina de Cobre Panamá(Minera Panamá)銅プロジェクトを凌ぐ大規模鉱床であり、1998年12月の発表によると、硫化鉱の概測資源量は、17.5億t、銅平均品位0.64%と見積もられている。
鉱区所有者は、パナマ国営CODEMIN(Cerro Colorado鉱山開発公社)であったが、1996年にパナマ政府はTiomin Resources社に開発許可を与えた。当時は先住民の自治区(コマルカ)やその権利が未設定であり、政府が先住民の同意を必要としないとの強硬な態度で臨んだことから、先住民による大規模な抗議運動が展開され、同社による鉱山開発は中止に追い込まれた経緯がある。現在は再びCODEMINが100%権益を保有している。
その後、1997年にNgobe-Bulgeコマルカ設置法(LEY POR LA CUAL SE SREA LA COMARCA NGOBE-BULGE)が制定され、先住民の自治と権利を同法によって規定している。
その後、パナマ政府は本プロジェクトの国際競争入札の実施を検討したが、今後の開発方針(国際競争入札の実施、又はCODEMINと外国企業との共同開発契約の締結)を検討するため、2010年時点では本プロジェクトの視察や本プロジェクトに関する情報提供を凍結している。
(2)現況及び今後の計画(ヒアリング結果)
Zahadia Barrera商工省鉱物資源総局長によれば、[1]これまで多くの世界的な非鉄メジャー企業が関心を示し、現地を訪問して情報を収集しているが、各社がそれぞれ独自に行っているためにパナマ政府に情報が蓄積されていないこと、[2]2011年早々に鉱業法の改正を予定しているため(1.参照)、現在は、今後の開発方針の発表に加え、本プロジェクトの視察や本プロジェクトに対する情報提供を一切凍結しているが、鉱業法改正の見通しが付く2011年2月には解禁する予定とのことである。なお、その際には、今後の開発方針を示し、関心を示している各社に情報を提供するので、平等な条件で競争をして欲しいとのことであった。パナマ政府としては、大規模プロジェクトの開発に実績のある大企業に参入を期待しているようであった。
一方、パナマ鉱業会議所は、Ngobe-Bulgeコマルカ設置法に基づく、同自治区の代表(国会の代表にもなる)を選ぶ初めての選挙が2010年10月末に実施されたところで、その結果が出て、先住民のプロジェクト開発に対する意志がはっきりするのは2011年3月であり、それまでは、パナマ政府の本プロジェクトに対する凍結は解除されないであろうとの見通しを示していた。なお、先住民の中には早くプロジェクトを始めて欲しいとの期待が大きいとのことである。
4. Cerro Chorcha銅プロジェクト
(1)プロジェクトの概要
パナマ市西方290 km、標高600~2,200 mの山岳地帯に位置する銅プロジェクトである。2008年9月に発表された同プロジェクトの資源量は1.17億t、平均品位銅0.51%、金0.07 g/t、銀 1.72 g/tと見積もられている。本プロジェクトの探鉱は2007年~2009年の3カ年計画で、Bellhaven社とDominion Minerales Corp.(米)との共同事業として行われ、その権利はDominion社が所有した。
(2)現況(ヒアリング結果)
パナマ鉱業会議所の話では、本プロジェクトはパナマで3番目の銅プロジェクトであるが、国際的環境NGOをバックに先住民が訴訟を起こした結果、探鉱コンセッションの期限が切れたのを契機にDominion社は本プロジェクトから撤退し、現在は、誰もコンセッションを所有していないとのことである。
5. Molejón金山
(1)概要
Colon県Colon市の西南西約120 kmに位置する近年のパナマで初の金鉱山であり、2010年1月に商業生産を開始する。当初は、Petaquilla銅・金プロジェクトとして計画されたが、2005年9月にパナマ政府が段階的開発計画を承認したことを受け、同鉱区内に位置するMolejón金鉱床開発が分離された。
親会社のPetaquilla Gold Ltd.(加)の下に3つのパナマ法人が存在し、Petaquilla Gold S.A.がMolejón金山の採掘コンセッションを持ち、Petaquilla Minerals S.A.が近隣地区で探鉱を行い、PDI(Panamá Dessarrollo Infraestructura)社がインフラ建設を行っている。
(2)現況及び今後の計画(ヒアリング結果)
現在、100 haのうち、40 haを開発している。現在の採掘量は、2,200 t/日で、将来3,000 t/日に増産予定である。金の生産量は、現在、6,000 oz(0.19 t)/月で、将来は10,000 oz(0.31 t)/月に増産予定である。なお、インゴットは、金60~70%、銀40~30%の割合である。
鉱石は風化した赤土を主とし、一部石英脈のストックワークを伴う安山岩を母岩とする。露天掘により採掘した鉱石はトラックで処理施設に運び、カーボン・イン・パルプ(CIP)法により金を抽出する。本鉱山では、鉱石をタンクに入れて加水し、懸濁部は直接シアンの入ったタンクに、砂状及び岩塊部はクラッシャーやミルにより粉砕・磨鉱化を行った後にシアンの入ったタンクへ流送し、シアン溶液に溶解した金銀を活性炭に吸着させて抽出する。環境対策には十分配慮しており、1本の樹木を伐採する毎に10本の植樹を行っているほか、スライム堆積場が満杯になり次第、表面を覆土し草木により緑化する計画となっている。
写真4. Molejón金山の鉱山施設 | 写真5. Molejón金山の採掘場 |
おわりに
世界でも有数の大規模未開発斑岩銅鉱床であり、旧Petaquilla銅プロジェクトとしても知られるMina de Cobre Panamá(Minera Panamá)銅プロジェクトについては、日本企業を含む外国企業の投資を歓迎するとのことであった。
一方、Mina de Cobre Panamá 銅プロジェクトを凌ぐ大規模鉱床であり、多くの世界的な非鉄メジャー企業も関心を示すCerro Colorado銅プロジェクトについては、今後の開発方針や情報提供等が凍結された状況であるが、2011年2~3月には、国際競争入札の実施、国有公社との共同開発契約の締結といった今後の方針が発表されるとの見通しも示された。
また、これに関連し、パナマでは2011年早々に鉱業法の改正が予定されている。
メキシコ事務所としては、今後とも、Cerro Colorado銅プロジェクトに対するパナマ政府の方針、鉱業法改正の状況等パナマの大規模銅プロジェクトを取り巻く状況をフォローしていきたい。