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報告書&レポート

2011年1月13日 金属企画調査部
2011年02号

2010年金属鉱物資源部門の十大ニュース

 JOGMEC金属企画調査部は、2010年の世界の金属鉱業情勢を概観し、金属分野における十大ニュースを次のとおり選定し、以下に、それらについて解説する。

 No.1 金属価格の高騰
 No.2 中国レアアース囲い込み
 No.3 新たな鉱産資源課税表面化(豪州資源税新設、チリ鉱業ロイヤルティ改革)
 No.4 中国企業のプレゼンス拡大継続
 No.5 San Jose銅-金鉱山の坑内崩落事故と33名作業員の救出
 No.6 大規模尾鉱流出事故相次ぐ
 No.7 ETFなど非鉄金属投資の形態拡大
 No.8 リーマンショック後の景気拡大一巡
 No.9 海外鉱山開発プロジェクト引き続き進展
 No.10 資源外交とJOGMEC業務拡大(機構法改正)

No.1 金属価格の高騰

 2010年の非鉄金属価格は、世界経済の需要回復を基調として2009年に引き続き上昇した。特に4月中旬の欧州経済危機後の世界的な金融緩和を背景とした資金の流入により、非鉄金属価格は全般に上昇し、銅、錫、金が過去最高値を更新した。銅は、銅鉱石の供給不足を背景として6月の6,000 US$/t台から上昇し、12月7日に9,000 US$/tを超え、2008年7月の8,985 US$/tを更新した。錫は、主要生産国であるインドネシアの供給不安から価格が上昇し、10月14日、これまでの高値である25,500 US$/tを超えて27,600 US$/tを記録した。また、金は安定資産として投資投機的な資金が流入し、史上最高値を断続的に更新し、12月8日には1,420 US$/ozまで上昇した。銀も高騰し、ハント兄弟買い占め以来の高値を更新し、年末には30 US$/ozを超えた。

図1. 銅LME価格と在庫の推移
図1. 銅LME価格と在庫の推移

図2. 錫LME価格と在庫の推移
図2. 錫LME価格と在庫の推移

No.2 中国レアアース囲い込み

 2010年、中国のレアアース政策は世界を翻弄、価格が急騰(図3)するとともに、供給不安が世界を覆った。これに伴い、閉鎖されていたレアアース鉱山の再開が検討され、世界各地で探鉱が促進されるなど、レアアースを取り巻く世界情勢は一変した。
 7月7日、中国商務部は、今年二回目の希土類輸出割り当て(輸出枠)を通知した。2010年の輸出枠合計は30,258 tとなり、2009年の50,145 tを大幅に下回ることが明らかになったため、国際的に大きな非難をうけた。中国は、輸出枠削減を環境保護や資源保護のためとしたが、中国による価格決定権の掌握がこれ以前から叫ばれていた。
 9月7日、尖閣諸島での問題が発生。事態打開が図られている際、時を同じくして中国からの日本向けレアアース輸出の滞りが発生。中国商務部は関与を否定したが、欧米へのレアアース輸出支障にも拡大した。中国の輸出手続き停滞は10月末に至り正常化された。
 12月15日、中国財政部はレアアースの一部で輸出関税の暫定税率を変更、ネオジムとランタン塩化物が15→25%と増税となったほか、新たにレアアースを10%以上含む合金コードを設定するとともに、当該コードに関わる税率を20→25%に引き上げた。
 12月28日、中国商務部は12月15日の輸出許可企業の発表に続き、2011年の輸出枠(第一回)を発表、2010年の22,283 tから14,446 tへ35%減少した数値となっている。

図3. レアアースの輸入価格の推移
図3. レアアースの輸入価格の推移

No.3 新たな鉱産資源課税表面化(豪州資源税新設、チリ鉱業ロイヤルティ改革)

 価格高騰を背景に主要資源国である豪州やチリでは、鉱山への課税強化の動きが見られ、今後その他の資源国へ波及するなど影響が懸念されている。
 豪州では、2010年5月2日発表された全ての地下資源を対象とし、鉱山利益に40%の税金を課する「資源利潤超過税(RSPT)」が資源業界の猛反発を招き、当時のラッド首相が辞任した。その跡を引き継いだギラード現首相は、大手資源企業3社(BHP Billiton、Rio Tinto、Xstrata)との妥協により、2010年7月2日にRSPTを廃止、新たに石炭、鉄鉱石のみに30%課税する「鉱物資源利用税(MRRT)」)を発表した。連邦政府は2012年7月1日に導入を予定し、「政策移行グループ(Policy Transition Group(PTG))」で詳細を検討している。
 また、2010年は10月にチリでも地震復興のための資金確保の一環として、鉱業ロイヤルティ法が改正された。2005年に政府と税の安定化契約を行った鉱山会社は改正後の当面のロイヤルティ法を受け入れるか否かはその意思に委ねられている。
 以上のように資源国政府が収益性の高い鉱山会社からより多くの還元を求める傾向が顕著となってきている。

No.4 中国企業のプレゼンス拡大継続

 中国のプレゼンスは引き続き拡大している。
 ベースメタルについては、2010年の中国の生産及び消費シェアは2009年の水準を維持または漸増し、同国の動向が大きく世界に影響する状況は変わっていない。

単位;千t
  地金生産 地金消費
2008年 2009年 2010年 2008年 2009年 2010年
中国 3,058 3,272 3,207 5,202 7,119 7,581
世界 18,201 18,296 18,989 18,023 18,118 19,571
中国シェア(%) 17 18 17 29 39 39
中国 3,452 3,708 4,025 3,456 3,860 4,039
世界 9,057 8,867 9,212 9,054 8,791 9,151
中国シェア(%) 38 42 44 38 44 44
亜鉛 中国 4,042 4,357 5,107 4,144 4,730 5,240
世界 11,769 11,263 12,662 11,560 10,818 12,409
中国シェア(%) 34 39 40 36 44 42
出典:いずれも各研究会集計による
     2010年は銅は9月までの実績、鉛・亜鉛は10月までの実績集計を年ベースに単純換算。
注;銅地金生産はrefinery production

 一方、「走出去」のスローガンのもとに進められた中国企業の海外投資も引き続き増大している。2010年H1の企業買収等の投資額は66.8億US$に達し、前年同期比158.6%の大幅増加を示した。この内エネルギー及び鉱業分野での投資額は55.0億US$と報道されている(北京報道2010.7.16)。2010年の特徴は、従来国営中央企業が主体であったものが民営企業や地方企業へと拡大したこと、そして川下産業による展開も活発化したことである。

No.5 San Jose銅-金鉱山の坑内崩落事故と33名作業員の救出

 2010年8月5日、チリの中小規模鉱山会社San Esteban Primeraが操業する第Ⅲ州コピアポの北約30 kmに位置するSan Jose 銅-金鉱山坑内で崩落事故があり、労働者33名が地表下約700mの坑内に閉じ込められた。直後から救助チームが活動を開始し、8月22日には17日間連絡がとれなかった33名の坑内作業員の全員生存が確認された。
 救出方法は3 Planが実行され、Plan Bは、作業員の救出手段がCODELCO坑内技術者等により検討された結果、地表からレイズ・ボーリング・マシンを用いて大口径(直径66 cm)の掘削孔を地表下700 mの坑内まで掘削し、掘削孔を通じて降下させたカプセル(重さ200 kg、幅56 cm、高さ193 cm)に1名ずつ作業員を乗せ、地表まで吊り上げる方法であった。Plan Bが9月5日に掘削を開始し、9月18日に試錐機の先進孔が坑内まで貫通し、その後直径66 cmまでの拡幅作業が行われた。10月14日午前0時10分に1人目の作業員が生還し、同日22時に33名全員が無事救出された。
 2010年はニュージーランドPike River石炭鉱山坑内でのメタンガス爆発事故で29名が死亡、米国ウエスト・バージニア州Upper Big Branch炭田で同じく29名の死亡事故等が発生したが、San Jose鉱山の事故は作業員の救出劇を含め全世界で大きく報道され、鉱山操業における鉱山保安、安全対策の重要性を再認識するきっかけとなった。

No.6 大規模尾鉱流出事故相次ぐ

 ハンガリーで2010年10月4日、西部ヴェスプレーム県アイカ近郊のMAL社アルミニウム精錬工場の鉱滓ダムの堤防が決壊し、約100万立方メートルもの赤泥が付近の河川に流入してアイカから西の6つの町を濁流となって襲った。報道によると、9名が死亡、150名以上がやけど等で負傷し、ハンガリー政府は近隣3県に非常事態宣言を発令した。流出した赤泥はボーキサイトをアルミナ(酸化アルミニウム)へと精製する際に排出される残滓で、重金属や水酸化ナトリウムなど強塩基性の劇薬が含まれる。この事故により周辺の河川や土壌は汚染され、魚などの生物が死滅するなど深刻な被害が発生している。また流入したドナウ川下流域諸国への環境被害も懸念されるところ、ハンガリー防災庁は、中和剤の投与により流水のpH値は相当程度下がり、重金属類による汚染も99%解消されたと発表、これに対し環境保護団体からは疑問の声が上がっている。
 また中国においても、2010年7月に福建省上杭県紫金山銅鉱山の湿式銅製錬で銅を含む酸性溶液の流出による汀江(注:河川名)の河川水汚染が発生した他、同月に浙江省杭州市の淳安鉛亜鉛鉱山でも短時間豪雨の影響で尾鉱堆積場の水位が上昇、一部崩壊により汚水が飲料水源に流入する漏洩事故が発生している。
 これら重大な事故が相次いだことにより、鉱滓ダムを始めとした老朽化した鉱山施設の危険性が明らかとなり、厳格な安全基準に基づいた運営管理が今後一層求められる。

No.7 ETFなど非鉄金属投資の形態拡大

 2010年後半の金属価格高騰により、これまで貴金属だけに設定されていたETF(上場投資信託)が非鉄金属に相次いで設定された。10月25日には、米国JPモルガン証券が銅を対象とするETFを設定したのを初めとして、英国ETFセキュリティーズが12月10日に銅、ニッケル、錫のETFを上場するとともにアルミ、亜鉛、鉛についても2011年に上場すると発表した。
 ETFの担保として現物を確保するため、金融機関が在庫を押さえる動きもあり、非鉄金属価格の上昇に拍車をかけている。世界的な金融緩和の中でETFが新たに設定されることは、非鉄金属相場への新たな投資家資金の流入を招くことになる。また需要家にとっては相場の変化が大きくなることからその影響は大きく、注目を浴びている。

No.8 リーマンショック後の景気拡大一巡

 サブプライムローンに端を発し、2008年9月に米国投資銀行のリーマン・ブラザーズが破綻したことで世界を襲った経済危機は、非鉄金属需給に収縮をもたらした。これに対して各国は、自動車の販売喚起などのかつてない大幅な景気刺激策を導入した。日本では、自動車や家電の購買促進などの対策が導入された。中国でも「家電下郷」と共に、自動車に対して、小型車減税や旧式自動車の買い替え促進などを含めた対策が取られた。このような動きを受けて、中国は、早くも2009年1Qには回復を見せ、2009年2Qから3Qにかけて日本を始めユーロ圏・米国とも回復に転じた。2009年に回復した経済成長は2010年に順調に推移した。

図4. 四半期毎のGDP成長率
図4. 四半期毎のGDP成長率

 日本でも自動車購入補助金が終了するなど、2010年は各国で景気対策が一巡しつつあり、一方で、世界経済のけん引役となった中国では、2010年H2に至り、引き締めを必要とするような景気の過熱状況をも見せ始め、世界経済は新たな展開を見せている。

No.9 海外鉱山開発プロジェクト引き続き進展

 2010年も世界各国において数多くの鉱山開発プロジェクトが進展した。
 モンゴル南部で開発が進められているOyu Tolgoi銅プロジェクトについて、2010年12月にRio TintoとカナダIvanhoeとの間でマネージメント体制が合意され、Rio Tintoは6カ月前倒しで37億US$を調達することが決定した。Oyu Tolgoi銅プロジェクトは銅量4,100万t、金量1,300 t、マインライフ60年、開発コスト65億US$で、2013年の生産開始が見込まれている。
 Valeは長い間操業開始が遅れていたニューカレドニアGoroラテライト・ニッケルプロジェクトから、最初のニッケルを出荷した。年間生産量でニッケル5,800 t、コバルト4,000 tが計画されている。
 Valeと英African Rainbow MineralsはザンビアKonkola Northプロジェクトの開発で合意した。マインライフ28年のこのプロジェクトは、年間で鉱石量250万t、銅精鉱中の銅分45,000 tを生産予定で、開発費は3億8,000万US$である。現在建設中で、操業開始は2015年の予定。
 Xstrataはペルーで実施する開発費42億US$のLas Bambasプロジェクトの開発を正式に承認した。2010年12月には硫化銅鉱4億3,500万t;銅品位0.39%(カットオフ品位0.2%)、酸化銅鉱(及び混合鉱)4億800万t;銅品位0.26%の資源量が発表された。
 チリでは大規模銅鉱山で拡張プロジェクトが実施されているが、そのうちCODELCOは主要プロジェクトに対し、5年間(2010~2014年)で合計160億US$を投資する計画であると発表した。
 PPCは、チリカセロネス銅・モリブデン鉱床の新規鉱山開発を決定した。2013年1月からSx-Ew法で年平均1万tの電気銅を、銅精鉱は年平均11万t生産する計画である。
 丸紅が30%の権益を有する、新規開発中のチリエスペランサ銅鉱山が商業生産へ移行した。2008年に開発に着手した年産20万tの銅鉱山が計画通りに立ちあがった。2011年にはフル生産に達する見込みである。

No.10 資源外交とJOGMEC業務拡大(機構法改正)

 近年の世界における資源獲得競争の激化を受け、2010年は政府及びJOGMECによる資源外交が進められた。
 アジアでは7月にJOGMECと産総研がモンゴル鉱物資源・エネルギー省と探査開発を促進するMOUを締結し、10月に共同地質調査団を派遣した。11月のエルベグドルジ大統領来日の際に首脳会談を実施し、共同声明でレアメタル・レアアース等鉱物資源開発に係わる互恵的関係の構築に合意。10月には菅首相がベトナム訪問の際に首脳会談を実施し、共同声明に「ベトナムのレアアースの探鉱、開発、分離・精製に関し日本をパートナーとする」旨が明記された。また、10月のインド・シン首相来日の際に日印首脳会談が実施され、共同声明でレアアースの開発、リサイクル等の二国間協力の可能性追求について合意された。
 中央アジアではJOGMECは4月にウズベキスタン地質鉱物資源国家委員会との間で「カシュカダリヤ地方における共同調査実施」についてのMOUを締結し、7月にカザフスタン国営鉱山会社タウケン・サムルーク社との間で同国における鉱物資源の探査・開発を促進するMOUを締結した。9月にはカザフスタン産業新技術省次官が大畠経済産業大臣を表敬した際に、レアアース等鉱物資源開発における2国間関係の強化についての合意がなされた。
 アフリカではJOGMECが5月にアンゴラ、7月にナミビア及びマラウイ、11月にモザンビーク、12月にタンザニアとの間で、鉱物資源の探査・開発等の資源分野での関係強化を図る包括的MOUを締結した。
 南米ではJOGMECが2月にペルーとの間で鉱物資源の探査・開発等の資源分野での関係強化を図る包括的MOUを締結した。11月には、ボリビアとの間でウユニ湖のリチウム等の資源の産業化に向けた研究及び開発に関するMOUを締結し、12月のモラレス大統領来日の際には首脳会談が実施され、共同声明においてリチウム資源開発とその産業化に向けて両国が共同で取り組むことが確認された。
 7月に機構法改正が国会承認され、我が国企業が金属鉱物の資産買収(鉱山買収)を行う場合にJOGMECが出資による支援ができるようになった。同時に、JOGMECの政府保証付きの長期借入金を活用できる対象業務に、石油・天然ガス・金属鉱物の資産買収のための出資業務及び債務保証業務が追加された。
 12月にはレアアース総合対策費として1,000億円の平成22年度補正予算が成立した。

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