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報告書&レポート

2011年2月24日 金属資源技術部特命調査役 阿部 幸紀   バンクーバー事務所副所長 片山 弘行   資源探査部探査第3課課長代理 村上 尚義
2011年08号

3rd Lithium Supply & Markets Conference 2011参加報告

 2011年1月20日から21日にかけて、カナダ・トロントにおいてMetal Bulletin社主催の3rd Lithium Supply & Markets Conference 2011が開催された。本会議は、2009年1月にチリ・サンティアゴにおいて第1回目が、2010年1月に米国・ラスベガスにおいて第2回目が開催されており、今回は第3回目の開催となるものである。
 今回は硬岩型リチウム案件の紹介や、硬岩型と塩湖かん水型を対立軸に据えた講演など、開催場所を反映した興味深い講演があった一方で、参加者が前回の216名と比較すると196名に減少しており、また金融危機の影響を受けたやや弱含みの需給予測が見受けられるなど、前回までの熱気に溢れた雰囲気とはやや趣きの異なる会議であった。
 本稿では、いくつかのテーマに基づき会議での講演の概要を紹介する。

1. リチウム資源の需給予測

 1-1. 各社の需給予測

 今回の会議では、供給側から独Chemetall、米国FMC、第三者的立場としてTRU Groupがそれぞれの需給予測を発表した。また、Byron Capital Markets社は、バッテリー以外の潜在的用途について報告を行った。
 Chemetallは、2020年には5~7百万台のエコカーが普及するとの市場調査レポートに基づき、2025年までの需要予測を示した。コンピュータ等のポータブル機器用バッテリー、ガラス・セラミック材料、潤滑剤、その他に用いられるリチウムの需要は2025年には炭酸リチウム換算で合計約220,000 t(以降、炭酸リチウム換算の場合はLCE(Lithium Carbonate Equivalent)を付記)になると見込み、2010年実績の120,000 t-LCE(図1)から2倍近い増加としている。電気自動車用バッテリー(HEV+PHEV+EV)を加えた2025年の需要予測は、低い成長率を仮定した場合で約300,000 t-LCE、高い成長率を仮定した場合で約490,000 t-LCEとしている。一方でChemetallは、2010年の生産能力(炭酸リチウム33,000 t、水酸化リチウム5,000 t)を2020年には炭酸リチウム50,000 t、水酸化リチウム15,000 tへと拡張する計画である。また今後、廃バッテリーからのリチウムのリサイクルが、新たな供給源としてより重要になることを指摘している。
 FMCはアジア地域とエネルギー分野が重要であるとした上でリチウム需要を予測した。2020年までに電気自動車の販売台数は小型自動車の販売台数の15%に達するとの見通しを示すとともに、それに伴うリチウム需要は2020年には約260,000 t-LCEにまで増加するとしている。一方で、現時点ではリチウムは全世界の可採鉱量のうち29%しか利用していない豊富な資源であり、需給バランス見込みから当面は供給過剰が続くとしている。
 TRU Groupは2009年~2010年にかけての金融危機の影響を反映した新たな需給予測を発表した。リチウム需要はほとんどすべての用途において3%程度の成長率を示すと予測しながらも、バッテリー用途の成長が著しいため2020年にはリチウム生産の約47%がバッテリー用途に供されるとし、全体で約45,000 t-Liの需要となると予測している(図2,図3)。特にEV用バッテリーの伸びが大きく、2010年にはバッテリー用途のうち2%のみがEV用であったものが、2020年にはバッテリー用途のうち43%がEV用となるとしている。供給側としては、既存鉱山からの供給、2010~2015年に生産開始見込みの鉱山からの供給、2015~2020年に生産開始となる新規開発鉱山からの供給と3分類し、それぞれの2020年の見込み生産量を約42,000 t-Li、約10,000 t-Li、約8,000 t-Liとしている。したがって、2020年の世界全体の生産量は63,000 t-Li以上となり、明らかに供給過剰となることを指摘した(図4)。特に主として硬岩型から生産されるケミカルグレードのリチウムについては、2018年に供給過剰のピークを迎え、約25,000 t-Liの余剰在庫となることを合わせて示した。
 Byron Capital Markets社は、バッテリー用途以外で今後需要増が見込まれるであろう潜在的用途として、ガラス、原子力、太陽エネルギーを挙げている。ガラスに少量のLi2Oを添加して融点を下げることで、ガラス製造過程でのエネルギー効率を上げる研究について紹介し、この研究が実用化されれば48,000 t-Li2Oの需要増になるとしている。また、6Liを冷却材に用いる小型で安全な原子炉の研究開発を紹介し、今後途上国でこのタイプの小型原子炉が普及すれば、リチウム需要も増加するとしている。リチウム特有の物性である低融点、高い比熱を利用した太陽エネルギーの蓄熱技術についても紹介し、潜在的なニーズとして2015年までに7,500 t-LCEの需要が生まれるとしている。Byron社もリチウム需要の主たる推進役はバッテリーであることを認めており、その他の用途についても需要増の余地があることから、今後も確実な成長が見込める市場であると結論付けている。

図1. 2010年のリチウム需要の用途別セグメントの割合(Chemetall社講演資料より)
図1. 2010年のリチウム需要の用途別セグメントの割合(Chemetall社講演資料より)
表1. 現在の市場予測に基づくChemetall社の拡張計画(Chemetall社講演資料より)
表1. 現在の市場予測に基づくChemetall社の拡張計画(Chemetall社講演資料より)
図2. 2020年までのリチウム需要予測(TRU Group社講演資料より)
図2. 2020年までのリチウム需要予測(TRU Group社講演資料より)
図3. 2020年までの用途別リチウム需要予測(TRU Group社講演資料より)
図3. 2020年までの用途別リチウム需要予測(TRU Group社講演資料より)
図4. 2020年までの需給予測(TRU Group社講演資料より)
図4. 2020年までの需給予測(TRU Group社講演資料より)

 1-2. リチウムは”Strategic Metal”か?

 オランダのシンクタンク機関であるThe Hague Centre for Strategic Studiesは、果たしてリチウムはレアアース等と同じように戦略的、あるいはクリティカルな鉱物資源かとの講演がなされた。
 EUは、2010年7月に発表したEU Criticality Studyの中で41鉱種について検討し、そのうちの14鉱種を”Critical”と分類している(図5)。Criticalな14鉱種の中にはレアアースやアンチモンなど中国に強く依存している鉱種が含まれているが、リチウムはこの分類には含まれず、重要度はやや高いが供給リスクは極めて低いと評価している。
 米国エネルギー省が2010年12月に公開した「Critical Material Strategy」では、14鉱種を供給リスクとクリーンエネルギーに対する重要度でマトリックス状に分類し、今後5年間の短期と5年から15年の中期とに分けて評価している(図6)。この中でリチウムは、短期的には供給リスクは極めて低く重要度もやや低いとしているが、中期的には供給リスク、重要度とも上昇するとしており、とくに供給リスクは評価対象鉱種の中で唯一上昇している。しかし、それでもレアアース等よりも供給リスクは低いとの評価である。
 EU、米国とも、リチウムは供給リスクが低いと評価しているが、これはリチウムの供給源がレアアースなどと異なり比較的多様化していること、主たる供給源である南米諸国の供給リスクが相対的に低いと評価しているためとしている。

図5. EUにおける41鉱種それぞれの供給リスク及び経済性重要度
図5. EUにおける41鉱種それぞれの供給リスク及び経済性重要度
(出典: Critical raw materials for the EU, European Commission, 2010 )
図6. 米国における14鉱種それぞれの短期(左)、中期(右)の供給リスク及びクリーンエネルギーに対する重要度
図6. 米国における14鉱種それぞれの短期(左)、中期(右)の供給リスク及びクリーンエネルギーに対する重要度(出典: Critical Materials Strategy, Department of Energy, US, 2010)

2. カナダ・ケベック州における硬岩型リチウムプロジェクトの探鉱・開発状況

 ケベック州天然資源・野生生物保護省(Ministere des Ressources naturelles et de la Faune)のDenis Raymond氏から、ケベック州におけるリチウムプロジェクトの探鉱・開発状況の紹介とともに、ケベック州の鉱業投資環境及びリチウムイオン電池を含むグリーンテクノロジーに関するR & D活動について紹介があった。
 ケベック州は、独立の調査機関であるFraser Instituteが毎年公開しているSurvey of Mining Companiesにおいて、鉱業投資環境を示す指標であるPolicy Potential Indexで2007年から連続で第1位にランキング(ただし、2010年中間レポートでは3位に下落)されるなど、世界的に鉱業投資環境の良好な州として知られている。特に還付付き税額控除(Refundable Tax Credit)により探鉱費の半額近くが政府から還付されるため、探鉱ジュニアによる探鉱活動が非常に盛んである。リチウムに関しては、Abitibi地域においてCanada Lithium社のQuebec Lithiumプロジェクトが2013年の生産開始(年産20,000 t-LCE)に向け2011年中頃に建設開始となるのをはじめ、現在でも6件以上の探鉱活動が行われている(図7)。より北方のJames Bay地域ではNemaska Exploration社のWhabouchiプロジェクトやLithium One社/Galaxy Resources社のJames Bayプロジェクトなど探鉱ステージが比較的進んだプロジェクトが複数実施されている(図8)。
 ケベック州は、自動車産業の盛んなカナダ・オンタリオ州や米国・ミシガン州などとも距離的に近く、また豊富な水資源を背景とした安価な電力コストなど電気自動車の普及・促進に関して好条件が揃っており、一方でバッテリーの大きな問題である寒冷地での耐久性を評価するにも都合が良いため、電気自動車関係の技術開発拠点となりつつある。ケベック州の電力公社であるHydro-Québecやモントリオール大学等が中心となり精力的に研究開発が実施されており、日本勢も三菱自動車がHydro-Québecと共同でi-MiEVの走行試験により電気自動車の冬季の実用性を検証するプロジェクトを実施している。また、日産自動車もHydro-Québecやモントリオール市、ケベック市などと共同で電気自動車に対する充電インフラの整備や電気自動車の普及に向けた検討に関する覚書を締結している。
 
 このような事実から、ケベック州はリチウム生産からバッテリー、電気自動車までのグリーンテクノロジーのサプライチェーンを担っていると締めくくった。

図7. ケベック州Abitibi地域におけるリチウムプロジェクト位置図
図7. ケベック州Abitibi地域におけるリチウムプロジェクト位置図
図8. ケベック州James Bay地域におけるリチウムプロジェクト位置図
図8. ケベック州James Bay地域におけるリチウムプロジェクト位置図

3. 硬岩型と塩湖かん水型

 両タイプのリチウムの比較について、ケベック州で現在ペグマタイト・リチウム鉱山(硬岩型)を開発しているCanada Lithium社と調査コンサルタントのTRU Groupがそれぞれ講演を行った。
 硬岩型リチウムを開発しているCanada Lithium社は、かん水型は採掘・鉱石処理がほとんど不要な点で硬岩型に勝るコスト競争力を有している点を認めつつ、硬岩型は高いリチウム品位で高い回収率を達成できる点を指摘し、硬岩型に対して一般的に抱かれている先入観(高いコスト、低い製品品質等)のほとんどは、かん水型・硬岩型に関わらずプロジェクト個々の差異の方が大きいとした。硬岩型のリチウムの方がバッテリー品質の炭酸リチウム製造が難しいのではないかとの疑問については、現在でも中国のバッテリーメーカーは豪州のペグマタイトから生産されたリチウムを使用しているため問題はなく、これも案件次第であるとした。一方で、かん水型の資源量は、少ないボーリングデータから比較的推定が容易であるものの、可採鉱量については生産開始まで明らかにならないことが多く、この点で硬岩型が有利であるとした。また、生産開始までの建設期間は、かん水型で必要となる蒸発工程の調整が不要な点から硬岩型の方が概して短く、生産開始後に需要の季節変動に即応できる点においても硬岩型の方が有利であるとした。ペグマタイト・リチウム鉱山を開発している同社の当然の帰結として、リチウム市場には両タイプとも共存できると結論付けている。
 一方でTRU Groupは、塩湖かん水型では、塩湖ごとに(同一の塩湖内でも場所により)化学組成が異なるため、それぞれで処理プロセスを構築する必要があることを指摘するとともに、かん水型リチウムの評価において注意すべき事項として、(i)実験室で測定された空隙率がそのままかん水の抽出率を示唆するものではない、(ii)粘土中の空隙や空隙率の低い塩の層に含有されるリチウムは資源量として計算すべきではない、(iii)リチウム資源量の推定の際には漏損やエントラップメントによるロスを考慮しなければならない、といった点を挙げている。硬岩型との比較においては、炭酸リチウムへの転換工程以降は両タイプとも同様であるものの、転換工程より前の工程では硬岩型の方がコスト上昇要因(採掘、選鉱、焙焼、テーリングポンド等)が多く、硬岩型のリチウム品位が高いとしてもかん水型の方が明らかに有利で、リチウム品位1%程度のペグマタイトはかん水型に対して非常に困難な競争を強いられると結論付けている。

4. 塩湖かん水資源の持続的な開発に向けた国連の取り組み

 国連では、以前から天然資源の持続的な開発の枠組み作りに取り組んでおり、その中で南米における塩湖かん水型リチウム資源の持続的な開発に関して会合が開かれ、いくつか提言がなされていることが紹介された。塩湖からのかん水くみ上げに伴う水理的及び環境的影響評価、地元コミュニティのプロジェクトへの参加及び利益共有、社会への定期的な報告と透明性の確保、現地修復を実行するに十分な資金の確保、学術研究・広域交通網整備等の国際間の協力体制などの重要性が提言されているとしている。

5. 報告基準NI43-101の塩湖かん水型リチウム鉱床への適用について

 現在、リチウムを探鉱・開発している企業の多くはトロント証券取引所に上場している。トロント証券取引所に上場している資源関連企業は、NI43-101と呼ばれる報告基準に従って資源量等の情報を開示する義務を負う。本会議では、このNI43-101の塩湖かん水型リチウム鉱床への適用について、問題提起がなされた。
 まず、そもそもかん水型リチウム資源のプロジェクトはNI43-101に従う必要があるのかという点について提起されたが、NI43-101中のmineral project1 の定義から、リチウム/カリウムそのものは「natural solid inorganic material」であり「industrial minerals」でもあるため、リチウムを対象とするかん水型プロジェクトは「mineral project」に含まれ、それらの技術情報の開示に当たっては当然NI43-101に従う必要があるとしている。
 そこで想起されるのは、果たして技術情報の開示や資源量の算出に当たっての最善の方法(best practice)は何かということであり、その最善の方法をCIM(Canadian Institute of Mining and Metallurgy)が定めたガイドラインとして「Estimation of Mineral Resources & Mineral Reserves Best Practice Guidelines」がある。このガイドラインは、一般的な鉱物資源プロジェクトを念頭に定めているものの、カリウム、石炭、ウランとともにindustrial mineralsについても別途章立てて定めている。ただし、このindustrial mineralsは必ずしもかん水型リチウムを想定しているものではないため、現在CIMの小委員会がかん水型リチウムに関するガイドラインを策定しているところである。
 NI43-101準拠の技術レポートを作成するためには有資格者による指導監督が必要であるが、この有資格者は当該鉱床タイプについて5年以上の経験を有していることが条件となっている。塩湖かん水型リチウム鉱床の場合、従来型の金属鉱床とは異なり、かん水取り扱いの経験を有する水理地質学や化学工学の技術者が必要であるとしている。

6. リチウムイオン電池からのリサイクル

 鉛蓄電池を主とする廃バッテリーのリサイクルメーカーであるEco-Bat Technologies社の子会社であるRSR Technologies社が、リチウムイオン電池のリサイクル技術及び今後の展望について講演した。
 リチウム需要はリチウムイオン電池の需要増に伴い2050年には約55,000 t-Liまで堅調に増加するとの見通しを示すとともに、その供給源として2030年からリサイクル品が大幅に増加し、2050年には40,000 tのリチウムがリサイクル品から供給される一方で、鉱山からの一次産品は2035年頃の25,000 t-Liをピークに減少する見通しを示した。バッテリーのリサイクル工程を図9,10,11に示す。
 廃バッテリーを分解、精錬して得られる利益は主として原材料の価値に基づく一方で、バッテリーの価格は組み立てコストが大きく、原材料がコストに占める割合は大きくない。したがって現状では、スクラップの価値は0かむしろマイナスであり経済的ではないとしている。経済性を向上させるためのリサイクル手法として、廃バッテリーの構成ユニットをそのままリユースする方法(Direct Recycling)を紹介した。現在世界の廃バッテリー・リサイクルメーカー14社のリサイクル技術の多くは、従来型の乾式処理に基づいているところが多い。徐々に湿式処理を行うところが増えてはいるが、このDirect Recyclingを主として実施している企業もあり、今後バッテリーリサイクルの収益を上げるためにもDirect Recycling法が増加するとの見通しを示した。一方で、このDirect Recycling法を広めるためには、バッテリーのモジュール化を促進する必要性があるとしている。

図9. 乾式処理による廃バッテリーの概略リサイクル工程
図9. 乾式処理による廃バッテリーの概略リサイクル工程
(RSR Technologies社講演資料より)
図10. 湿式処理による廃バッテリーの概略リサイクル工程
図10. 湿式処理による廃バッテリーの概略リサイクル工程
(RSR Technologies社講演資料より)
図11. Direct Recycling法による廃バッテリーの概略リサイクル工程
図11. Direct Recycling法による廃バッテリーの概略リサイクル工程
(RSR Technologies社講演資料より)

7. おわりに

 過去2年の会議と比較すると、2010年9月に韓国・ソウルでリチウム会議が別途開催されたことや、硬岩型リチウムが主体となっていたことにより、やや熱気に欠ける会議であったことは否めない。前回までは別室にて各社が商談する場面が多数認められたが、今回はその場面を目にすることは少なく、良案件はすでに買い手がつき一段落した感がある。
 これはリチウムバブルがはじけたというよりも、持続的な開発やリサイクルなど他鉱種では既に議論されていることがようやく議論の端に上るようになってきたことからも、過剰なブームが去り、リチウムが着実な成長が見込まれるコモディティとして冷静な目で見られ始めたことによると言える。


1 “mineral project” means any exploration, development or production activity, including a royalty interest or similar interest in these activities, in respect of diamonds, natural solid inorganic material, or natural solid fossilized organic material including base and precious metals, coal, and industrial minerals.

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