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中国非鉄金属産業の対外直接投資のトレンド
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2010年末、中国による対外直接投資(以下Foreign Direct Investment;FDIと略す)増加を報じる記事が中国国内で相次いだ(「2010年上半期、海外買収金額倍増、エネルギー・鉱業産業でその82%を占め、55億US$」(2010.7.16北京報道)等)。 |
1. 中国の対外直接投資の動向
「走出去」と呼称されている中国の対外進出奨励政策は1999年から始まり、2000年以降は国家戦略として推進されてきた(注;海外技術資本の中国への導入は「引進来」と呼ばれる)。その一環として対外直接投資がある。中国政府の「走出去」政策の狙いとしては、①諸外国との経済・外交関係の強化、②経済摩擦、特に貿易摩擦を回避し、人民元の切り上げ圧力の緩和、③資源、特に石油、金属資源の獲得と確保、④企業のグローバル化を促進し育成、などがある(朱 炎、「中国企業の「走出去」戦略及び海外進出の現状と課題」、富士通総研『中国経営管理研究』第 6 号[2007 年 5 月]) と言われている。
前述の「中国対外直接投資統計公報」による対外直接投資の全体像をまとめると表1のようになる。この内の鉱業の部分が石油・天然ガスや非鉄金属鉱業を含む分野の集約と推定されるが、前述の「資源エネルギー権益の買収4兆円(約523億US$)」とは大きな差がある。2010年の全体金額の予想が2009年を大きく上回るとは予想されていない中で、鉱業の2009年の金額133.43億US$をはるかに超え、2009年の投資残高405.8億円をも上回る金額となっている。
この差は「中国対外直接投資統計公報」が実際の投資等発生ベースに基づき、他のメディアで「公表ベース」で集約している場合とは差異が生じる。
表1. 中国の対外直接投資の推移

2010年値に関しては、1~11月累計値を基に「金融を除く2010年計は500億US$前後と見込まれ、2006~10年の合計は2,166億US$となり、この期間(第11次5か年計画)の目標に対して3.6倍となった」(「商務部予計全年非金融対外直接投資達500億美元」、2010.12.24天璣財富)との見通しもある。また、2010年の実績値予測として、2010年12月28日の「人民日報電子版」は「2010年中国対外直接投資400億US$」の記事を掲載し、中国社会科学院の2010年上期データを基にした推定で「2010年は既に400億US$に達している(見込み)」とも示している。

図1. 中国の対外直接投資推移
(中国対外直接投資統計公報等のデータをJOGMECで加工)
図1に中国のFDIの推移を図示する。2003年頃の鉱業の割合が高いことは、製造業を含むその他産業の未成熟と見られる。しかし、製造業割合は徐々に増えていて、「走出去」戦略の目的も踏まえると今後の直接投資の主役ともなろう。これらから過去の鉱業FDIを振り返ると以下のようにまとめられる。
・鉱業の投資は2006年に急増、第11次五か年計画の「走出去」振興の反映と大型案件の増加。
・鉱業比率、金額は低下しつつあったが2009年に増加
・年金額ベースでは2009年にそれまでの急増から微増に転換
政府高官の「対外投資の重点は国外資源開発の強化」(中国石化新聞網、2011.1.6)との発言からは、今後ともしばらくは、製造業主体のFDIではなく、現在の鉱業の投資の充実が継続することとなろう。
2. 2008年以前の非鉄金属鉱業の分野のFDI
表2に、中国の非鉄金属鉱業分野での主要なFDIの個別件名を掲げる。
表2. 2008年以前の中国の非鉄金属鉱業分野での主要なFDI

現在開発が進行しているプロジェクトの多くが2004~2008年に取得され、現在のFDI成功の基礎となっていることが分かる。一方で中国アルミ業によるRio Tintoへの投資は、資源ナショナリズムをも生じさせた結果と見る向きや中国の資源支配への懸念と見る向きもあったが、結果として実を結ばなかったのは記憶に新しいところである。
2003年から本格化(「中国対外直接投資統計公報」によるFDIの実績公示)した動向の中で、この時期の特徴は中央国営企業主体の投資である。
3. 2008年以降の非鉄金属鉱業分野のFDI
2008年以降の非鉄金属鉱業分野のFDIのトレンドを見るために、2008年以降のFDIについて公表された情報を基に収集した。この結果、2008年に公表されたもの17件、同2009年23件、同2010年26件が収集できた。
公表データはJOGMECによる中国現地情報及び海外事務所で得られた情報に基づき、買収や資本参加がある程度確定されたと思われる情報による。
なお、以下の点も考慮する必要がある。
①公表された情報の実現時期が分かりにくい。実現しない情報も含まれる(中国アルミ業によるRio Tintoへの資本参加など)。
②公表された金額が実際と異なる。また、事後の設備投資などの把握が難しい。
③融資と投資の分離に難のある場合がある。
④幅広い収集を心掛けたが、FDIの実態を網羅できているか否かを検証できない。
これらを企業形態、非鉄鉱業への投資元産業、投資地域、主体となる鉱種に分類し、それぞれの件数と投資金額別に最近のトレンドを探ることとした。
複数の企業が同一案件への共同投資を行う情報については、件数に関しては、2企業(関係会社の場合は同一企業と考える)の場合は0.5件ずつとしてカウント、金額は半分ずつ按分又はそれぞれの投資金額が分かる場合にはその投資金額ごととしている。投資地域は原則として企業所在地ではなく対象プロジェクト所在地による。金額や対象鉱種が不明又は曖昧な場合は無理な分別計上はせず、金額は集計せず、鉱種は分類不明とする。
3-1. 企業形態別FDIの動向
図2-1と図2-2に企業形態による2008~2010年の推移を示し、中央企業が占める割合を折れ線で示している(図2-1以下の図は、JOGMEC収集資料に基づき作成)。
企業形態は中央企業によるか、又は地方/民営企業によるかで分類しているが、投資主体の企業の場合は、これ以外として分類した。
なお、中央企業の定義も曖昧さが生じる。現在、中国では中央企業改革が進められていて、中央政府が所管する国営企業としての中央企業数は変動しているが、2010年2月現在の国資委員会WEBによれば121社ある。非鉄金属に関連する企業としては中国アルミ業公司(Chinalco)、中国五鉱集団(Minmetals)、中国有色鉱業集団(中色)、中国黄金集団などがあり、更に非鉄金属鉱業投資には中国冶金科工集団、中国国際工程諮詢公司、国家電網公司なども登場する。また、わかりにくいのは、これらの関連企業による投資の場合である。著名な傘下企業である場合は掌握できるが、すべての企業について確認がとれてはいない。
地方企業とは地方(省政府や市政府)が所管している国営企業などである。しかし、名称だけでは民営企業とは区別がつかない場合もある。
2008年の中央企業による投資金額が突出しているのは前述したような、中国アルミ業によるRio Tintoへの資本参加情報である。金額面では中央企業の占める割合は2010年に増加しているが、件数では地方企業/民営企業の伸長が認識できる。

3-2. 鉱業への投資産業別FDIの動向
図3-1~2に投資産業別FDIの動向を示す。投資産業別とは、非鉄金属(鉱山・製錬等)以外の産業による鉱山プロジェクトへの投資が公表された場合を「その他産業」として分類したものである。「その他産業」として分類計上した例としては次に掲げるような事例である。
2009年(以下を含む4件)
・ステンレスメーカーの鼎信集団が、インドネシアの鉱山企業Bintangdelapanと年産20万tのニッケル鉱山を合弁で開発。鼎信集団の持ち分は55%。製錬設備など含む総投資額は約12億US$。

2008年の非鉄金属産業の金額が突出しているのは、中国アルミ業によるRio Tintoへの資本参加である。それ以降、件数・金額とも非鉄金属産業の非鉄金属鉱業投資に占める割合は低下している。周辺産業の非鉄金属鉱業への相対的な進出増加が分かる。
3-3. 投資地域別FDIの動向
図4-1~2に投資地域別FDIの動向を示す。投資地域は原則として企業所在地ではなく主なプロジェクト等の所在地によっている。例えば、2010年1月に中国鉄建と銅陵有色がカナダCorriente Resources社の株式27%を679百万C$で取得した例では、同時にCorrientes社がエクアドル南東部に4つの銅鉱山の鉱業権を有しているとの報道に基づき、「北米」ではなくエクアドルのある「中南米」で分類している。年毎の主な動向は次の通りである。
2008年
・金額で見ると「中国アルミ業―Rio Tinto」によりオセアニアが突出しているが、件数ではオセアニアに次いで東南アジアが2位となりオセアニアと拮抗。
2009年
・金額では東南アジアがトップとなるものの、件数ではオセアニアが首位、それにアフリカ・北米が続く。
2010年(以下を含む7.5件)
・金額で中南米がトップとなるも、各地域が均衡に近づいている。件数では、オセアニアに北米が続く。
投資地域別FDIの2008~10年の推移を図4に示す。オセアニアと北米の小計が全体に占める割合を折れ線で示している。


オセアニアと北米の小計が全体に占める割合は、金額での2008年の突出を特異値とみなせば、金額・件数ともほぼ一定している。同様に(中南米+アフリカ)の比率で見てみると、件数では2008年18%→2009年27%→2010年26%と大きな変化は見られないが、金額では2008年18%→2009年26%→2010年71%と大きく伸長。オセアニアの地位低下とアフリカの堅調、中南米の急伸がわかる。
3-4. 鉱種別FDIの動向
図5-1~2に鉱種別FDIの動向を示す。鉱種は銅・鉛・亜鉛・ニッケルのベースメタル(以下BM)、レアメタル(以下RM)、貴金属、希土類金属、それ以外に分類している。「分類不明」は、リチウム電池メーカーや電線メーカー買収の動きや、ウラン、多岐の金属にわたる場合や対象金属が不明な場合を含む。鉱種別分類は、特に2010年については、曖昧な部分が大きい。


3-5. 投資からの撤退と中国の対外投資の抱える問題点
投資が中止を余儀なくされたり、投資の増加または減少もあるが、これに関する報道は少ない。
その中で明確に撤退が報じられる場合もあり、それを表3にまとめた。2008年については入手できていないが、実際にないのか或いは報道されていないためかは不明である。年を追って撤退の増加の傾向がみられる。

当初の計画からの撤退を生み出すような中国の構造的な問題点を指摘する向きもある。包括的な中国の対外直接投資での問題点指摘も多いが、直接的に非鉄金属鉱業に絞ったものとして河北省国土資源庁は2011年1月、次のように問題点と対策と提案を整理している。(「我国有色鉱業対外直接投資分析」、河北省国土資源庁技術処、河北省国土資源与海洋科技信息、2011.1.17)
問題点
①国際商務を司る海外マネージメント人材の欠如
リスク管理・実務や国際商慣習・異文化交流の蓄積がない。
②資源分野での技術力の競争力不足
国際鉱産資源開発市場は技術競争であり総合的な実力が問われる。
③対外投資を支える行政機構の複雑さと非効率
国資委員会、商務部などの審査を受ける必要があるが、重複も多く非効率。
④投入資金の不足
非鉄鉱業は高リスク大投資分野、リスクを負った資金集めが難しい。
対策の提案
①重点企業に傾斜(経験や実力が必要であり、多くの企業が対外投資するのでは
なく、実力を持った企業に重点をおく)
②対外投資を所管する総合管理機構の設立による管理とそのための法制化(管
理する行政機構の非効率改善)
③マクロ金融政策による支援(財政・金融・税務などの経済手段導入による奨励)
④情報の整理機構の設立(業界を横断する情報入手と分析支援機構の必要性)
⑤国際マネージメント人材の育成
4. まとめ
公表資料を基に中国の非鉄金属鉱業分野での直接対外投資の最近の推移を企業買収や資本参加という側面から外観した。データの確からしさの問題を内在しているにせよ、この分野での傾向を明らかにすることが出来た。
以下のトレンドが集約分析から確認できた。要約すれば、集中から分散へのトレンドといえる。
・これまでFDIを主に担っていた中央企業が減退を見せ、地方企業/民営企業の活動が増加している。
・非鉄金属以外の産業の非鉄金属鉱業分野へのFDIが目立つようになってきた。一部の動向はコングロマリット化の兆しともとらえられ、今後の中国非鉄金属鉱業分野の変質、従来の産業の枠の変動も予想される。
・アフリカ・中南米・中央アジアへのFDIが増加傾向を示し、これまでの北米・オセアニア中心のFDIからの変化も見える。一方で、東南アジアが少ない。東南アジアは今後は加工産業系での増加が見込まれるか。
・ベースメタルが中心である状況に大きな変化はないが、貴金属も増加傾向を示している。
・撤退案件が増加するとともに、リスク論議やFDIを支える体制論議も高まりつつある。
以上


