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金川集団と中国のニッケル生産動向
金川集団は中国で最大のニッケル生産者である。中国のステンレス鋼生産量の増加に伴いニッケル需要も増え、多くの企業がニッケルに参入した。同集団の生産量は、それに伴い、全体でのシェアは落としているものの、ことに電解ニッケルでの高シェアを維持し、中国を代表するニッケル生産者としての地位に揺るぎを見せていない。 |
1. 中国のステンレス鋼生産動向
ニッケルの主要消費分野はステンレス鋼である。中国でも2010年のニッケル推定消費量505千tの内、ステンレス鋼に用いられるニッケル消費量は390千tに達しその割合は77%である(2011年安泰科による推定)。
中国のステンレス鋼生産量の推移を、世界の生産量と共に、表1及び図1に示す。
中国のシェアは2005年から2010年の間に13.2%から36.7%へ急増している。いまや世界のステンレス鋼の三分の一は中国が生産している。なお、中国のステンレス鋼の内、オーステナイト系の占める割合は2010年上半期で51.3%(中国産業報告網「2010年上半年我国不锈鋼生産和消費現状」、2010.12.9)という数値がある。2008年から2009年にかけてのリーマンショックによる減少も、中国ではいち早く回復を見せていることも分かる。
図1. 世界と中国のステンレス鋼生産量の推移と中国のシェア
2. 金川集団と中国のニッケル生産
中国のニッケル産業の特徴は、①低品位の海外ラテライト鉱への依存が比較的高い、②フェロニッケル・ニッケル銑鉄でのステンレス鋼メーカーへの供給が最近特に大きい、③電解ニッケルでは圧倒的に金川集団のシェアが大きいことである。
金川集団のニッケル及びその他非鉄金属の生産量と中国内でのニッケル生産に関わるシェアを表2と図2に示す。
金川集団はニッケルの他にコバルトや銅なども生産している。コバルトに関してのシェアは表からは分からないが、同社websiteによれば世界第2位のメーカーである(同websiteではニッケルについては世界第4位)。
表2の中国の「総ニッケル生産量」は、電解ニッケルだけでなく、ニッケル銑鉄などの形で直接に特殊鋼に投入されるニッケル金属量を含んだ値であり、「中国(電解)Ni生産量」は電解ニッケルの数値である。
総ニッケル量では金川集団は2001年に97.0%のシェアを占めていたが、2010年に至り39.1%まで低下した。最近の中国のニッケル産業で特徴的なフェロニッケル・ニッケル銑鉄の形での特殊鋼メーカーへの供給の多さが表れている(図2;金川のシェア①)。
一方、電解ニッケルに関しては、金川集団は2005年には中国で94.6%のシェアを示していたが、他企業の追い上げから2010年には75.9%までシェアを落としたものの、引き続き圧倒的シェアである(図2;金川のシェア②)。また、主な電解ニッケル生産者を表3に示した。
銅に関しても金川集団の中国内での生産シェアは2009年で9.0%であり、大メーカーの一角をなしている。
図2. 中国内でのニッケル生産の金川集団シェア
2008年の金川集団の自山鉱比率は、2010年社債発行目論見書などから、ニッケル58%、銅45%、コバルト25%である。輸入原料ニッケルは金属量換算で6.29万t、処理原料の42%を占める。同様に銅は24.8万t;同55%、コバルトは0.8万t;同75%となっている。
表3の各ニッケル生産者の位置を図3に図示した。図3から中国の、主要電解ニッケルメーカーが、輸入鉱石を主体としているのでなく、鉱山をベースとして形成されている様子がうかがえる。一方で、最近多く建設されているニッケル銑鉄或いはフェロニッケルメーカーの多くは沿海部に位置している。例えば、代表的な中国ニッケル資源控股有限公司など11社の所在地は、海に面している天津市(1社)、山東省(2社)、江蘇省(2社)、浙江省(1社)、福建省(1社)などでその6割を占め、その他も河南省(2社)、安徽省(1社)など比較的沿海部の近くに位置し、1社のみが西部の四川省をベースとしているに過ぎない。この立地の差をどのように金川集団が克服できるかが今後のポイントになる。
図3. 中国での電解ニッケルメーカーの所在地
3. 金川集団の経営
金川集団の前身は1959年に発足した永昌ニッケル鉱山でこれが金川集団の成長を支えた。2000年に甘粛省地方政府に移管されて以来、同省の代表的な企業として成長した。株主は、甘粛省国有資産投資集団有限公司、国家開発銀行股分有限公司、甘粛省工業交通投資公司などの公的機関、(各々69.57%、16.32%、2.04%株式を保有)、及びステンレス鋼との関連から鉄鋼企業である宝鋼集団と太原鋼鉄(集団)、(各々5.94%ずつを保有)である2009年9月末現在)。
鉱床は1958年に発見された甘粛省金昌市の多金属大型硫化ニッケル鉱床で、龍首(山)鉱山という名称である。鉱区は3鉱区に分かれている。海拔1,500~1,800 mに位置し、龍首山付近に集中し、長さ6.5 km、幅0.5 kmである。同社の資料によると、鉱石資源量は5.2億t、ニッケル金属資源量は550万t(世界3位)、銅金属資源量343万t(中国第2位)とのことであるが、同社の2010年社債発行目論見書では、ニッケル金属資源量430万tとなっている。最近は周辺部や深部で探鉱が行われ、コバルト、プラチナ、パラジウム、金、銀、オスミウム、ルテニウムなど14鉱種が随伴することが確認された。
金川集団の業績の推移を表5に示す。従業員数は31,360人(2009年9月末)で、傘下には鉱山機械製造などを行う「金川集団工程建設有限公司」、特殊鋼の製品であるプラスチック金型製造を行う「金昌金川万方実業有限責任公司」、探鉱開発を行う「白銀金鴻資源開発有限責任公司」、海外現地子会社の「金川アメリカ公司」など、連結対象企業22社があり、その多くは甘粛省に所在する。
4. 金川集団の海外展開
金川集団のwebsiteでは、海外で19件の投資、総投資額5億US$、64か所でライセンスを得ていると報じられている。報道されている2007年以降の個々の海外直接投資事例(提案も含み必ずしも達成された案件ではない)を集約すると表6となるが、上記19件は完全には集約しきれていない。
金川集団は、中央企業(中国の中央政府の管轄下の大企業)の「走出去」政策に基づいた海外展開と歩を同じくして、地方企業としては多数の海外投資を進めてきている。
また、2010年9月には、傘下の金川集団機械公司がチリCODELCO及びAntofagastaと採鉱設備等についての提携を発表している。更に、買収や直接投資によらない資源開発として、金川集団は各資源国と供給契約等を結んでいる。それらは同社websiteによれば、以下のものがある。
①豪州;2005年からニッケル(金属量)3.5万t/年
②スペイン;2005年からニッケル(金属量)0.8万t/年、銅(金属量)3.5万t/年
③ロシア極東地区;共同探鉱
④チリ;2004年から銅(金属量)10万t/年
⑤キューバ;2002年から毎年一定量、2009年に9年間長期供給契約
⑥モンゴル;2001年から銅精鉱長期供給契約
⑦カザフスタン;2001年から銅精鉱長期供給契約
これらを図示すると図4のようになり、金川集団が世界各国に広く事業展開していることがわかる。
図4. 金川集団の海外展開(2011.4現在)
最近の同社の動向として、中国の現地紙電子版「匯金網」は、2010年9月8日に、「金川集団、ベトナムのニッケル鉱山とキルギスのタンタル鉱山を買収したいとの意向」との記事を報じ、同記事の中で、金川集団の王海周経理の発言として以下の情報を伝えている。「現在、インドネシア、フィリピン、南アフリカ、カナダ、キューバ、そして豪州でニッケル鉱山の買収を求めているが、更に、チリ、ペルー、カザフスタンなどでも機会を伺っている。」
5. まとめ
甘粛省は新疆ウィグル自治区や青海省などと並ぶ西部に位置する省であり、その多くは乾燥地帯である。人口は中国全体の2.0%(「中国経済年鑑2008年による」2007年の値、以下同)だが、GDPでは1.1%に過ぎない。シェアの高い項目としては、家畜数(中国全体の5.2%)、非鉄製錬及び加工品生産高(同4.2%)、石油化工等生高(同4.1%)などがあり、一面では牧草地帯である一方、典型的な資源省でもある。非鉄金属では金川集団のある金昌市と銅・鉛・亜鉛の生産地である白銀市が著名であるが、白銀市に代わって金昌市のウェイトが高まっている。
金川集団は鉱産地としてニッケル生産の中心として中国をリードし、省政府もそれをフォローしてきた。しかし、もともとニッケル資源が豊富とはいえない中国としてはステンレス鋼需要の増加に伴い、海外資源に依存せざるを得ない。これまで金川集団はその役割を担ってきたように見える。しかし、海外資源の品位やコスト対応などから、中国国内ではニッケル銑鉄でニッケルを供給する企業がステンレス鋼伸長を見越して沿岸部を中心に設備投資を重ねている。最近、「ニッケル銑鉄の生産能力は過剰」との見方(「2011年髟告カ鉄産能或将過剰」、山東福宝貿易公司、2011)も報告されている。
こうした中で、中国の代表的なニッケル・コバルト生産者として成長してきた金川集団が今後どのように事業展開を図るかは、中国の非鉄金属産業の将来を見通すことに繋がるかもしれない。