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報告書&レポート

2011年5月26日 ロンドン事務所 北野由佳
2011年21号

国際非鉄研究会参加報告(2)ILZSG(2011年春季:定期会合)参加報告

 ILZSG(国際鉛亜鉛研究会)は1959年に発足した国際機関で、鉛・亜鉛市場における透明性を確立することを目的とし、需給調査や経済動向など鉛・亜鉛市場に影響を与える分野の情報収集、分析、統計を行っている。
 2011年4月13日午前、リスボンにて、ILZSGによる春季定期会合が開催された。公式参加者リストによると、本会合には、18か国からの政府関係者、EU本部、産業団体、企業関係者の、総勢68名が参加した。以下、本稿ではその会合の概要について報告する。なお、本会合での講演資料は、ILZSGの公式HPから入手可能である。
(http://www.ilzsg.org/generic/pages/list.aspx?table=document&ff_aa_document_type=P&from=12)

1. 第45回 産業諮問委員会 (10:30~12:00)

1-1. 2011年の鉛需給予測 (ILZSG主任予測統計官 Paul White氏による発表)

1-1-1. 鉛:鉱石生産量 ~ 中国での増産により、前年比7.8%増 ~
 2011年における世界の鉛鉱石生産は、対前年比7.8%増の4,456千tと予測した。主な要因は、中国の生産量が対前年比8.9%増となることが挙げられる。一方、中国は、鉛鉱石生産は増加傾向にあるものの、国内製錬所の需要を満たす量には追い付かず、2011年も依然として、鉛精鉱の大口輸入国となることが見込まれる。
 一方、豪州では、年間85千tの生産能力を持つIvernia社(本社:トロント)のMagellan鉱山が2011年1月初めから2か月間、鉱山操業を停止したが、これによる影響は少ないと考えられ、2011年には対前年比7%増になると予想された。しかし、同社は2011年4月5日、環境への影響を再び調査するため、Magellan鉱山の操業を自主停止すると発表した。操業停止が長引けば、豪州の鉱山生産量が現在の予測値よりも低くなることが予想される。

1-1-2. 鉛:地金生産量 ~ 新製錬プラントの稼働により、前年比6.1%増 ~
 2011年における世界の鉛地金生産量について、ILZSGは対前年比6.1%増の10,163千tと予測した。主な要因は、新製錬所の建設予定によるものである。そのうち中国では、内蒙古、広西、浙江、江西の4製錬所が建設予定であり、それぞれ100千t、60千t、100千t、100千tの年間生産を予定していることから、中国全体の地金生産量は対前年比8.6%増となることが見込まれている。また、インド北西部のRajasthanやメキシコのMonterreyでも新製錬所が稼働予定であり、それぞれ年間100千t、130千tの製錬能力があるとされている。

1-1-3. 鉛:地金消費量 ~ 中国の自動車産業の拡大で、前年比5.5%増 ~
 2011年における世界の鉛地金消費量は、対前年比5.5%増の10,040千tとなり、初めて1,000万t台に乗ると予測された(表1)。
 世界最大の鉛消費国である中国における2010年の鉛蓄電池消費の内訳を、中国のコンサルタント会社が発表した。その報告書によると、自動車車載用(Original Equipment)が対前年比34%増、自動車の交換用(replacement)が同23%増となった。また、電動自転車用(E-bike)の鉛電池の消費は対前年比9.5%増、自動車SLI(Starting Lighting and Ignition)用鉛蓄電池の輸出は同37%増となっており、2009年に落ち込んだ消費からの大幅な回復を見せた。なお、無停電電源装置(UPS:Uninterruptible Power Supply)用の蓄電池のみ対前年比1%減と微減している。
 2011年は、中国の鉛地金消費は対前年比8.6%増となる見通し。数社のコンサルタント会社が最近発表した予測によると、中国の自動車生産量は2011年に対前年比13%増となるとされている。

表1. 鉛の鉱山・地金生産及び地金消費量(単位:千t)
区分 鉛:鉱山生産量 鉛:地金生産量 鉛:地金消費量
2010年
実績
2011年
予想
2010年
実績
2011年
予想
2010年
実績
2011年
予想
欧州 342 368 1,709 1,763 1,583 1,638
アフリカ 104 99 102 104 95 99
南北米 1,024 1,080 2,011 2,068 1,961 2,007
アジア 2,079 2,285 5,537 5,948 5,851 6,268
※(内、中国) 1,851 2,015 4,199 4,560 4,213 4,575
オセアニア 583 624 219 280 28 28
世界計 4,132 4,456 9,578 10,163 9,518 10,040

1-1-4. 鉛:世界の需給バランス ~ 2011年、123千tの供給過剰 ~
 2011年は、鉛の需給バランスが123千tと、4年連続の供給過剰になる見通しとなった(表2)。世界最大の鉛消費国である中国の需要増で鉛消費が増える一方、中国、インド、メキシコでの新製錬所稼働により、供給も増加すると予測された。

表2. 世界の鉛需給バランス (単位:千t)
区分 2008 2009 2010 2011 増減2010/2009 増減
2011/2010
実績 実績 実績 予想
鉛供給合計 9,059 8,866 9,578 10,163 8.0% 6.1%
鉛消費合計 9,047 8,808 9,518 10,040 8.1% 5.5%
需給バランス 12 58 60 123

1-1-5. 鉛のLME在庫と価格 ~ 在庫の増加、価格の上昇 ~
 ベースメタルのETF(上場投資信託)に関しては、投資目的で金属が大量に購入され市場を不安定にするのではないかという懸念があった。しかし、現在までのところ、ETFで取引されるベースメタルの量は小さく、鉛と亜鉛に関して言えばETFの影響は小さいと言える。
LME在庫については、過去数か月、図1のとおり増加基調にあり、1995年以降の最高値となっている。主な要因としては、2011年1月に、LMEの現物価格と3か月先物価格との間で、大幅なバックワーデーションが生じたことが挙げられる。
 在庫の上昇にも拘わらず鉛価格は2010年Q4を通して上昇基調にあり、2011年4月時点では、2008年4月以降の最高値となっている。

図1. 鉛のLME在庫及び価格(出典:ILZSG)
図1. 鉛のLME在庫及び価格(出典:ILZSG)

1-2. 2011年の亜鉛需給 (ILZSG主任予測統計官 Paul White氏による発表)

1-2-1. 亜鉛:鉱山生産量
 ~ インドの増産により前年比9.1%増、フィンランドでバイオリーチング ~
 2011年における世界の亜鉛鉱山生産については、対前年比9.1%増の13,438千tと予測した(表3)。2010年に対前年比8.9%増であったのに続き、2011年も堅調な伸びを見せるとされる。インドのRampura Agucha鉱山では設備拡大が行われ、2011年には生産量が年間700千tを超えることが期待されている。メキシコのPenasquito鉱山では増産が進み、豪州、カナダ、サウジアラビアでも生産能力の拡大が予想される。また、フィンランドでは、Talvivaara社のバイオリーチングを用いた亜鉛生産が継続的に増加を見せており、ベースメタルの回収における革新的な方法であるとして、金属業界の注目を集めている。

1-2-2. 亜鉛:地金生産量 ~ 前年比5.6%増、中国は9.2%増 ~
 2011年における世界の亜鉛地金生産量については、対前年比5.6%増の13,594千tと予想した。主な要因は、中国、インド、ペルーにおける増産である。中国の地金生産量に関しては、陝西、湖南、四川、江西及び雲南地域の製錬所での製錬能力拡大が大きく貢献し、中国全体で対前年比9.2%増という予測になった。インドではRajpura Dariba製錬所、ペルーではCajamarquilla製錬所(拡張)と、それぞれ製錬所が2010年に稼働を開始したことから、地金生産の増大が予想されている。

1-2-3. 亜鉛:地金消費量 ~ 前年比6.3%増、中国は9.4%増加と予想 ~
 2011年における世界の亜鉛消費量については、対前年比6.3%増の13,395千tと予測した。
 世界第一位の亜鉛消費国である中国では、2010年の亜鉛見掛け消費量は対前年比13%増であった。これは、自動車、エアコン、洗濯機などに使用する亜鉛メッキ鋼板、乾電池に使用する亜鉛シート、タイヤに使用する酸化亜鉛の需要が拡大したことによる。しかしながら、2011年には、中国政府が自国の経済成長の速度とインフレ率を押し下げることが考えられ、2011年の亜鉛消費は対前年比9.4%増にとどまる見通しとされた。
 2010年に対前年比31%増であった欧州は、2011年には同4.4%増となり、また、米国では同6.6%増となると予想した。地震の被害を受けた日本の2011年消費予測は1.9%の微増とされているが、復興作業が本格的になれば数値が修正される可能性がある。

表3. 亜鉛の鉱山・地金生産及び地金消費量(単位:千t)
区分 亜鉛:鉱山生産量 亜鉛:地金生産量 亜鉛:地金消費量
2010年
実績
2011年
予想
2010年
実績
2011年
予想
2010年
実績
2011年
予想
欧州 1049 1152 2,417 2,447 2,535 2,647
アフリカ 288 295 267 269 180 182
南北アメリカ 4,179 4,442 1,824 1,904 1,742 1,812
アジア 5,359 6,080 7,863 8,452 7,945 8,558
※(内、中国) 3,700 4,250 5,164 5,640 5,358 5,860
オセアニア 1,446 1,469 499 522 201 196
世界合計 12,321 13,438 12,870 13,594 12,603 13,395

1-2-4. 亜鉛:世界の需給バランス ~ 199千tの供給超過を予想 ~
 2011年の需給バランスについては、199千tと2007年以降5年連続の供給過剰と予想した(表4)。需給の増減の幅を見ると、2011年の対前年比の伸び率は昨年を下回る見通しとされた。

表4. 世界の亜鉛需給バランス (単位:千t)
区分 2008 2009 2010 2011 増減
2010/2009
増減
2011/2010
実績 実績 実績 予想
亜鉛供給合計 11,768 11,315 12,870 13,594 13.7% 5.6%
亜鉛消費合計 11,559 10,868 12,603 13,395 16.0% 6.3%
需給バランス 209 447 267 199

1-2-5. 亜鉛のLME在庫と価格 ~ 在庫が増加、価格も上昇 ~
 亜鉛のLME在庫は2007年末から徐々に増加しており、春季定期会合時には740千t前後で推移しており、過去7年間で最も高い数値を示している。上海先物取引所の亜鉛在庫も増加しており、中国の供給過剰が要因であるとされている。同時点での上海先物取引所の在庫は374千tで、2007年に亜鉛が上海先物取引所に上場して以来の最高値となっている。
 図2が示すように、2005年に在庫過剰になった際は、価格が下落している。しかし、最近ではこの在庫と価格の関係は従来の傾向から逸脱する推移が見られ、在庫が増加するにもかかわらず、価格も上昇している。

図2. LME亜鉛の在庫及び価格(出典:ILZSG)
図2. LME亜鉛の在庫及び価格(出典:ILZSG)

1-3. 講演『東日本大震災の亜鉛製錬への影響』

(経済産業省資源エネルギー庁鉱物資源課 企画調整係長 和久津 英志氏)

 現時点でも東日本では余震が継続的に続いており、設備への被害や電力不足といった様々な要因もあり、地震による亜鉛需給への影響を予測することは困難であるとした上で、日本国内の製錬所の被害状況と操業再開の見通しについて説明した。国内の主な亜鉛製錬所7か所のうち4か所が被災し操業が停止したが、随時操業再開が予定されており、2011年7月までには前年と同等の生産量を達成するのに必要な生産能力が回復する見込みであるとした。
 亜鉛の需要に関しては、復興作業が進むにつれ高まると思われるが、現時点での予測は困難である。鉛生産に関しては地震の影響は少ないが、需要面では、復興需要に加え今年(2011年)の夏の電力不足に伴う鉛電池の需要が高まる見通しであるとした。

写真1. 地震による亜鉛製錬への影響を説明する和久津氏
写真1. 地震による亜鉛製錬への影響を説明する和久津氏

1-4. 講演『世界の鉛・亜鉛市場への外的要因』

(GFMS Neil Buxton氏)

 ここ数年、金融界がベースメタル価格に与える影響に関しては、頻繁に議論が行われている。長年一般的であった価格と在庫の関係には、確かに変化がみられる。以前であれば在庫の増減によって価格を分析することは容易であったが、現時点では従来の需給バランスと在庫の関係は崩れており、価格分析の指標とすることは難しい。この変化の主な要因は投資ファンドである。現在のベースメタル市場において明らかに言えることは、買い手ばかりで売り手のいない『一方通行の取引(one way bet)』になっているということである。そのため、在庫が増えているにも関わらず、鉛・亜鉛の価格も上昇するという、従来の価格と在庫の関係から逸脱した状況が発生している。
 投資ファンドがコモデティへの投資を促している要因として考えられているのは、中国や新興国への投資をコモデティへの投資という形で行えること、ドル安環境が続いていること、低い金利がコモデティを魅力的な投資商品としていること、などが挙げられる。
 しかし、ベースメタルに投資するためのコストは、貴金属に投資するためのコストより大幅に高い。例えば銅のETF(上場投資信託)に必要な手数料は金のETFに必要な手数料の約4倍である。高コストは投資家を遠ざけ、ベースメタルへの投資拡大を制限する可能性がある。今後、金利が再び上昇することが考えられ、それも投資家を遠ざける要因になりうる。また、市場にはサイクルがあり、投資商品には流行があるという説があり、ベースメタルへの投資も例外ではないと考えられる。
 投資ファンドにより、従来の価格と在庫の関係は変わったものの、コストや金利といったマイナス要素を考慮に入れると、将来的に投資ファンドの活動がベースメタル市場を動かす主要な要因となり得る可能性は低いと考えられる。

1-5. 講演『中国における鉛蓄電池リサイクルのベストプラクティス』

(CNIA Bian Gang氏)

 中国で最大の鉛リサイクル企業であるJiangsu New Chunxing Resource Recycling社は、二次精錬鉛(refined secondary lead metal)と二次鉛合金を生産している。Chunxing社は使用済み鉛蓄電池を環境汚染を最小限に抑える独自のプロセスで処理し再利用していることで、中国政府からも重要な国家プロジェクトとして認識されている。同社は中国国内に5つの処理施設を持っており、使用済み鉛蓄電池の処理能力は現在年間60万tである。うち2つの処理施設では拡張工事が行われており、工事終了後は、年間100万tの処理能力が見込まれている。
 Chunxing社の最新設備では、まず、回収された使用済み鉛電池を機械で自動解体し、排水や鉛ペーストは脱硫処理する。解体された各電池部品はそれぞれ再利用される。製錬段階では、特許取得の自動継続閉鎖給送法(automatic continuous closed feeding)を用い、エネルギー効率の高い操業をしている。鉛蓄電池に含まれている錫などの鉛以外の金属も回収している。また、排水管理に関しては、密閉循環方式を採用しているため、汚水の外部への排出はゼロである。製錬所から出るスラグの鉛含有量は1.6%以下であり、無害なレベルに分類される。使用済み鉛蓄電池からの最終的な鉛回収率は98%以上となる。
 Chunxing社は現在、タイ、インドネシア、豪州で共同事業を展開させており、技術の輸出プロジェクトも世界中で進行中である。

1-6. 講演『HudBay Minerals社の戦略的概観』

(HudBay Minerals社 Graham White氏)

 HudBay Minerals社は、北米、中米、南米において、ベースメタルの探鉱、生産、マーケティングに焦点あてた事業を展開しているカナダの総合鉱山会社である。同社は、買収や高効率な操業を通して事業を拡大し、株主の利益を最大限にすることを会社の目標として掲げている。
 2011年3月には、Constancia銅・モリブデン・プロジェクト(ペルー、Cusco県)を所有するNorsemont Mining社を買収したほか、Constancia周辺地域においても他の案件の取得を意欲的に模索しているとされている。
 今回の講演では、現在同社が生産及び開発中の777鉱山(加マニトバ州)、Lalor鉱山(加マニトバ州)、Constancia(ペルー)、Back Forty鉱山(米ミシガン州)、Fenix鉱山(グアテマラ)の5つの鉱山の詳細を説明した。また、同社が探鉱中の、チリのSan Antonio鉱区と、加ユーコン準州のTom & Jason鉱区に関する説明もあった。
 同社は、2011年に探鉱目的で5,900万US$を投資する予定であり、これは同社の歴史の中でも最大規模の投資額となるとのことである。

2. 第20回 経済環境委員会 (12:00~13:00)

2-1. 講演『亜鉛市場の動向‐亜鉛含有肥料』

(国際亜鉛協会(IZA) Frank Van Assche氏)

 亜鉛不足によって引き起こされる下痢といった症状により、毎年45万人の子供が命を落とし、発展途上国を中心とし世界で約20億人が亜鉛不足のリスクに陥っているとされている。国際亜鉛協会(IZA)では亜鉛不足の問題に取り組むため、「Zinc Nutrient Initiative(栄養素としての亜鉛促進イニシアチブ)」と「Zinc Saves Kids(亜鉛が子供を救う)」という2つのプロジェクトを実施している。
 「栄養素としての亜鉛促進イニシアチブ」の主な活動は、作物を栽培する土壌で亜鉛含有肥料を使用することを促進することである。作物を栽培する世界の土壌の50%で亜鉛が不足しているとのデータがある。亜鉛含有肥料は作物の成長を助けるとともに、作物の栄養素が強化されることによって、それを摂取する人間の健康を促進するとされている。IZAでは、亜鉛含有肥料が社会にもたらす利益に関する認知度を高めるため、トレーニングプログラムや情報冊子の配布等を行っている。
 「亜鉛が子供を救う」は2010年1月から国連児童基金(UNISEF)と共同で行っているプロジェクトで、重度の亜鉛欠乏症を患っている子供に対する治療や、亜鉛欠乏症の治療及び予防のためのサプリメント配布を行っている。亜鉛不足によって子供は成長阻害や免疫システムの損傷といった症状がでるとされており、こうした「隠れた飢餓(Hidden Hunger)」の問題にサプリメント配布といった費用効果の高い方法で取り組んでいる。

2-2. 講演:『鉛に関する規制の動向』

(国際鉛協会(ILA) David Wilson氏)

 人体への影響及び環境面において鉛の使用が問題視されており、鉛を取り巻く一連の規制にも動きがみられる。今回のプレゼンテーションで取り上げられた規制は以下のとおり:

● Norwegian Product Regulations(ノルウェー商品規制法)
 ノルウェーは2007年に、鉛を含む18の化学物質の消費者商品での使用を規制することを同法で提案したが、多くの反対意見が寄せられたため、2010年12月、規制対象の化学物質を4項目にまで減らしたが、鉛は依然として規制対象物質に含まれている。同法は、鉛化合物の消費者製品への使用を、一部の例外を除き全面的に禁止するものである。ノルウェーは鉛に関しては大きな市場ではないため、その点での影響は少ない。むしろ、懸念すべきことは同法がもたらす波及効果である。欧州委員会は、ノルウェーの商品規制法のような単独的行動には強く反対することが考えられる一方、ノルウェーに対しEUのREACH(化学品規制)の下で規制案を提出するように勧告する可能性もある。REACHで鉛が規制された場合、EU加盟国すべてに深刻な影響を与える可能性がある。

● REACH Restriction on Lead In Jewellery(宝飾品における鉛の使用に対するREACH規制)
 2010年4月、フランスは鉛及び鉛化合物の宝飾品への使用をREACH規制のもとで禁止することを、欧州化学品機関(ECHA :European Chemicals Agency)に提議した。欧州委員会の最終的な決断はまだ下されていないが、鉛産業界では既に子供の宝飾品における鉛の使用は不適切であると結論付けている。国際鉛協会(ILA)では、宝飾品における鉛のリスク評価の方法が、今後も前例として他の商品のリスク評価に用いられる可能性があったため、リスク評価のプロセスに積極的に参加し、適切な評価方法の確立に努めてきた。最終的には、宝飾品における鉛含有率に関する規制、といった結論が出されるのではないかと予想している。

● EU Water Framework Directive(EU水質枠組み指令)
 水質枠組み指令(Water Frame Directive:Directive 2000/60/EC)は、欧州における水質保護を目的とし、2000年12月に採択された。同指令において現在鉛は「規制優先物質(Priority Substance)」に分類されているが、鉛を「規制優先有害物質(Priority Hazardous Substance)」に分類しなおそうという試みがあるとされている。鉛が規制優先有害物質に分類された場合には、排出が一切禁止されることになり、鉛生産において排出ゼロのプロセスを確立する必要があり、産業界で困難が生じることが予想される。

● EU End-of-Life Vehicles Directives(廃自動車(ELV)指令)
 新車における鉛の使用は禁止されているが、鉛酸蓄電池の使用は適用外として認められている。鉛酸蓄電池の代替品が利用可能であるかどうかを2年に一度見直しすることになっているが、2010年に行われた見直しの際に、鉛産業、蓄電池産業、自動車産業が協力し、次回の見直し時期を5年後とすることに成功した。しかしながら、欧州委員会は常に鉛の代替品の可能性を探っているとされている。

● EU Batteries Directive(EU電池指令)
 2006年に改正された電池指令では、鉛酸蓄電池の中身を、その重量の65%以上リサイクルすることが要求されているが、蓄電池の回収率に関しては計算しなくてもよいとされている。同指令に関しては、含水量を計算に含めるか否か、還元剤としての炭素の使用、電池のケーシングを計算に含めるか否かなど、まだ課題が残っている。

● UNEP Lead and Cadmium Programme(UNEP(国連環境計画)鉛・カドミウムプロジェクト)
 既存の「UNEP水銀プロジェクト」に類似した「UNEP鉛・カドミウムプロジェクト」への参加が呼びかけられている。「国際的化学物質管理に関する戦略的アプローチ(SAICM :Strategic Approach on International Chemical Management)」の一部である情報交換システム(Clearinghouse)に、鉛・カドミウムの代替及び排出削減に関する情報を掲載するように関係団体に要請している。
 規制に関する上記のような動向から言えることは、鉛は人体への影響という観点から考えると、安全な許容値(Safe threshold)を設定すべきではなく、例え人への接触が大変低いレベルであったとしても大きなリスクが存在する、といった見解が一部で持たれているということである。このような考え方が、より一般的に広まれば、鉛に関する規制がさらに厳しくなることが予想される。

2-3. 講演:『クリスタル製造における鉛の使用』

(Libbey Glass社 Maio Gomes氏)

 ガラスの製造時に酸化鉛等を加えることによりガラスに様々な特性が追加され、「クリスタル」と呼ばれる特殊なガラスとなる。鉛クリスタルは、世界的に有名な宝飾ブランドであるSwarovskiのストラス・クリスタル(Strass Crystal)が世界で最高品質のクリスタルとして名高い。
 酸化鉛(PbO)をガラスに加えることによってガラスの比重が高くなり、結果として屈折率が上がる。また、冷却時間も長くなるため、ガラス職人がクリスタルの形を成形できる時間も増え、作業がしやすくなるという利点もある。切断され磨かれれば、一般的な色のスペクトルは反射するため、虹のような輝きを放つ。鉛クリスタルのグラスで飲料水を摂取したとしても、鉛が飲料水に拡散することはなく、人体への影響は心配ないとされている。
 また、酸化亜鉛(ZnO)もガラス製造に使用される。酸化亜鉛は、ガラスの伸張性を低下させることによってガラスの耐熱衝撃性を高める。酸化亜鉛は他の物質と組み合わせて使われることがあり、鉛と組み合わされた場合には屈折率が上昇し、ホタル石(Fluorite)と組み合わされた場合には乳白色のガラス(opal glass)の形成を助長する。

3. 各委員会のプロジェクト進捗報告

3-1. ILZSG統計予測委員会

  完了したプロジェクト 進行中のプロジェクト 新規プロジェクト
報告書

・鉛亜鉛市場の年間レビュー
(2011年2月発行)

・統計データの更新とレビュー
(2010年末実施)

・月間統計報告書

・世界の一次・二次鉛製錬所の住所録(近日発行予定)

・鉛・亜鉛の一次利用法に関する報告書(2011年内発行予定)

・インド鉛市場調査

・ILZSGの統計の正確性に関する報告書(2011年10月発行予定)

・インド鉛市場調査
その他

・プレゼンテーションの実施

  『世界の鉛、亜鉛、ニッケル、銅市場の動向』インド金属学会の会合にて、『鉛・亜鉛の世界的な現状』Chanderiya製錬所訪問時

・Mining Journalに記事『亜鉛の立ち直り』を掲載 (2010年12月発行)

・鉛・亜鉛需給調査(年二回発表)

・リサイクル率計算法の開発(継続)

・鉛・亜鉛の一次利用調査(継続)

・地方セミナーの計画(継続)

・ILZSGのウェブサイトの向上

・統計データベースのカスタマイズ利用の実現化

・鉛・亜鉛鉱山・製錬所のデータベース及び、自由自在のインターフェース開発

 

3-2. ILZSG鉱山及び製錬所プロジェクト委員会

完了したプロジェクト 進行中のプロジェクト

・新規の鉛・亜鉛鉱山及び製錬所プロジェクト報告書:2011

 (2011年1月に発行),

・新規の鉛・亜鉛鉱山及び製錬所プロジェクト報告書:2012

3-3. ILZSG経済環境委員会

  完了したプロジェクト 進行中のプロジェクト 新規のプロジェクト
報告書

・鉛・亜鉛のバッテリー利用調査(2010年版、2010年11月発行)

・ILZSGインサイト報告書 『環境規制と鉛』(2010年9月発行)
 『税とロイヤルティ』(2011年1月発行)

・ILZSGインサイト報告書(継続)

・鉛の環境及び作業場での規制に関する報告:2011

・亜鉛の環境及び作業場での規制に関する報告:2011

 
その他

・CFCプロジェクト:

  IZA『中国における溶融亜鉛めっきのプロジェクト』

 (2010年11月)

・製品スチュワードシップGreen Lead Initiativesへの協力

・CFCプロジェクト:

 『マラウィの村における亜鉛空気蓄電池による電力供給』(継続)

 IZA『マラウィでの亜鉛含有肥料促進プロジェクト』

 ILMC『セネガルでの使用済み鉛蓄電池の回収プロジェクト』(継続)

・UNCSDへの協力(政府間フォーラムへの参加など)

・国連一次産品共通基金(CFC)プロジェクト

ILMC『西アフリでの、小規模太陽エネルギー利用システムにおける鉛酸蓄電池の使用』

4. 2011年秋季会合について

 国際鉛亜鉛研究会の2011年秋季会合は、2011年9月29~30日の2日間、ポルトガルのリスボンにて開催される予定である。

< 2011年秋季の国際非鉄金属3研究会の日程 >

9月26日~28日午前 国際ニッケル研究会、国際銅研究会 
9月28日午後 3研究会合同セミナー(テーマ:中国における鉛、亜鉛、銅、ニッケル市場の見通しの再評価)
9月29~30日 国際鉛亜鉛研究会

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