報告書&レポート
『レアアース・レアメタル投資会議』参加報告
![]() 写真1. 会場の様子 2011年3月17日に投資会社Objective Capital(本社ロンドン)主催によるレアアース・レアメタル投資会議(正式名:2011 Rare Earth, Speciality & Strategic Metals Investment Summit)がロンドンで開催された。同会議は2010年3月に初めて開かれ、今回は第2回となる。 http://www.objectivecapitalconferences.com/ocic/london_17mar11.html |
セッション1:Strategic Metals and Rare Earths |
1-1.『Strategic Metals and Conflict』
Global Witness(本部:英国)は、企業や金融機関、国が人権保護の観点からも含め法律に則って天然資源の調達や取引を行っているかを調査し、ロビー活動を行っているNGOである。本会議ではコンゴ民主共和国(以下、DRC)における戦略的鉱物の採取と紛争に焦点を当て、Mike Davis(Chief Campaigner)がDRCの現状と、同国および近隣国で錫、タンタル、タングステン、金の開発・取引・生産に携わる企業指針として導入された米国の規制、およびサプライチェーンのための経済協力開発機構(OECD)と国際連合(UN)のデューデリジェンスガイダンスの説明があった。
・DRCの現状
DRCは銅、タンタルや金などを豊富に有する資源国であり、世界全体のタンタル埋蔵量の8~9%が賦存しているとの見方もある。このため、内戦が続くDRC東部では紛争各勢力の主要資金源となっており、不法搾取や不法取引などが横行している。Davis氏は「資金(マネー)=支配力(パワー)」の構造は反政府軍、親政府軍ともに差異はないと指摘する。
天然資源を媒体にして行われる資金調達方法としては①鉱山そのものを支配、②不当税制-陸・空など要衝(チェックポイント)での天然資源物に対する不当徴税、③軍幹部による鉱山権益の占有などが挙げられる。これらの過程で外国企業や投資家が紛争に関与している例も認められていることから、その対策として、2010年7月の米国金融規制改革法の条項に、「DRC及び隣国産の紛争鉱物を製品に使用する企業のSEC(Securities Exchange Commission、米証券取引委員会)に対する報告義務」(1)が盛り込まれた。法案条項の最終規制が公表されるのは2011年4月中旬の予定(その後、8月以降に延期された)。指定された対象企業は、翌会計年度から報告書の作成が義務付けられる。また、SEC報告義務化と並行する形で、国連/OECDデューデリジェンス・ガイダンスが2010年12月に公表された。このガイダンスは紛争鉱物の調達、流通を違法化するのではなく、情報の透明性を高めることで企業の紛争関与を防ぐことを目的としている。しかしながら、SEC報告への報告義務化と混同するとの声も出ており、一本化も検討されている。国連は紛争鉱物をDRCに限定しているが、OECDはアフガニスタンなどを含む世界における紛争鉱物を対象にしている。
紛争鉱物への規制強化や指針の制定に伴い、企業からの積極的な関与と協力が期待される。講演後、進行役のEric Kohn氏(Noventa社,Chairman)から、企業側も既に自主的に取り組みを進めている一例として、日本のソニーや日立、米IBMなどを中心としたEICC(電子業界行動規範推進グループ)についてのコメントがあった。
SEC報告の主な内容は以下のとおり。
-原産国および流通過程おける適正調査(デューデリジェンス)の実施
-監査報告書は、独立した第三者機関が行う
-DRCを原産国とする紛争鉱物が製品に含まれないことを示す製品情報開示
-同紛争鉱物の選鉱・処理施設の証明
-同紛争鉱物の原産国の証明と、産出鉱山および原産地を可能な限り特定する
UN/OECDデューデリジェンス・ガイダンスは5つのステップ」から成り立つ。(2)
ステップ1:企業管理の強化
ステップ2:サプライチェーンにおけるリスクの特定と評価
ステップ3:特定されたリスクに対応するための戦略計画と実施
ステップ4:独立第三者機関による監査の実施
ステップ5:サプライチェーンのデューデリジェンスと情報の公開
(1)(2)カレント・トピックス11-07号「コンゴ共和国産等の紛争鉱物に関する米国の規制と関係業界の動向」を参照。(http://www.jogmec.go.jp/mric_web/current/11_07.html)
1-2.『Where are the Strategic Metals Projects?」』
レアアースの資源分布に関するリサーチや投資情報などを探鉱企業や資本家に提供するIntierra社(豪)のJess Pridomore氏(Director, Business Devision )から、レアアース・レアメタルの探鉱開発動向と分布地域、国や企業による資金調達と投資状況について、最新報告(2010年1月~2011年2月)があった。同社のレアメタル調査にはリチウム、タンタル、ニオブが含まれる。
〈レアアース開発案件と生産の世界分布について〉
・レアアースの生産プロジェクトに関し、同社が生産量を把握しているものは以下3件
-Bayan Obo(中国)、年間生産量120千t
-Manavalakurichi(インド)、年間生産量2.7千t
-Nuclemon Monazite Sands(ブラジル)、年間生産量650t
・開発段階のプロジェクトは1件
-Mt Weld Rare Earth Mine(西豪州)、2011年の推定生産量は10.5千t
・FS段階のプロジェクトは8件
-Kutessay II(キルギスタン)
-Nolans Bore(豪州、2013年生産開始予定で予測年間生産量は20千t)
-Dubbo Zircon/REE(豪州東部、予測年間生産量1.2千t)
-Thor Lake(カナダ、2014年以降の予測年間生産量10千t)
-Eco Ridge(カナダ)
-Mountain Pass(米、2012年生産開始予定で推定年間生産量20千t)
-Pitinga Stockpiles(ブラジル)
-Steenkampskraal(南アフリカ、2010年に1億US$資金調達)
〈資源国と資源量〉(表1参照)
・最大資源国は中国が突出しており、続いてオーストラリア、米国となっている。
・粗鉱埋蔵量ではモンゴルが第3位の米国より多いが、低品位であるため第4位となった。
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〈資金調達〉
・2010年の資金調達総額は世界で18億US$を超えた。
・国別では、レアアース分野、リチウム、タンタル分野ともに、豪州とカナダで中国を上回る活発な資金調達が行われた。
・資金の投資項目は、資本支出が938百万US$と調達総額の約半分を占める。続いて開発が673百万US$、探鉱が169百万US$、資産買収が40百万US$の順になっている。
・企業別ではMolycorp Inc社が米国のレアアース鉱山の設備改善、Frontier Rare Earths Ltd.社は南アフリカのレアアース鉱床開発、Lithium Americas Corp社はアルゼンチンのリチウム鉱床開発などに投資している。
・企業の開発プロジェクト(グラスルーツ探鉱を含む)に対する投資動向では、投資額規模上位20案件のうち、14案件がカナダでの開発投資に向けられ、同国への関心の高さを示した。また、カナダでの開発プロジェクトは未探鉱プロジェクトが大半を占めている。
表2. レアアースに係る国別の資金調達額(ニオブを含む)(2010年) |
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表3. リチウム及びタンタルに係る資金調達額(2010年) |
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1-3. 『From mine-to-market in rare earths」
レアアースの採掘から開発、レアアース製品の生産までを手がけるGreat Western Minerals Group Ltd.(本社:加。以下GWMG)のGary Billlingsley氏(Exective Chairman)からは、同社の経営戦略と昨年(2010年)の会議以降の開発案件の報告があった。
同社は中国以外でレアアースの開発、加工、分離、レアアース合金の生産を目指す。レアアースの主要産出国である中国が自国内資源の管理を強化する傾向が強まっているなか、今後、中国以外にも供給源の拡大が必要になるとの見方から、同社はレアアース鉱石採掘からレアアース合金製造までを一貫して行う業界でも特異な経営戦略=Mine-to-Market(M2M)を展開している。2005年に研究・開発専門会社、Great Western Techonologies社を設置。2008年には生産を担うLess Common Metals(以下、LCM)社を完全子会社化した。
〈製造過程〉
・LCM生産工場(英国、Birkenhead)では永久磁石合金の製造に重点を置き、軍用機分野における永久磁石市場の世界シェア拡大を目指す。
・サマリウム・コバルト合金の供給は世界市場の20%を占める。
・供給先はEU諸国-60%、日本、中国、台湾などアジア諸国-30%、米国-10%である。
・需要の拡大により、日本や欧州製造会社と連携してネオジウム鉄ボロン合金の製造にも乗り出している。
・製品の用途としてはスイス製時計、EU域内の航空・宇宙部品、自動車、工作機械、誘導装置など。
・新型鋳造溶鉱炉を導入することで2011年後半からレアアース・メタル製造が可能になり、中国外では唯一、レアアース金属生産が同工場で行われる。2011年のレアアース合金の年間生産量は2千tを見込む。
・軽稀土のランタン、プラセオジム、ネオジム、および重希土のジスプロシウムを抽出する。
〈開発過程〉
・Great Western Technologies(Troy,米国,ミシガン州)は研究・開発施設で、米国のレアアース産業の活性化に向けて、米国防総省の国防高等研究計画局と連携して軍事用航空・宇宙関連の超合金研究、開発に取り組む。
〈採掘(Mining)プロジェクト〉
・南アフリカのSteenkampskraalプロジェクトでは高品位(16.7%REO(レアアース酸化物))のレアアース鉱床が確認されている。原子力ライセンスを取得したことでトリウムの保管も可能になる。マインライフは10年で、2011年Q4に第2段階のFSが終了予定。2012年Q1に分離製錬プラントの建設が開始され、同年Q4に完成予定。2013年秋までに年間2.7千tの生産量を見込む。さらにプラントを拡大し、年間生産量5千tを目指す。
〈探鉱(Exploration)プロジェクト〉
・GWMGが手がける探鉱プロジェクトは4件で、重希土を重点に行っている。
-Hoidas Lake(Saskatchewan、カナダ)。開発間近のプロジェクト。精測及び概測資源量は2.5百万t(2009年)で、主要元素はネオジム。2015年に生産開始予定。
-Deep Sands,(ユタ州、米国)
-Benjamin River(New Brunswick、カナダ)
-Douglas River (Saskatchewan、カナダ)。重希土が100%
JVによるカナダでのプロジェクトは3件
-True North Gemsとの提携によるTrue Blue REEプロジェクト
-Search Mineralsとの提携によるRed Wine REEプロジェクト
-Cornerstone Resourcesとの提携によるChaleur REEプロジェクト
セッション2:Lithium, Molybdenum and Tungsten |
2-1.『Outlook for the Lithium Market』
Chemetall社(独Frankfurt,NYSE上場)のJames Cross氏は今後のリチウム需給の動向、自社プロジェクトの概要について講演した。同社はリチウム生産ではFMC,SQMと並ぶ3大企業の1つ。主として塩湖かん水よりリチウムを回収。リチウム市場では世界シェアの50%、炭酸リチウムでは同約30%を占める。
(1) 電気自動車市場の拡大とリチウム需要
同社が発表した2009年のリチウム消費は約100千(炭酸リチウム換算)であった。
地球温暖化対策として世界では温室効果ガス排出削減の取り組みがなされており、今後はエコカーとして電気自動車の需要が緩やかに増加し、2020年には5~7百万台の生産が予想される。電気自動車の需要増加に伴いリチウム需要も増加する。現在、炭酸リチウム、水酸化リチウムの主な用途はリチウム・イオン・バッテリーであるが、電気自動車への利用を視野に入れて寿命が長く軽量のリチウム・イオン・バッテリーの改良開発が活発に進められている。
電気自動車(EV)1台あたり約22 Kgのリチウム(炭酸リチウム換算)が必要となることから、電気自動車が1百万台増加すると約22千tのリチウム(炭酸リチウム換算)が必要になる。このことから2020年までに電気自動車のシェアが全体の10%(7百万台)を占めた場合、リチウム需要は120千~150千t増加する計算になる。
マーケットリサーチ数社の報告をもとに同社がまとめたリチウム需要の見通しによると、2030年までの需要伸び率は電気自動車の普及を見込まない場合(コンピューターや携帯電池などの利用のみ)では2010年比20%強であるが、電気自動車(HEV(ハイブリッド車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)、EV(電気自動車)を含む)普及を見込んだ場合、少なくとも同120%強、最高で同460%の増加が見込まれる(図1参照)。

(出典:講演資料より)
図1. リチウムの需要予測
(2) リチウムの世界埋蔵量
Roskill社のデータによると、リチウム資源は南米、北米、中国に多く分布し、世界のリチウム埋蔵量は約30,000千t(炭酸リチウム換算では約160,000千t)と推定され、うち採掘可能なリチウムは14,000千t(炭酸リチウム換算では74,000千t)と推定される。現在のリチウムの全体需要量は23千t(炭酸リチウム換算では122千t)であり、したがって需要が増加しても供給量は十分にあると分析される。需要拡大に伴い、世界で50件の開発案件が進行中で、回収方法は塩湖からのかん水が主であり、続いて鉱石、地熱発電所(熱排水)からの回収となる。
(3) リチウムの生産
続いて、リチウム生産の現状とChemetall社の経営状況の説明があった。同社は今後もリチウム生産の増加を続ける方針で、リチウムバッテリーのリサイクルにも取り組んでいる。現在、リサイクルは銅、ニッケルなどに限られており、リチウムのリサイクルは実施されていない。リチウムバッテリーの寿命を10年間と仮定すると、2020年以降に電気自動車利用が普及した場合、2030年にリチウムバッテリーが大量に廃棄されることが予想される。同社はこのことを踏まえ、ドイツ環境省の支援を受け、リチウムバッテリーのリサイクルプロジェクトを実施している。
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2-2.『Lithium Oversupply?』
戦略的メタル(Strategic Metals)専門家のGerry Clarke氏からはリチウムの需要と生産、供給についての説明があった。
・リチウム需給の見通し
炭酸リチウムの価格は1999年に需要の落ち込みにより60%下落した(1995年の4.3千US$/tから1.6千US$/t)が、2000年以降は環境問題を背景にした自動車産業やエネルギー業界による新市場の開拓、先端技術の開発に伴うIT業界の急成長などを受けてリチウム需要が再び活発化した。需要増加を見込んで、現在50社が世界で82のプロジェクトを展開し、炭酸リチウムの価格は4.5~5千US$/t程度まで持ち直している(SignumB社調べ)。世界のリチウム需要について同氏は、2020年では年間283千t(炭酸リチウム換算)とのByron Capitalによる予測を紹介し、世界各国の埋蔵量は13,000千t(炭酸リチウム換算、表6参照)とのデータと合わせて、今後リチウムの需要が増加しても供給量は十分との見解を示した。また、2030年代からはリチウムバッテリーのリサイクルの普及が予想されるため、プライマリーの需要量は減少するとの見方を付け加えた。
需給バランスについては、2020年の需要量283千t(炭酸リチウム換算)に対し、年間生産量は中国でのかん水と鉱石からの生産量100千t(炭酸リチウム換算)、および今後開発予定のプロジェクトも含めると493千t(内訳は表7及び表8参照。)と予測されることから、2020年には約200千tのリチウムが供給過剰になる見込みである。
・リチウム需要の見通し
Byron Capitalがまとめた2011年のデータによると、今後10年間でリチウムの用途は、従来のガラス、陶器、油脂、アルミニウムでは、需要全体の73%から42%に減少し、一方で、電池など先端技術分野でのシェアは27%から43%に上昇し、現在はシェア0%である原発を主としたエネルギー分野のシェアは15%になると予測される。なお、同氏は日本の震災による原発事故に触れ、エネルギー分野での需要は一時的に後退傾向が見られるものの長期的には影響は出ないとの見解を示した。
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表7. 主要リチウム生産者による2020年時点での生産量予測 |
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・注目される開発中のプロジェクト
[1] Canada Lithium社によるケベックでの最終段階の炭酸リチウム露天採掘鉱山プロジェクト。
2012年に生産開始予定。精測・概測資源量は、46百万t(Li2O品位1.19%)、予測資源量は、57百万t(Li2O品位1.18%)
[2] Nemaska Exploration社(本社カナダ、ケベック、TSX上場)が、中国のリチウムバッテリー大手Sichuan Tiangi Litium Industries社と提携。Tiangi社はこれまで豪州などからスポジウム(リシア輝石)鉱石を輸入し、炭酸リチウムを生産していた。カナダにて鉱石の手当て及び生産を拡充する考え。
[3] Orocobre社(豪州、ASX,TSX上場)によるアルゼンチンでの最終段階のプロジェクト。Jujuy州にて2プロジェクトを開発中。うち1件はEIS認可を取得し、もう1件は認可申請済み。
・新規プロジェクト
[1]油田
カナダChannel Resources(本社バンクーバー、TSX上場)によるLeduc/Beaverhill Form’s(アルバータ州)でのプロジェクト。炭化水素水(hydrocarbon well water)からリチウム、臭素、ボロン、カリウムを回収。
[2]地熱
米国Simbol Materials社によるSalton Sea(カリフォルニア州)でのプロジェクト。小規模ながらも高品位(99.999%)の炭酸リチウム(Li2CO3)を生産。
[3]海水
韓国POSCOによる5カ年プロジェクト。2014年までに年間20千~100千tが生産可能な海水からの回収プラント建設を計画。資源量は少ないが技術開発で供給を確保する。
・注目される探鉱企業
[1] Talison Lithium(豪州、TSX上場):
豪州西部に世界最大かつ高品位(Li2O品位3.9%)のスポジウム鉱床を有する。2010年にSalares Lithium Inc.と合併、かん水開発に乗り出した。チリのアタカマ塩湖で7つのプロジェクトを展開。2011年2月に2か所でボーリング調査を開始した。鉱石とかん水の両方で事業を展開し、炭酸リチウムの供給先を中国以外に拡大させる計画。
[2] Galaxy Resources(豪の新会社):
2011年Q2から、中国のJiangsu Province, Zhangjiagang Port工場でLi2CO3を年間17千t生産する予定。中国での炭酸リチウム生産に焦点を当てる。
2-3.『The Next Tungsten Producer』
・Woulfe Mining Corp (本社TSX上場)は2005年から韓国で探鉱開発を展開する探鉱開発ジュニア企業。2009年の経営再編によってOriental Minerals Inc. からWoulfe Mining Corpに改称。
同社の開発プロジェクトではKorea Zinc社が11百万C$を出資(出資比率30%)。主に機械部品の材料として利用されるタングステン需要の増加が見込まれる。タングステンは中国が全世界の生産の84%を占める。
同社は、世界最大級のタングステン鉱床が賦存している韓国での開発・生産プロジェクトに焦点を当てる。韓国は経済規模では世界で第11位、貿易では世界第7位であり、教育水準が高く、政治的リスクも少ない。加えて外国企業に対して100%の所有権を認めているなどの利点もあることから、韓国への投資可能性は有望視されているという。
同社は韓国で5つのプロジェクトを展開。なかでも生産間近のSangdong再開発プロジェクトに力を入れている。
(1) Sangdong プロジェクト
ソウル市の南東部に位置する世界最大級のタングステン鉱床だったが、中国の生産力増加でタングステン価格が下落し、1992年に閉山した。その後、2010年に同社が開発ライセンスを取得し、探鉱を再開。現在ボーリング調査中で、2011年半ばまでにFS段階を終え、2012年末の生産開始を目標にしている。
現在の計画では、年間の鉱石処理量は1.2百万t、生産量は400千MTU(WO3)。FS終了後に、Korea Zincが75百万C$を投資する予定。資源量はHanging Wall、 Foot Wall鉱体合わせて103.2百万t、同タングステン(WO3)品位0.353%(カットオフ品位0.1%)、二硫化モリブデン(MoS2)品位0.04%となっている(2010年3月時点)。過去のボーリング調査によるとモリブデン推定資源量は15百万t、MoS2品位0.3~0.4%(カットオフ品位0.16%)だった。
ボーリング調査により、鉱区内の他のエリアで高品位の鉱体も確認された。
(2) 他の主要開発プロジェクト
・Muguk-韓国最大の金鉱床。1997年に閉山。過去の調査報告(KORES)によると、金資源量は620,000 oz、金品位13.5 g/t、銀資源量は3.3百万t、銀品位78.5 g/t(カットオフ品位10 g/t)が確認された。近くボーリング調査を開始する予定。
・Ogchon-ウラン探鉱プロジェクト。現在、7鉱区に関し探鉱ライセンスを取得。さらに4鉱区のライセンスを申請中。予察的な調査ではウラン品位0.04%、バナジウム品位0.3%が確認されている。
2-4 .『Where Next for Molybdenum』
・Moly Mines Ltd.(本社:豪州、West Perth, ASX、TSX上場)、講演者:John McEvoy(Chief Financial Officer)
豪州西部のSpinifex Ridgeを拠点に鉄鉱石の採掘、およびモリブデン、銅の開発プロジェクトを手がける。2010年4月に電気機器や医薬品、インフラ開発など幅広い分野を手がける中国の漢龍集団が同社株式56.6%を取得した。さらにモリブデンの開発に向けて中国開発銀行と中国輸銀からそれぞれ2.5億US$相当の資金調達を行う予定。同社への中国資本参入の背景には、モリブデンの最大需要国である中国が需要増加に伴って国外からの供給先を確保したいとの思惑がある。
鉄鋼の添加剤であるモリブデンは自動車産業や原子力発電などエネルギー産業に不可欠であり、2015年までに年間5~6%の需要増加が予測されている。
Spinifex RidgeのGallifrey、Auton、Dalek鉱区では2010年Q4から鉄鉱石の生産が開始された。鉱石資源量は4.3~4.6百万t、2011年度の推定年間生産量は826,000 tを見込む。(鉱石資源量は表9参照)。マインライフは最低5年。
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● Spinifex Ridgeモリブデン・プロジェクト
Dalek鉱区付近で、主に中国資本によって展開されている露天採掘プロジェクト。FS段階が終了し、モリブデン年間生産量12~13百万lbsを見込んでいる。China Development Bank、China Export and Import Bankからの資金調達が行われ次第、建設工事に着手する予定。建設期間は2年間。マインライフ20~40年。データは表10参照。
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セッション3:Tantalum,Niobium & Conflict Free Material |
セッション3では、「安全地帯における供給-タンタルとニオブ」をテーマに3社が講演した。
進行役のJohn Menzies氏(President,CMI Capital)からは、タンタルの需給動向について説明があった。優れた機械加工性と耐熱性に富むタンタルは化学器具やコンデンサーの素材として幅広い分野で利用されている。2000年には需給逼迫感を背景にした企業の買占めが起こり、タンタルサプライチェーンの供給活動に拍車がかかったが、供給過剰となりタンタルの価格は大幅に下落、最大手のGlobal Advanced Metals社が閉山に迫られた。その後、携帯電話など電機分野の成長に伴いタンタルの需要も再び増加し、市場価格は落ち着いてきている。
需要増加によって、Global Advanced社も生産を開始した。現在、タンタル、ニオブの世界生産シェアは以下の3社が占めている。
3-1.『Exploring for Niobium in Greenland』
・Ram Resources(本社豪州、West Perth、ASX上場)のMike Drew氏(Managing Director)がグリーンランド南部のMotzfeldt開発プロジェクトを説明した。これまでに資源量が確認されているものの、グリーンランドでの外国企業による探鉱開発はまだ少ない。その一方で2002年以降、開発ライセンスの認可数は4倍になっている。グリーンランドはデンマーク領だが、2010年に自治権を獲得、2020年には独立国になる見通し。
航空分野、電機分野の発展に伴い、原料であるレアアースの需要も増加している。タンタル供給では、紛争鉱物に対する米国の規制導入によって主要産出国であるDRCからの供給が減少するとの見通しから供給・生産国の拡大が必要になり、政治的にも安定したグリーンランドが今後注目される。また、レアアース全体では中国の輸出規制により過去12か月間で価格が高騰(3)、日本、米国、欧州諸国が中国以外のレアアース供給先を模索している。タンタルの市場は今後、年平均5~7%で成長すると見込まれている。ニオブはCBMM社が供給・生産の世界シェア80%を占有しており、需要増加率は2014年まで年間15%上昇するとみられている。
(3) 価格上昇率:酸化セリウム(Ce oxide)約1200%、酸化ランタン(La oxide)は約1,500%、酸化ネオジム(Nd oxide)は約450%
● Motsfeldt開発プロジェクト
タンタル、ニオブ、レアアースをターゲットとする多金属鉱床プロジェクトで、現在、ボーリング探鉱段階。Ram社が51%の権益を所有する。1980年代のGreenland-Danish Geological Survey(GEUS)で鉱床の胚胎が確認されている。
Aries鉱区では、同社が始めたこれまでのボーリング調査で、地表下20 m地点でTREO(総レアアース酸化物)4.852 ppm、25m地点ではTREO 5.031 ppmが確認されている。軽希土酸化物が85%、重希土酸化物は5%、酸化イットリウム(Y2O3)が10%で構成される。2011年末までに予測資源量の報告を終了する予定。2010年の調査のTREOは、Ce 41.3%、La 22.2%、Nd 13.9%等となっている。(表11参照)450百万t、Ta2O5品位135 ppmの採掘を見込む。生産開始は4~5年後の見込み。
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3-2.『Building a Tantalum Supply for the EU』
・Solid Resources (本社カナダ、バンクーバー、TSX 2011年1月上場予定)は2005年設立で、錫、タンタル、リチウムなどのレアメタルを対象とするジュニア探鉱会社で現在はスペインの錫鉱床での開発プロジェクトに重点をおいている。
講演をしたGreg Pedura(Managing Director)氏によると、携帯電話やコンピューターに利用されるタンタルは、今後とも欧州諸国の需要が高まる見込み。現在タンタル、錫の主な産出国はDRCであるが、紛争鉱物に対する米国の規制導入によってサプライチェーンにも影響が出るものと思われる。同社は欧州諸国の市場に向けて治安面、流通面でも地理的に便利なスペインでの開発に重点を置く。
他にペルーの金、銀、銅鉱床の面積1,000 haの範囲で開発プロジェクトの計画がある。50万US$で100%の権益取得が可能。
● Doade-Presueira Property開発プロジェクト
スペインの北西Pontevedra市から東25 ㎞に位置する錫鉱床を対象とした初期開発段階のプロジェクト。面積は12.108 ha。2010年3月にJORC規程による資源量評価が終了し(数字データ待ち)、2011年1月に地表と坑内よりボーリングを開始。2003~05年に行われた調査では、タンタル228 g/t、錫1,271 g/t、リチウム3,405 g/t、ニオブ137 g/tが確認された。
3-3.『Niobium in the American Heartland』
・Quantum Rare Earth Development Corp.(本社カナダ、バンクーバー、TSX,FSE上場)はレアアースのジュニア会社。米国ネブラスカ州でニオブ開発プロジェクトを展開。
ニオブは鉄鋼の強度を増す添加剤として、自動車産業や航空・宇宙分野などで使用される。軍用機製造など米国で消費されるニオブは100%を輸入に頼り、年間8.5千~10千tを輸入している。ニオブ需要はここ7年間で約2.5倍(30千tから80千t)に伸びている。現在、ニオブを使用した超合金の生産は全体の10%だが、中国を除く新興国の需要増加に伴い20%まで伸びることが予想される。ブラジルの鉱山会社CBMMがニオブ生産の世界シェアをほぼ独占しており、2011年3月に、日韓コンソーシアムが同社に出資し(出資率は15%)権益を獲得した。Peter Dickie氏(CEO)が、米のElk Creek Carbonatite開発プロジェクトを説明した。このほかに同社はカナダでArchie Lake,Saskatchewanプロジェクトと豪州で2件のグラスルーツプロジェクトを手がける。
Elk Creek Carbonatiteプロジェクト
米国ネブラスカ州の調査段階の開発プロジェクト。1980年代にMolycorp社が資源調査を行い、資源量が確認されている。2011年5月までにJORC規程による資源量調査を終了し、空中磁気探査終了後、5月にボーリング採掘を実施する予定。現在の資源予測量は83.4百万t、Nb2O5品位0.62%(カットオフ品位0.40%)、ニオブ含有量513.184 tである。
セッション4:Speciality Metals |
セッション4ではアンチモン、ベリリウムを手がける2企業と、レアアース・レアメタルのリサイクル実用化に取り組む企業の3講演があった。
4-1.『Italian Antimony』
・Adroit Resources(本社カナダ、バンクーバー、TSX、FSE上場)は金、銀、アンチモンを採掘するジュニア探鉱会社。James Cross氏(Director)が、同社の主要プロジェクトであるイタリアのアンチモン開発プロジェクトについて説明した。
アンチモンは合金、プラスチックボトルなどの難燃助剤として幅広い分野で使用されているが、添加率は微量であるため、需給変動による相場への影響は小さい。
しかしながら、主要産出国の中国が(世界シェア91%、湖南省の1会社が世界供給の50%以上を占める)アンチモンの採掘・生産を2010年に制限したことなどを受けて供給不足、価格の高騰懸念が高まっている。
2010年6月にEUが発表した「Critical raw materials」にはアンチモンが含まれ、欧州諸国内での供給確保の必要性が指摘されたが、現在欧州でアンチモンを採掘、生産している国はない。北米でアンチモンを生産している企業は1社(中国系)だけである。
イタリア政府はアンチモン供給不足による価格上昇が同国の製造業を圧迫するとして、EUに対してアンチモンに対する関税撤廃を要求している。同社はイタリアでの採掘、生産がEUにおけるアンチモン供給の重要課題になるとみている。
● Grosseto Province開発プロジェクト
イタリア中西部のGrosseto地方に位置する初期段階のプロジェクト。I Monti(273 ha)、Poggio Fogari(439 ha)、I Salaioli(366 ha)、Poggio Monticchio(162 ha)、Faggio Scritto(246 ha)、Poggio Pietricci(653 ha)-6鉱区の探鉱権を所得し、2010年11月からサンプリング、地化学探査地質調査等を開始し、JORC規程による資源量調査を終了後、2011年夏にボーリング調査を実施する予定である。同社は資源量100千t、マインライフ10年間を見込む。過去の資源量報告では50千tの賦存量が確認された。中国以外で最大のアンチモン産出を目指す。
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4-2.『From Mine-to-Market in Beryllium』
IBC Advanced Alloys (本社カナダ、バンクーバー、TSX上場)は採掘から製造、販売までを手がける鉱山会社。設立は2007年で、2010年度の利益は14百万$。
軽量で高強度のベリリウムは金や銅、アルミニウムの合金材料として使われ、航空宇宙分野やX線機器などに多く利用される。同社は米国ユタ州、コロラド州、ブラジルに鉱区を保有。製造は米国内の4工場(インディアナ州、マサチューセッツ州、ペンシルバニア州、ミズーリ州)で行われる。販売先の30%はアジア、20%が欧州諸国で、取引先にホンダ、東芝、日本特殊陶業などがある。Anthony Dutton氏(CEO)は同社の特徴として、業界でも珍しい鋳造可能なキャスタブルベリリウムの生産と、原子炉燃料におけるベリリウム利用の研究開発に力を入れていることを指摘した。
ベリリウムのキャスタブル化によって部品の量産が可能となり、効率が上がることでコスト削減できる。米国防省からの支援も受け、軍需面での供給拡大を見込む。原子炉燃料については、高強度で熱伝道率に優れた酸化ベリリウムと酸化ウラニウムを混合させることにより発熱効率や熱拡散効率の高い物質を開発することができる。これを原子炉燃料に利用すればウランの使用量を減らすことができるほか、熱効率が向上して燃料の冷却時間も大幅に短縮できる。
同氏は日本の震災による福島原発事故に触れ、この分野の開発、実用化の重要性を強調した。同社は現在、Purdue and Texas A&M UniversitiesとGE社などと協力して特許を視野に入れた原子力燃料用物質の開発に着手している。2011年2月には日立や東芝が開発協力に合意した。
4-3.『Recycling Strategic & Speceality Metals』
・Oakdene Hollins(本社英国、バークシャー)は英政府のDepartment for Environment, Food and Rural Affairs(DEFRA)とパートナーシップを結ぶ環境リサーチ・コンサルタント会社で、企業や団体に対して持続可能な資源を利用した新製品の開発アドバイスや規程に沿っているか等の審査を行っている。本会議ではPeter Willis 氏(Tech Consultant)が、EUが策定した14鉱種のCritical Raw Materialsをもとに、経済効果、環境への影響、使用目的などの観点からリサイクル可能な分野、物質について分析、説明した。
・リサイクルが進む分野
-航空機:2020年までに約1万2千機の航空機が寿命を向かえることから、解体方法次第では
全体量の85%がリサイクル可能。エンジン部分の超合金からは銅、ニオブ、タンタル、ギア部分ではベリリウムの再利用が可能。
-レアアース磁石:裁断したハードディスク(HDD)からレアアース磁石を取り除くリサイクル技術を日立製作所が開発。
-フラットパネルディスプレイ(FPD):廃電気・電子製品からFPDを分離し、FPDの主材料(80%)であるITO(Indium Tin Oxide)を再利用。
-バッテリー:リサイクル回収制度が整っておらず、現在の回収率はニッケル水素電池が2%、Lリチウムイオン電池は1.5%に留まっている。リサイクル回収システムの整備が必要。また、バッテリーのリサイクルでは銅の再利用は行われているが、レアアースおよびグラファイト(黒鉛)の再利用は行わられず無駄になっている。
その他、回収システムの整備によって飲料用の缶からマグネシウム、触媒からは白金族金属の再利用量の増加が可能になる。
以下、リサイクル可能な分野と成分
・超硬工具部品-コバルト、タングステン
・触媒-レアアース
・難燃剤-アンチモン
・スチール製品-グラファイト、蛍石
所感
昨年(2010年)、中国がレアアースの輸出管理を強化したことを背景に、今回の会議ではレアアースやタングステン、アンチモンなど中国依存度の高い鉱種について、供給ソースの多角化の観点より、中国以外のプロジェクトの紹介が数多くなされた。Speciality Metalsを扱う会議は、ロンドンでは珍しいことから、会場には約100人程度の投資家や関係者が集まり、活発な意見交換がなされ、Speciality Metalsへの投資が、投資家の間で急速に関心が高まっていることを感じることができた。ロンドン事務所としては引き続き、レアアースやリチウム等、日本の先端産業に不可欠で、今後需要の増加が見込まれる鉱種について注視していく所存である。
