閉じる

報告書&レポート

2011年7月7日 ロンドン事務所 北野由佳
2011年32号

欧州委員会「コモディティと原材料:挑戦と政策対応」会議参加報告“Commodities and Raw Materials:Challenges and Policy Responses”

 2011年6月14日、ブラッセルにおいて欧州委員会欧州政策顧問局(BEPA:Bureau of European Policy Advisers)主催による“Commodities and Raw Materials: Challenges and Policy Responses”に参加した。本会議では11月にフランスを議長国として開催される次回のG20を意識した内容の演説及びパネルディスカッションが行われた。欧州委員会、各国政府代表、産業界代表等700名超(外部登録者数549名)が参加し、異なる視点からの意見交換があった。以下、会議の概要を報告する。
 (※BEPAのホームページに本会議のスピーチ、ハイライト映像等が掲載されている。)
 http://ec.europa.eu/bepa/expertise/conferences/raw_materials/index_en.htm

基調演説するサルコジ仏大統領
基調演説するサルコジ仏大統領

1. 開会:

 冒頭、欧州政策顧問事務局(BEPA)事務局長 Jean-Claude Thébault氏が開会の挨拶を行い、その後の司会・進行を務めた。

2.基調演説:

2-1. José Manuel Barroso欧州委員会委員長
 フランスが議長国となる次回のG20で優先的に話し合うべきことはコモディティ価格の過度なボラティリティに対する対策であり、ドーヴィルでのG8でも原材料価格のボラティリティの緩和に関する話し合いと協力を強化することで同意している。本日のセミナーは、カンヌで11月に開催されるG20の予備会談として、コモディティという複雑なテーマを話し合うよい機会である。G20では原材料の産出国及び消費国が一同に集まるため、国際レベルでの協調を強化するには最適の場となり、一貫性のある協調した行動こそが我々が現在直面している問題を解決する糸口である。昨今、コモディティの現物市場と金融市場との相互依存性(interdependence)が見られ、生産物の不平等な分配にもつながっており、適切なレベルの規制が必要とされる。コモディティ及び原材料の生産と消費のバランスが取れている国はほとんどなく、それは大規模な国際市場が機能しなければならないことを意味する。つまり、コモディティ及び原材料供給の安全保障に関する問題は、世界中全ての人々に関わる問題であり、その問題を解決することは我々にとっての共通の利益となる。
 コモディティの現物市場と金融市場の相互依存性に関しては、十分な情報の欠如のため、その影響力を的確に評価するのが困難になっている。現在の課題は、情報の透明性を高め、市場の利害関係者が状況をよりよく把握できるようにして、ボラティリティを減少させることにある。市場が正常に機能し、適切な価格設定とリスク評価のために必要とされる情報の透明性が達成され、市場の参加者に対して平等な条件を与えられるような規制を設ける必要がある。新たな規制の策定に関しては、利害の不一致から批判的な立場をとる人々もいるであろうが、市場における欠点を改善していくことは、全ての人々にとって共通の利益であることを強調したい。欧州議会では2011年10月に、企業がその活動内容を公表することを義務付けることを含む政策案を発表する。汚職を取り締まるためには世界レベルでの強調した対策が必要であるため、全てのパートナーに対して同じようなアプローチを取ることを要請する。
 コモディティと原材料に関する問題に関しては、世界レベルでの包括的かつ協調的な対応が必要であり、この課題をG20の優先議題として取り上げているフランスの意欲と先見に対して感謝したい。

2-2. Nicolas Sarkozy仏大統領
 高騰する原材料価格は世界成長にとっての脅威であり、G20は持続可能な成長のために必要とされる原則を設定する必要がある。銀行や金融商品に対して規制を設けるのと同様に、コモディティ市場に対しては、規制が必要である。規則なしに市場が機能するというのは誤った考えである。金融市場に対する規制緩和は世界を困難な状況に陥れ、同じような状況がコモディティ市場で発生するのを防ぐため、ただちに行動しなくてはならない。
 我々は三つの課題を抱えている。一つ目は「生産」である。世界の需要に答えるため、適切な価格で十分な資源が供給される必要がある。2050年には世界人口は90億に達すると言われており、食糧品及びエネルギーを中心として供給の確保をしなくてはならない。
 二つ目は「透明性」である。市場経済の重要なカギは透明性である。透明性がなければ市場は存在しない。2002年に石油市場の透明性を促進するためJODI(Joint Data Initiative Organization)が設立されたが、全てのG20加盟国がJODIに完全な情報提供をすべきである。石油だけでなく、石炭やガスでも同様のシステムを設けるべきである。
 ボラティリティが天候や新興市場の需要増により引き起こされるのであれば、我々(G20各国)は容認できる。しかし、ボラティリティが原材料や農作物の金融化(financialization)により引き起こされるのであれば容認できない。コモディティ市場に関するデータ収集のための新しい情報収集システムを構築していく必要がある。
 三つ目は「規制」である。コモディティのデリバティブ市場を規制する必要がある。石油の金融市場の取引量は現物の35倍、CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)で取引される小麦の場合は現物の46倍といった例があり、このような状況は正当化できない。金融市場への参加者は増加する一方であり、懸念すべきことである。コモディティの金融化を禁止したり価格操作をしたりはすべきではないが、価格形成のプロセスが適切に機能することを確認し、許容範囲を超える市場の濫用(market abuse)を回避する必要がある。フランスが目標とすることは、G20 の加盟国が原材料及びコモディティのデリバティブ市場に対する規制及び管理の共通原則を採択することである。原則には、まずデリバティブ市場における透明性確保が含まれる。デリバティブ市場における取引に関する情報を収集する中央情報監視システム(register of information)の確立が必要である。またレバレッジ効果に制限を設ける必要があり、フランスとしては、全ての取引に対して最低保証金支払い義務(minimum cash deposit)を設定することを望む。また市場経済に反する保護貿易政策は取り締まるべきである。コモディティ市場には価格操作が存在し、これは世界的な対策を要しており、G20 で話し合うべきである。また米国のDodd Frank法と同様の規制を設定し、不当な行為は罰するべきである。同法は原材料のデリバティブ市場に取引制限(position limit)を設けており、これは有効な手段である。
 フランスは、原材料及びコモディティの規制を、最重要項目であると考えている。無節操な金融市場がもたらした過去の惨事から学び、安定性、透明性及び規制に基づく新しい世界を構築していくべきである。

3.パネルディスカッション「価格と供給を決定する要因は何か」

● 産業原材料(Industrial Raw Materials)
 司会:Fabrice Nodé-Langlois氏(Le Figaro紙)
 パネリスト:

 ―Antonio Tajani氏(欧州委員―産業・企業担当)
 ―Ke Tang氏(中国人民大学)
 ―Mitchell Hooke氏(豪州鉱業協会)
 ―Martin Abbott氏(ロンドン金属取引所(LME))

 司会:世界は歴史的に前例のないようなコモディティ価格の上昇に直面しているのか?
Abbott氏:確かにコモディティ価格は上昇し、上昇基調はしばらく続くと考えられる。銅を始めとして、ほとんどのベースメタルで価格が上昇したのは事実であるが、価格の上昇ではなく過度のボラティリティが問題であり、それを話し合うべきである。

 司会:ボラティリティとは一体何であるか?
Tang氏:ボラティリティとは、本来(金融商品)価格の変動比率という意味である。高いボラティリティは、金融市場の情報や需給といったファンダメンタルズに関する情報の透明性が低いことによって引き起こされる。またコモディティの金融化、つまりコモディティが金融商品として取引されるようになったことによる波及効果も一因であると言える。

 Abbott氏:ボラティリティは「不確実性(uncertainty)」と関係がある。確かにコモディティ価格は上昇したが、ボラティリティとは高値になることを意味するわけではない。価格の上昇が起こったのは、中国における需要急増によって従来の需給パターンに構造的な変化があったからである。そして、現物市場(physical market)における透明性が低下し不確実性が広がり、ボラティリティを悪化させた。ボラティリティは、市場が獲得したい情報を得られない場合に起こるが、もし市場に不確実性が全く存在しないとすれば、その場合には市場の存在理由がなくなる。

 司会:ボラティリティがあるということは困難な状況を意味するのか?
Tajani氏:現在問題となっているボラティリティとは「(想定外の)価格の変動」のことである。コモディティ価格は短期的には投機によって、長期的には需給によって変動する。世界産業の情勢は変化するものであり、需給バランスによる価格の変動は長期的に考えると問題ではない。しかし、短期的には、投機活動に関連性のあるボラティリティが発生し、我々はそれを監視する必要がある。また輸出規制といった保護政策は防がなくてはならない。例えば2010年中国は日本に対してレアアースの輸出規制を行った。これは市場に基づいた決定ではなく、政治的な決定であった。G20は投機活動による価格のボラティリティや輸出規制といった問題を政治レベルで話し合うには最適な場である。
Hooke氏: WTOで以前話し合われていた貿易保護政策というものは、輸出補助金や関税等貿易障壁に関することであった。しかし、現在問題となっている原材料の輸出規制についてWTOは十分に対応できていない。例えば、中国の輸出規制に関しては、「天然資源の保存に関する措置」としてWTOの規則の例外として扱われる可能性がある。最終製品(finished product)を輸出するために原材料を必要とする欧州にとって、中国のレアアース輸出規制に関するWTOの協議の進捗は重要である。

 司会:コモディティの金融化はどのように始まったのか?
Tang氏:2003、2004年ころから機関投資家が新しい資産としてコモディティに対して投資を始め、コモディティ市場に何百億US$という資金が流入した。これがコモディティの金融化の始まりである。複数のコモディティが組み合わされ、バスケット型の金融商品として取引されるため、石油市場や株式市場といった他の市場との関連性が強くなり、ボラティリティも上昇した。

 司会:コモディティの金融化は価格にどのように影響するか?
Abbott氏:コモディティの金融化は決して新しいものではない。またコモディティの金融化はボラティリティを増加させるのではなく、減少させる。例えば、主にステンレス鋼に使用されるニッケルとフェロクロムについて見てみると、ニッケルはLMEで取引されているがフェロクロムはどの取引所にも上場していない。2つの価格の変動を比べると、フェロクロムの価格変動のほうが幅は大きく、ボラティリティが高いことが分かる。つまり、金融化によってニッケルのボラティティが緩和された。産業界の人間は、リスクを取り除くために金融市場を利用することができ、コモディティの金融化は良いことであると考えるべきである。
 ボラティリティには投機活動だけでなく、世界産業の変化や保護貿易主義といった様々な要因が関係する。原材料の輸出規制を行っている国が存在するというのは事実である。
Hooke氏:2008年に米国で起きた金融危機は、商品の実体が見えないような債務担保証券(CDO: Collateralized Debt Obligation)といった新金融商品に代表される新しい金融工学に基づくシステムの下で起こった。今もまた実際の市場とは関連性の薄いETF(上場投資信託)という金融商品が取引されている。再び金融危機を引き起こす要素となるのではないだろうか。
Abbott氏:ETFがLMEのコモディティ市場に与える影響は統計上わずかである。またETFはCDOとは異なり資産担保(現物商品)が付いており、ETFが次の金融崩壊を引き起こす原因になるとは考えがたい。

 Abbott氏:REACH規制によってスクラップの欧州への輸入及びEU域内での移動が困難になった。また規制による事務手続きの複雑化により、EUへの原材料の輸出は敬遠される傾向にある。なぜ原材料の輸出入をREACHによって規制するのか?)
Tajani氏:EUには社会的市場経済がある。EU政策は社会的な目標を有している。REACHの目的はEU市民の健康を守ることで、経済効果を狙った政治的な輸出規制とは異なる。健康に悪影響を与えるような物質の移動を防ぐため、リサイクルや代替に関するイノベーション政策に取り組んでおり、都市鉱山(urban mine)からのリサイクルや代替品の研究のための官民パートナーシップ提携といった活動をしている。

 一般質問:中国のレアアース輸出規制に関してどう考えるか?日本は問題解決に向けて方策を取っているようだが欧州はどうか?
Tajani氏:中国の貿易保護政策は困難な問題であるが、中国を非難してばかりではだめである。欧州においてはリサイクルの向上、新しい市場の開拓に関する議論を進めなくてはならない。レアアース資源が豊富にあるとされるグリーンランドとは明日会談を行う。また既にチリとはリチウム及び銅に関するパートナーシップの同意書にサインをしており、アルゼンチンともパートナーシップを結ぶこととなっている。視野を広げ、新しいパートナーシップを結んでいくことが重要である。またレアアースといった重要な原材料に関し、欧州として備蓄を行うべきかどうかは、EUレベルで話し合っていく必要がある。

 一般質問:原材料の供給面ではどのようなことが言えるか?
Hooke氏:原材料の生産国として言えることは、土地へのアクセスが困難になっていること、また鉱石の採掘にかかる費用が増大していること等がある。また鉱業における技術者不足、CSRに対する要求の増大、資源の国有化の傾向といった供給を抑制する要素が存在しており、供給やリサイクルに関してもっと話し合いをするべきである。

 一般質問:今後2年間、欧州議会では具体的にどのようなアクションを取っていくのか?
Tajani氏:EUでは既にアフリカ連合(AU: African Union)と原材料に関する協定を結んだ。またチリとは2日前にリチウムに関する協定を同国の鉱山省と締結した。ロシア政府とは、原材料に関しては初めてとなる協議を行っており、アルゼンチンとは原材料に関する協定を締結するためのプロセスに入っている。明日、グリーンランドの首相とは原材料に関して会合を行う予定である。
 先ほども述べたとおり、原材料のリサイクルと代替に関する官民イノベーションパートナーシップを2011年中に開始する予定である。EUが既に選定したクリティカルな14鉱種のリストに関しては、追加すべき鉱種に関しての議論が行われる。またBarnier欧州委員は、コモディティの投機活動及び透明性に関する新しい規則の起案を進めている。
 その他のコメント:
 Tajani氏:欧州議会ではコモディティ市場における透明性をチェックするためのリストを作成している。市場における透明性は重要である。また世界レベルでのコモディティの管理をG20の場で話し合うことに賛成である。

● 食糧及び農業コモディティ(略)
 司会:Charlie Dunmore氏(ロイター紙)
 パネリスト:
 ―Dacian Cioloş氏(欧州委員―農業及び農村開発担当)
 ―Bryan Durkin氏(CMEグループ)
 ―Rhoda Peace Tumusiime氏(アフリカ連合)
 ―Alexandre Mendonça de Barros氏(Fundação Getulio Vargas)
● 化石燃料及びエネルギー(略)
 司会:Edie Lush氏(Hub Culture)
 パネリスト
 ―Günther Oettinger氏(欧州委員-エネルギー担当)
 ―Fatih Birol氏(国際エネルギー機関(IEA))
 ―Pierre Noël氏(ケンブリッジ大学エネルギー政策フォーラム)
 ―David Peniket氏(ICE Futures Europe)

4. パネルディスカッション「規制当局が取るべき行動は何か」

 司会:Peter Spiegel氏(ファイナンシャルタイムズ紙)
 パネリスト
 ―Michel Barnier氏(欧州委員-域内市場・サービス担当)
 ―Daochi Tong氏(中国証券管理委員会)
 ―Parthasarathi Shome氏(ICRIER)
 ―Bart Chilton氏(米商品先物取引委員会(CFTC))
 ―Jean-Pierre Jouyet氏(フランス金融当局)

司会:透明性だけで十分であるか?さらなるアクションが必要か?
Barnier氏:コモディティがポートフォリオの一部として投資家に取引され、コモディティ市場の金融化が起こり、現物市場と金融市場の関連性が強くなっている。ボラティリティの要因には金融化が含まれるが、それ以外にも、新興市場の需要増による消費パターンの変化、天候、環境問題といった様々な要素が考えられ、対応すべき課題はたくさんある。中でも特に重要な課題が透明性の問題である。コモディティのデリバティブ市場において誰が何を取引しているかという情報が提供されなくてはならない。欧州議会においては、透明性に関する文章を作成中である。トレーダーに情報開示の義務を課す米国の規制に類似した規制の設定をG20で検討していくべきである。デリバティブ市場の監視のための手段を強化するとともに、デリバティブ市場における取引制限(limits on position)を設けることにも賛成である。また「市場の濫用(market abuse)」の厳格な定義を規定し、対応の枠組みを構築しなくてはならない。

司会:商品先物取引市場において、取引の情報を追跡することは困難であるか?
Chilton氏:金融化は以前からあったことであるが、現在とは規模が異なる。現在は「高頻度トレーダー(high frequency traders)」と呼ばれる新しいタイプの投機家が存在し、市場に与えうる影響を考えれば懸念するべき存在である。例えば、先週天然ガスの値段が14秒で7%も変動した。これは高頻度トレーダーの影響である可能性があるが、情報が明らかではない。政府や規制当局は、このようなトレーダーを監視及び取り締まることを検討するべきである。CFTCとしては欧州議会と今後も協力し、規制の設定に取り組みたい。

司会:G20で協調的な規制を設定することについてどう考えるか?
Jouyet氏:G20の目的は原材料市場を規制する一貫性のある枠組みを設定することである。原材料の金融化が起こっているのは事実であり、透明性は現物市場とデリバティブ市場の両方で達成されなくてはならない。CFTCや欧州の各規制当局及びそのほかの市場規制当局は同じ目標に向けて協調すべきである。

一般質問:透明性に関する欧州議会の政策に関して、OTC(店頭)デリバティブに関する具体的な数字の公表が含まれるのか。また「過度の投機(excessive speculation)」の定義は何でその監視をどのように行っていくのか?
Barnier氏:質問のあった2点に関しては、現在欧州議会で協議中である。特に「過度の投機」に関しては綿密な調査を行っている。またデリバティブ市場の規制に関しては米国は一歩先を行っており、特に取引制限に関しては米国でどのように機能するかを確認し、欧州における影響を考えていきたい。
Chilton氏:価格への影響が考えられる大口取引に関しては透明性が重要である。2者間取引といった特定の個々の取引に関しては、何らかの懸念がある場合に必要な情報を収集できればよい。過度な規制は最終的には規制緩和へとつながる。我々の提案する取引制限とは、一人のトレーダーが市場の10%を超えるシェアを持つことを制限することである。

一般質問(前出Hooke氏):新興市場の需要増、そしてそれに伴う供給不足が価格高騰の主な原因である。しかし、好ましくない政策枠組みによって、鉱山の開発やインフラ投資が困難となっている。供給面での問題にいつ真剣に取り組むのか?
Barnier氏:確かに需要と供給の差の拡大はコモディティのボラティリティと安定性に影響を与えている。EUではエネルギー及び農作物の面で自給自足ができるよう、政策を整え対策を示している。
コモディティの金融化と、金融市場と現物市場の関連性の高まりが、ボラティリティに影響しているのは事実である。だからこそ透明性を確立する必要がある。なぜ透明性の向上に懸念を抱く必要があるのだろうか?

5. パネルディスカッション「多国間機関はどのようにして一貫した対策を取ることが可能であるか」

 司会: Saugato Datta氏(エコノミスト誌)
 パネリスト
 ―Karel de Gucht氏(欧州委員(貿易担当))
 ―Arvind Subramanian氏(ピーターソン国際経済研究所)
 ―Otaviano Canuto氏(世界銀行)
 ―Pier Carlo Padoan氏(OECD)

 司会:各多国間機関にとっての優先課題は何であるか?
De Gucht氏:市場が市場のみで機能するという考え方は間違っている。市場は何らかの規則の中で機能する。EUは輸出制限に関してWTOに中国を提訴している。WTOの決定は2011年7月に下されることになっており、この決定は、WTOを通じて今度どのように輸出制限、2重価格、輸出割り当て制度等の問題に取り組んでいくべきかのガイドラインを示すこととなり、EUの立場を強化するものとなるだろう。

 司会:WTOは輸出規制の問題に対してどのように対応できるか?
Subramanian氏:ドーハ・ラウンドでも輸出制限に関する交渉がほとんどなかったように、WTOでは輸出制限に関する影響力が他の分野に比べて弱い。資源が不足している現代において、各国が協力するためには、お互いにギブアンドテイクとなるようなインセンティブが必要である。WTOはそのようなインセンティブを与えるプログラムを開発する必要があるだろう。
 また、中国はレアアースの輸出規制に関して環境保護目的であると主張していることもあり、輸出規制を正当化できる条件を取り決め各国が同意する必要がある。

 司会:国際機関の介入が最も効果的である分野は何か?
Subramanian氏:過去に緑の革命(Green Revolution)への投資が成功を収めたように、現在においても農業の研究開発が重要である。この分野がもっと注目されるべきである。
De Gucht氏:農業は重要な分野である。遺伝子組み換え作物といった問題にも対応しなくてはならない。
 また、アフリカの中の資源の豊富な発展途上国では「資源の呪い(Resource curse)」の問題があり、そういった国の政治情勢には注意を払っていかなくてはならない。
Padoan氏:環境保全分野といった利益を生まないような分野では政策が必要となる。世界各国が協力するためのインセンティブを示すことも国際機関の重要な役割である。
 De Gucht氏:「資源の恵み(Resource Blessing)」もあるという意見があったが「資源の呪い」が存在することは事実である。この問題に取り組むには、透明性の向上が重要であり、欧州では採取産業透明性イニシアティブ(EITI)があり、米国では情報公開にするDodd–Frank法が施行される。透明性を向上させるために我々ができることはまだたくさんある。しかし、紛争ダイアモンドに関するキンバリー・プロセスでも分かったように、鉱物資源がどの鉱山からきているのかといったことを特定するのは大変難しい。

6. 閉会

 Thébault氏が出席者に対して感謝の意を述べ、本会議を閉会した。

7. 所感

 次回のG20開催を11月に控え、サルコジ大統領及び欧州委員会の委員からはG20を意識した発言が多く聞かれた。本会議では、コモディティ及び原材料市場における「透明性」、「デリバティブ市場の規制」及び「輸出制限」がキーワードとして議論の中心となっていた。透明性の確保に関しては参加者の意見は概ね一致していたが、規制と輸出制限に関しては利害関係の不一致から意見の相違が生じていた。日本に対する中国のレアアース輸出制限への言及も何度かあり、本件に関する国際社会の関心の高さが伺えた。次回のG20に向けたメンバー国の動向、資源国等の動向と共に、本会議で度々掲げられた「多国間の協調的な対策」がどのように実現されていくのか、引き続き注目していきたい。

ページトップへ