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HST(統合売上税)がカナダBC州経済及び鉱山会社に与えた影響
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2010年7月1日、カナダ・ブリティッシュコロンビア州(BC州)にHST(Harmonized Sales Tax、統合売上税)が導入された。 |
1. GST・PSTからHSTへ
従前、BC州内における商品の購入、提供されたサービスには、5%のGST(Goods and Services Tax、物品サービス税(連邦税))と7%のPST(Provincial Sales Tax、州売上税(州税))の2種類の税金が課されていた。しかし、BC州政府はGSTとPSTの合計12%と同率12%のHST(連邦分5%、州分7%)導入を決定した。
(1) なぜHSTが必要だったのか
BC州で事業を実施する場合、資本財(設備、材料、エネルギー、その他の商品、ビジネスサービスの購入、製品の使用、顧客へのサービス)を購入する際に、それらの製品及びサービス価格の費用に組み込まれたPSTを支払う必要があった。
購入資本財にPSTが組み込まれているため、商品とサービスがより高価となっており、BC州の消費者と輸出市場への競争力を減少させ、ビジネスの生産性、投資、競争力、雇用創出への重大な障害となっていた。
このような中、BC州政府は、HSTがBC州企業のコストを約20億C$(建設業:8億8,000万C$、運送業:2億1,000万C$、製造業:1億4,000万C$、林業:1億4,000万C$、採掘、オイル、ガス企業:8,000万C$等)引き下げると公表し、元BC州財務大臣Colin Hansen氏(2009.6.10~2011.3.14在職)は、「景気後退から脱却しBC州の競争力を高めるため、HSTの導入が必要である。」と述べている。
(2) HSTは何が違うのか
HST(GST)などの付加価値税は、資本財から消費税を取り除くように設計されている。
企業は、資本財に組み込まれているHSTを支払い、販売時に消費者にHSTを請求して受け取り、政府に納付する義務を負っている。しかし、政府にHSTを納付する際に、資本財購入に支払ったHSTを消費者から受け取ったHSTから差し引くことができることとなっている。
その結果、ほとんどの会社は資本財に組み込まれたHSTを支払っておらず、資本財から消費税が取り除かれている。この控除の仕組みは投入税額控除(ITCs:Input Tax Credits)と呼ばれている。
(3) 税率変更と課税対象
HST導入に伴い、BC州売上税法により課税対象となっていない特定の物品及び多くのサービスが課税対象となった。税率の変更内容及び主な課税対象は以下のとおりである。PSTと同様に子供用品や学用品等の子供が使用するものは、店頭で7%の税金支払が免除されている。
表1. HST導入に伴う税率変更例
| 課税対象 | 税率 |
| 賃貸料、基本的な食料品、育児費用、処方薬、公共交通機関 | 0%→0% |
| ほとんど全ての家庭用品(車、家具、電化製品、衣類、靴、化粧品等) | 5%+7%→12% |
| ガソリン、本、子供用品(衣類、靴、チャイルドシート、紙おむつ)、光熱費 | 5%→5% |
| レストラン飲食、理美容、映画、ジム会費、雑誌、自転車、たばこ、不動産仲介手数料 | 5%→12% |
2. BC州経済への影響
BC州政府は、2011年5月4日、有識者によるHST実態調査の結果を公表した。HST導入により一世帯平均年間350 C$の負担増、BC州政府財政は年間8億2,000万C$の歳入増、HSTを廃止した場合はBC州政府財政は5億3,100万C$の歳入減となることが明らかになっている。HSTはBC州政府2011年度予算歳入の14%を占めている。
図1. BC州項目別予算歳入の割合(2011年)
(出典:BC州政府HP)
(1) 税負担が企業から消費者へ
税負担の企業から消費者へのシフトが明確に表れている。家庭からの税収入は13億3,000万C$の増、企業からの税収入は7億3,000万C$の減となっている。企業は、管理コスト1億5,000万C$の削減と合わせて、約9億C$が削減されると見積もられている。
なお、HSTが導入されている他の地域の経験からすると、サービスの向上等の付加価値により、90%は消費者に還元されているとしている。
表2. HSTの導入が家庭及び企業に与えた影響
(単位:億C$)
| PST | HST | HST払戻し 及び減税 |
差異 | |
| 家庭 | 38.1 | 55.5 | △4.1 | 13.3 |
| 企業 | 8.5 | 1.2 | △7.3 |
HSTの導入が消費者の支出内訳に与えた影響は、GST・PSTが課されていた時と比較すると、個人支出のうち17%は追加7%の税金を支払っているが、29%は何も変更が無く、54%はGST・PST及びHST共に非課税となっている。
図2. HSTの導入が消費者の支出内訳に与えた影響
(出典:BC州政府HP)
(2) GST・PSTに戻した場合の影響
上述したように、2013年度に5億3,100万C$の歳入減、翌2014年度6億4,500万C$の歳入減となるほか、連邦政府からHST導入のインセンティブとして受け取った約16億C$の返還も必要となり、BC州政府財政に穴をあけることとなる。また、輸出競争力が低下し、投資を抑制するとしている。
表3. GST・PSTに戻した際にBC州政府財政に与える影響
(単位:億C$)
| 2013~14年 | 2014~15年 | |
| 売上税歳入損失 | 8.20 | 8.93 |
| 経済成長の低下による税歳入損失 | 0.32 | 0.80 |
| 負債による利払いの増加 | 0.85 | 0.85 |
| PSTオフィス運営経費 | 0.35 | 0.35 |
| HST払戻し | △2.32 | △2.32 |
| 所得税増税の中止 | △2.09 | △2.16 |
| 合計歳入損失 | 5.31 | 6.45 |
(3) 2020年までHSTが継続した場合
正確な数値の算出は困難としながらも、2020年までHSTが続いた場合、PST継続時と比べ、
★ 経済規模が25億C$拡大
★ 1.1%の高成長(各人480 C$、一世帯当たり$830 C$)
★ 設備投資が4%増加
★ 輸出が12億C$増加(GST・PSTより1.2%高い)
★ 雇用が1%増加(24,400人の雇用を創出)
するとしている。
3. 鉱山会社への影響
HSTの導入は鉱山会社にとって歓迎されるものであった。主な理由は、投入税額控除(ITCs)である。従来、控除対象外であった7%のPSTが、GSTとPSTが統合されたHSTでは控除対象となっており、鉱山会社に取り戻し不可能なPSTが発生しないためである。事実、BC州は、HST導入前に採掘、オイル、ガス企業のコストを8,000万C$節約できると予測している。
なお、HSTの実施に伴い、2010年7月1日に跨って提供された物資やサービスについては移行規則が適用され、鉱山会社は2009年10月1日から2010年6月30日までの期間に販売された物資等についてGSTとPSTが適用されるのか、あるいはHSTが適用されるのかを見極める必要が生じた。本編では、移行規則に関する説明は割愛する。
(1) 物品及びサービスの供給場所の特定
HSTの導入と共に鉱山会社は、物資がどこの生産品であるかにより税率が変わるため、どの税率を適用するのかを見極める必要が生じた。どの州で商取引が行われたかによって適切な税率の適用が行われる。物資がBC州の生産品であると見なされる場合、それにかかるHSTのうち州分7%に対する店頭での支払免除が無いことを条件に12%のHSTが課税される。
例えば不動産の供給については、不動産が存在する州で行われたと見なされる。従って、鉱山がBC州に存在する場合、不動産についてはBC州が生産地と見なされる。
他方、サービスについては受取側の場所に重きが置かれる。受取人のカナダの自宅や事務所がある州をサービスが提供された場所と見なしており、受取人の住所として一ヶ所以上カナダの自宅や事務所の住所を持っている場合は、自宅か事務所の住所でサービスに密接な関係がある場所に課税権利が発生する。
鉱山会社がBC州においてサービスを提供し、顧客がBC州以外に一か所あるいは複数か所事務所がある場合、サービスの供給はBC州以外で行われたとみなされ、5%のGSTあるいは他州のHSTが適用される。
(2) 投入税額控除取り戻し(RITC:Recapture of input tax credits)
2010年7月1日以降、大規模事業者とみなされる企業(例:カナダ国内関連グループで年間、課税対象物品を1億C$を超える額を生産する企業)は、次のカテゴリーの経費に対して支払ったHSTのうちBC州分7%の取り戻しが制限されている(Restricted ITCs)。
★ エネルギー(農場と商品製造のために購入するエネルギーを除く)
★ 市内・市外電話、ケーブル、有料テレビ、衛星放送テレビ、FAX、電子メール、ビデオ、オーディオやコンピュータの接続、データ送信を含む電話サービス、及びその他の通信サービス(無料通話サービス及びインターネットアクセスを除く)
★ 一般道路での使用が許可されている重量3,000 kg未満の車両(部品及びサービスを含む)
★ 食事、飲料、接待
しかし、制限されている経費の一時的な取り戻し(RITC)が認められており、最初の5年間は100%回収することができる。回収割合は徐々に低減し、2018年7月1日以降は0%となる。詳細は表4のとおり。
表4. RITCレート
| 対象期間 | RITC率 |
| 2010年7月1日~2015年6月30日 | 100% |
| 2015年7月1日~2016年6月30日 | 75% |
| 2016年7月1日~2017年6月30日 | 50% |
| 2017年7月1日~2018年6月30日 | 25% |
| 2018年7月1日以降 | 0% |
2010年6月30日以前は、上記カテゴリー内のほとんどの経費にPSTが適用されているので、取り戻し規則に従うBC州の大手鉱山会社に追加経費負担は発生しない。BC州の大手鉱山会社の興味は、臨時輸送サービスや料金、BC州内での使用目的で購入したエネルギー代金や州内へ輸入したエネルギー代金に課せられたHSTの州分7%の取り戻しにある。
おわりに
導入から1年を経た今、HSTは鉱業セクター等の企業に概ね歓迎されている。しかし、BC州の住民は未だHST導入に納得しておらず、HST撤回に向けた動きが継続されている。
このような中、HSTの継続を狙うBC州政府は、2011年5月25日、現在12%のHSTを2014年までに段階的に10%まで引き下げる案を公表した。HST中の州分を2012年7月に1%下げて11%に、2014年7月に更に1%下げて10%とする内容である。HSTの引き下げと合わせて、2012年1月1日からの一般法人税の引き上げ(10%→12%)と2012年4月1日から実施するとしていた中小企業への減税措置の延期も公表された。2010年9月14日、前BC州首相Gordon Campbell氏が、「2011年の9月に住民投票を実施し、BC州民の50%以上がHSTに反対した場合、HSTを廃止する。」と述べていたが、HSTの是非を問う住民投票の期日は早まり、2011年6月13日から2011年7月22日を締め切りとして受け付けられ、結果は2011年8月に判明する。BC州政府財政及び鉱業セクター等の企業に大きな影響を与えるだけにその行方が注目される。
参考文献:
・BC州政府HP
“HST or PST/GST it’s your decision, The independent panel’s report, May 4, 2011”
・Canada Revenue Agency HP


